第11話 神原奈津緒vs色鬼②
「動いて平気なのかい?」
市丸は立ち上がろうとする神原を見て問いかける。
明らかに激痛を伴っている体だ。
血や汚い色をした体液も流れ出ている。
それでも神原は立ち上がった。
痩せ我慢出来る状態をとうに超えている。
もし自分が同じ立場だったらおそらく失神していてもおかしくはなかっただろう。
そう思うほど神原の怪我はひどく、立ち上がっていることが奇跡的だった。
「肉体強化能力を舐めるなよ。このぐらいの傷どうってことない」
神原の能力は肉体強化ではない。
能力の結果としては強化されている物もあるが本質的には『強化』とは言い難い。
市丸は神原が本当は精神系能力者だということに気付いていない。
分からないからこそより強い結果として表れる。
「やはり肉体強化だったか。トリガーは分からないがようやく発動したってことか。いや、出し惜しみして死にそうになったからようやく発動したって感じか。あまり良い気分はしないな。超能力なしで超能力者を倒せるわけがないだろうに」
このように疑いはしたが目の前で証拠を見せられたが故に再び誤解している。
事前に調べて推測をしているがために目の前の事象と推測が合致していたらそれだと決めつけて揺るがない。
知っていたが故に見誤る。
「分からないぞ?麦島がお前にトドメを刺すかもしれない。超能力なしで超能力者を倒せるわけがないっていう認識は足元をすくわれるぞ」
だから神原は敢えてアドバイスをする。
フェアがどうとか言うような性格ではないが向こうは能力を開示してこちらは何も開示してないのは些か気分が悪い。
しかも向こうはこちらの能力を誤解しているのだ。
一から十まで教える義理こそないが少しでも正解に近づいて欲しいと思っての行動だった。
(もう麦島には能力を教えたんだ。あいつの兄の千里眼能力が聴覚も当てはまるのなら俺の能力はそのドクターって野郎の側に伝わってるんだ。目の前のこいつにはバレることなく済みそうだが千里眼能力者とドクターには能力がバレた状態で挑まなくてはならない)
神原はこの先も戦う気満々だ。
(対策されるとしたら能力発動前に奇襲されることだな。だがそれはもう大丈夫だ。この能力を手に入れてから10年間は能力の抑制に当ててきたからろくに使ってこなかったがよくよく考えたら何故この考えが浮かばなかったのか疑問だな。俺の能力は不便だが使い道のバリエーションは豊富らしい)
「お気遣いどうも。だがこれからどうする?動けても俺の能力の対策があるわけではないんだろう?もう『赤』は時間切れだ。シャッターを使ってもいいが避けられるから意味がない。黒い玉も速度に特化するために軽くしてあるから速度があると言っても威力は大したことはない。ならば…」
そう言ってまたポケットに手を突っ込んだ。
ポケットに入るのだからさほど大きなものではないだろう。
しかし、棘ボールの例もあるため油断は出来ない。
第一小さいものは総じて速いからある意味大きいものより注意しなければならない。
市丸が取り出したのは刃が収納できるタイプの携帯用ナイフだ。
「流石にこれにはどうしようもないだろう?ナイフは元が軽くて小さい、けど殺傷能力は高い。これが自在に操れたらどう思う?」
(ガチガチの刃物だな。しかも持ち手の色も刃と同じ銀色に加工されている。そのままだと色の割合が半々になるから操作出来ないんだろうな。赤くしてないのは棘ボールと併用するため。決まりだな。あいつは同じ色を2回続けて操作出来ない。けどヤバいな。返り血を考慮してないってことはあのナイフで仕留める気満々ってことだ。流石に能力を使ってるとはいえ心臓や肺にぶっ刺されたら死んじまうぞ!)
「この1分で決める。このナイフでアキレス腱を切断して動けなくしてからシャッターで胴体を真っ二つに切断するのも悪くないかもしれないがお前の肉体強化が治癒にも精通していたら長期戦はこちらが不利になる」
「別に長時間の超能力使用が出来ないって訳でもないだろうに」
「君は彼、麦島君を待つための時間稼ぎでここにいるのだろう?こっちとしても1対1で順番に殺していった方がやりやすいしな。彼が何を企んでいるのかも分からないし」
どうやら先程の考えから改まったようだ。
しっかりと麦島を敵として見ている。
2対1になれればそれは有利だ。おそらく本体への攻撃も可能になるだろう。
けどそれはどっちかが囮にならなければならない。
俺は別に退けさえ出来れば囮でもいいんだが麦島がそれを許さないだろう。
どうせ『2人とも生きてなきゃ意味がない〜』とか言うに決まってる。
だから俺は麦島の対策3に掛けている。
根拠も戦いの中で獲得した。
麦島が戻ってくるまでに俺が生き残るかだ!
「そうかい、麦島を認めたか。ならこっちも頑張らないとな!」
もう出し惜しみはしない。
超能力を使う。
鯖東達の時のような限定的にではなくもっと拡大的に設定する。
あの時のように確実に行かないかもしれないがそれでも反射神経は格段に跳ね上がるだろう。
麦島ぁ!頼むぞ。
お前次第だ。
お前が対策3を完遂させなきゃ俺は間違いなく死ぬぞ!
…………………………………………………………………
「準備は出来たのかい」
市丸がそう言うと神原がこっちを見てきた。
見たというよりただそっちに顔を向けているような朧げな反応に市丸は疑問覚えるが、特段何も感じなかったので気にしないことにした。
「いいぞ。まぁ俺だけじゃ勝てないから逃げの一手だがな。あいつが来ればナビゲーターになってくれる」
「何を言ってるんだ?」
「俺の能力のことだよ。今お前が負けたら俺の能力を教えてやるよ」
「君の能力はとても魅力的だ。だがズルいな。それだと俺に降参しろと言ってるようなものじゃないか」
「もうそっち側には能力がバレてるんだ。隠す必要もないだろう」
市丸は疑問符を浮かべて『ん?』と首を傾げて苦い表情をしている。
千里眼能力者が仲間にいることを忘れているのか?
それとも千里眼能力はあくまで視覚情報だけであって聴覚情報は得ることが出来ないのだろうか?
どっちであってももう隠すことはしないさ。そのドクターって奴をぶん殴れるだけの可能性はこの能力にはある。
弱点だらけだがこいつにも、お前らにも負けはしない!
♢♢♢
麦島は館舟商店街を走っていた。
この商店街は十字に形成されている。
南側が館舟駅、東側が館舟高校方面、北側が多摩川と住宅街。
そして今神原と市丸が戦っている西側には農地や工業団地が広がっている。
そういった地理的環境のせいか南、東、北の通りはそれなりにお店も人もいるがただでさえ人が来ない西側は他3つよりも寂れておりシャッター商店街にふさわしい街並みになっている。
神原と麦島は西側から商店街に入ったのでこの商店街が寂れていると思っていたがそれは西側だけである。
麦島が中央広場に来た時にはここはT字路と言われても納得してしまうぐらいに西側は暗くその3方は街灯もありそれなりの通りになっていた。
おそらく商店街もお金がないのだろう。
店がほとんどない西側にあまり電気代を消費したくないのか西側だけ街灯が点いていなかった。
しかし、それのおかげで2人の戦闘は誰にも気付かれていないのだった。
麦島が駅がある南側通りを目指していた。
ここなら人もいるし、商店街関係者もいる。
麦島が探している店も見つけられるだろう。
そう思い南側に向かって走ろうとすると背後から何かが回るような音が聞こえた。
後ろを振り向くと白色の何かが麦島目掛けて飛んでくるのが見えた。
「え〜、なになになに〜?」
何が起きているのか分からずテンパるがさっきのことを思い出し、その白い物体を避けた。
(さっきはあんなに速くなかったような気がしたんだけどな〜)
そんなことを思っていると白い物体は中央広場の大きな木の幹に刺さって動きを止めた。
それは市丸が能力の時間切れで投げ飛ばしたシャッターであった。
あまり大きな音もしなかったため周りにいた人はシャッターが刺さっているのに気付いていない。
しかし、このままにしておけば誰かが商店街の人を呼ぶだろう。
そして西側通りを調べに来ると考えた麦島はシャッターを幹から取り出し丸めて木の根元に置いておいた。
これなら人目につかないし気付いたとしてもまさか西側から飛んできた物だとは気付かないだろう。
(それにしても〜…)
麦島は丸めたシャッターを眺める。
(さっきの人はこれを回転させて操作してた〜。けどこれは本来丸めて収納できるタイプのやつだ〜。おそらく1つしか操作できないけど一方向ではなく一物体に対しては沢山のベクトルで操作できるんだろう〜。もしそうならあの回転も頷ける〜。遠心力のせいかは分からないが、おそらく丸くならないようにシャッターを張る力も加えているんだろうな〜)
(それにシャッターが飛んできたのを考えると操作出来なくなったのか〜?俺があの場から抜けてからまだ時間は経ってない〜。つまり操作時間に制限がある〜。おそらく約1分〜。それか別の物体を操作するためにシャッターにかけた能力を解除したか、だな〜。けどそれだとここまで飛ばす理由にはならない〜。おそらく前者だ〜。あのシャッターは脅威だ〜。例え動きが鈍くてもあれを操作しているだけでなっちゃんにはプレッシャーになるはず〜。第一発動条件が触れることなら手元に戻しておくのが再利用出来ていいはずだ〜)
(それをしなかったってことは、操作時間に限りがあるのを隠すために敢えて飛ばした、ってことになる〜。西側はシャッターだらけだから飛ばしたとしてもまた新たにシャッターがあるから使い捨てが出来るからね〜)
麦島はその場にいないにも関わらず状況証拠で市丸の能力の詳細を言い当てている。
ただでさえ頭が冴える神原よりもテストの成績が良いのだ。
ようやく推理に一段落ついて、麦島は南側の通りに向かって走り出した。
通りを歩く買い物客、特にこの商店街を古くから知っているような高齢の方に『この店』があるかどうか聞いてみたが誰も場所が分からなかった。
ボケてるのではなく西側自体が何年も前から廃れているため記憶が風化したのだろう。
そういうのは商店街の運営組織があるからそっちに聞いた方がいいと言われたので、南側通りの端に建てられている『館舟商店街運営委員会』と書かれた建物を訪ねた。
西側を放置するような輩が束ねている商店街のことだ、てっきり門前払いを喰らうかと思ったがすんなりと管理の者に取り次ぐことが出来た。
管理の者が来るまで建物の前で待つことになった。
中央広場もだが南側は商店街のメインなのだろう。
人通りも多くお店も繁盛しているらしくガヤガヤと雑音が響く。
西側とは天と地の差である。
4〜5分かかるとのことだったので建物の隣に建っている精肉店を寄ることにした。
神原が戦っている中呑気に間食なんて申し訳なく思うが走ったせいで小腹が空いているため仕方のないことだと心の中で神原に謝罪して麦島は揚げたてコロッケを食べるのだった。(3個)
5分ほど待ってようやく担当の方が姿を現した
「お待たせ致しました。館舟商店街運営委員会の副理事の夢国です」
まさか組織のナンバー2が出てくるとは思わず麦島は言葉が詰まってしまう。
いつもの間延びした口調も鳴りを潜めている。
「っ…初めまして、館舟高校1年の麦島迅疾と申します。本日はお時間を作っていただきありがとうございます」
「はっはっは、最近の子は礼儀がなってないもんだと思ってたが君みたいな子もいるんだな。して、今日はどういったご用件かな?」
気さくに夢国が麦島に尋ねる。
社会科実習とでも思っているのだろうか?
夕方に来る高校生を受け入れるあたりそういう勘違いをしていてもおかしくはない。
「あの、館舟商店街に––––––を取り扱うお店がないか探してるんですけど…」
そう言うと夢国が先ほどの気さくな表情とは打って変わって真剣になる。
「…いや、残念ながらうちの商店街にそれを扱うお店はないねー」
遠い目をしながら夢国が答える。
まるで昔を思い出しているような。
後悔を孕んでいるような。
その様子が何故か釈然としなかった。
「以前はあったんですか?」
夢国がハッとしたように麦島を見る。
「……………」
夢国がずっと押し黙っている。
俺に言うべきか言わないべきか考えているのだろう。
社会科実習と思っているのだとしたらこのことはおそらく商店街にとってマイナスイメージになるということだ。
そして商店街のマイナスと言ったらもうあれしかない。
その間麦島は出されたお茶を呑気に啜っていた。
コロッケを短時間で食べてしまったため喉が乾いてしまったのだ。
おそらくペットボトルのお茶だろうが美味い。
早く神原のところに戻るためにずっと走っていた麦島にとっては冷たい飲み物がまるで聖水のように感じていた。
ただでさえ走るのに適していない体型。
そして今は7月だ。
気温も高くバテる寸前だった麦島にとっては神原の支援よりもこちらの方が急を急ぐ課題であった。
そして2杯目をおかわりして飲み干した時にようやく夢国が話をしだした。
話はこうだ。
西側通りは昔から繁盛していなかった。
西側は工業団地や農地でただでさえ人が来なかったそうだ。
さらに西側通りにあるお店は生活必需品の類のお店が少なく一般人も中々西側までは足を運ばなかったようだ。
北の住宅街と南の駅、そして東の館舟高校を始めとする教育機関。
西側は三方向の通りに優れるものが何もなかった。
そして運営委員会も売上率が低い西側商店街は運営委員会の悩みの種であった。
西側の工業団地は40年以上昔は物凄い業績を叩き出していた。
しかし、オイルショックやバブル崩壊、さらにコンピューターの台頭によって工業団地の企業は赤字続きとなり次々と倒産していった。
今は大企業の下請けの中小企業ぐらいしか残っていないようだ。
工業団地の実情なら小学校の頃に社会科の時間で学んだことがある。
時代についてこれなかったとしてこれから先は先見を持つことが大事だと講演に来た工業団地のお偉いさんが言っていたのを思い出した。
では何故工業団地が発達していたのに西側通りが栄えなかったのか?
それは近くを通る県道を北に進めばすぐが東京都でそちらの商業施設の方が充実していたからだ。
西側は工業団地だけでなく農地もある。
西側には県道が通っている。
北側の住宅街を通り多摩川沿いをずっと東に進む道だ。
さらに1本曲がって北に進んで橋を渡れば東京都なのだ。
さらに館舟駅から川崎駅まで車で10分もかからない。
アクセスの良さは言うまでもないだろう。
つまりわざわざ農地を通って駐車場のない館舟商店街に行くよりは軽く車を飛ばして川崎市や東京都に行く方が遥かに便利なのだ。
そういった地理的理由により工業団地が栄えている時でさえ西側通りは人が少なかったのだ。
そのためバブル崩壊の頃には他3つよりもシャッターの数が圧倒的に増えていたのだ。
そして5年前の街灯の新しく買い替える時に運営委員会は西側以外の3通りのみを取り替えたのだ。
つまり商店街は西側通りを見放したのだ。
これにより西側はさらに衰退を加速させていってついには西側通りでお店を出す者がいなくなったのだ
しかし運営委員会としては西側がなくなったおかげで北、南、東に予算をつぎ込むことが出来商店街の中央に広場を建設した。
さらに館舟駅の再開発で商店街に来る人の数が1.4倍まで増えたのだった。
西側にお店を出していた人は店を畳み引っ越すか、店は閉めたが住居として使っているかになってしまった。
残っている人も高齢で次々亡くなっており西側で現在居住している人は運営が把握しているだけで8人だけだった。
しかし殆どが高齢者施設を行き来しているため実質誰も住んでいない状態であったと言うわけだ。
(西側が寂れていて街灯が古かったのはそういうことか〜)
麦島は一連の話を聞いて納得する。
運営委員会が西側を切り捨てたのは良い気分がしなかったが経営というのはそういう非情な決断もしなくてはならないのだろうとむしろ運営委員会に同情した。
言いづらそうにしていたのはマイナスイメージを俺に与えるのを懸念しただけではく自分達の行いを悔やんでいるのもあったのだろう。
「ということはそのお店はかつて西側通りにあったということですか?」
一連の話から麦島が話を切り出す。
夢国も頷いた。
遠い目をしていたのはそういうことなのだろう。
「えぇそうです。15年前までそのお店は西側商店街にありました。しかし、その後の行方は分かりません」
15年前なら道行く人が知らなかったのも分かる。
ましてや西側にあるのだ。
知る者は運営委員会の人間だろう。
「そのお店の場所って分かりますか?」
「えぇ、場所なら分かります。しかしもうお店は閉まってますし人はいませんよ?シャッターで締め切られているから入ることも出来ませんし」
「構いません。場所だけでもいいですから教えていただけませんか?」
麦島にとっては急務なのだ。
場所さえ分かれば侵入する手段なんていくらでもある。
問題は麦島達が探しているものが現在もそこにあるかである。
土地代や建物代は全額支払われているため所有者は運営でないため西側のお店のいくつかは手が出せないというのだ。
麦島達が探しているお店もそれに当たる。
ということはいずれお店に戻ってくるかもしれないということだ。
ならばお店の物を処分しているとは思えない。
1つだけでもあると麦島は賭けるしかないのだ。
「ここですね、その店があるのは」
夢国は取り出した館舟商店街全域地図を持ってきて麦島に教えてくれた。
北南東はお店の名前が記載されているが西側は真っ白だった。
ただ建物の区画がなされているだけだ。
その中の1つを夢国は指差した。
指差された場所を見て麦島は違和感を感じた。
「あれ〜?ここって〜?」
♢♢♢
神原と市丸の戦闘が始まった。
市丸はナイフを操作して神原へ攻撃した。
棘ボールや黒玉よりは遅いが何より危険なのは刃物だということだ。
既に回転もかかっている。
シャッターと回転数は同じようだが殺傷性が段違いだ。
だが能力のおかげで刃物の動きをはっきり認識できる。
避けることも容易くなった。
身体能力が上がったわけではない。
ただ見えるようになっただけだ。
しかし能力で痛みは感じないが出血は止まってないのだ。
その内失血多量で死ぬことだってあるかもしれない。
清潔なタオルでもあれば腹を縛って止血するが生憎持ち合わせがない。
そばに俺と麦島の鞄があるが教材がほとんどで布は入っていない。
せめて体育があれば汗を拭き取る用のタオルを持ってきてたのに。
能力で止血出来たらいいんだが設定が難しいからな
血液循環を変えればいいかもしれないが傷口が内臓付近に集中しているのだ。
そこの血液循環を鈍くしたら内臓の働きが悪くなる危険性があるから試すことは出来ない。
この前のドッジボールの時も下手したら死んでたからな。
もうすぐ1分が経つ。
銀色が操作できなくなるから次に操作するとしたら棘ボールか黒球、それかまたそばの店からシャッターを使うかのどれかだろう。
あいつも俺の身体能力が上がって攻撃が当たらなくなったことは気付いているだろうから次来るのは最高速を出せる黒玉だろう。
ナイフと棘は避けられるが黒玉だけは動きを捉えることは出来ても回避動作に体が追いつかないから僅かでも当たってしまう。
それに奴自身の腕力を合わせればさらに速度を上げることが出来るだろう。
さっきのシャッター攻撃が最後威力が上がったのはそういうことなんだろう。
確かに一回シャッターを手元に戻してたからな。
一番手っ取り早いのは操作物全てに俺の血液を付けされて赤色の割合を増やすことだが奴もそれを一番恐れているに違いない。
ナイフの攻撃も切っ先が掠るような距離で攻撃してくる。
それでもアキレス腱や頚動脈を狙っているんだが。
そして俺が壁際まで追い込まれた時に心臓目掛けて一直線に目指してくる。
殺せると思った時は躊躇いがないのだろう。
しかし避けられるためにその攻撃も空振りに終わる。
だが俺は奴に対しての攻撃手段がない。
そもそも奴の場所が分からないのだ。
俺がさらに逃げて奴が追いかけてくれれば場所を捕捉出来るが逃げるにしても商店街の中になる。
人もいるだろう。一般人を巻き込んでしまう。
そうなると西側通りの入り口ゲートに行けばいいが危険だ。
奴が動いてないことからシャッターの線は消えたがまだ黒玉と棘がある。
1分しか動かせないと言っても途中で操作対象は変えられるだろう。
俺が攻めた途端手元の2つを使われたら流石に避けられない。
結局は一定の距離を保ってかつ逃げ過ぎずの塩梅を持たなければならないのだ。
無駄に神経を使う。
「見事だな。こちらの攻撃が全く当たらない。時間をかけ過ぎればこちらが不利になるな。だがそれは君も同じじゃないのか?だいぶ血が出ているようだが?彼は果たして間に合うのかな?」
「さぁな、だが手負いの俺1人を殺せないようじゃお前は確かに状況的に不利だよなー」
「それは君も同じだろう。逃げてばかりだ。いい加減攻めてきたらどうだ?」
「武器忍ばせといてよう言うぜw。俺は素手なんだよ。お前を殴り飛ばすぐらいしか攻撃手段がないんだよ」
「それでも君は肉体強化能力者だ。その一撃で俺は倒されるかもしれない。ならこちらは遠距離から攻撃するしかないだろう」
「そーですか」
神原は声のする方に向かって走り出す。
場所は分からないがさっきナイフが声のする方に向かっていった。
時間が来てもう一度操作するために手元に戻したのだろう。
つまり最後に動いていた場所に奴がいる。
そう思い市丸の姿が見えないながらも神原は走り出す。
仮に何かを使って攻撃してきても動きは全て見えている。
間違いなく黒玉が来るがな。
もう避けなくていい。
黒玉が出現した場所に思いっきり腕を振るだけだ。
どうも妙だなと市丸は疑問を呈していた。
こちらに向かって走っているがだんだんルートから外れている。
もしかして俺が見えてないのか?
能力の代償か?
だがナイフを避けたことは説明がつかない。
仕方ない、ナイフは使えないから黒玉でとりあえず攻撃を加えるか。
もっと質量を重くして攻撃力を高めたいがそうすると機動力が悪くなるからな。
俺の能力は細かい制限が多すぎる。
他2人もそれなりに制約があるが俺ほどではない。
例外は兄貴の隠れ鬼 (インビジブルスナッチ)ぐらいだ。
あれは俺達から見てもすげー能力だって分かる。
千里眼なんて今回のような監視にはうってつけだしな。
さて、外れているとはいえ距離は近付いている。
さっさと黒玉で攻撃するか。
市丸がポケットの黒玉に触れて黒を心の中で宣言する。
黒玉がフワフワと浮き上がった。
それを手に持ち投球フォームを構える。
黒玉本来の速度に腕のスイングの力を乗せる。
構えた途端神原がこちらに顔を向けた。
すると真っ直ぐこちらに向かって走り出した。
なるほどな。
市丸は納得する。
(奴は動いているものを捉えているんだ。動体視力を強化したってことか?それの代償が静止している物を捉えることが出来ない。これなら神原の行動の説明がつく。中庭の華麗な回避技術はこれによるものか。そして麦島君をナビゲーターと言ったのは俺の場所が見えない自分の代わりに場所を教えてもらうためか。つまり麦島君が戻ってきたらいよいよこっちに勝ち目はないな。ナイフを全て避けたんだ。黒玉はどうか分からないが棘もシャッターも意味をなさない。動体視力の強化、なるほど、物体操作能力者にとっては天敵と言ってもいいかもしれない。可能性があるとすれば視界の外、つまり背後から攻撃すればいいが俺が歩いて移動しても神原は動きを捕捉できるだろうな。いかにして奴の背後に回るかが鍵だな。くそっ!時間が限られてるってのに面倒だな全く)
鬼束市丸
能力名:色鬼 物体操作系能力
指定した色を含む物体を自在に操ることが出来る
発動条件はその物体に触れて色を宣言すること
操作時間は1分間
1分を超えたら別の物体を操作しなければもう一度操作することは出来ない
指定した色が物体の大多数を占めていなければ操作できない
一回につき1つしか操作できない
生物、または生物に密着している物は操れない
同じ色を2回続けて操作できない
神原奈津緒
能力名:精神系能力?
動体視力の強化?
麦島迅疾
能力なし




