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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
105/165

第105話 府中動乱㉑

 8月6日

 府中競馬正門前駅近く

 姉の雪華から貰った手鏡のおかげだなと姉へ感謝する。

「映像越しではダメだが、鏡や双眼鏡越し、直接目で見るというプロセスであれば俺の『強制平等』は発動条件を満たすらしいな」

 これは独り言だ。

 伝える相手はいない。いや、いないことはないが遠くにいて神坂の声が届かないのだ。

「さて、しばらく動けないから鏡を使わずに直接見て顔を確かめてやる。ドクターの差し金かどうかをな」

 これが鬼束兄弟、またはドクター本人であれば鬼束探しという目的は達成する。

 これで夜香とのデートの約束を守ることが出来る。

 動きを縛っている相手は動けない。顔はまだ遠くて見えないがおそらく真顔なんだろう。

(慌てふためく姿を見たいが『強制平等』で顔の表情も固定されているからな…)

 さて、コソコソと後ろを尾けていた奴は捕縛した。

 後はそいつから情報を得られれば………




「あんた………、どこかで……?」

 神坂雪兎の失策、それは……

 8月5日

 府中本町駅


 偶然。

 お互いにとっては想定外。完全な初対面。


 ザザッ

 足が止まる。

 鬼束丹愛は府中で飴奴隷(キャンディソルジャー)と隕石から逃げる人間を見ている。

 だからこそ分かる。

 今正面にいる男は、そのどちらでもないと。

 自分の姿を見て足を止めたことでそれは確信へと変わった。

 そして、それは相手にとっても同じ。


(府中側に来ようとする人間…。業君の仲間か。雪走の取りこぼし…とは考えにくいな。業君の仲間は複数人府中にいる。取りこぼしというより囮を使ってこちらに送り込まれた形か。ちっ、足を止めたのは失策だった)

 まさかここで目的に近付くとは思わなかったので思わず足を止めてしまったことは仕方がないことだ。相手に気取られた。今更逃げ惑う大衆のふりは出来ない。

 だがお互いが相手を敵と認識した。


(誰だ…。足を止めたってことは俺は想定外の人間。『認識誘導(ミスリード)』で操られているなら躊躇なく攻めるがそれもせず、神岐側ではない。つまり、ドクターの敵か…)

 おそらくだが、神岐から逃げたのだろう。逃げと同時に市丸と戦っているもう1人の男と合流するつもりなのだと丹愛は推理した。

(だとしたらここは通せない。神岐を避けているのならここで時間を作れば神岐が来るってことだ。俺が神岐に見つかるリスクはあるが…。まだ煙玉は1つ残ってる。それを使えば何とか…)


(業君の仲間なら捕まえたいところだが、ここで戦闘すればcomcomに見つかるな。射程距離的にまだ神社には隕石を落とせるから神社側の撹乱で落として、この男は隕石を使わずに倒さなくてはならないな。飴奴隷(キャンディソルジャー)よりはマジなんだろうな?)

 牧村は競馬場西門入口交差点と小国魂神社東側の道路に残り2個の隕石を落とすため『頭上注意(メテオライト・サテライト)』を発動させた。

(駅と競馬場を結ぶ歩道も上手いこと壊せるだろう。さて、ここまで来た目的は業君に会うことなんだろう。奴の向かう場所に業君がいると見ていいか…)

 居場所を知っているかもしれない。

 殺すわけにはいかない。

 しかし相手はほぼ間違いなく超能力者(ホルダー)。能力は分からないがこちらは能力を使えない以上体術と手持ちの武器で倒さなくてはならない。


(ドクターの敵で仮面を着けていないなら超能力者(ホルダー)だよな?こいつが隕石能力者か?それとも別の能力者か?分からない以上は近付かない方が良いな。『高鬼(タワースナッチ)』で相手の能力を見極めないとな…)

 目の前の男が怪力男の仲間なら、能力は伝わっているかもしれない。能力を伏せて戦う必要はない。短時間で終わらせる。


 ♢♢♢


 神岐、零は競馬場にいた何十人かの催眠人間達を引き連れて府中本町駅へと向かっていた。

 車は使えない。

 東京競馬場には府中本町駅まで道路を使わず通れる歩道が整備されている。

 その道を通って府中本町駅まで目指していたが……


「零、来たぞ。やっぱ府中本町駅で当たりだなこれ」

「…これが、隕石。超能力(アビル)でこんなことまで出来るのか」

 零の知っている超能力は物体操作や人間に干渉する能力だけだった。

 萩原時雨の『瞬間移動(テレポート)』もTHE超能力で目を見張るものだったがそれでも許容できるレベルだった。

 しかし、昼間の空に真っ黒い巨大な質量。規模が段違いだ。

 これを1人の人間が作り上げたのだ。どこからこれだけの質量を用意したのか。分からないことだらけだ。

「小国魂神社に2つ、そして競馬場と府中本町駅の道中に1つ。しかもご丁寧に俺達の向かっている歩道も壊せるような丁度良い場所に落とすつもりみたいだ」

(だが隕石の落下タイミングにラグがあるな。小国魂神社の1個の落下が早い。時間差でも落とせるのか…)

 意図して緩急を付けたのか、はたまた別の目的があるのか。

 だが、後の2つの内1つが神岐達の進んでいる方向にモロなのは偶然とは言い難い。

「俺達が来た時に備えてランダム性を持たせて都合良く壊したってところか」

「どうする神岐?真っ直ぐ進めば巻き添えを食らうぞ」

 かと言って隕石が落ち終わるのを待っていては牧村を逃してしまう。

「そうだな。まずは……」

 神岐はスマホで設楽に電話をかける。



「はい、設楽」

「府中本町駅か」

「はい、丹愛を監視している者から連絡があって男と対峙しているとのことです。画像を確認しましたが牧村でした。すみません。出し抜かれてしまいました」

「いや、良い。奴もドクターと同じようなテクノロジーを駆使したんだろう。お前は催眠人間を指揮して先回りしろ。縦移動を潰す」

「了解しました」



「丹愛と牧村が接敵した」

「!じゃあ急がないと」

「分かってる。お前らは先に行け!」

「…お前はどうするんだ?」

「『認識誘導(ミスリード)』でお前らの体力は無尽蔵だし筋力も限界を超えて力を発揮出来るが俺自身に『認識誘導(ミスリード)』は使えない。だから先に行け。設楽と連絡を取りながら策を練る」

「…分かった。先に行く」

(確かに俺はさっきまで気絶してたのに体力は満タンだ。増えたというより減ったことを体が感じていないんだろう。これが『認識誘導(ミスリード)』か。ここまでの力とは…)


 零の体は『認識誘導(ミスリード)』で無理矢理動かされている状態だ。

認識誘導(ミスリード)』が切れた時、どれだけの反動が降りかかるかを神岐から聞いてその上で『認識誘導(ミスリード)』で復活することを決めた。

 零と催眠人間は神岐を置いて走り出した。

 暑さも『認識誘導(ミスリード)』で感じないからひたすらのびのびと走れている。

「これなら隕石が落ちる前に通過出来そうだな」


 ♢♢♢


 美好町一丁目交差点とハローワーク府中交差点の中間に雪走一真と鬼束市丸はいた。

 鬼束実録は甲州街道と下河原緑道の交差する場所で車の陰に隠れていた。

 2点の間はざっと140メートル。

 車と車の間の死角を移動し続ければハローワーク府中の交差点までは移動出来る。

 しかしそこから雪走のいる場所までは50メートル離れている。

(俺からも車のせいで向こうが見えない…。そして…)

 車の隙間から見えた不自然に落ちているブルーシートと布団。

 ブルーシートはありえるかもしれないが、こんな道路のど真ん中に布団が落ちているなんてまずおかしい。

(市丸兄の『色鬼(カラースナッチ)』か。どう使うつもりなのかピンと来ないけど、これは回収した方が良いのか…?)

 回収したいのは山々だが敵に見つかってしまう。近付くだけでも手一杯なのに、布団に至っては周囲に車がないから回収しようとすればまず見つかるだろう。

(あと200メートルくらいか?何とか向こうの意識が逸れて甲州街道から出られれば迂回して進められるが…)

 こちらを見ているという視線が強い。見つかっていないが見られているのは良く分かる。

(女性が胸を見られているのに実は気付いてるって話を聞いたことがあるが、こんな感じか。露骨な視線は空気で分かるもんなんだな)

 まだ動けない。今は近付きつつ、その時を待つ……


 ♢♢♢


 丹愛は市丸も使っていたプラスドライバーを取り出して頭上に放る。

高鬼(タワースナッチ)

 自身より高い位置に移動させた物体を操作する能力。

(相手が超能力者(ホルダー)なら何かしらの対処をするはず。どういう対処をしたかで能力を分析する)


(細長い、棒?ただの棒じゃないよな?)

 牧村のいる場所からは敵の武器が朧げだ。

(道具を介する能力…。操作系か具現化系か。1つなのは前者を思わせるが小手調べのつもりかもしれない。どちらかを特定するには材料が足りない)

 小手調べとはすなわちこちらの能力の分析。

(『頭上注意(メテオライト・サテライト)』とは別の超能力(アビル)かを警戒しているのか。雪走を見ているから複数人いると思うわな。ここは…)


 牧村がドライバーだと分からないのと同じように、丹愛にも牧村の右腕に装着しているテクノロジーは見えていない。

 向こうは隕石以外の超能力者(ホルダー)を警戒している。

 ならば、こちらから手の内を見せて隕石能力者ではないと思わせる。そうすれば敵は雪走牧村の他に敵がいると誤認させることが出来、能力が分からない不安、ドクターの安否を心配する気持ちという雑念が入ることで心を削っていく。


 牧村のいる場所からは少し遠いが、出力を上げれば問題ない。

 牧村は右腕に装着した武器に周囲の空気を取り込む。

 空気を溜め過ぎれば熱が発生する。なので威力には上限がある。

 しかし、溜めすぎず放出よりも発射のために多くのエネルギーを使えば遠距離にも対応出来る。

 武器にアスファルトの小石や砂利も吸い込まれていく。

 それらを溜めて溜めて、手の先にある発射口から一点に絞って発射した。


 敵が腕を突き出した。

 何も持っていないようだが腕を突き出すことで何かの発動条件を満たしたかもしれない。

(隕石を落とす照準……。または別の能力。ビーム……神岐のような人を操る能力かもしれない)

 こちらもドライバーを敵の方に近付ける。敵の腕の直線上にならないように斜め前に向かって走り出した。

 動いてしまった以上は決着をつけなくてはならない。

(ドライバーはまだ射出出来ない。今の角度では斜めになって威力が出ない。ショッピングモールでやった垂直に落とさなきゃならない)

 距離を詰める。遠くにいるとドライバーしか意識しない。能力者本人も近付いて意識を二分させなければドライバー攻撃は成功しない。

(市丸兄ほど深い集中力を要するわけではないから走ることも出来るが、やはり精密な操作は難しいな。落とす際は俺自身が足を止めて集中しなければならない…)


 走り始めた丹愛であったが敵は依然として腕を突き出したまま。

 しかし丹愛の移動に合わせて腕の向きを変えて丹愛への照準は外さない。

 そのため丹愛はジグザグした横を目一杯使いながら移動せざるをえなかった。

 近付いてはいるが直線と比べてスローペースであり、だけど余分に走っているので無駄に体力を使わされる。

 腕を構えること自体がブラフであっても有効な手段だ。

 やり辛いが時間は稼げている。


「鬱陶しい。ちょこまかと。出力を変えるか…」


 ♢♢♢


「おい見ろ超能力者(ホルダー)。また隕石だ。随分牧村も本腰入れて落としまくってるな。あいつもあいつではしゃいでんのかねぇ。全く任務はしっかりやってんのかなあいつ?」

「………知らん」

「おっ、やっと喋れるまでには回復したか。穴開いてっけど大丈夫かー」

「……お前が、………やったんだろうが」

「うんうん。元気があってよろしよろし。どうだ?業君やお仲間の居場所を吐く気になったか?」

「…………」

 小言は言うがドクター関連の話には徹底して黙秘を貫く。

 知らないと言えるくらいには回復したがそれでも黙秘する。


 市丸はそこまで考慮して行動していないが、『嘘を見抜く能力』、『口開けば嘘を付けなくさせる能力』など、言葉をトリガーにした超能力者(ホルダー)がいないとも限らない。

 もちろん『質問に答えないと厄災を与える能力』、『一定時間喋らない人間を拘束する能力』など考えだせばありとあらゆるパターンが考えられる。

 市丸からすればとにかく一切の情報を与えないための黙秘だ。


「つまんねーの。ま、お前をダシにして業君やさっきのお仲間を釣り上げればいっかな。にしてもお仲間、多分牧村の方に向かったよな?牧村に遭遇したら敵わないと思うぜ?あいつ肉弾戦クソ強いからな。お仲間も操作系能力だからまー無理だわな。全部喋るなら牧村に電話して助けてやることも出来るけど、んぉーん。どーするー?」

「…………」


「……信じるか、仲間を。ま、その気持ちが超能力者(ホルダー)相手に通用すると思わないことだなー」


(実録が、近くにいる……。その時を待つ…)


 ♢♢♢


「いって!何だ。ショットガンか?」

 突然の正面から飛来した何か。痛みを伴ったそれに思わず足を止めてしまったのが丹愛の失敗だった。

 ジグザグに近付き、そのジグザグに合わせて照準を合わせる。

 避け続けているわけでなく直撃を避けているだけ。

 そのため、切り返しの一瞬の硬直とタイミングが合致したりたまたまタイミングが合えば当たってしまうことは十分に考えられた。

 だからこそ、偶然当たったと、運がなかったと思いつつも変わらずジグザグに近付き続ければまだ延命は出来た。

 しかし、止まってしまったことで照準は固定され、より出力を上げられ、攻撃力が上がったことで抜け出すことも出来ない。

 高出力で放出された空気砲に含まれたゴミ、砂、小石は丹愛の体を傷つけるのに十分な破壊力となった。


(これは、石か!放出した空気に含まれた異物で攻撃する『環境利用闘法』みたいなもんか。くそ、どんどん威力が上がっていく。抜け出せねぇ!)

 傷付くと面倒になる顔面を両腕でガードしているためそれ以外の部位はノーガードとなっている。

 衣服があるから威力は下がっているが丹愛の服装は半袖だ。ガードしている腕は石が刺さり、血が流れている、

 衣服も固体が擦れて痛み出している。

 お色気シーンのように服装がビリビリになるようなことはないが、体に傷が付かないだけで衝突の威力はあるため動けなくなっていた。


「戦闘中は常に考え続ける。考え続けて常に行動し続ける。足を止めた時点でアウトだ。さて…」

 牧村は丹愛へ向けて歩き出した。

 ジンバルが付いているかのように、丹愛への照準は微塵もズレない。

(あのまま近付かれていたら直接戦闘になってたな。ま、それでも操作系能力者に殴り合いで負けることはないだろうがな)

 時間をかけすぎると神岐に追いつかれる。

 このまま敵を釘付けにする。置き去りにして雪走と合流する。


(あれは…工具ドライバーか。敵の動きを止めてもまだ動き続けている。事前仕込んだ動きに沿って動く感じか。距離を詰めれば自動的に俺に向けて射出する可能性がある。追尾機能もあると面倒だ)

 突如後ろから爆音が響き渡る。

 小国魂神社の隕石が今落ちたようだ。

 衝突による衝撃波が暑さも交わって熱波となって牧村に襲い掛かる。

「むわっ!サウナみたいなキツさだ。だがこれで1個落とせるようになったな。ならばここに落とすか」

 牧村は『頭上注意(メテオライト・サテライト)』で今立っている場所に隕石を落とすことにした。

 ここなら敵の進行方向を潰すことになり、神岐達が牧村の方へ行けなくさせることが出来る。

(そもそもさっきの隕石で近付けないだろうからダメ押しだな)


 ♢♢♢


 ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン

 甲州街道にも爆音が響き渡る。

「たーまやー」

「………」

 隕石が落ちた。しかしまだ空には隕石が2つ見えている。

 まだまだ隕石は落ち続けるようだ。

「ありゃりゃ〜あんなに落とすなんて…。んぉーん。だが隕石落とし続けて大丈夫なのか?」

 超能力(アビル)の存在を表に出してはいけない。(きた)るべき時までは秘密にする方針だ。しかしこれだけ隕石を落として秘密になるのだろうか?

「知覧の『解体々々業者(マインドクラフト)』で直すつもりなのか?なら知覧が来るのか!やったーじゃあ知覧に変わってもーらお!」



「また隕石が落ちた。丹愛兄は大丈夫なのか?」

 隕石がここに落ちるでもない限り現状を打破する方法がない。

 この膠着状態がもどかしい。

(雪走って神岐は言ってたか。どうやって雪走の気を引くか。こっちの手持ちは女のスマホと『超常の扉(アビリティーパス)』にそっくりなスタンガンしかない。………ん?待てよ)

 このスタンガンは『超常の扉(アビリティーパス)』と形状が似ている。ドクターメイドの物を間近で見た実録でさえも勘違いしてしまうほどそっくりだった。

 そして…………


 実録はスタンガンを凝視する。

「………そうか。ちっ、つくづく神岐の手助けを感じる。それが逆にムカつく!」


 ♢♢♢


(ちっ、その場に留まることで精一杯だ。前が見えない。いつっ、突き刺さった石を叩くように石が当たって肉にめり込む。死なない威力だが逆にそれが面倒だ!)

 痛みはあれど死なない。

 しかし、体に突き刺さった石に向けて物理攻撃を受けたら、思わず悶絶してしまうかもしれない。

 その硬直は致命的な穴になる。

 敵の姿が確認できない。

 変わらず前から石が飛んできているから前方にいるんだろうが、距離感が分からない。

 恐ろしい話だが、今真正面にいたとしても丹愛に迎撃を行う時間は存在しない。


(俺の『高鬼(タワースナッチ)』はプログラムされた動きしか出来ない。センサー感知のような敵の存在を探知して自動で攻撃するほどの精密さは持っていない。距離感が分からないからドライバーを使うことが出来ない。……攻撃を行う瞬間に照準が外れれば、その一瞬で反撃をする。ならば、ドライバーはこちらに寄せておく必要がある)

 丹愛は敵に向けて進めていたドライバーを自身の元へと引き寄せた。

(視界さえ、確保すれば……)



(自分の方へ戻した?俺への迎撃はしない?自動で攻撃するようなことは出来ないってことか。ならば奴はドライバーを使うために俺に照準を合わせる必要があるわけか)

 それなら近付きながら攻撃を続ければ良い。

(物体を介する能力者はその物体を使えなければ脆い)


超能力(アビル)』が肉体を起点とする能力が当たりだと言われた所以だ。

 能力発動に自分以外が絡むと、その自分以外がなければ能力を行使することすら出来ない。

 つまり『超能力(アビル)』頼りの『超能力者(ホルダー)』は『超能力(アビル)』なしでは何の役にも立たない。

(『超能力(アビル)』にかまけて本来の目的を忘れた俺達が良い例だ。業君1人の反乱でここまで壊滅的被害を受けた。超能力を持たないただの人間に敗れた。驕りが招いた結果だ)

 だからこそ肉体を鍛えた。

 肉体強化系能力者や体を使うことで発動する能力者に師事してひたすら身体能力を向上させた。

 その結果、元研究者という身分でありながら肉弾戦で『飴奴隷(キャンディソルジャー)』を完封できるほどの力を得ることに繋がった。


(こいつを捨て置いて雪走と合流した方が良さそうだな。雪走の言いそうなことだが……つまらんな。業君、お前が10年を費やした結果がこんなもんなのか……)



(向きが、変わった…。俺を素通りするつもりか!)

 正面からの礫が斜めからに変わった。

 おそらく礫で磔にして仲間の『超能力者(ホルダー)』のもとに向かうつもりなのだろう。

 止めようにも踏ん張ることで精一杯だ。

(どうにか時間を稼がないと。でも踏ん張ることしか出来ない……。いや、時間を稼ぐならとにかく今やってないことをすれば良い…)

 丹愛は足の踏ん張りを、止めた。

 高威力の石礫は丹愛に突き刺さり続け、空気砲の強風は、人なんか簡単に吹き飛ばす。

 敵に近付こうとしていた丹愛は近付くことを止め、力に流されるがままに、後方へと吹き飛ばされた。

 足の力を抜いたことで強風によって立ち続けることも叶わず、後転するように背中から地面に激突した。


(ふん、多少は考える頭はあるみたいだな)

 丹愛が移動したことによって照準がズレ、攻撃が止まった。

 後方に下がったことで牧村の向かう先にはまだ敵がいる状態となっている。

 足止めした敵を置き去りにするために近付かざるを得なかったが、今は下手に近付いた分敵の反撃のリスクを高める結果になった。

「...変わらんよ『超能力者(ホルダー)』。寝転がってる方が移動も出来ずに釘付けだ」



 強風に当たらないことで丹愛の後方移動も止まった。

 固いアスファルトをゴロゴロと打ち付けられているので、府中街道のダイブも合わせて傷がどんどん増えてきていた。

(ドライバーは、まだ操作が切れていない。まだ距離はあるし敵もドライバーを警戒しているはず。真正面から落としても躱されるのがオチ)

 手ぶらではない。しかし、また石礫を飛ばされると面倒だ。

(立ち上がれてもそこまでに石礫をくらうと次は抜け出せない)


 ズガガガガガガガァァァァァァァァァァン

 先程よりも大きな爆音が響き渡る。

 牧村が時間差で落とした2つの隕石が地面に激突した。

 また衝撃波が熱波となって2人に降り掛かる。

「んづ……」

 丹愛は熱波で苦しみ、

「ぬぁー」

 牧村は汗が滲んで気持ち悪さを感じた。

「『超能力者(ホルダー)』、朗報。ここにも1つ落ちるぞ」

 丹愛が空を見上げると、太陽よりも小さい黒い球体が空に浮かんでいた。

 意識するとほんの少しだが隕石が落下する音が聞こえてきた。どんどん大きくなって来る。

「仲間のところに向かわせんと抵抗しているが、俺は急いでる。短期決戦と行こうか」

「!?………!!………そうだな、片付けようか」


 そう言うと丹愛は足元の小石、砂利を掴んで上に放り投げた。

 牧村の空気砲によって石が丹愛の方に集まっていた。

 先程までいた場所には目視でも分かるぐらいに石ころの山が出来ていた。

 空気砲で吹き飛ばされはしたが、足元の地面を雑に掴み上げても固定物が掴めるぐらいには寄せ集まっていた。

 そして今丹愛は地面に伏している。

 神岐戦でもやったように、軽くリリースするだけで能力の発動条件を満たすことが出来た。

 上に放った小石は『高鬼(タワースナッチ)』によって落下することなく空中で停止していた。

(あと少しだけ…)



「石が、止まった。触れた物体を操作する能力か」

 牧村が口に出し終わると小石が牧村に向かって降り注ぎ始めた。

 空気砲を見慣れている牧村にとっては、目の前の小石は話にならない速度だった。

(当たったところでダメージにはならないな。だが、あの石に副次的な作用を施す能力なのかもしれない。触れないに越したことはない)

 牧村はさらさらと石の雨を躱し続けた。

 敵も負けじと小石を掴んでは投げて掴んでは投げてを繰り返した。

 しかし、ただ避けるだけの牧村と掴む、放る、落とすの丹愛では手数の多さで牧村が有利であり牧村は丹愛に照準こそ合わせられないが近くに小石がなくなれば丹愛が詰むのは明白であった。


(無駄な抵抗?いや、まだ奴にはドライバーがあるはず。石に気を引かせてドライバーを落とすつもりか)

 ドライバーを確認するために後ろを振り向いた牧村だったが、振り向きざまに顔面を殴られて吹き飛ばされた。



「えっ、いや…、早すぎる……」

 さっき牧村を見た時、その後ろに見知った気配を感じた。

 遠くて顔は見えない。

 しかし、分かる。

 この気配は…、兄の零であると。

 そのため零到着のために、敵に零の存在を気付かれないために小石をぶつけて数秒十数秒でも気を引いた。

 この敵には全く意味はないと分かっていた。

 ドライバーが後ろにある以上、気付かれるのは分かりきっていた。

 だが、丹愛の想定では少しでも零がこちらに近づけられれば御の字だった。

 まさか、間に合って、さらに殴り飛ばすとは思わなかった。

 普通のスピードではない。

 自身が疲弊していて見立てが雑になっていたからなのかもしれないと丹愛は結論付けた。


「丹愛!」

「零兄!」


 鬼束零、鬼束丹愛と合流

現在の状況

鬼束市丸

雪走に捕まっている


鬼束実録

市丸救出のために行動中


雪走一真

市丸の仲間を探索中


鬼束丹愛

牧村と交戦中


牧村桃秀

丹愛と交戦中


鬼束零

丹愛と合流



今回は牧村戦を中心に書きました。

単体では鬼束達は絶対に勝てないことを書きたかったです。

市丸には実録が、丹愛には零が加わったことで少しはやれるんでしょうか。

それでも超能力者歴や単純戦闘力で不利な鬼束兄弟がどこまで抗えるかですね

そして今回神岐と設楽の動きはありませんでしたが、着々と動いてはいます。


さて、次回も府中動乱。

実録vs雪走

零と催眠人間vs牧村


神岐、設楽、大勢の催眠人間

これらが牧村と雪走どちらに向かうのか?

府中動乱ももう数話で終了します。

第4章も終わりになりそうです。

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