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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
103/165

第103話 府中動乱⑲

 8月6日

 東京競馬場


(尾けられてるな…)

 競馬場に入れないことが分かった神坂が踵を返した時、何かが咄嗟に隠れた。

 目を凝らそうとしたが気付いたことを悟らせないために気付いていない振りをすることにした。

(いつからだ?立川から?府中に来た時?あの仮面を拾った時か。あれは罠?確かに気味の悪い仮面を拾って持ち続けてるのは明らかにおかしい奴だが…)

 おそらく、神坂からは見えない場所に身を潜めている。

 神坂の『強制平等(イコール)』は相手を見ないと発動しない。一瞬過ぎて相手の姿を確認できなかったためまだ『強制平等(イコール)』に掛かっていない。

(ただの白髪を見てる物好きかもしれないしな。とりあえず何者かぐらいは確認するか)

 神坂はポケットの中からとあるケースを取り出した。

 なんて事はない。逃げの技術を攻撃に使うだけだ。

 8月5日

 東京競馬場


「暁美〜、奏音〜」

 離陸しようとプロペラの回転速度を上げ始めようとした津空であったが、暁美と奏音を呼ぶ声を聞いてその作業を止めた。

「!義晴様!」「神岐!」

 2人が声の主に返事をした。

(あれが神岐、義晴…。お嬢様の好いている人物でありここから逃がそうとしていた奴か…)


「すまない。遅くなった」

「いいえ、元を正せば私が勝手な事をしたせいです」

「ごめんなさい神岐。あんたが色々頑張ってくれたんでしょ?ありがとね」

「いや、いいんだ。こうしてヘリコプターで脱出できるんだし。隕石がまた降ってくるかもしれない」

((……))

 この発言でやはり何者かが人為的に隕石を落としているのだと2人は確信した。

 そしてその異常を神岐は受け入れている。つまり神岐も異常側ということに。


「神岐様」

 ヘリコプターのそばで旗を持ってヘリを誘導していた設楽柚乃が主人である神岐に進言する。

「申し訳ございません。勘付かれてしまいました」

「!…まぁ、こんなだしな」

 催眠人間には超能力を話させないようにしていたがどうやら喋らせなくても状況証拠だけで真実に辿り着いてしまった。

「2人とも。知ってしまったのなら尚の事、ここから早く去るんだ」

「よ、義晴様は?一緒に行かないんですか?」

「いや、俺にはまだここに残ってやる事がある」

「……人探しって奴?そいつはホントにここにいるの?もしかして、元凶?」

「…終わったら全部話すよ。だから今は俺に構わずここから離れてくれ。運転手さん」

「…なんだ?」

「私は2人の友人の神岐義晴と言います。お願いになるのですが、ヘリコプターは海を経由して移動して着陸場所は私有地以外にして下さい。着陸後は車を可能なだけ用意して行き先を撹乱してください」

「何故そんな手間を…?」

「ヘリコプターが追跡される恐れがあります。2人に危害が及ぶかもしれません。手間ですが暁美達の安全を思えば安い出費です」

 ザザッ

 ヘリコプターの無線からだ。

『神岐君、君の言う通りにする。それで暁美様、奏音様が無事になるなら構わない』

 どうやら、神岐が来た時に無線を通話状態にして相手に聴こえるようにしていたようだ。

(ちっ、ここにいる奴だけなら記憶改変出来るが、この会話も録音されてるなら全部を消すのは厳しいな)

 超能力に関する事、今日府中で起こった全てを忘れてもらう算段だったが不可能になった。

(超能力(アビル)も知られちまったみたいだしどうすっかな。知らないままだとヤバいし今後狙われないとも限らないから自衛のために知っておく必要はありそうだ。後は、宗麻もか。俺がcomcomと知っているのなら宗麻の存在も知られてると見ていい。元よりあいつにはいずれは話したいと思っていたから良いきっかけだと思えば良いか…)


 隠し切れないなら知った上で…

「…2人とも、そして運転手に無線の向こう側の人達も。今日府中で起こった事は絶対に他言しないでください。調べる事もしないでください。おそらく命を狙われます」

「「「!!!」」」

「今日の動乱…、府中動乱は最低でも3組が関わっています。今日府中で起こった事は全て隠蔽されます。そんな中で府中動乱を嗅ぎ回ったら、敵扱いされます」

『……何も話さなかったところで安全ではないのだろう』

「えぇ、そもそも暁美達がさっさと電車で逃げてればこうはなっていないですけどね」

「……」

 神岐のためを思っての行動だったが、本人から言われるとグサっと心に刺さってしまう。

『…分かった。君はこうして暁美お嬢様達をここまで誘導してくれたんだ。平原家当主に代わって私が謝辞を申し上げます。あなたはこの府中動乱に関係していると見ました。そのあなたが喋るな調べるなと言うのならそれに従います。津空も暁美様奏音様もよろしいですね』

「暁美、奏音。ここで知った事全てだ。分かったな?」

(超能力のことも喋るなってことね。まぁ言ったところで信じてもらえないだろうし言わないわよ)

「えぇ分かったわ」

(………)

「はい、分かりました」

「ありがとう。無賃乗車疑惑は解消しといたからそこは気にしなくて良い。津空さんとやら、出発してください」

「は、はい。……無賃乗車?」

『暁美様、詳しく説明願えますかな?』

「あっ、えっ、その、えーーーと……」

「私から説明するわ。神岐、行っていいわ。全部片付けて来なさい」

 ヘリコプターの扉が閉じられる。中でどんな会話をしているかは神岐にはもう聞こえない。


 プロペラが回り始めた。


 ♢♢♢


 パパパパパパパパパパパパパ

 ヘリコプターが離陸し、東京競馬場を離れて行く。

 来る時は東京競馬場の北東から来たが、何故か離陸したヘリコプターは進路を南に変えていた。

(おそらくcomcomが進路を変えるように指示を出したな。海を経由して追跡されないようにか…)

 神奈川県側から太平洋に出て海越しに千葉県側に入って知り合いを降ろす算段だろう。ヘリコプターを追跡されて自分達に狙われないように。

(徹底してるな。ただの能力にかまけた愚鈍ではないみたいだ。強い…)

 こういう敵とはあまり戦いたくない。が、間違いなくcomcomは自分を追ってくるはずだ。

 南から逃げたのは隕石の影響を少しでも受けないようにするため。つまり、ある程度の位置が神岐にはバレている。

(ある程度なのは奴の配下が来ていないから。『頭上注意(メテオライト・サテライト)』の射程範囲から大まかに居場所を捕捉してるってところか。ヘリコプターを安全に飛ばした以上、comcomは完全にフリーになった。ようやっと本腰を入れて攻めてくる!)

 業探しのためにはcomcomが邪魔だが下手に戦えば勝つ見込みはない。

 生け捕りマストである以上、拘束して真上に隕石を落として殺す戦法は使えない。


 業はまだ見つかっていない。奴の性格上この状況でも姿を見せないということは……

「そもそもいないのか?」

 いないならいないでここに滞在しなくても良い。業の仲間が府中にいるのは間違いないがその仲間を探すのですらやはりcomcomが障害になる。

「とにかく位置バレしてるなら移動した方が良いか。ギリギリの賭けだが俺の真上に落としていないアピールをしても良い」

頭上注意(メテオライト・サテライト)』の射程や墜落後の周囲への被害影響は理解している。しかしそれでも結局は今いる場所から移動しないといけない。

 移動せずに隕石を落とすと尚の事、居場所を知らせることになってしまう。

(移動にしたって正直詰みかけている。気付かれないように移動するとこの戦争地域でこそこそ動いている奴は間違いなくクロになる。かと言って逃げ惑う民衆に紛れて走って逃げても姿を見られているからすぐにcomcomに見つかってしまう。どっちに転んでも見つかることになる)

「…今いる場所から競馬場のトラックまでは…、届かないか」

 先手は打てない。正確な居場所は掴めない。見つかるのは必至。

 ならば……


「はぁ………、『頭上注意(メテオライト・サテライト)』」


 ♢♢♢


 パパパパパパパパパパパ

 ヘリコプターが東京競馬場から離れて行くのを神岐はじっと眺めていた。

 やがてヘリコプターは南の空へだんだんとその姿を小さく変えていった。

「……ここが一つのターニングポイントだ」

 暁美達の脱出。あの女どもを封じていたキーであり牧村の動きを抑制するピースでもあった。そして、神岐自身も行動のリソースを脱出に割かれておりやりたいことが出来なかった。

 だがそれが解決した。

 女共は残念なことに神岐が全員封じ込めた。牧村は近くに潜伏している。

 市丸と雪走が交戦中。実録もその現場に向かっている。丹愛は府中本町駅に向かっている。

 登場人物が減ったことで大分全体像がスッキリしてきた。

「こう見るとやっぱ牧村を止められるのは俺しかいないな。そのつもりだったしそれでも良いが…、奴の『頭上注意(メテオライト・サテライト)』はここまでは隕石を落とせないはず。なら丁度今やっておくことがある」

 平原達が東京競馬場にいたためやれなかったが、ここにいるのは自分と自分の能力下にある人間だけ、つまりここでやることは外には漏れない。

「おい、()()()を連れて…」

「既に連れて来ております」

 神岐が指示を出す前に、設楽は目的の人物の神岐の元まで運ぶように指示を出していたようだ。

「…お前、中々優秀だな。名前は?」

「設楽柚乃と申します」

「よし、設楽。次やるべきことはなんだ?」


 この問い。神岐の『認識誘導(ミスリード)』で操っているのだからただの自問自答になるが、神岐は『認識誘導(ミスリード)』で神岐への忠誠心は植え付けたが設楽本来の思考については操っていない。府中本町駅でメッセンジャー役に指名してから脱出までの護衛。ここまで神岐の期待通りに動いているのは本来の設楽のスペックの高さに起因している。指示を出すこともあれば逆に指示を仰がれることもあった。子供を操っていればここまでは動いてくれない。膨大な命令文を仕込まなければ設楽ほどは動いてくれない。

 護衛という広義な言葉をしっかりと解釈してその責務を果たした。これは中々に優秀だ。

 普通に仲良くしたい、なんて神岐が思ってしまうくらいには彼への期待値が上がってしまっていた。

 だからこその問い。神岐の次に府中動乱を把握していると言っていい彼がどう考えるのかを、神岐は知りたかった。


「彼を連れてくるように命じたということは神岐様は彼を尋問するのでしょう。しかし隕石能力者を見つけなければいずれここにも隕石を落とされかねません。ならば能力者探し、これが次やるべきことでしょう。府中中に散っている味方、そして是政駅から東京競馬場までの人間を総動員して能力者を探しましょう。大まかな居場所を教えていただければ我々で包囲します」

 神岐と概ね同意見だ。彼が知っている情報だけを総合すればこの解を出すのが模範解答だ。

「うん、そうだな。同意見だ。では隕石能力者、牧村はどう動くと思う?」

「そうですね。彼は小国魂神社で仮面の人間達を1人で倒していました。能力を抜きにしても単体の戦闘力は非常に高いです。しかし、私や神岐様に姿を見られているから動けば見つかります。ならば、見つかること前提の動きをするでしょう。居場所がバレても隕石を落とし続けて神岐様への牽制とドクター探しを行うのでしょうね」

「だな。暁美達がいたから落とす場所は絞ってたがそれも必要無くなった。俺との直接対決は回避しながらも俺へはちょこちょこ仕掛けている。逃げよりの攻め。設楽は知らないだろうが牧村の仲間の雪走ってやつが今鬼束市丸と戦っている。そっちへ合流されて市丸達が捕まるのも避けたい。雪走戦は手助けするつもりはないが加勢されるのは止めないとな」

 となれば合流阻止を優先させる必要がある。

「奴自身の隕石で合流しにくくなっている。が出来ないわけじゃない。奴は小国魂神社周辺にいる。まずは小国魂神社と雪走のいる甲州街道への動線を肉壁で封鎖する。封鎖してから競馬場にいる催眠人間でプレッシャーをかけて追い込んでいく。俺もこれが終わり次第牧村探しに参加する。設楽、陣頭指揮を頼みたい。お願い出来るか?」

 操っているのだから命令すれば良いのにお願いをしたところに神岐の設楽への印象の程が窺える。

「ご命令とあれば何でも致します」

「じゃあ、指揮は任せた。ベースは俺の指示で、細かいところは設楽が考えて指示を出せ。催眠人間へ指示を出せるスマホをお前に渡す。設楽から俺への連絡は俺のスマホに直接しろ」

「御意」

 神岐の指示用のスマホを受け取る設楽。

 同時に『認識誘導(ミスリード)』で自身の連絡先の情報を設楽に流し込む。


 催眠人間はスマホの指示に従うように誘導されている。指示の送り主までは見ていない。だからこそスマホを他人に渡してもそのスマホから指示を出せば神岐以外の人間であっても催眠人間には指示を出すことが可能なのだ。

 勿論そんなことをして悪用されれば最悪なことにもなりかねない。相当信頼していなければ出来ない芸当。それだけ信頼に値するということであり目的完遂のために猫の手も借りたいということでもある。

 設楽は東京競馬場の出口に向かいながらスマホでカタカタとフリック入力を始めた。


 さて、設楽に初動は任せて神岐には神岐でやるべきことがある。

 神岐が連れてこさせた人物。それは...

「は、報告では聞いていたが、ここまでやるかね普通。だが最も効果的な『認識誘導(ミスリード)』攻略方法の一つでもある。見事なり、鬼束零。兄弟の中でもお前の覚悟は別格だな。って褒めても()()()()()()()()()()()()()()


 鬼束零

 神岐が探しているドクターの仲間。

 是政橋で一戦交えて捕獲した男。

 是政駅側の催眠人間達が東京競馬場に移動する際に合わせて運搬させていた。

 いずれ東京競馬場に着いた時に尋問するために。

 しかし、催眠人間からの報告で耳から出血していると聞いていた。

 それは神岐が是政橋を離れてから捕まるまでの間で抵抗して負った負傷なのかと思ったが、擦り傷ばかりで出血が少ない中で明確に血が流れているのが耳の穴からと報告を受けた時、零の負傷の意味を理解した。

(奴はおそらく今このシチュエーション、俺が尋問することを見越して『認識誘導(ミスリード)』が効かないように聴覚を自分の手で奪ったのか…)

 自分で自分の五感の一つを奪るなど思わずすくんでしまうところだが彼はやってのけた。それだけドクターや萩原時雨の情報を漏らしたくなかったのだろう。

 例え『認識誘導(ミスリード)』で喋らされたとしても、それで仲間の誰も責めなかったとしても、零本人が自分を許せなかった。例え今後の一生で不自由な生活を送ることになろうとも、胸を張って生きていくために。


「俺には出来ない。守りたい相手もいないしこんな苦境に立たされることもない。強すぎるが故に、欠如している」

認識誘導(ミスリード)』を覚えてから困ったことはない。丹愛戦も舐めプだ。人助け事業をした時も超能力(アビル)で初回コールドゲーム、弱パンチ一発KOの世界だった。

 出来ないというよりすることがありえないから考えつかない。

 だからか、無意識にハンデを付けてしまう。つまらないから。改造ゲームで一時は快感を得ても結局残るのはつまらなさだけだ。普通にやっても改造していた快感ほどのスパイスは得られない。

「誰が好き好んで今更木を擦って火を点けてご飯を炊くんだよ。キャンパーくらいだっつの!」

 だからこそ耳から血を流しているこのキャンパーに敬意を感じている。

 凄いよお前、と。俺には出来ねーよ、と。賞賛しかない。


「………けど悪いな。お前のその覚悟。踏み躙らせてもらうぞ。能登ォ!!」

 神岐の元へ向かう人影が速度を上げた。

「……はい」

「こいつを治せ」

「承知しました」

 鬼束零の覚悟は、治癒能力者によって簡単に瓦解してしまった。

 あらかじめ確認していたが鼓膜の回復など普通に出来るそうだ。欠損とかでもなければ大抵は治せるらしい。

 能登の他にも久留間もいた。

 この2人を暁美達に説明するのも面倒だったのでトラックには出て来ないように伝えていた。ヘリが去ったのでこうして出て来た次第だ。

「さて、設楽が粗方指示を出して動き出したみたいだな」

 東京競馬場内にいた催眠人間が一斉に出口へと殺到している。

 西口出口と正面出口の二つへ人間が押し寄せている。

 と同時に府中の空にまたもや隕石が突如として出現した。

「3回目…、位置関係から2回目と変わらない距離感だな。やはり神社から半径数百メートルだな」

 3回目、いや、4回目で決着を付けたい。そう神岐は思いながら、能登八散の緑色のオーラで零の怪我が治っていくのをただじっと待っていたのだった。


 ♢♢♢


 空は共有財産だ。

 誰もが上を見上げれば同じ物を見ることが出来る。

 雲に飛行機に星座に太陽に月。

 昔から太陽を見て時間や居場所を確認していたように。

 月を眺めてウサギさんが餅つきしてるよーなどと言いながら団子を食べるように。

 テクノロジーが発達した現代においても空を見上げる人間は多い。

 空から得られる情報は多い。

 それは府中に降り注ぐ隕石然り、突如現れたと思ったらどこかへと飛び去って行ったヘリコプター然り………



 パパパパパパパパパパ

 ヘリコプターが飛び去っていくプロペラ音。

 鬼束丹愛は府中に落ちている隕石が府中にいる人間にしか見えない事に気付いていない。

 だからあのヘリコプターが隕石に気付いてレポートしているテレビ局のものだと判断した。

 しかしあまりにも短い滞在時間。東京競馬場に着陸したかと思えばすぐさま飛び去っていった。

「…マスゴミじゃない?」

 マスコミなら金と視聴率のために府中の惨劇をエンタメにするはず。何発も落ちる隕石を警戒するにしたって一度着陸する必要はない。ましてや来た方向とは全く違う方向に去って行っている。

「東京競馬場に何かあるのか…」

 丹愛が向かっている府中本町駅と東京競馬場は目と鼻の先にある。

 気になるところだがまずは時雨の保護が最優先だ。

 誰がヘリで来たのか。誰がヘリで去ったのか。

 時雨が『瞬間移動(テレポート)』を使えないからヘリで来たとも考えられる。ドクターが来たのなら合流しない手はないが、ドクターの敵が来たかもしれない。

 神岐が去って行った…は希望すぎる。

「誰かいる。おそらく敵…、なら後回しだ」

 神岐の追っ手が来る様子はない。

 おそらく見つかっているはず。結構動いているはずだが走りながら後ろを振り向いても追ってきている様子はなかった。

 相当の隠密だ。物理的に神岐に近付いているから催眠人間も大勢いるはず。1人ではなく分担して悟らせまいとしながら追っているのだ。

「……最悪時雨ちゃん合流まで泳がせて見つけてから一網打尽するつもりかもしれねぇ」

 と言っても神岐には絶対に勝てないことを丹愛は分かっている。

 俺達兄弟がどんなに足掻いたところで所詮は神岐の掌の上だ。

 零兄もやられて時雨ちゃんも危ない。

 何を選んでもこちらだけが得をし神岐が損をする方法が分からない。

(時雨ちゃんを逃がし、零兄を助けて俺達もドロンする……)

 一度戦っているからこそ分かる。無理だ。

 既に丹愛は神岐に勝つことを心の中で諦めてしまっている。

 それでも市丸や実録から託された使命は果たす。


 ♢♢♢


「はぁ、はぁ」

 鬼束市丸は痛みに耐えながら呼吸を整える。

「自分の武器で怪我しちゃ世話ねーよ少年」

 雪走一真も腕から血を流しているが市丸の方が重症だ。

 市丸の『色鬼(カラースナッチ)』でプラスドライバーを操作して雪走に攻撃を仕掛けた。

 雪走は『我が道を行く(アイムハイ)』で攻撃を躱しながら距離を詰めて行った。

 距離を詰められればドライバーで牽制。そんな応酬を1分以上繰り返していた。

 市丸の想定外は躱すだけでなくこちら側に近付いてくる奴の身体能力だ。

 神原奈津緒も躱しはしていたが躱すことで精一杯で市丸に近付くことは出来ていなかった。

 今回の武器はあの時のボールよりも速度が上がっているのに目の前の男は物ともしない。息一つ上がっていない。


 そして『色鬼(カラースナッチ)』の操作限界時間が近付いたことでプラスドライバーを手元に戻そうとした不自然な動きを雪走は見逃さなかった。

 ドライバーを手元に戻す行為は操作可能限界を相手に知らせることになる。

 ごく自然に次策を展開するにはドライバーをキャッチして次の武器を取り出さなくてはならない。

 放置でも良いが既にブルーシートと布団を放置している。奴に『触れることが発動条件』だと知られたくない。

 だからキャッチするためには、今の高速回転と高速移動を緩めなくてはならない。

 その不自然さが雪走を突き動かした。

 戻そうとする動作から自分が狙われていないことを察して『我が道を行く(アイムハイ)』で足に力を込めた。

 ボゴンと歩道にほんの少しのクレーターを作ると速度の遅くなったドライバーにも拮抗するほどの速度で市丸に向かって突っ込んだ。

(こいつ、あの一瞬で突っ込んでくるかよ!)

 地面が凹むほどの踏ん張り、成人男性だろうと容易に運んでくれるパワー。

 咄嗟に緩めたドライバーを再加速させる。

 だが、加速といえど勢いが0から100にはならない。

 落とした速度が戻る前に雪走はドライバーを追い抜いた。

(ギリギリか!?殴られる前に刺せる!)

 スピードが戻った。

 ドライバーの移動速度が雪走の移動速度を上回る。

(男の背後を一突きだ!)

 男は真横へ跳躍。踏ん張りで並行移動しているのも驚異的だが並行移動なら加速することはない。このまま突っ込まれても間に合うし一度地面に足を付けると速度は遅くなる。

 どっちにしろ刺すことは出来る。そう確信した。

 だがそれは誤りだった。


 クルッ

 雪走は体を半回転させた。

「なっ!」

「勝ちを感じたな?帰るまでが遠足だぜ!」

 体を捩ったがドライバーが雪走の腕を掠る。

「っ、んぉーん、やっぱ鈍ってるわ」

(だが…)

 体はまだ回転している。

 右腕を掠めたドライバーに腕を伸ばしてキャッチした。

(あの体勢から回転しているドライバーを掴むか!?いや、ほぼ同じ速度なら止まって見えるアレか…)


 相対性理論


 雪走にとっては近くで浮いているドライバーを取ったようなもの。

 腕を掠めたことでドライバーの速度が落ち、雪走の移動速度とシンクロした。

 正直腕を掠めていなくてもドライバーに手を伸ばして掴めたのでこれはやはり雪走の反射神経が落ちているという他ない。

 雪走は浮かんでいる。つまり『我が道を行く(アイムハイ)』を足に使っていない。

 背中の感覚を鋭敏にしてドライバーを察知したら体幹を強化して空中で体を回転。そして腕を強化して驚異的な速度で腕を伸ばしドライバーをキャッチ。

 一度に一つの部位しか強化出来ない制約上、適切に迅速に能力を掛ける箇所を切り替えていかなければならない。

 体感→右腕の間に反射神経を強化すべきだった。


 ドライバーを掴んだ。『我が道を行く(アイムハイ)』で右手の握力を強化。回転する余地を与えない。

 ドライバーの操作が切れる。市丸にとっては背後から一突きで終わるつもりだったため咄嗟に次の動作が取れなかった。

 はっとして次の武器を取り出そうとするよりも早く…


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 雪走のドライバーが市丸の左肩を貫いた。

 ドライバーの先端の尖り、雪走の移動速度、そして腕の力。人間の体に穴を開けるなど造作もないことだった。



「………こんなもんか」

 雪走としては興醒めだ。

 久しぶりの対能力者戦。ワクワクだったが一撃でのたうち回るなんて想定外。

「まだまだ発展途上だな……」

(やっぱ牧村の方行くか……。あーでも捕縛もあるしなぁ〜。もっと増援が来れば自由に動けるのに)


 ♢♢♢


「もう、すぐっ!」

 25メートル進んで車がすぐそこまで来ていた。

 ドクターの読み通り電車内を確認する者と電車から脱出済みであることを想定して線路を走り続ける者に分かれた。

 電車の走っていない線路。電車から生きて脱出しているのはドクターと萩原時雨のみ。

 ブォォォーーーン

 アクセルをより噴かせて速度を上げる。

(やっばい。ギリ間に合わん)

 28メートル。車がドクターが置いた緑色の玉に到達するまで後数秒。

 車の運転手はじっと線路を移動する男しか見えていない。

 例え線路上に落ちている緑色の玉に気付いたとしても気にする事なく走り続けることだろう。

 29.5メートル。

 車のタイヤが、緑色の玉を轢いた。


 パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン

 強烈な破裂音と共に、緑色の玉から無数の剣山が飛び出した。

 緑色の玉を轢いた車は串刺しになって運転手は即死。剣山は止まることなく伸び続け、後続車両にも突き刺さり続けた。

 緑色の玉は地面にも刺さったことでその場に止まっているため、車を刺した時に反作用で飛ぶことはなかった。


 半径30メートル。

 前後左右上下に30メートルもの棘が飛び出した。

 フェンスの先には民家がある。

 30メートルもあれば民家にまで容易に到達する。

 腕や足に刺さった者は助かったが内臓や心臓、頭部に刺さった者は死亡した。

 この緑色の玉だけで最低でも10名以上が死亡した。

 そしてこの凄惨な攻撃を仕掛けたドクターも……


「ぐっ!。ギリギリ間に合わなかったか…」

 剣山の伸びる速度は遠くなればなるほど遅くなる。

 ギリギリ30メートル地点にいたドクターの体は30メートル伸び切る前に射程範囲の外に出ることが出来たため死ぬことはなかった。

 しかし、背中は射程範囲内にいたため背中に剣山が刺さってしまった。

 と言ってもミリ程度でいるため内臓は無事だった。

 白衣の背中は穴だらけになってじんわりと出血している。


「……鍼だと思えばいいか…」

 緑玉の棘は地面にも突き刺さっている。半径30メートルも地中に突き刺さっていれば抜くことなどまず出来ない。

 棘が侵入を阻むバリアーの役割も果たしていた。

 これで線路上から追われることはない。

 そして線路以外から追っている様子はない。


 ドクターは踏切に到達して南に進路を変えた。

 踏切には事故の現場を見ようと野次馬が群がっていたが撮り鉄よりはマナーがあるようであくまで道路上に留まって線路内には侵入していなかった。

「あ、あんた、背中、酷い怪我だ。大丈夫かい?」

 野次馬の1人だったお爺さんに心配そうに声をかけられる。

「…大丈夫。私は医者です。それよりこの子の方が心配です」

「そ、そうか。すまんの足止めして。駅の方に病院があったな。そこまで案内しよう」

「お気遣い痛み入りますが問題ありません。私は問題なく歩けるので、タクシーでも捕まえて行きますので」

 そう言ってドクターは踏切を後にした。


「白衣さまさまだな。さて、なるべく離れたいが徒歩ではキツいな。タクシーでも捕まえたいがあまり姿を見られたくない」

 時雨を逃がす手っ取り早い方法は『瞬間移動(テレポート)』でどこか遠くに飛んでもらうことだが電車で逃げていたということは彼女は現在能力を使えない。

(丹愛の暴走がトラウマになっているんだったな)

 ケアをしたいがそれも彼女が目を覚まさないことには始まらない。

 彼女が目を覚ますまでの時間を逃げ続けなければならない。

「線路が封鎖されたから四方八方で探し始める。どうにか撒かないと」

 地名は知っていても来たことはない。

 どこに何があるかは分からない。

 神岐の手下が次どう動くかも予想が付かない。

 人混みに紛れ込みたいがこの様相では職質されて余計面倒なことになる。かと言って人目につかない場所では見つかった場合に逃げ切れない。

 道具も手持ち分しかない。緑玉は強力だがそこにいたことを知らせることにもつながる。

(非対面式のラブホにでも入ってやり過ごしたいが子供連れはレッドカードだよなぁ…)

 だがそういう場所でないと撒けない。

「……はぁ、後々時雨君に殺されそうだ」

 とりあえずラブホテルを探そう、ドクターは決断した。


 実際時雨から、鬼束兄弟から事情を理解してもらえた上で変態扱いされるのは大分先の話……

現在の状況

神岐義晴

東京競馬場に滞在中


平原暁美・戸瀬奏音

府中から離脱


鬼束市丸

雪走と交戦中


雪走一真

市丸と交戦中


鬼束丹愛

府中本町駅へ移動中


鬼束実録

甲州街道を移動中


牧村桃秀

府中に潜伏中


設楽柚乃

牧村を追跡中


ドクター・萩原時雨

線路から脱出




ようやく平原暁美と戸瀬奏音がヘリで脱出できました。

地獄からよくぞ生還したと褒めたい!

そして久しぶりの鬼束零。

決死の作戦も能登八散を連れているので無駄になってしまいました。

はい残念。


市丸vs雪走は雪走の力が市丸を圧倒。

タイマンではどうしようもない力の差があるのでやはり実録という切り札の切り方で勝敗が決まりそうです。


そして府中動乱ラストの戦い、神岐vs牧村。

設楽が催眠人間を駆使して牧村を追い詰める。

牧村のゴールはどこなのでしょうか?

神岐を生け捕りにすることは出来るのでしょうか?



さて、次回も府中動乱。

府中での戦いも終わりに向かっています。

未だに府中動乱のオチが決まってませんw

急に全員心臓発作になるかもしれません。

ただ、雪走戦と牧村戦は終わらせる予定なのでご安心ください。

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