仙人、野盗のアジトに向かう。スカー、野盗のボスを殺す
「じゃあ、お願いします」
そういって、御者は馬を走らせた。ファテマは無事に言ったのを確認しこちらに振り替える。
「パウラ、アベルド君、馬車をどかして来て。それが終わったらこっちも移動しよう」
「分かったよ、お姉ちゃん!」
「パウラ殿、やりましょう!」
二人は気合を入れ、進路を塞いでいる馬車の中に入る。十、二十キロはあろうかという土砂袋を軽々と森の方へ放り投げる。普通は土砂袋を降ろして森に持ち運んでと手間がかかるはずだが、降ろして運ぶという工程がない為、土砂袋を降ろす作業は早く終わった。二人は軽々と馬車を押し、脇に移動させ、こちらの馬車が通れるスペースを簡単に作ってしまった。ここまでの時間、僅かに十分である。
こちらの世界の魔法は生活から戦闘まであらゆる場面で万能すぎて将人は敗北感に膝をついてしまう。そんな将人の背中をマサリアが優しく叩く。
「マサト、落ち込まないで。身体強化魔法の効果って人によって個人差があるから。私達でもあの出力は出せないから」
「そうなのか?」
「私やエミ、ファテマさんがやってもあそこまでの事は出来ないし。そこで戦士系、魔法使い系のどちらの職に就くか分かれるのよ」
マサリアの話を感心しながら聞いていると、パウラとアベルトがこちらに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、終わったよ!」
「マサト殿、終わりましたよ!」
目を輝かせながら将人に報告する。
「何で俺に報告すんの?」
二人は答えない。ただ、何かを期待するように将人を見ている。パウラはフルフェイスの兜まで脱いでいる。将人はこれが何を意味しているのかと考えピンときた。二人の頭に手を置き、撫でる。二人はうっとりとした表情で頬を染めた。
(これ、ナデポだな。パウラちゃんはいいが………)
将人はアベルトに空手チョップを食らわせた。
「マサト殿、イタいです………」
「男にナデポされても気色悪いだけなんだよ!」
「ナデポって何ですか?」
アベルトが聞き覚えのない単語を疑問に思い将人に聞いてくる。将人はウッと呻き誤魔化した。
「こっちの話だ、気にするな。それよりも早くマルテナ様の救出に向かおう! ですよね、ファテマさん」
「ん、ああそうだね。三人の会話面白かったし、もう少し見て居たかったけどそれどころじゃなかったわ」
(もうちょっと緊張感持ちましょうよ………)
ジト目でに間む将人の視線から逃げるように走り出すファテマ。
「さあ、みんな、早く馬車に乗り込んで、野盗のアジトに向かうよ!」
(ごまかさないでくださいよ)
将人はグッと言葉を飲み込み、ファテマの後を追った。
古の戦争時、防衛の要となったが今は廃棄された砦、野盗たちはこれを占拠し、アジトとしていた。その中の一室にマルテナは運び込まれていた。簡素なベットにマルテナは寝かされ、その横にスカーが座っている。スカーは目を閉じ、何かを考えこんでいた。その時、部屋のドアが荒々しく開く。入ってきたのは、スカーに当身を食らい気絶させられた野盗だった。その野盗はトレイに野菜と肉を煮込み塩で味付けした簡単なスープと木のカップに入った水を乗せていた。
「先生、食事です」
野盗はトレイをスカーに渡す。
「ああ、すまないな」
スカーはトレイを受け取り、食事を始める。その横に野盗が座り、スカーを睨みつける。スカーがうっとおしそうに野盗を見る。
「………何か言いたい事があるのか?」
「言いたい事がある!? あるに決まってるでしょう!!」
野盗は我慢できないとでも言うように声を荒げる。
「どうして王女様を連れてきちまったんですか!? 貴族のご令嬢ってんならともかく、王女を誘拐なんてしたら国が近衛騎士団が動きますよ。こんな一野盗団なんて一瞬で叩き潰されますよ。国を相手に身代金なんて取れる訳ないでしょう。あんたが何考えてるのかは分かりませんが、こっちを巻き込まないで下さいよ!!」
野盗がスカーにまくし立てる。スカーは野盗が思ったより考えている事に感心していた。
「凄いなお前、思ったより頭がいい。お前のボス何て身代金の話に乗り気だったがな」
「俺は自分の身の丈が分かってるだけです。あんな脳みそお花畑のバカ野郎と一緒にしないで下さい!」
「エラい言い様だな。お前のボスだろう?」
「俺、あいつ嫌いなんです。前のボスを殺して頭になった野郎に敬意を払うつもりはないです」
顔を歪める野盗を見てスカーがしばらく考えこむ。
「先生、どうしました」
「思ったんだが、お前、野盗団のボスになりたくないか?」
「はあ!?」
野盗は訳が分からず混乱する。混乱しすぎて敬語が無くなった。
「アンタ、本当に何考えてるんだ。訳が分からん!? アンタ、頭おかしいだろ! おかしいだろ!」
「ひどいことを言う。俺は真面目に言ってるぞ」
「アンタといると頭がおかしくなる。ついていけん!」
野盗が席を立とうとする。野盗の腕をスカーが掴む。その握力に野盗の骨がきしむ。
「まあ、待て。話を聞け。お前に損はないはずだ」
「イテェから腕を離せ!」
スカーは無言で手を離す。野盗の腕には手形の痣が出来ていた。
「話は簡単だ。今から俺がやお前のボスを暗殺する。ボスに付く奴らも殺す。お前は次のボスになってこの砦を離れろ。身代金の要求だ何だは俺一人でやる」
「それだとアンタ一人が得するんじゃないか?」
「確かに得する訳だがお前が考えている得とは違う。俺は強い奴と戦う事が何より好きでな、王女を救い出すとなるとこの国最強の剣士である『神剣』が動く可能性が高い。その『神剣』と戦うのが俺の目的でな、正直、身代金何てどうでもいいんだよ」
スカーがニィッと笑う。剣に取りつかれた鬼の笑顔は凡人である野盗には恐ろしく映り、寒気がした。
「で、どうする。お前がボスになってこの砦を離れ生き延びるか、このまま、ここにいて国に殺されるか、俺はどっちでもいい、俺に損はないからな」
野盗は選択を迫られる。野盗は席を立ち部屋の中をうろつく。顔を真っ赤にし、大量の汗が額から落ちる。頭から湯気が出るくらい考え、また席に着き、かすれた声でこう言った。
「………先生、俺をボスにして下さい」
「分かった」
スカーは頷き席を立ち、部屋を出て行った。




