閑話 仙人、最強の盾の欠点を上げる、『氣』の武器は商品化できない
将人が目を覚ますとプレートアーマーが顔を覗いていた。
「………パウラちゃん、俺の顔を覗こうというならプレートアーマーを脱ごう。怖すぎる」
将人は驚きを隠しながらパウラに言う。
「ヒドいよ、お兄ちゃん。でもこの子を早く見せてあげたくて、可愛いでしょ」
「可愛いって何が?」
「だから、この子」
パウラが自分を指さす。
「パウラちゃんは可愛いというより美人だと思うが?」
「お兄ちゃん………」
パウラがモジモジするがプレートアーマーのままだとますますシュールになる。
「嬉しいけど、そうじゃなくてこの鎧の事だよ」
「ヨロイ!?」
将人はそう言われプレートアーマーを凝視する。堅牢、強固な防御力を誇るプレートアーマー、可愛いというよりは心強い印象しか受けない。下手をすればトラウマの対象になる。それが可愛い………後ろで覗いていたシゲルイに気づき目で問うと、俺もよく分からんと肩をすくめるジェスチャーで返される。将人は考えるのをやめる。
(パウラちゃんにしか分からない世界だ………)
「よう、マサト。目を覚ましたか。それなら早く俺のベットから降りてくれ。俺の寝床をいつまでも占領されると困る」
将人は謝りながら体を起こし、ベットから降りようとする。
「冗談だよ、もう少し休んでろ」
将人はベットの縁に座る。その隣にパウラが座る。パウラにプレートアーマーの重みが加わりベットがきしむ。
「嬢ちゃん、鎧を脱いでこい。ベットが壊れる」
パウラはガシャガシャ音を立てながら部屋を出ていく。
「嬢ちゃんは不思議ちゃんだが将人も相当だよな」
シゲルイの突然言われ?マークが浮かぶ。
「あれだけ強いのに嬢ちゃんの抱き着きで気を失う。強いのか弱いのかよく分からん奴だ、お前さんは」
「肉体のスペックで言うなら俺は弱い方になりますよ。でも肉体のスペックだけで戦うわけじゃありませんから」
「そういう力の運用が強さの秘密ってところか………ところで俺に相談があるって言ってたが何だ?」
「実はですね………」
「タッダイマー!」
プレートアーマーを鎧櫃に収め、戻ってきたパウラが見たのは将人とシゲルイが腕を組んで悩んでいる姿だった。
「? どうしたのお兄ちゃん、シゲルイのオジチャン?」
「まあ、マサトの戦い方を見れば当然と言えるんだがな………」
「ああ、実はね………」
パウラが将人の話を聞いて考える。
「盾を使うとお兄ちゃんの持ち味である体術が使えなくなるかあ………確かに私とリアちゃんを助けてくれた時は盾を使ってなかったし、そっちの方がお兄ちゃん強かったもんね」
「そうなんだよね、俺のいた国ってモンスターがほぼいなかったから対人用の体術があれば十分身を守れたんだよね。武器も防具もいらなかったし」
「そんな国があるのか? そりゃあ天国じゃねえか」
シゲルイが驚いたように声を上げるが将人は溜め息をついて首を横に振る。
「そんな事ないですよ。人しかいないから人同士で争う、下手をすると親子で殺し合う事があったりもするんです。こっちはモンスターっていう明確な敵がいるから人同士の争いは少ないんじゃないですか。俺はその方がいいです」
そう言って笑った将人の笑みは弱々しく今にも泣きだしそうだった。シゲルイは将人の表情から何かを察したのか別の話に切り替える。
「それはさておき、盾が使いにくいって事だな。盾はもともと防御用だし、本来の使い方とは別の使い方もしてるんだ。使い勝手が悪いのも納得かもな。進めたのは俺だし何とかしたいところだ」
シゲルイが顎髭をしごきながら考える。
「魔力ゼロの盾にモンスターの革を貼るというのは凄くいいアイデア何ですよね。『氣』の蓄積と放出が出来るというのは助かっているんですよ。だから売るにはもったいなくて」
「売るな!! 大体あれはお前じゃないと使っても意味がないんだよ!!」
「ですよね」
将人の盾は『氣』が使えるものが持って初めて機能する。将人以外の人間が持てば普通以下の盾にしかならない。
「剣術の中には盾を使った攻撃方法もあるらしいけどあくまで攻撃の補助、必殺にはならないみたいだし、お兄ちゃんには合わないかも」
パウラが腕を組んで考える。腕を組むと豊満な胸が持ち上げられ、将人とシゲルイは目が釘付けになる。二人の視線を感じ後ろを向く。
「お兄ちゃんはいいけどシゲルイおじちゃんはダメ!」
「マサトばかりモテて羨ましい………考えるのやめるか」
「そんな………」
「そんな情けない顔するな、冗談だ」
豪快に笑いながら将人の背中を叩く。
「とするならだ、マサト。盾をサブウェポンとして何か別のものをメインにしてみるか?」
「例えば?」
「ねえねえお兄ちゃん、それなら私と同じ大剣を使ってみる?」
パウラに言われ将人は自分が大剣を使う姿を想像してみる。重量がありすぎて持ち上げる事も出来ずモンスターにやられるイメージしか浮かばない。
「却下」
「そっかあ………」
パウラがショボンとする将人が慰めるように頭をなでる。その途端笑顔になる。
「マサトは剣とか槍とかは使う気はないのか?」
「俺の使う武術『形意拳』は槍術の理をもって考案されたと言われてるから持つなら槍でしょうが少し抵抗があります」
「武器がダメなら身に着ける防具で考えてみた方がいいな……ガントレットとかはどうだ?」
「普通のガントレットは使ってますが使いやすくていいですね。拳を痛める事もないし」
「だったら魔力ゼロの鉄で作ってみるか?」
「本当ですか!?」
「こっちの頼みも聞いてもらうが、それを聞いてくれればダダにするし、鎖かたびらも付けるぞ。金も逆に払う!!」
シゲルイの気前の良さに疑惑の目を向ける。
「どうした、マサト?」
「俺のいた国には『うまい話には裏がある』という言葉があります。何企んでるんですか!?」
「この魔力ゼロの鉄で作った武器防具シリーズを売り出そうと思ってな。マサトが『氣』を込めてくれれば攻撃魔法から身を守れたり出来るからな。魔法万能のこの世界では魔法を打ち消せるというのは驚異だ。マサトが『氣』を込める作業を受け持ってくれるなら武器や防具はただで作るし金も払える。俺もお前にも利がある、どうよ?」
「さっき俺じゃないと使えないって言ってませんでした」
「一回こっきりの使い捨てって事にして攻撃魔法に向けて投げつけたりすれば使えると思うんだよ。いいアイデアだと思うんだがよ、どうよ?」
将人はシゲルイに頭を下げる。
「すみません、それは出来ません」
「理由を聞いてもいいか?」
「俺はこの世界のどこかにいると思われる友人を探す為に冒険者になったんです。だからいずれこの土地を去る事になるかもしれないんです」
「お兄ちゃん、居なくなっちゃうの………そんなのヤダーッ!!」
パウラが泣きながら抱き着いてきた為ベットに押し倒される。体を押し付けられ色々とヤバいことになりそうだ。
「まだ、先の話だから、泣かないで、ネッ」
慌てながらもパウラの頭を撫でて落ち着かせる。
「いなくなる時は教えてね。付いて行くからね………」
パウラが起き上がりながら言う。将人も起き上がり頷きながらパウラの頭を撫で続ける。パウラはリラックスして表情が緩んでくる。
「話を途中にしてすみません。だから、俺がいなくなると『氣』を籠める事が出来る人がいなくなるし
そうすると売り出す事が出来なくなります。まだ理由があります。シゲルイさんさっき魔法万能の世界って言ったじゃないですか。そんな世界に魔法を打ち消す力というのは邪魔だと思うんです。そんな力は兵器に転用するか抹殺されるかどっちかなんです。俺まだ死にたくないんです、だから………」
「そういう事か。俺の方も考えなしだった、スマンかった。本当に謝る………しかし、俺が話を持ち掛けた時点でそこまで考えられるとは頭がいいんだな、マサト」
「俺のいた国の物語ではよくある話なんで」
「そっか………まあ、この話はなかった事にして、ガントレットを作る方向で話は進めるがいいか?」
「お願いします」
「ガントレットの製造はそう難しいもんじゃないから二、三日もあれば出来る。その時に取りに来てくれ。代金は格安にしとくぜ」
「分かりました。じゃ行こうかパウラちゃん」
「うん!!」
パウラが将人の腕に手を絡めてくる。将人は引きはがそうとするがパウラの満面の笑みを見るとそれも出来なくなりされるがままにされる。
「じゃあな」
シゲルイが将人とパウラを見送る。二人の後ろ姿を見てシゲルイはぽつりと呟く
「アレは恋人というより弟に溺愛する姉ちゃんだな」




