第104話 府中動乱⑳
「お姉ちゃん直伝のスーパーアイテム〜〜〜」
「わーーー」
神坂雪兎は姉の部屋で突如として開催された通販番組もどきのガヤに徹してパチパチと拍手をすることにした。
「はいこれ」
スーパーアイテムを弟に渡す。
「…鏡?」
それは女性が持つような鏡だった。持ち運びしやすいようにサイズはコンパクトで持ち運び中に鏡に傷が付かないように開閉式で閉じるようになっている。ちょろっと外で化粧をするための物だ。
「電車の中で化粧するマナーのない馬鹿御用達のアイテムがどうしたんだよ」
「そういうマナーのなってない人もいるけど、これは自分用ではなく後ろを尾けている不審者を確認するアイテムなのです!ふふん」
どうもテンションの高い姉だが用途は理解した。
「直接後ろを振り向くと隠れられるから鏡で身嗜みを整えていると思わせながら鏡越しで背後を確認するってことね。確かに月城のバカのせいで変な目で見られることが増えたしなぁ」
月城が口を滑らせたせいで臼木に勝ったことが周知されてしまった。
いくら『強制平等』で家バレは回避出来ても見られてるのがずっと続くのはかなり精神的に辛くなってきていた。
尾行する人間も男女問わず増えており、だんだん鬱陶しいと思っていた頃だった。
ケースを開くと鏡があり自分自身の顔を写していた。
「…こうか」
鏡を少しだけ傾けると、自分の後ろにある部屋のドアがくっきりと写っていた。
「なるほど、便利だな。ありがとう」
「むふふぅん。お姉ちゃんに感謝を「姉ちゃんの事務所はこういう対策徹底してるんだな」……」
「…ん?」
「なんで…」
「いや、そんな利口な事を姉ちゃんが思いつくわけないから」
「………私が提案したかも「姉ちゃん化粧しないじゃん。鏡なんて使わないでしょ」……」
「………」
「………」
「……むきゃーーー」
雪華が雪兎に飛び掛かって両の拳で頭をグリグリし始めた。
「そこは素直に褒めとくの。気持ちいい顔をさせるのドヤ顔したいの」
「そんなん知らんわ!あたかも自分発祥みたいなしょうもない嘘松するからじゃん」
雪兎のど正論、だが雪華には届かない。
「君が、褒めるまで、グリグリするのを止めない!」
「あ、ちょっ、それ以上はーーー。ぐぁーーーーーー」
神坂姉弟は仲が良い。
「『頭上注意』。神社の方からか」
おそらく東京競馬場と神社の導線に隕石を集中的に落としている。
さっきまでの東京競馬場に行かせない隕石ではなく自分のところに近寄らせない配置の隕石。
こちらの予想通りの動きだ。
バレる前提になることまでは読めていてもそこからどう動くかが分からない。
神岐の方に向かうのか味方との合流に向かうのか留まるのかそれ以外の選択肢か……
「だが既に甲州街道の導線には人を配置している」
神岐が府中に来て最初に『認識誘導』を使っていた鬼束達を探す要員が府中の至る所にいた。そいつらに指示を出して動かしている。
今は設楽柚乃に操作権限があり彼が催眠人間の位置、定期報告、凡その牧村の位置から牧村包囲網を着々と形成していた。
隕石が落下しているから下手に近付けないが甲州街道への導線は塞いでいるので隕石のドタバタで包囲を抜けられる心配はなくなった。
「さて、向こうがどう動いてくるかだな」
♢♢♢
「comcomの超能力さえ何とかすれば良い。隕石を落としてこっちまで来れなくすれば良い。暁美達のおかげでcomcomが競馬場内にいるのが知れたのが幸いだ」
四方八方に隕石を落とすと牧村自身が身動きが取れなくなる。
だが一方向であれば別の方向から逃げることが出来る。
ブーン、ブーン、ブーン
牧村のスマートフォンからだ。
ピッ
「はい」
「牧村さん、知覧です」
「おぉ知覧。今どこだ」
「朝霞台です。これから武蔵野線に乗り換えて向かいますが、かなり遅延していていつ着けるか分からないですね」
「悪かったな。俺のせいだ」
「二駅ぐらいまで近付いたら歩きで移動します。直しながらならそっちでもいいかなと」
「分かった。道中に雪走がいるはずだから見つけたら回収しといてくれ」
「雪走さん…ですか。いますかね?」
知覧も牧村も雪走の落ち着きのなさは十分知っている。
「いるさ。業君の仲間が府中にいる。接敵してるかは分からないが、戦闘場所が移動していないなら必ずいるはずだ」
「分かりました。着いたら一応電話してみます。comcomについてはどうなっていますか?生捕り?するつもりだと月董さんが言ってましたけど」
「本来ならそのつもりだったけど正直厳しいな。今は身動きが取れない。隕石落として時間を稼いでる状況だ」
「…もっと応援を呼びますか?」
「いや、結局俺と同じ状態が量産されるだけだな。お前が動きやすいようにcomcomはどうにかしないといけないし…、業君探しは置いといてまずはcomcomに注力すべきかな」
「では雪走さんと合流を?」
「あぁ、相手が超能力者だとしても雪走なら何とかするだろう。ハメ技でもない限りあいつは止まらない。俺が来たら水を差されたと言い出しそうだが…」
お前は楽しく隕石落としてずりぃよぉ、と言いそうだ。
「分かりました。何かあれば私に電話してください」
「あぁ」
ピッ
スマホの通話をOFFにする。
「……………見られてる…か?」
デジャヴだなと少し口角が上がる。
(comcomの追っ手に見つかったか?既にこちら側にいた人間だな。だとしたらそこまで多くはないはずだ。隕石が落ちるまでまだラグがある。落とし終わらないと次の隕石を落とせない。強引に突破して雪走と合流するか…)
近くにいて探しているだけで見つかったかは分からない。だが当たりは付けられている。もうここでじっとするのは得策ではない。
動き出す必要がある。どう動くかで結果が変わる。
「雪走と合流するのを防ぎたいなら、敢えて導線上に落とす。死ねば操り人形は動かせないだろう」
超能力の操作系能力の性質上、人間を操る能力は死者には適応されない。人間をどうこうする能力は生物以外には適応されない事が多い。人間ではない動物については能力によって適応非適応が分かれる。
(comcomの超能力は死人には効かない。効くのならそれはそれで驚異だが超能力を裸に出来たことになる)
もうじき隕石が衝突する。
♢♢♢
「よう、超能力者。その力を授けたやつはどこにいる。俺達はそいつに用がある」
血が付着したドライバーを投げ捨てたいが敵は操作系能力者。回転するドライバーで攻撃されたら雪走と言えど重傷は免れない。
加えて雪走は武器と言える武器を携帯していない。タイヤを使ってアレコレしようと画策していたが炙り出しのために準備した物を放棄して近距離戦をする羽目になった。
市丸はジュクジュクと飛び出す出血部を右手で抑えながら呼吸をゆっくり整える。
答えるつもりはないが答えられる状態ではない。体に穴が開いているのだ。痛みも尋常ではないし穴が空いたことを想像するだけで気分が悪くなる。
「ハァ、ハァ……」
「答えたくないか。ご立派」
雪走は盛大に勘違いしているが、元より馬鹿正直に喋るとも思っていないので結果は変わらなかった。
「おい、答えたくないならもっとせめてもっと楽しませろよ!」
雪走は痛みで座り込んでいる市丸を『我が道を行く』で強化した足で蹴飛ばす。
ゴッ
「ぐっ…!」
咄嗟に体を丸めてガードした市丸だったが強化された蹴りは市丸を用意に浮かすことが出来た。
バスケットボールを蹴ったような、飛ばすには飛ばせるがサッカーボールほどは飛ばせないくらい。そんな具合に程良く市丸が蹴飛ばされた。
痛みで受け身も取れない。モロにアスファルトに激突した。
穴の空いた肩を重点的にしていたため右腕はアスファルトで擦れて皮膚が剥げている。
浅い切り傷、服のほつれが多くなった。
もうボロボロだ。雪走のテンションは激下がりした。
「操作系能力…お前の場合は物体操作か。縦横無尽に動かすには相応の集中力が必要だ。だがそんなにボロボロならせいぜい一方向に飛ばすくらいだろ。あぁ無常。業君から『超常の扉』で超能力を貰っといてこの体たらくかよ。業君も人選ミスってんなー」
貴重な超能力を上手く使いこなせないガキに授けたのかとがっかりする雪走。
どういう基準で選んだのかは知らないが、自分達と敵対するための仲間を募るのならもっと即戦力になり得る人選をするべきだったのだ。
(業君は超能力が願望や環境で左右されるのを知ってるはずだよな?物体操作、しかも1つしか操らないなんて…、舐めてるのか未熟なのか…)
最初から超能力を使いこなせる人間はいないだろう。
能力の系統を合わせることはできない。
筋肉隆々なアスリートでも得られた能力は筋肉に全く関係がなかったりだ。
「ハァ、ハァ……、ハァ…」
市丸は痛みに耐え呼吸を整えることで精一杯だ。
(…絶対に、気を失うわけにはいかない。実録が来るまで時間を……)「ぐぇぃっ!!?」
市丸の後ろの襟を掴み上げる雪走。
「お前が喋らないならそれで良い。もう1人に聞けば済む話だ。あそこに浮いている釘はお前ではない操作系能力者によるものだな。似た能力ってことは兄弟か?」
血縁が近いと同じ系統の超能力になる場合がある。
これだけ痛め付けても甲州街道に浮いている釘が雪走に来ることはない。
タイマーで発射されるのか目の前の男がトリガーになって発射されるのかは分からないが、既にいなくなったあの男がいなくてもまだ武器としての危険性はあるようだ。
(タイマーであるならば方向を後から変換するのは難しいだろう。ならばこの男が合図のようなものを出して…って感じか。直接連絡して合図かスイッチのような物で手動点火か…)
少なくともこの男をずっと同じ場所に居させるのは危険だと雪走は判断した。
(典型的な遠距離タイプ。陰でシコシコ策を弄してたんだろうな。ならば無理やり移動させて仕込みをチャラにしてしまえば良い。釘の真下、今いるこの脇道、俺のいた場所、逃げた奴の行き先以外にこいつを運ぶ。俺とてタイヤ遊び出来なくなったんだ。お前の遊び道具も奪ってやるよ)
幼児ほどの体重であれば服を掴み上げることは可能だ。サラリーマンのワイシャツを掴み上げて持ち運ぶなんて芸当は出来ないだろう。
しかし、それが出来るのが超能力。
甲州街道をさらに西へ。こちら側には誰もいない。
奴らがいた北側でも、自分が監視していた東側でも、逃走者がいる南側でもない誰も関係がない西側。
ここであれば、事前に攻撃を仕込むことは出来ない。
西側に移動すれば仮に追尾のような攻撃を事前に仕込まれていたとしてもそれらは東側から来ることになる。あの場に留まっていれば全方位を警戒しなければならなかった。意識を一方向に絞ってより攻撃を喰らうリスクを下げたのだ。
「甲州街道から見通しが良いからお前の仲間や業君が見つけやすいからな」
ポイっと掴み上げていた市丸をアスファルトに放る。
ぐっ!という呻き声を上げた市丸だったが、さっきよりは呼吸は落ち着いている。
痛みがあることを当たり前に体が錯覚して多少の痛みが感じられなくなったのだろう。さっきよりはマシな会話が出来そうだ。
この雪走の移動行動。実録にとっては最悪の手に近いものであった。
実録は今、雪走から見て東側、つまり雪走がまさに警戒している場所にいるのだ。
(敵が道路に出てきたはいいが、こっちを警戒していて動けばすぐに見つかる)
実録は車の陰に隠れて雪走に見つからないようにしていた。
ここから甲州街道を迂回して雪走の方に向かいたいが甲州街道のど真ん中にいるため移動すればすぐに雪走に見つかってしまう位置だった。
「くそっ、最悪だ。どうにか奴の注意を引いて移動しないと。動けず無駄に時間を浪費することになる!」
♢♢♢
小国魂神社と東京競馬場の間に隕石が3つ落ちた。
凄まじい爆音は戦闘中の市丸、雪走、潜伏中の実録、近くまで移動している丹愛にまで届いた。
勿論、隕石を落とした目的である人物にも……
「3回目…、聞こえたか?ちょっと病み上がりの耳には辛いか?」
「………あぁ、聞こえてるよクソッ!」
男が悪態をつくのも無理はない。
神岐の『認識誘導』攻略のために自ら鼓膜を潰したのにまさか鼓膜を治療されてしまったのだから。
命がけの作戦を無に帰される行い。屈辱以外の何者でもない所業だ。
「まずはありがとうと言って欲しいねぇ」
神岐からしたら治療不可能な部位を治したのだ。まずは感謝をされて然るべきだと、傲慢な野郎だ。
「…そこの女性の能力だろ?そしてお前に操られている。せめて感謝するならその女性にだ。お前にはせん!」
もうこのシチュエーションでは詰んでいる。自棄にも似た砕けた口調になる。気を張る必要がなくなったとも言うべきか。
「……まぁ良い。感謝代わりに働いてもらうぞ鬼束零」
「俺はドクターの場所も知らないし時雨ちゃんの場所は予想でしかない」
「……ん?あぁ、そっちはもうどうでも良い。設楽からの報告で既に2人とも見つけている。っても逃げられたらしいがな」
「!ドクターと時雨ちゃんは合流出来たのか!無事なんだな!」
「あぁ、俺としてはさっさとコンタクトを取りたいが、お前がスマホを破壊したせいで連絡が取れん。だが『認識誘導』でお前の記憶から電話番号を引っ張れば俺のスマホから掛けられるしな。そっちはもう緊急性がないから問題ない」
ドクターへの面会チケット。神岐の府中でも1番の目的はほぼ達したと言っても良い。ならば今の最優先事項は牧村、雪走への対処だ。
「俺の仕事……と言っても『隠れ鬼』は既に切れているぞ」
「いや、敵の居場所、お前の弟達の居場所は特定している。敵の1人が隕石を使って上手く逃げやがるからそれの追跡だ。1回でも顔を見れば千里眼で追えるんだろ?」
「あぁ、よく分かってるな。というかさっきの爆音は隕石かよ。弟達は無事なんだろうな?」
「東京競馬場に近付かない限りは大丈夫だろ。丹愛が府中本町駅に向かってるみたいだから牧村に近付きそうだな。牧村の移動方向次第では正面から鉢合わせるかもな」
「おい、そうなった時は…」
「焦るな零。設楽もそれを把握してるはずだから鉢合わせにはならんだろう。だが牧村がどこまで抵抗するかで大きく話は変わるかもしれないが…。こればかりはどうしようもないな。こらこら立ち上がるな、俺との戦いからもうボロボロだろ?」
弟の危機にすぐに向かおうとした零だったが、思うように足に力が入らず立ち上がれなかった。
「だが市丸達が危ないんだから俺がここで止まるわけにはいかない!」
「結構結構。だが立てもしない奴に何が出来る。無駄に敵の人質になるんじゃあない。お前は黙って『隠れ鬼』とやらだけ行使すりゃいいんだよ」
「ギッ…」
「……さて、催眠人間、鬼束兄弟、牧村に雪走、そして競馬場にいる俺達…」
(催眠人間をぶちこんで市丸と丹愛を助けるのは簡単だが、実録や零が見せた精神力を見せてもらわないと、というか見たい。奴らの助けになり過ぎずこの場を収めるには………)
♢♢♢
(視線が強くなった。数というより1つ当たりの濃さが増した。完全に捕捉されたな。どこで勘付かれた……?)
先程よりもじっとりした視線が強くなった。多くなったのではなく強くなったというところに奇妙さを感じていた。
(電話の内容を聞かれていた?comcomって言ったかもしれないがだとしても見つかっていないのに電話でバレるなんて……、まさか電波を読み取る能力者がいる!?)
この現代社会において、電波を傍受できる能力は強力だ。
テクノロジーが進めば進むほど電波は切っても切れない関係になる。
そう言った生活と密接に関わりのあるものに影響する超能力はそれだけで強い。
正しく、『認識誘導』が映像越しでも能力を発動できるように…。
もしも、神岐が能力を得たのが戦前戦中であれば、『認識誘導』は本領を発揮出来なかっただろう。テレビが発明されて映像を大衆に届けられるようになり、インターネットによって個人が映像を発信できるような世界になったからこそ『認識誘導』は強力な能力になったと言える。
(向こうの超能力者は『超常の扉』の数的に最低でも5人以上はいるはず…)
神岐の『認識誘導』を強く警戒しているが、他の超能力者の可能性も考慮しなければならない。
(業君の仲間がどれだけ、そしてどこにいるかも分からない。この視線軍の中にいるかもしれない)
ジリッ
同時に全方位から聞こえてきた。
(comcomが指揮してんのか。全員が同時に動き出した。大した統率能力だ。ここまで足音が聞こえてくるなんて)
まだ距離はあるはずなのに足音の合唱は牧村の耳までその音色を届けることが出来た。
居場所はバレており行動をしなければならない。
(ここで隕石を落とせば、じゃない場所ってヒントを与えることになる。ブラフで落としたいがタイムラグがある以上ここで無駄撃ちは出来ない。せいぜいが1個。ならば…)
催眠人間が気付いたのは、牧村が電話の中で話した『comcom』という単語が『認識誘導』の言葉検索に引っかかったからだ。
府中で最初に『認識誘導』で設定したルールが牧村の特定に繋がった。
だが距離が離れていて電話の声が聞こえるものなのか?
簡単だ。催眠人間は鬼束探しのために『認識誘導』で五感が研ぎ澄まされている。1キロ先の針が落ちる音…なんてのは無理だが、100メートル圏内の電話の声ぐらいなら聞こえる。
耳の極度の酷使で『認識誘導』から解放された時、聴覚がマトモに機能するかは知ったことではないが……
ザクッザザッザッザッザッザッザッザッ
足音は乱れず、しかし音のテンポはどんどん上がっていく。
それが全方位にテンポと共に音量が上がっている。
クレッシェンドか…と頭の中によぎりはしたがそれだけ牧村の身の危険が増しているということだ。
「重い腰を上げる。いや、重い腰を上げさせられた。誰かに都合よく動かされるってのは、気分が悪いな」
牧村も草木と建物に挟まれて意図して顔を覗かせないと見つからない場所に隠れていた。
しかし、明らかにこの場所に向かって近付いている集団から逃れるため、潜伏場所から体を出した。
誰にも見つからない場所にいたからこそ、逆に敵の場所が分からない。分かるのは近付かれていることのみ。
(建物が邪魔で建物の向こうから来るのかが分からん!だが…)
牧村はある道具を取り出して自身の右腕に装着した。
「『頭上注意』。強い意味はないが弱い意味がある一発。そして……」
牧村は北西の方向に走り出した。
牧村はようやく周囲の全貌を視認することが出来た。
(北西、南東、その他で3:1.5:1ってところか。雪走との合流の阻止と東京競馬場側からの増援と考えれば比率の説明が付く。隕石を落としてなければ1.5が2になってたかもな。こちらの行動が読まれている。comcomから離れるってだけでも3方向まで絞れるんだ。だが裏を返せば雪走は北西にいるということでもある。合流させまいとしているということは雪走はまだ潰されていないということだ)
雪走が既に戦闘不能であるのなら牧村の動きを縛る必要がない。牧村には目的地がないからだ。しかしまだ雪走は無事だ。同じようにcomcomの超能力で数の暴力を仕掛けていると見ていたが…。
(雪走であれば『我が道を行く』で疲れなんてないに等しいからほぼ無限に動けるはず。それでも数の暴力でいずれは限界が来る。しかし雪走にそれを行っていない。操っている人間が思いの外少ないから合流阻止に全振りしているのか…。それとも同時に叩くよりこちらの方が効率が良いとの見方なのか…)
右手を強く握る。
ギギギギと機械音が鳴るがこの音は故障ではなく正常動作の音だ。
(業君は電気の圧縮、雪走は脳の活性に伴う肉体の変化、そして俺は…)
ドクターとは反対。圧縮、つまりまとめる力に対して広がる力。拡散・発散。
牧村の担当は『超常の扉』から発せられた電気の拡散方向をコントロールして脳にダイレクトに電撃を与えられるようにする研究だ。
右手に装着した道具は拡散の方向をコントロールする物だ。幅広く拡散させることも出来れば一方向に限定して一直線の力を飛ばすことができる。
何を…であるが、様々な物に適用できるが、主な使い道は空気である。
どこぞの猫型ロボットや超有名な博士御用達の武器。
『空気砲』である。
牧村は空気砲を周囲の地面に向けて発射した。
上に掲げた右手に空気が集まって行き、そして右手から全方位の地面に向かって放たれる。
小国魂神社の地面は砂利や石で形成されている。砂利には砂も含まれており参拝客の靴に着いた泥、食べかす、投棄されたゴミなど多岐に渡る。
そんな多種多様な物が落ちている地面に強風をぶつけると、砂利であろうと宙を舞うだろう。砂利よりも軽い砂や泥はなおのこと。
牧村の周囲にベールのような薄い層が形成された。鉄のカーテンならぬ砂利のカーテン。
砂利のカーテンは催眠人間から牧村を守った。
半径5メートルのカーテンは視界を遮ってカーテンの内側を正しくカーテンの要領で見えなくして、カーテンからは砂利の散弾が飛び出す。そして牧村が動けばカーテンも動き出す。カーテンの通り道には砂埃が舞い、これもまた視界を遮る要因となる。
催眠人間達は散弾程度で止まるほど簡単な存在ではない。痛覚がないのだからその程度で止まるはずがない。
しかし舞う砂埃が目に入れば反射で涙が出て視界が悪くなる。
催眠人間と言えど腕で顔を隠して散弾や砂埃から目を守る必要ができた。
催眠人間からは牧村は見えていない。
なんとかカーテンの内側に入ろうと牧村に向かって進んで行く。
「って考えるんだろうな。ふぅ、服が汚れるからあんまり使いたくはなかったんだがな」
牧村は、カーテンの外にいた。
カーテンを展開し終え、北西に移動中にカーテンが建物に入るタイミングを待っていた。
建物には砂利はない。つまりこの空気砲は人工物に弱い。
人工物にぶつかると何も吹き飛ばせずそこにはカーテンは作られなくなる。
その隙間に飛び込んで牧村は自らのカーテンから脱出した。
砂利のカーテンは牧村が脱出するまでの動きを続けて北西へと続いていく。
牧村の右腕の道具によって空気の流れが固定化されたことで、道具がなくてもしばらくは砂利のカーテンが作られ続けている。
(しばらくはじっとしよう。周囲は砂利で、歩けば音でバレる。操り人形がカーテン側に吸い寄せられるのを見届けから移動する)
このままカーテン中で北西に向かっても結局一斉にカーテンの中に突入されたら終わりだ。
彼らには痛覚がない。躊躇わせるのが主なのにその躊躇いがないのだから砂利のカーテンはせいぜいが目眩し程度でしかない。
(しかし、奴らは俺が外に出るという選択肢がないんだろうな。comcomが見ていればその考えに至るだろうが所詮は操り人形、想像の範囲外には対処できない)
鬼束零戦で水に落ちる音を聞いて催眠人間達が川に飛び込んだように、催眠人間と言えど人間なため先入観に囚われることがある。
敵が見えない時の動きが酷く脆く一歩立ち止まって考えることがない。
それは命令に忠実だからであり欠点とも言えない。
これが催眠人間でなくても引っかかったであろうからだ。
催眠人間達は砂利のカーテン側に集まっていく。
(北西は目に見えている数以上に導線に人が集中しているはず。同じ手は使えない。遠回りになるが大回りして甲州街道を目指すか)
牧村は神社を抜けたら府中街道を北上することを考えたがそれは難しいと判断して府中本町駅から武蔵野線の西側を経由して北上することにした。
こちらであれば大通りは少なく線路の反対側だから人の配備は府中街道ほど行き届いていないとの判断だ。
そして、牧村が目指そうとしている府中本町駅には……
♢♢♢
「行くぞ、仕込みは終わりだ」
「……恐ろしいな、お前」
「動けるようにしてやったんだ。今度は俺に感謝しろよ」
「……ふん」
「素直じゃないな。実録そっくりだぞそのリアクション」
電話の時の実録が思い出される。
「それで、牧村って隕石能力者をどうにかするんだろ?」
「あぁ、また隕石を落とした。方向と距離的に小国魂神社内だな。自ら隠れていた場所に落としたってことは動き出したってことだろ。導線は固めてるから動きは制限されるはずだ。設楽が抑え込めればそれで良いし、逃げられたとしても逃げる方向は絞られる。そっちに向かうぞ。さっきの3つの隕石は道路に落ちたはず。競馬場から北西へ向かう通り道に隕石を落としてるから車は使えない。競馬場から府中本町駅への通り道があるはずだからそこを通って府中本町駅に向かう」
「分かった。……待ってろよ丹愛…」
神岐がついに動き出す。
現在の状況
神岐義晴
東京競馬場から府中本町駅へ向かう
設楽柚乃
催眠人間を動かして牧村を追跡
牧村桃秀
小国魂神社から府中本町駅へ向かう
雪走一真
鬼束市丸と戦闘中。市丸を餌に敵を探索中
鬼束市丸
雪走の攻撃で悶絶中
鬼束丹愛
府中本町駅へ移動中
鬼束実録
甲州街道で身動きが取れず身を隠している
鬼束零
神岐と行動を共にする
まずは前哨戦
設楽vs牧村
上手く牧村に逃げられたみたいですね
しかし神岐も逃げられたことを想定して逃走先に先回りするみたいですね
そしてその先回り先には鬼束丹愛が向かっている
府中本町駅で決着が着きそうですね
東京競馬場が最終地点になると言いながら競馬場で戦闘はなさそうですね。全然最終地点じゃないじゃんかよぉ!嘘ばっか!
そして雪走戦
市丸も実録も動けず
ここからどう逆転するのでしょうか?
ほぼ詰んでますんでね
しかも雪走には超能力以外に研究テーマを基にした戦い方があるわけですから
超能力バトルなのに結局ゴリラが勝つとは、やはり超能力には限界があり万能には程遠い代物ですね
鬼束零復活
零の決死の作戦で神岐が諦める展開にするつもりがヒーラーの能登八散が府中に来たことでご破綻となりました
能登八散が来なければ零の作戦勝ちだったのでつくづくのの達は悪手ばかり取ってますね
さて、次回も府中動乱
vs牧村、vs雪走です
次回で決着するかは分かりません
知覧が府中に来る頃には全てが終わっているのでこれ以上の登場人物は現れないです
…………たぶん




