第107話 府中動乱㉓
(見えてるぞー、見えてるぞー)
包囲していると見せかけて、何人かが包囲網とは別の方へ走って行っていた。
(こいつを取り戻すわけでもなく、あっちに何かあるのか。そしてあいつらの電話。このタイミングで電話する相手はcomcomしかいない。となれば、あいつらはcomcomの指示を受けている。向こうに何がある?決まってる。牧村が向こうにいる)
府中の空にある2つの隕石。
大きさを考えると、今までよりも近くに落ちると思われる。
(こっちに近付いてる。俺との合流か。comcom相手なら逃げるしかないわな。こいつらとのダンスも面白いが俺とてcomcomと相対して勝てる見込みはない………けど…)
(戦ってみてーなー。麻酔に抗おうとして気付いたら全てが終わってるみたいに一瞬なんだろうか。それとも少しずつ沈み込むように何だろうか)
試してみたい。けどどういう結果になろうとcomcomの支配下に置かれる。それは許容できない。
(…あっ、仲間にすりゃいいじゃん。『不定期劇場』や『どこまでもお供する』なんか目じゃないぞ!月董にも良い土産になるなこれ!でもそのためにもまずは牧村と合流すっかぁ)
♢♢♢
都営美好町一丁目アパート第2号棟公園東口
牧村は京王線の踏切を渡って甲州街道まで後一歩のところまで来ていた。
(何とか撒けたみたいだな)
後ろから追ってくる気配はなかった。
見つけられていないのか。または、待ち伏せしているのか。
(雪走が軒並み叩き潰していると思いたいが、comcomの物量で取りこぼしてるのかもな…)
甲州街道の陰に隠れているかもしれない。
(とりあえずここら辺に落とすか…)
牧村は『頭上注意』で踏切を指定した。
(さっきの2つも落ちたしそろそろ温存するかな)
「危な。何とか隕石が落ちる前に通り抜けたけど…」
『認識誘導』の強化は続いていて、隕石が落ちる前に落下地点を通過できた。
これで牧村が通った遠回りのルートをスルー出来たため、実質大幅に距離を詰めることが出来た。
「牧村のいるところまではどう行けば良い」
「このままあっち側に進んで、ケヤキがある場所を右折すれば後は真っ直ぐだよ」
「ケヤキ?木の種類なんてわからんぞ」
「府中の名木百選のケヤキだって。多分看板があるはず。道路挟んで生花店?があるからそっちで確認した方がいいかも」
「生花……花屋か。府中の百選なんて随分狭い括りだな。右ね了解」
「零兄、牧村は?」
「……踏切を越えたな。隣に公園がある」
「えーと、美好町一丁目交差点の前に踏切と公園がある!」
「神岐の予想通りだな。もう『隠れ鬼』は要らないだろう。追い詰めるぞ!」
「うん!」
♢♢♢
「実録君、分かるかい?」
「?何が?てかあんたは操られていないのか?」
「操られているというのが良く分からないな。神岐様のご指示を賜るのは操られているからではなく私自身の意志ですよ」
(無自覚ね。『認識誘導』は完全に意識を奪わなくても良いのか。そう言えば時雨ちゃんも意志とは反対に喋らされたって言ってたから思考は出来るけど行動権を握られる感じか…)
「いや、何でもない。それで、分かるってのは?」
「彼、雪走ですが、少しずつ後退しています。市丸君を足で後ろに蹴飛ばしながらです。普通に見るとこちらの物量に押され気味と捉えるのですが…」
「推されてるなら市丸を連れる余裕はないだろうと。つまり奴はあの量の『認識誘導』を対処しながらも後ろに下がって何かをしようとしているということね」
「おそらく先程の通話、雪走とは違う方向に向かう催眠人間を見て牧村が向こうから現れることに気付かれましたね」
「気付かれましたねって、どうするんだ?合流される前に神岐が来るって話だったが」
「東京競馬場から甲州街道に至る道には牧村が隕石を落としていたはず。隕石の落下地点は漫画やアニメでしか見たことはありませんが、地面は抉れ高熱を帯びていたような。そんな場所を普通の速度で通れるとは思えません。移動で手間取っていると思われます」
「じゃあ神岐が来るまでに雪走をどうにか足止めしないといけないのか。でも…」
実録は簡単に殺されている催眠人間達をずっと見ている。
『認識誘導』で強化されていない自分が、『超能力』があったところでどうする事も出来ない。
催眠人間1人でさえスタンガンでどうにかという具合だったのに、自分では絶対に雪走に勝つことが出来ないと既に負けを認めていた。
「市丸君でもダメだった。あなたの『氷鬼』で固定出来るかも怪しい。相打ち覚悟で攻めるか…。だが雪走ほどの『超能力者』なら攻撃ではなく触ろうとする不自然な行動で警戒されるかもしれません」
「俺の『氷鬼』は手のひらで触らないといけないからな。拳を作らず手を伸ばしてきたら不自然だもんな」
「集団で囲んでも勝てない。となれば違う方法で攻撃すれば良いのです」
「…何か策があるんだな」
微笑を浮かべた設楽はスマートフォンを操作し出した。
何らかの指示を出しているのだろう。
(『認識誘導』で優秀な人間を操作すれば頭脳行動させることも出来るのか。独善や裏切りを行わせないように『認識誘導』でコントロールすれば命令に忠実な指揮官を生み出せる。さらに実行部隊も『認識誘導』で強化された人間。簡単に軍隊を作ることが出来る。ここにいないだけでも何十何百の兵が動いているんだろうな)
居場所を知られている以上敵対行動は損でしかない。
それを分かっていて零兄は共闘しているのだろう。
(結局最初に戻って来たんだな…)
(くそっ、なんか知らんがこいつずっと蹴ってくる。何がしたいんだ)
市丸は訳も分からない蹴りで甲州街道に血をばら撒いていた。
実録が少しずつ遠のいていく。
(神岐の力を持ってしてもこいつは止められないのか)
甲州街道に血を撒いているのは市丸だけではない。
『認識誘導』の軍勢を物ともせず殺戮を行っているこの男もまた血のスプラッシュを起こしていた。
血だけでなく死体の山が築かれていた。
周辺には敵がちぎった頭部がゴロゴロと転がっている。
恐ろしいのは散乱していることよりも、死体の顔がどれも真顔であることだ。
首を千切られようとしているのだ。苦悶の表情、涙、絶叫の口の開いた様相、死の間際の表情は沢山あれど、転がっている死体はどれも真顔でその目線は常に正面を見据えていた。
殺した敵も恐ろしいが、死に際まで行使する神岐の力に心底怯えていた。
仮面の集団や隕石など神岐以外の要素がこの府中にはあったが、神岐以外が発生しえなかったとして、果たして府中から時雨を逃がすことは出来たのだろうか。
囮になるために別行動を取ったが、神岐が自分達を追ったとしても、時雨を逃がすだけの時間を稼ぐことは出来たのだろうか。
『認識誘導』対策の煙玉を使ったところで神岐の動きを止めることが出来たのだろうか。
そしてこの『認識誘導』の集団。実録の周囲にもいる。なのに実録が無事なのはこの男を止めるために力を合わせているということだ。
(協力するのなら、最初からしておけば…)
逆探知という強引な方法で迫って来たから敵対した。その判断は間違っていないと思う。
あの状況では神岐が本当に協力するという確証がないからだ。
しかし、結局は最初に戻っている。
(ドクターがいないと、俺達は何にもできない)
神原達にドクターのような指示をする人はいない。
それでも己の知恵と行動で俺達を撃退した。
ドクターから俺達への試練、そうなのかもしれない。
だがその試練には失敗したのだろう。
ドクターがいなければ『超能力者』に勝てない。色々な要因が噛み合って仲間を逃がすのがせいぜい関の山。
超能力者相手に神岐の協力がなければまともに戦うことすら出来ない。
圧倒的な差
差が、開き過ぎている。
♢♢♢
甲州街道に出ようとした牧村だったが、踏切を渡る足音を聞いて後ろを振り返った。
そこには男性が1人立っていた。
(あの場にいなかった…。新手か)
零、という男に殴られた時にいた集団の中にはいなかった人物。
(雪走と合流させないために張っていた中の1人。なら複数いるはずだが、なぜ1人しかいないんだ。……まさか)
正面に振り直ったが、行き先を集団が封鎖していた。
(挟まれた…。さっきのを繰り出す事は出来ない。数的には後ろから逃げた方がいいが…、こいつらは『超能力者』ではなくただの操り人形。強引に突破して雪走と合流すれば良い話だ。『飴奴隷』よりは骨が折れるが勝てない数ではない)
そして…位置がバレているから出来ることがある。
「雪走ーーーーーー」
牧村は大声で叫んだ。
雪走ーーーーーー
「!!」
「「!?」」
設楽と実録は驚き、雪走は確信した。
これまで雪走は自身の周りに一定数の敵が群がるように調整をしていた。
しかし雪走は自身のそばにいた人間を全て殺害し、市丸の襟を掴んで声の方向へと走った。
「!おい、さっきのは!」
「間違いない。牧村だ。すぐそこまで来ている!」
人間一人を持って走り始めた雪走だが、その驚異的な速度に設楽も舌打ちをした。
「なんて速さだ。捉えられない」
「牧村ーーーーーー」
牧村ーーーーーー
「…よし、雪走はすぐそこだ」
牧村も走り出した。敵の多い方へと。
ブーストはもう使えないが敵を釘付けに出来る石礫なら使える。
牧村は空気砲の照準を前方の集団の先頭に合わせた。走りながらでブレているが、集団であればむしろブレる方が好都合だ。
(発射!)
周囲の空気を取り込んで射出口から勢いよく噴出される。
空気を取り込む過程で周囲の石やチリ、ゴミも吸い込んで射出された。
催眠人間に防御の概念はない。
目に異物が入って目が滲むと言った人間という構造上の現象は抑制出来ないが、目の前から何かが飛んできた時に思わず腕で顔をガードすると言った反射的な行動については『認識誘導』で制御することが可能だ。
彼らにとっては大量の矢が飛んで来たとしても決して歩みを止めることなく進み続けることが出来る。
放射された空気に含まれた固体が催眠人間達の顔に命中しても、彼らは止まらない。
「ちっ、やっぱ『飴奴隷』なんか目じゃないな!」
だが、頭を弄っても人間の構造までは変えられない。
目の中に砂が入り目が滲む。どんなに目を閉じないように制御したところで涙で前が見えなくなれば歩みを進めたところで意味がない。
(よし、突破出来る。後ろのやつは…、追っ掛けて来ない。なるほどさっきの一瞬のためだけの駒か。迫って来たら迎撃しろとは言われてるが追えとは命令されていないみたいだな)
だが普通に考えて数が少ない方に逃げるものだが、もしも後ろを選んでいたらどうなっていたのだろうか。
後ろにも伏兵がいるのかもしれない。それは前方も同じだが、雪走がいるのなら片付けてくれるだろう。
(まさに鬼神のごとし)
先程よりも苛烈に獰猛に。
牧村の方へ向かっていた催眠人間達が合流阻止のため雪走に襲い掛かる。
しかしそれを物ともせずに片手と足だけで対処していた。
(市丸君を殺さないのはドクターとの交渉のためか。乱暴に見えて軽率な行動はしない)
ピコン
設楽の持っているスマホから通知音が鳴る。
「…………!?……」
スマホに何かを打ち込む設楽。
プロン
「……よしっ!」
「?」
何が『よしっ!』なのか実録には分からなかったが、雪走から一歩離れた場所で催眠人間達を操作していた設楽が走り出した。
実録も訳が分からないがそれに続いて走り出す。
「お前らーーーー。一斉に飛び掛かれーーーー」
とてつもない声量。
実録は思わず両手で耳を閉じた。
(バカでか!?人間の出せる声量じゃないだろ!これも『認識誘導』の影響か。スマホで何か指示を出したんだな)
その声量は雪走、牧村にまで到達した。
そして…
お前らーーーー。一斉に飛び掛かれーーーー
「何だこの声。前の方からか」
「神岐ではない、神岐のそばにいた奴だな。何か命令を出したみたいだ」
「飛び掛かれってことは、合流されたのか?」
「分からない。既に牧村が見えている。『隠れ鬼』は使えない。『認識誘導』の兵隊を強引に突破しているみたいだ」
『認識誘導』で視力が強化された影響で遠くにいる牧村を視認することが出来た。
そのせいで、『隠れ鬼』は使えなくなった。
「最終局面だな」
「結局『高鬼』の使い所がなかったな。市丸兄も以下同文」
「?何を言ってる。まだ終わっていないだろう。『認識誘導』でも雪走という男は止められないんだから」
零は神岐と直に戦闘をしていない。
しかし、神岐と1vs1で戦った丹愛にはあの合図の意味とそこから行われるエンディングまでの道筋が頭に浮かんだ。
この戦いはもうまもなく終わると。
(市丸兄も俺も時間稼ぎくらいしか出来なかった。まだまだ実力不足。実録も『超能力者』2人とは戦っていないから同じか。全て神岐が終わらせてくれた)
「大丈夫。『認識誘導』はそんな程度じゃないよ」
♢♢♢
設楽の大声に感化されたように、催眠人間達は奇声にも似た声を発しながら雪走に向かって走り出した。
奇声は甲州街道の至る所から、街道から外れた場所からも設楽の大声を聞いた催眠人間全てが対象となった。
「特攻の前の鼓舞。恐怖の打ち消し。やっと感情を出したな」
真顔で死に際まで表情一つ変えない敵はようやく人間らしくなった。
牧村のいるであろう通りからもそれ以外からもゾロゾロと湧いて出てきた。
(気配は感じてたが一気に投入か。あっち側は来ないんだな)
あっち側とは北側、つまり最初に2人が飛び出して来た方角だ。
何人かの気配を感じるがその気配は動かずただじっと雪走を見続けていた。
(微妙に気を散らされるが、全く動かないってのは警戒を高めざるを得ないぜcomcomさんよぉ!)
動かず狙っているということは遠距離武器。銃や操作系能力者がまだ潜んでいるのかもしれない。
雪走は足を止めて進行先の人間を殺していく。
(なんだぁ?奇声出してもあんま変わんねーな!?)
実力はさっきと変わっていないように思える。これでは表情差分でしかない。
(そんな訳ないよな。もしかすっと狙撃の撹乱かもしれない)
であれば狙撃方向を空けておく必要があるが、潜んでいる敵と雪走の間にも人間が突っ込んで来ておりこれではフレンドリーファイアしてしまう。
数が増大しても雪走の『我が道を行く』の前では個の力が高くなければ数は何の意味を為さない。
ウォォォォォォォォォォォォ
「…拍子抜けだ。鼓舞するなら心じゃなく俺みたいに力を上げろよ。comcomもこの程度か」
返り血で真っ赤になっている雪走は全身赤コーディネートになっていた。
それでも止まらない。
そして、恐れていたことが…
「はぁ、雪走!」
牧村、甲州街道に到着。
雪走も牧村がいる道路まで近付いていた。
2人の間には10メートルもない。
催眠人間が雪走の方に向かったため牧村の方は最初にいた人員さえ倒せばフリーになる状態だった。
空気砲で視界を奪えば強化された催眠人間を牧村が倒す事は十分可能だった。
そして、突破された。
「牧村、無事か!」
群がる虫を潰しながら牧村に近付く雪走。
「こいつらすぐ片付けっからよぉ」
「あぁ、任せt……」
牧村は府中本町駅から、府中駅前、小国魂神社、また府中本町駅、そして甲州街道に至るまでに何人もの催眠人間を見てきた。
命令に忠実で肉体の強化が著しい。
牧村と雪走の間は10メートルもない。
2人の間に催眠人間がいる。
それらは雪走の方に向かっていた。
一部は牧村に向かっている。
これは牧村が甲州街道に出たら襲い掛かれと事前に命令されていての行動だろう。
雪走に処分を任せて自分は空気砲で自身に近付けさせないように行動しようとした。
だが、雪走に迫らず、牧村にも迫らず、2人の間に立っているだけの人間が1人だけいた。
その男はただ、立っていた。
雪走にはただのcomcomに操られた1人にしか見えていない。
常に周囲を囲まれていて動き続けている雪走には、包囲の外の人間が迫っていようが止まっていようが些細なことだった。
警戒すべきは超能力者が残した釘と狙撃だけ。操られた人間は強くなったわけでもなくひたすらの単純作業で殺せる。
油断ではなく事実だ。
牧村からしたら異質でしかなかった。
突っ立っているだけなのだ。
汗をかいていて肩で息をしていた。
これは今まで見た操り人形達では見られなかった特徴だ。
つまり目の前の人物は操り人形ではない。
今この府中に立っている人間は二分される。
操り人形か………
「動くな!」
ビタァァァァァァァァァァァン
全身が、固まった。
雪走も牧村も、固まった。
操り人形か、超能力者だ。
♢♢♢
「か、comcomだな」
「…あぁ」
「お前が、comcomか。くそっ!」
雪走が動けなくなった体を動かそうとするが、力が入らなかった。
縛られて動けないのではなく動こうとする意思がなくなっていた。
頭では動きたくても心が動きたくなくなっていた。
「これがcomcomの『超能力』」
「『認識誘導』。良い能力だろ。おい、市丸。生きてるか」
「……何とかな。助かった。すまない」
「おっ、実録や零とは反応が違うな。心境の変化か?」
「神岐様」「神岐!」
設楽と実録が追いついた。
すぐさま実録が市丸の介抱に入る。
「大丈夫か市丸兄!」
「……あぁ、服が湿って張り付いたおかげで出血を抑えられたみたいだな」
「びょ、病院に行かないと」
「東京競馬場に回復能力者がいる。そいつのところに運べば大丈夫だ。もう少し我慢しろ」
「神岐!」「間に合った」
少し遅れて零と丹愛も合流した。
「れ、零兄…」
零がやられたと思っていた市丸にとっては驚きだ。
「鬼束兄弟勢揃いだな。設楽」
「はい」
「市丸にあれを渡せ」
「御意」
設楽はスマホでフリック入力を始めた。
「さて、牧村、雪走。何か言うことはあるか?」
「……もう1人ここに来る。『解体々々業者』。壊れたものの時間を巻き戻す能力だ。俺の隕石や『飴奴隷』で破壊された街、殺された人間は元に戻る」
零、市丸、実録はギョッとした。馬鹿正直に話し始めたからだ。
丹愛だけは一度見ているので特に驚いたりはしなかった。
「なるほど、やはりか。復活…とは少し違うか。死後の心臓マッサージによる蘇生か。条件があるな?」
「『解体々々業者』は1日前に戻す。だから死後1日以上経った人間はもう生き返らせることは出来ない。さらに1つのものに1回しか使えない」
(死者蘇生。とてつもない能力だが制限があるな。遥か前の死人は生き返らないのか。それが出来たら最強だな)
「お前ら2人は『解体々々業者』を使われたことはあるのか?」
「ない」「ない」
「死者蘇生能力者はそいつ以外にも存在するのか?」
「いない。死者蘇生、完全復活の能力者を生み出すために我々は業君から『超常の扉』を奪おうとしているからだ」
「そうか…」
(死人の中にすげえ強え『超能力者』がいるみたいだな。それだけが目的ではないだろうがドクターが戦っているのはそこら辺に理由がありそうだな)
「市丸、丹愛」
「「何だ」」
「こいつら、殺していいぞ」
「「!!」」
「神岐、お前…」
「不完全燃焼だろ。それに俺はまだお前らを認めていない。こいつらを殺してそれを以て合格にする。ここまで事が大きくなった以上ドクターもこいつらも本格的に動き出す。俺は勿論、『超能力者』であるお前ら、萩原時雨も否応無しに巻き込まれるだろう。なら選択肢は2つだ。戦うか関わらないかだ。戦うなら、殺すことを躊躇うな。じゃなきゃお前らが殺されるぞ」
「「………」」
「丹愛、お前にはあのナイフを、市丸はドライバーを持って来させた。使うといい」
「こちらを」
設楽が市丸にドライバーを渡す。
ドライバーを渡した設楽はまたどこかへと向かっていった。
(こいつは、何十人も殺した。躊躇えばその隙に殺される。平和のための必要悪…)
間近で殺戮を見た市丸。
(あの隕石で何人も死んだ。生き返ることを見越していたとしても、殺した。これが『超能力』。それを持つ俺もまた、殺害を選択しなければならない時が来る。今来ている…)
「神岐、けどそれじゃ『解体々々業者』ってので生き返るんじゃないのか?」
「そうだな。死体を1日以上隠せば勝ちだが、下手に手を打ち過ぎると報復が面倒だ。こちらはあくまで降りかかった火の粉を振り払ったという体裁にしなきゃならない。だけど刺し傷があれば振り払うって言い訳は使えないよな。だから…」
「?」
ズガァァァァァァァァァァァァン
「うぉ!」
実録が思わずよろける。
「…すぐそばの踏切に隕石が落ちた。京王線も止まったな」
踏切を通った零が神岐に告げる。
「『頭上注意』。強力だ。あれに直撃したら生きていられないよな。体もぐちゃぐちゃになって本人確認すら困難になるだろう」
「そうだな……!?」
零は神岐の言わんとしていることに気付いた。
「市丸、丹愛。時間はないぞ。牧村、ここに隕石を3つ落とせ」
「「「!?」」」
「はい」
牧村は『頭上注意』を発動させた。
「直撃したらどうなる?」
「肉になる。直撃して生き残った人間はいない」
能力者本人が言うのだから間違いないだろう。
「『解体々々業者』はその状態からでも生き返れるのか?」
「どうだろうな。原型を留めていなくても蘇生出来るか。知覧に聞けば分かるだろうけど」
もうそれを確かめる時間はないだろう。
神岐達もここに残れば直撃を受けて死んでしまう。
「仮に生き返ってもイエローカードだ。残機0じゃ無茶は出来なくなる。知覧の『超能力』に期待しながら死んで行け。圧死よりは先に楽にしてやることも出来るが?」
「……好きにしろ。どっちにしろ死ぬのは確定してるし『解体々々業者』で1日前に戻されると記憶も1日前に戻る。このやり取りすら覚えていないしな。復讐も出来やしない」
「なあなあ、次やる時はもっと強く出来ないのかよその『認識誘導』ってので!」
「………」
「…言いたい事は分かるが雪走はこういうやつなんだ」
「…うーん。まぁお前の『我が道を行く』のようにドーピングのようなことは出来ると思うが、まあそこら辺の実験も進めておくよ」
「オッケー。じゃあ好きにしろ」
「「「「「………」」」」」
神岐、鬼束兄弟は雪走のノーテンキな様子に言葉が出ない。とてもこれから殺させる男の発言とは思えない。生き返る保証すらないのに…。
「市丸、丹愛。時間がない。さっさと選べ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
空気を切る、いや押し潰している鈍い音。
真上にいるとこのように聞こえるようだ。
太陽の位置で光が入っているが上を見上げると真っ暗だ。
「……やるよ」
市丸は設楽から渡されたドライバーを血で汚れていない左手で受け取る。市丸が使っていたドライバーとは色違いだった。
「…こっちの顔を立ててくれるのなら、な。お前がいなかったら負けてたし」
丹愛もしまっていたナイフを取り出す。
「殺したら死なないように東京競馬場に来い。催眠人間達がデリバリーしてくれる。設楽、催眠人間達の誘導と指示は任せたぞ」
「御意」
「実録、お前も市丸達と一緒に来れば良い。俺と零は先に戻っておく」
そう言う神岐はスマホで誰かに連絡を取り始めた。
(確実に殺した方が良いんだろうけどな。さっきまでそのつもりだったし。けどそうなると次に繋がらない。今後の展開を考えると……。まぁ2人のスマホも回収出来るし『認識誘導』を見せつけることで抑止力を持たせないとな)
敢えて強行に出ないことで相手の出方を伺う。
残機を減らされた事で向こうは相当の痛手を負ったはずだ。
神岐が中立にいる以上、引き抜きはあるかもしれないが無茶な攻めはしてこないだろう。
「久留間、『日帰り旅行』を解除しろ」
『……かしこまりました』
ゴゴゴゴゴ
地面、ではなく神岐と零、そして何人かの催眠人間達が揺れ始めた。
「これって…」
「仮面のやつらの時と同じだ」
「やっぱり神岐が片付けたのか」
「市丸、丹愛、実録、先に行く」
「すぐ戻ってこいよー死んじまうからなー」
シュン
神岐達がその場から消えていなくなった。
そして市丸と丹愛は自らの『超能力』を発動させた。
牧村も雪走も身動きが取れない以上、死をただじっと待つのみであった。
零と実録は隕石にビビりながらもその様子を見届けたのだった。
設楽もスマホを使って何かをやり始めた。
♢♢♢
シュン
「おぉぉ、これ便利だな」
「…『瞬間移動』のような使い方も出来るのか」
「応用次第で『超能力』も使い勝手が良くなるみたいだな」
神岐と零が移動した先は東京競馬場にある関係者用の会議室だった。
久留間によれば、『日帰り旅行』は発動の際に空間指定をする必要がある。
呼び出し先は久留間が範囲指定をすれば良いのだが、呼び出し元は囲われた空間である必要があった。
つまり、青空の下にいる人間を『日帰り旅行』を使って転送することは出来ない。
そのため閉鎖された空間。室内にいる必要があった。
『日帰り旅行』を解除した場合、呼び出し元に転送させる。
これが手動解除ではなく強制的に『超能力』を解除された場合は転送のリンクが切れ、その場に残ってしまう。
神岐の『認識誘導』は思考誘導であり、久留間に解除を命じた際はあくまで久留間の判断によって手動で解除される。
そのため『飴奴隷』は呼び出し元まで戻されたのだ。
「お待ちしておりました」
会議室には久留間紗穂が既におり神岐の帰還を待っていた。
「『飴奴隷』は来たのか?」
「はい、八散が待機させております」
「よし、案内してくれ」
「承知しました」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
「お待ちしておりました」
「こいつらか?」
舟木達を嵌めた時に見た顔が何人かいる。
「舟木と九重は?」
「『心地良い刺激』で証拠隠滅を始めました」
「結構結構。じゃあ『飴奴隷』共、元の生活に戻れ」(飴玉の快感と今日一日の記憶を全て忘れて真っ直ぐ家に帰れ)
『認識誘導』で命じると『飴奴隷』共は立ち上がり、真っ直ぐ競馬場の外へと向かい出した。
「あれで大丈夫なのか?」
「あぁ、どこまで薬物中毒を緩和出来るか分からないがな。禁断症状は出るかもしれないがそこら辺の感覚も鈍らせたから問題なく社会復帰出来んだろ」
「そうか…」
「んじゃ、約束通りに…」
「あぁ、ドクターの連絡先だ」
零は会議室のメモ用紙に書き込んだドクターの連絡先を神岐に渡した。
「…たった紙切れ1枚のためにこの惨劇が起こったとなると、皇太子殺されただけで世界大戦するのも頷けるな」
「……神岐」
「何だ?」
「お前は復権思想者だよな。世界大戦で負けた日本を世界の強国にしようとする」
「…『隠れ鬼』で見たのか。そうだ。『超能力』を使えばそれが可能だと思っている」
「そうか、奴らの目的が世界征服で俺達の目的が世界征服打倒による世界平和だった場合、どちらの味方をするんだ?」
「……………………」
(あいつらが世界征服を目論んでいる。神岐が同調する危険性が非常に高い)
「……………………世界征服は趣味じゃない」
「……はっ?復権思想なら日本が他国を負かすんじゃないのか?」
「俺は愛国者だ。この国を押し上げたいんだ。この美しい日本をな。だが奴らは奴ら自身が世界の頂点に立つんだろ?それは俺の考える復権ではない。平和的に復権したい。そういう意味ではお前らの味方とも取れる」
「お前のいう平和的復権の手段は何なんだ?」
「あぁ、まだ構想段階だが……」
神岐は自らの考える日本の未来を零に語り出した。
日本という国家、そして『超能力』、『超能力者』。これらが混ざり合った日本を強国に押し上げるビジョンを。
「………そんなことをすればどういうことになるのか分かっているのか?」
「日本は戦争をしない国だ。これが最も効率よく日本の地位を押し上げられる」
「……何億人が死ぬと思っているんだ」
「…日本は腐った政治家や他国の干渉、政治的経済的に弱ってる。失われた30年。アメリカは強国で中国はGDPで日本を追い越した。韓国、インド、EUも目覚ましく発展している。途上国の東南アジアやアフリカ諸国も先進国の支援で経済成長を遂げている」
零は内心ドン引きしている。
つらつらと何億人が死ぬかもしれない計画を聞かされているのだから。そして、それが実現出来ることにも引いている。
(子供の戯言じゃなくその気になれば出来るんだよな…)
「———だから俺は日本を…、って、聞いてる?」
「何ですぐに実行しないんだ。『認識誘導』なら出来るだろ」
「……俺には10年前のあの日のことを朧げに覚えてる。ドクターと後2人、神原ともう1人の人間」
(神坂のことか…。神岐は神原しか知らないのか…)
「野球動画を作ったのは『認識誘導』の実験。そしてドクターと2人へのメッセージのつもりだった。まさかドクターに敵がいてそいつらも『超能力者』とは想像もしていなかったが」
釣り針に思わぬ獲物が引っかかった。
「comcomとして有名になって公共の電波に立ち入れるようになってから計画を実行しようとした。が、敵の存在を知った以上排除しないまま計画を実行するのはリスクがある。府中動乱を揉み消せる連中だ。警察、マスコミ、政府にも手が及んでいる可能性がある。むざむざ敵地に乗り込みたくはない」
「…だから味方を増やしつつ敵の排除を…か」
「あいつらが世界平和でお前らが世界征服なら向こうに取り入るんだけどな。そうなればすぐにでも計画を実行出来る。痛み分けにしたのもその選択肢を残すためが一因でもある」
「俺達は!」
「分かっている。お前達は奴らを止めようとしている。そのために仲間を集めている。『超常の扉』はそんなにポンポン作れないんだろう。だから既に『超能力者』である俺や神原を求めていると。止めるのが目標だから奴らが平和でも征服でもどちらにも傾いていない」
(けど向こうが平和なら俺が入る事を止めれないよなぁ、ドクター)
ブーンブーンブーン
神岐のスマホに着信。
ピッ
「俺だ」
「設楽です。もうまもなく到着します」
「メッセージは?」
「隕石で吹き飛ばされないようにしてあります。知覧なる『超能力者』が来たら見つけられると思います」
「分かった。市丸と丹愛の様子はどうだ?」
「……呆然としております。実録も同様です。心のダメージが大きそうです」
「ちゃんと殺したのか?」
「はい。ナイフとドライバーで一突きです。特に雪走の方はちゃんと心音がないことを確認しました。彼らの所持品も回収済みです」
(萩原時雨のように『超能力』が使えなくならないといいが…、そんな事で使えなくなるようなら今後の邪魔になるから俺がドクターに代わって引導を渡すか…)
「分かった。競馬場から集団が出るかもしれないが気にせず入って来い」
「承知しました。それから府中街道で倒れている女性ですが一応連れて来させていますがよろしかったでしょうか?」
「………あぁ、羽原ののか。忘れてた。気が利くな。それで構わん。ありがとう」
「いえいえ、勿体無いお言葉」
ピッ
「…さて、お喋りは終わりだ。もうじきこっちに着くようだ」
「???。…あ、あぁ。市丸達来るのか…」
この時『認識誘導』で零の記憶を消去した。
どうやら受け入れてもらえないようなので他人に喋られないように話の内容を忘れてもらった。
零からしたらドクターの連絡先しか渡していないのに話は終わりだと告げられたので言葉の意味が分からず混乱してしまっていたが、とりあえず何も考えず同意した。
♢♢♢
ブルルルルルル
ブルルルルルル
ブルルルルルル
「………」
ピッ
「牧村さん電話出てくれないや。どうしよう」
(さっき3つまとめて落としてるのが見えたし、まだ戦ってるのかも)
北府中駅に1人の男性が降り立った。
府中本町駅で起こった電車の暴走、そして衝突事故の影響で府中本町駅へ向かう事が出来なくなってしまった。
そのため武蔵野線の終点は北府中駅となっている。
さらに府中から来た人間の謎の「隕石が来た」という発言と大暴走により府中周辺の地域では大混乱が起こっていた。
正直よく北府中駅まで電車が辿り着けたものだと事情を知る知覧は思った。
テレビでは何も報道されず、そもそも隕石なんてどこにも見えず。集団幻覚で警察も騒動を抑えようと頑張っているが如何せん数が多いため収拾がつかなくなっていた。
「…これは禁止されるのも分かるなー」
遠くにいれば見えない仕様だが今はリアルタイムで情報発信が出来るようになっている。
自分が『解体々々業者』で元通りにするから狂言と思われることも出来るが、映像や大多数の呟きがあれば狂言も真実味が帯びてくる。
後からもなく痕跡がなくなっていることが陰謀論を思わせることにも繋がりかねない。
「…場所分かんないけどとりあえず府中本町駅に向かえば良いか」
現在の状況
東京競馬場内
神岐義晴・鬼束零・久留間紗穂・能登八散
東京競馬場北口
舟木真澄・九重那由多
東京競馬場西口
鬼束市丸・鬼束丹愛・鬼束実録・設楽柚乃・羽原のの
甲州街道
牧村桃秀(死亡)・雪走一真(死亡)
北府中駅
知覧航大
長かった府中動乱もようやく終わりそうです。
結末があっさりしていますが、『認識誘導』以外で勝つ手段がなかったという点では彼らの方が圧倒的に優れていると思います。
格落ちさせずに倒すのむずいっすねー。
雪走があまりにも強過ぎるからね。ハメ以外では勝つ方法が現時点ではありませんでした。
パワー系の牧村と雪走の残機を減らしただけでもドクター的には良い結果になったと思います。
そして、次々と東京競馬場に集まっています。
府中動乱の最終地点が東京競馬場なのもあながち間違っていなかったですね。
府中動乱がようやく終わりそう…?
終わりじゃないのかって?
………
まだ、残っています。
ドクターの連絡先を手に入れた神岐。
そして萩原時雨を保護したドクター。
証拠隠滅に勤しむ舟木達。
同じく証拠隠滅で府中にやって来た知覧。
次回はいよいよ第4章の超メイン。
神岐とドクターのファーストコンタクトです。
第4章で行った3人それぞれの視点での鬼束の捜索、神原と伊武のデート、神坂達の聞き込み、事務所訪問、逆探知電話、府中動乱。
その全てがここに。そして第4章の章タイトルへと繋がっていきます。
第4章も残り数話です。




