第109話 府中動乱 エピローグ
ブーンブーンブーン
チラッ
「…………」
ピッ
「もしもし」
『…もしもし、月董か?』
「……おかしいな。着信元は知覧からだが?」
「知覧のを借りてる。俺のスマホはどっかいった」
「ほほう。知覧と合流出来たんだな」
「あぁ、知覧のおかげで死なずに済んだ。いつのまにか8月5日だし何故か府中にいるし…」
「……誰にやられた?comcomか?業君か?」
「メッセージが残されてた。『全員殺す』って書いているから業君だろうな」
「殺す…か。そういえば雪走はどうした?」
「同じく殺されて知覧に蘇生してもらった。タイムジャンプだーってはしゃいでるから放置してる」
「……なるほど」
(牧村がいることを知ったのなら知覧が来ることを想定していないはずがない。メッセージを残しているということからもそれは分かる。業君は知覧の『解体々々業者』が死体にも有効であることを知っているはずだからな。死体とメッセージを残したのは……改めての決意表明、こちらへの意思表示、威嚇)
らしくない気がするが10年も復讐に費やしているのなら考え方も変わるだろう。
「分かった。知覧の仕事が終わったら戻って来い。街の撮影と隕石を落とした場所を報告するように知覧に伝えろ」
「あいあいさー」
「……お前と雪走はペナルティだ。もう死ねないんだからなお前ら」
「……ぁ、あいあいさ…」
ピッ
「どうやら業君にやられたみたいですね」
コツンコツンと1人の男性が階段から降りて来た。
「…羽津か。また長岡と昼から遊んでるんじゃないのか?」
「長岡はバイトですよ。あいつも物好きですよね。金なんてあいつならいくらでも手に入るのに」
「だからこそ自堕落になり過ぎないようにしてるんだろ。お前も一緒に働いたらどうだ?」
「えぇ〜。働くのは良いですけどもっと『超能力』の適性に合った仕事をしたいですね。調教師とか…アハハー」
「…お前の『超能力』だと即死するじゃねーか。正しくは服従師だろ」
「アハハー。でも『どこまでもお供する』で断れない状況で色々するの楽しいですよ。征服欲ガンギマリで変なモノ分泌されまくりですよー」
(……趣味悪いなこいつら。色に溺れやがって。仕事に支障はないから良いけどよ)
「あっ、そういえばさっき長岡から連絡があって、面白いモノを見つけたらしいですよ」
「面白いモノ?」
(長岡は雪走寄りの性格だからな…)
「はい。何でも——————」
♢♢♢
パパパパパパパパパパパパ
ヘリコプターは着陸態勢に入った。
ここは内房線九重駅のそばにあるヘリポート。
戸瀬不動産系列の人間がヘリポートのそばで待機していた。
「お待ちしておりました。奏音様、平原様」
「あなたは?」
「南房総ブロック統括マネージャーの海富と申します。社長からお話は伺っております。撹乱用の車を10台ご用意しました」
「このどれかに乗れば良いですのね」
「左様でございます。平原家とも協力し2人を護衛いたします」
平原暁美と戸瀬奏音は府中動乱の現場にいた。
『飴奴隷』、牧村桃秀、そして『超能力』の存在を知ってしまった。
そのため神岐義晴は2人を逃がすために走り回った。
その結果ヘリコプターで2人は脱出でき、こうして館山まで逃げ切ることが出来た。
しかし、油断は出来ない。
どんな『超能力』を持った『超能力者』がいるか分からない。
陸路での追跡を警戒して太平洋を経由したが、海を物ともしない『超能力者』がいるのかもしれない。
『超能力』のことを何も知らない奏音であったが、廃人と隕石を見てしまったおかげか、非現実を受け入れた上で物事を考えられるようになった。
(逃げ切れたけど、安心は出来ないわね。ウチの人からすれば誰かに狙われてるぐらいの認識だろうけど、私や暁美にとっては今この瞬間すらも気を抜くことは出来ないわ。超能力がどんな物か分からないけど……。はぁ、ホント泣きたいわ)
「初めまして、操縦士の津空と申します」
「これはこれは、奏音様を護送していただきありがとうございます」
「私はこのまま撹乱のために埼玉県側のヘリポートまで移動いたします。戸瀬不動産の皆様は車の方で撹乱をお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします」
津空はそのままヘリコプターへ戻って行った。
ここに滞在し続けることがリスクになるためだ。
「海富さん。お父様に頼んで追加の車の手配をお願いします。10台分の行き先に10台用意して地下駐車場で乗り換えます」
「…100台ですか。流石にすぐにご用意するのは難しいですよ」
「…それなら一般人に金を積んで私達が地下に入ったタイミングで地下から出てもらうようにしましょう。タクシーだと手配が用意でいいかも。地下を通る路線バスとかがあれば良いけどあるかしら?」
ポンポンと案を出す奏音に驚く海富であったが、理に適っているためその通り動くことにした。戸瀬不動産として100台を用意するのは難しいけど公共交通を利用すれば容易だ。
「…それでしたら地下鉄が隣接していると良いかもしれませんね。ルートについては追ってこちらからドライバーに指示いたします」
「分かったわ。暁美、行くわよ」
「………」
「暁美!」
「はっ、はい」
「何ボーッとしてるのよ。一刻の猶予もないんだからしっかりしなさい。反省は後よ」
「はい、分かりました」
暁美はどこか上の空だったが疲れ切っているのかもしれない。ヘリコプターは乗り心地は良いとは言えないから疲労が蓄積されているのだろう。
軽自動車も狭いから快適ではないが、車内で眠ることは出来る。
(私もちょっと心を落ち着けたいし、移動中は眠ろう。神岐、大丈夫かしらね?)
神岐からはまだ連絡が来ない。
府中で何かをやっているのだろう。
今は神岐の身を案じて私は私のやれることをやろうと戸瀬は心に決めたのだった。
♢♢♢
『実録!炎上系ユーツーバーに天誅』
と銘打たれたネット記事には以下のようなことが記されていた。
ホームレスに密着し都内に棲息するホームレスの実態を取材していたフリーの記者、飯辺は炎上ユーツーバーの襲撃を受けた。
ゴミ掃除と称してホームレスの住処を荒らしていく彼らを前にホームレスや飯辺はなす術がなかった。
そんな中突如としてユーツーバー達にとある男が現れた。
かつて東京最強と言われていたとある中学生だ。
彼はユーツーバー達を平和的手段で帰らせてしまった。
彼はとある人物を探していた。
数年前3on3バスケで関東チャンピオンにもなった三つ子のチームだ。
4年前から消息不明になっており生死不明。
何故探しているのかは分からないがお礼も兼ねてここで宣伝をさせていただきます。
私は引き続き密着取材を続けます。
p.s ユーツーバー達、君達の悪行は学校の方に連絡させていただきました。
さぞ立派な言い訳を考えといてねーーー
♢♢♢
館舟商店街から少し外れた解体予定の廃ビル。
ブルーシートで覆われているためか日光が入らず、真夏だというのにじっとりとしていた。
周囲に人がいないことを確認してから廃ビルの中に入った。
「奈津緒君のところに飛びなさい」
「……えっ?」
時雨にとっては予想外だった。
「メンタル回復が神原なの?いや、神坂であっても変わらないと思うけど」
「雪兎君でも良いが、最優先は奈津緒君だ。理由は彼と一緒にいれば分かるはずだ」
「…神坂の方が強いのに?」
「能登が奈津緒君に接触した。ふらっと寄った先に奈津緒君がいたなんて偶然あるわけがない。理由があって奈津緒君に近付いた。雪兎君に接触していないということは雪兎君が『超能力者』と知られていないはずだ。向こう側に取り込まれる前にこちらからネゴする」
「…ドクターもその能登って人も、神原なんですね」
正体不明の『超能力』は警戒対象だが市丸と戦って死にかけた男に、何故こうも注目するのか時雨には分からなかった。
「…理由は、会えば分かるとしか言えないな。彼には私たちの知らない何かがある。それを間近で感じるんだ」
「ビンゴ」
一度も入ったことのないこの場所を先回りするなんて不可能だ。
だからこそ、ここにいるのは異常側の人間だ。
(嘘でしょ!誰にも見つからないようにここに飛んだのに何で神原がいるのよ!)
神原の家には一度行ったことがあるので直で神原宅に『瞬間移動』出来るが、近隣住民に見られる危険がある。
今は夏休み、鉢合わせを考慮して前回飛んだ人気のない場所として廃ビルに飛んだのだが、タイミングが悪いでは片付けられない事態に時雨は直面していた。
(これがドクターの言っていた何かかしら?悪運?)
下手に動けない。
神原からしたらまだ『超能力者』なのか肝試ししてる女の子なのか判別が出来ない。
(あっ…、やばい。また眠くなってき…)
萩原時雨は頭を強くぶつけて本来なら動ける状態ではない。
『瞬間移動』には成功したが、それまででまた意識が遠のいていった。
「か、神原……」
ガクン
目の前の少女は自分の名前を呼んで動かなくなった。
「……おいおいおいおい、当たり引いたってのに券が飛んでいきやがった」
神原、と確かに口に出していた。
この廃ビルにいて俺の名前を出すのなんて、虹色ネイルの女共かドクター達だろう。
「虹色ネイルの女がこの場所で張ってるなんて出来るわけがない。ここにはふらっと寄ったんだ。先回りなんて出来るはずがない」
ドクターの仲間が何でこんな場所にいる?
「……足跡がない」
この廃ビルは使われなくなってから大分時間が経過しているようで劣化が進んでいる。
掃除をする人間なんているはずがないから歩くたびに埃が舞う始末だ。
事実神原が歩いた奇跡には目を凝らせば分かるほどに足跡が残っているが、この少女がいる部屋には足跡がなかった。
扉はこの部屋のみで窓はブルーシートで覆われていて入れない。
この扉付近にさえ足跡はない。物伝いで足跡を残さずに部屋の中央に行くことは不可能。
となれば、
「空間移動…。この子がそうなのか?。いや、誰かに呼び出された、転送されたか?それとも空を飛ぶ能力…はどっから入ったんだって話か」
ともかくドクターに繋がる重要参考人だ。
この場所に置いておくのもあれだし俺が運ぶと誘拐扱いされてしまう。
「もしもし、豊橋さん。超能力者と思われる少女を発見しました」
『……早くないか?君警察官に向いてるんじゃないか?』
「…いやいや、私には地道にってのは性に合わないですよ。とりあえずこの子を安全な場所に保護したいんですが、協力願えますか?」
『…中原警察署の近くに私の知り合いの医者がいる。桝飛セキュリティサービスに案内してもらうように手配しておく』
「ありがとうございます」
♢♢♢
8月5日 神岐義晴宅
「……………ふっ、ようやく会えそうだな」
神岐は府中動乱を終わらせて自宅に帰って来ていた。
シャワーを浴びて汗を流す。
ゆっくり腰を落ち着けたいが、府中動乱の戦後処理が残っている。
さらにドクターと交わした今後の行動についても準備を済ませておかなければならない。
その準備に取り掛かろうとした矢先、親衛隊の西方から連絡があった。
西方にはオフ会の諸々と雑務をお願いしていた。
そして彼から連絡があったということは……
『comcom、参加者の中に神原ってやつがいるぞ!』
「1人か?」
『麦島ってのと2人で申し込んでる』
「自由コメント欄に何か書かれていないか?」
オフ会の申請フォームの中には意気込みを書いてもらう目的で自由コメント欄を設けている。
目的はもちろん向こうからのアクションを匿名でcomcomに伝えられるようにするためだ。
ツイスターなどのツールではアカウント名という足がつく。
申請フォームには名前を入力しなければならないが、名前なんていくらでも偽れる。
『「特殊な力で引かれ合う」って書いてある』
「そうか、報告ありがとう」
「神原、意外と早く会えそうだな…」
そして…、同じく親衛隊からもたらされた情報。
神原探しと鬼束探しを依頼していたが、鬼束探しを担当していたものからとあるネット記事のリンクが送られてきた。
「3on3バスケの関東チャンピオン。市丸達だな。かつての最強…」
話は聞いたことがある。
当時小学生ながら極悪と名高い三田園高校の生徒を半殺しにした臼木とか言う子供。
そして、去年の暮れから上がるもう一つの噂。その臼木に勝った現東京最強の中学生。
(『幌谷の白ウサギ』だったか。なるほど、最強たる所以が『超能力』なら半殺しくらいに負けるはずがないな。ネット記事にしたのは俺と同じ理由か。子供なのに随分と頭が回る)
鬼束の存在を知っているのは鬼束が接触した人間だけ。羽原のの達は鬼束達はドクターの仲間の人物像さえも知らなかった。
神原と白ウサギが10年前に一緒にいた子供で間違いない。
「白ウサギからの申し込みは……、ないか。ネット記事で釣り針を落としたってことか」
飯辺の記事は『幌谷の白ウサギ』の仲間である臼木涼祢の行いを褒め称えるものであったが真の目的は鬼束をチラつかせてドクターを、さらに同じく鬼束と戦った者への言葉のないメッセージだった。
神岐は気付いた。
ドクター達は自分達のエゴサーチなど行なっておらずこのネット記事に気付かなかった。
そして神原奈津緒はというと……
♢♢♢
「もしもし、なっちゃん!」
『……麦島か』
この声は昨日の電話と同じ、元気のない声だ。
「どうしたの〜?大丈夫〜?伊武さんは無事だよ」
「そうか、それなら良い。で、どうした?」
「ええと、詳細は自分で見て欲しいんだけど〜。俺ら以外に鬼束を探してる人がいる」
「!?comcomか?」
「違う〜。元東京最強の臼木涼祢って中学生みたい〜」
「…あの『高校生半殺し』か。てことは臼木は超能力者ってことか?」
「臼木かもしれないけど〜、俺はその臼木に勝った今の東京最強の『幌谷の白ウサギ』が超能力者なんじゃないかって思ってる〜」
「『幌谷の白ウサギ』ってアレだろ?組織的性的暴行事件を解決したっていう中学生」
「そうそう、その人で合ってるよ〜。おそらく俺らと同じように三つ子の誰かと戦って探してるんじゃないかな〜?」
「なるほどね、つまり鬼束丹愛か鬼束実録か。……ネット記者を使ったってことは、捜索しやすいようにってのと探してますってアピールか」
「うん、中々無茶なことをやるけど〜、向こうから来るようにも仕向けてるんじゃないかな〜?もしくは俺達を誘ってるか〜」
(俺とcomcomと幌谷の白ウサギがドクターに超能力者にされたってことか…)
何故俺たちだったのか。というよりこの2人といつ出会ったんだ?そこが全く思い出せない。
麦島から記事のURLが送られてきた。あとで確認しよう。
「そういえばなっちゃんの方はどうしたの〜?」
「あぁ、ちょっと情報が入り込み過ぎて頭が回ってなかった。簡潔に言うとドクターの仲間を捕まえた」
「………?…………!!」
「それって鬼束の誰か〜?」
「違う。小学生の女の子だった」
「しょ、小学生〜?…穏やかじゃないね〜」
物騒という意味ではなく小学生を巻き込んでいるドクターの人となりに対してだ。
「まだ眠ったままだが明日にでも起きるだろうとのことだ。俺はその子から話を聞く。お前は引き続き祥菜を警護しろ。この子が俺に接触してきたってことは何かしらの動きがあるはずだ。十分に警戒しろな」
「了解〜」
こうして各々の8月5日が終了した。
そして、8月6日
府中にいる神坂
萩原時雨を保護した神原
ドクターと会談した神岐
府中動乱は『超能力者』が見れば『超能力』の介入を確定付けるものとなった。
ドクター、牧村達、羽原達
彼らの『超常の扉』を巡る争いに3人が本格的に巻き込まれていくことになる。
これを脱するには、彼らと戦うしかない。
そのために行うのは、情報収集と…………
府中動乱編終了です。
いよいよ第4章も終わりです。
8月6日
いよいよ章タイトルへと話が繋がっていきます。
神坂サイドの存在を知った神原と神岐
牧村や羽原などドクターを狙う組織の存在を知った神岐
ドクターに接触を果たしたことからも3人の中で神岐は圧倒的にリードしたことでしょう。
神原も萩原時雨と接触したことで府中動乱と超能力のことを知ることになります。
何も知らない神坂が知る機会はあるのでしょうか?




