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ゲーム界の勇者が現実世界に派遣されてしまいました

大幅加筆修正しました。そのためこれが新たな1話目です。

  ───目の前が真っ白になる。自分は段々と崩れ、そして再生する。一瞬の暗転の後、再び目の前に映像が映る。


 そうして彼は、たった一人で、見知らぬ場所に、降り立った。


「ん……、あれ、どこだよ、ここ。マップと違うじゃんね」


 彼はマップを取り出し、確認する。「派遣人」からの命令通りであれば、彼は薄暗く、洞窟のある森にいるはずだった。だが、今ここは木漏れ日があり、近くにはゲームらしい洞窟はなく風穴がある。いわゆる「富士の樹海」のような所だ。


「派遣人。ここはどこですか」


 彼は携帯端末にて、派遣人と意思疎通を試みる。「派遣人」とは彼をゲーム内に派遣する人物の事だ。予め所持している小型の携帯端末で話が出来る。数秒後、呑気な声が聞こえてくる。


「そこ? 森だけど? マップを見ろ。今いる場所が赤い点で表示されているから」


彼は地図に目をやる。たしかにそこには赤い点がある。完全に樹海ともいえる中に。


「だからどう見たって違うんですよ。近くに洞窟はないし。しかも薄暗くない」


「ああ? 面倒くせぇなぁ、それは俺の仕事じゃねぇってのによ…… ったく、じゃあ今から案内してやるから待ってろ」


 瞼を下げ、上げるまでの一秒にも満たない瞬間に、どことなく他人事のような声がした。

「すまねぇなぁ、降ろす場所違ったわ。そこ、現実世界」


「…… は? 」


 状況を飲み込めない彼に派遣人が説明する。


「だからさ、ゲーム内じゃあなくて、現実世界─つまり、お前のプレイヤーがいる世界に降りた、ってことだよ」


変わらず吞気な様子で説明する。勇者はこういう、全く反省しない相手が嫌いだった。


「じゃあ戻してくださいよ!!!!!!」


「それは出来ない」


「何故です? 」


 派遣人はゆっくりと説明する。


「お前はゲームが終わるまで、離脱はできないんだよ。システムの関係でなー。勇者はパーティの主戦力だ。いきなり居なくなられたってんじゃ、困るだろ?」


「は!?いやいや困るんですが。だって俺ゲームの世界にっていう……」


「そういう事だ、じゃあな、頑張れ。文句なら開発者に言ってくれな~」


「おいなんだよクソ派遣人!……ったく、あいつ切りやがって」


 彼は空を見上げる。幹、枝、葉。漏れる陽の光。その全てが、まるで彼を嗤っているようだ。彼の努力も知らぬままに。ならばと動かない土を見やる。しかしそこには確かに自分が知らないもの、つまりは現実世界の蟻だとかミミズだとかがいる。地面に拳を叩きつける。ぽふ、という土の音までもが、彼の運命を嗤う。


 ここまで折角努力してきたのだ。勇者といったって、皆が主役になれるわけじゃない。主役はただ一人。それがこの世界、『ウィンドアンドバレーⅢ』のルールである。だから、彼は沢山努力した。主人公になれば、強ければその分見た目がお洒落になる。データの片隅に追いやられることも無くなる。常に気にかけてもらえる。


 彼、いや努力してきた仲間たちは、気にかけてもらえるという感情に飢えていた。いつの間にか産み落とされ、何かと比較され、弱ければ消えてゆく。だからこそ皆が必死だった。


 そうして掴み取った「主人公」の位置。ようやく、というところでどうして。


 しかし、所詮は彼もまた一プログラムにすぎない。であるからこそ……。


「仕方ねぇな、どんどん進むか!!楽しそうだしな!!」


 都合の良い解釈をするようになっていた。じゃないとプレイヤーが困るからである。全年齢向けの主人公がいつまでもいじいじしていたんじゃあ、冒険は始まらない。キャラクターの目標はただ一つ。「プレイヤーを存分に楽しませる」ことだからだ。


 そして彼はすぐに状況を把握する。ここはゲームとは違う、つまりそこまで恐れる必要の無いところであると。どうやら今のところは、そこまで緊張する必要はないらしい。


「石剣は……、あるな。あとは、携帯端末と初期装備のボロいマント、ってこれだけかよ。まぁ今のところは、なんの生物もいなさそうだし。戦っていくうちに強くなるんだろ?最初は雑魚敵って誰かが言っていたしな」


 地図を頼りに、家がありそうな方向までどんどん歩く。途中で根っこに足を引っ掛け、泥沼に嵌り、蔦を書き分けながらおよそ10分ほど歩いた頃だろうか。


「ぅぅうわぁっ!!!」


 彼の足だけが唐突に、まるでがっちりと固定されたかのように動かなくなる。

「うおっ!?何これ??え、なになに!?」


 そこでタイミング良く、携帯端末に着信が入る。電話に出ると、支配人の間延びした声が聞こえる。


「勇者ぁ~?元気ぃ~?今何してんの~?」


「あぁっクソ支配人!!俺動けねぇんですけど!?何これ!おい!」


 支配人ははっと息を吞む。そして朗らかに伝える。


「ん~?……あー!オープニング終了だね、お疲れ」


「何ですかそれ。『オープニング』、って、支配人まさか……」


「既定のチュートリアル兼オープニングの時間が終わったんだよ。そこから先はプレイヤーに動かしてもらうべきところだからな。ゲームの終了時間はプレイヤー次第だから、時間経過で動けることはない。あとはまた頑張ってくれ」


「いやいやいや無理無理無理!!!!……また切りやがったよあいつ」


 そう、オープニングが終了したらあとはプレイヤーに全てが委ねられる。それはプログラムである彼の運命。このままでは彼は悠久の時を、この世界が終わるまでこのままで過ごさなくてはならない。


「なんとかしねぇと……流石にずっと立っているのは堪えられねぇしな。何か、何かないか……これを打破できる方法が……」


 そのときである。一匹の野良犬が彼めがけて大ジャンプし、彼に覆い被さる。犬はよだれを垂らし、うつろな目でこちらを睨む。


「うわぁぁぁーーー!!!!やめてお前絶対病気持ちだろ!!!!死ぬ!!!!」


 突如として、何かのエフェクトが脳内に流れる。四文字の……漢字っぽい文字列である。


「『戦闘開始』???……え、戦闘???」


 身体が意識とは反対に勝手に動き始める。それは足も同様だ。無意識に石剣を抜き取り、「振り下ろす」に三角形のカーソルが合わさる。そうして剣は犬に当たる。勇者はレベル1だし武器は石剣で、剣の脇で叩くような形にはなったが、それでも犬、もとい敵をビビらせるには十分であったらしい。犬は情けない声を上げながら涎をたらしながらどこかへ逃げて行った。


 そこで気が付く。動けるようになった、と。恐らくは一時的なバグのようなものであろう。本来登場するはずのない敵が登場したことによって、彼を縛っていたプログラムが壊れてしまったのだ。


 これでひとまず動ける。しかし一時的なものかもしれないから、これから永遠に動く方法を見つけなければならない。


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