仙人VS執事、ファテマ達を救出
執事ハイゼンが将人を担いでやってきたのは書斎だった。将人を床に置いてから壁際の本棚に向かい、最上段の本と最下段の本それぞれ十数冊を丸ごと入れ替える。その途端本棚が横へずれ地下に続く階段が現れた。再度、マサトを担ぎ地下へ降りると自然が作り出した横穴に鉄格子を埋め込んだ牢屋が数部屋あった。牢屋には数名閉じ込められているようだ。
「今日はもう食事の配膳は終わってるのにまた来るなんて何事だい、執事さん?」
牢屋に幽閉されている女性―――ファテマがノンビリした口調でいう。
「あなたの仲間を捕えさせてもらいました。彼にもここで3日間滞在してもらう事になります」
「仲間って………マサト君じゃないか? マサト君大丈夫かい?」
その言葉にパウラ、マサリア、エミリア、アベルドが牢屋から顔だけを出してハイゼンの肩に担がれた将人を見る。
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
「マサト、大丈夫、死んでないよね!?」
「マサト様………」
「執事、気様マサト殿に何をした!?」
それぞれの疑問にハイゼンが答える。
「マサト様は、旦那様の眠りの魔法によって眠っているだけです。命に別状はありませんのでご安心下さい」
将人を下ろし、腰の鍵束の鍵をつかって空いている牢屋の扉を開け、将人を牢屋に入れようと手を伸ばし、ギョッとする。眠りの魔法で眠らせれた者は数時間は目覚める事はない。そのはずなのに将人が立ち上がっていたのだ。
将人は『三体式』の構えから中段付き―――『崩拳』を放つ。ハイゼンは両腕をクロスして『崩拳』を防ぐが威力が殺しきれず後方へ飛ばされた。
「マサト君、気を付けて。その執事は強いよ。私とパウラはダドリーと彼にやられたんだ!!」
倒れているハイゼンがゆっくりと立ち上がった。体に付いた埃を払い、腕を揉み、ダメージを確認する。
「あなたの様な少年がこのような打撃を放つ事が出来るは………」
「そちらこそ、防ぎきれないと悟るや後方に飛んで威力を殺すその判断力、空恐ろしいですね。ハイゼンさんこそ何者ですか?」
「その昔、王都の闘技場で拳闘士をやっていたことがあるだけですよ。皆さんみたいにモンスターと戦う事はありませんでしたが人との戦闘では無敗でした」
ハイゼンは両拳で鼻や口を覆うように隠し防御し眼だけは出して将人を確認していた。その構えを見て将人は驚愕する。ボクシングは素人の将人でもよく知っている構え『ビーカブースタイル』だった。
(異世界でボクサー見る事になるとはな。人と戦う方法は次元を超えても似たり寄ったりになるって事か。この世界でも拳法みたいな技術が存在するのかもしれないな)
ハイゼンは重みを感じさせない軽やかな動きで間合いを詰めてくる。将人は『三体式』の構えを取り相手の出方を待つ。間合いに入った所でハイゼンが左の拳を放ってくる。将人は左手でハイゼンの左手を跳ね上げ右拳を腹部に打ち込む。フットワークでハイゼンが間合いの外に一旦逃れ、また、間合いを詰める。今度はこちらを倒すほどの威力はないスピードを重視した連打で攪乱してくる。ハイゼンの連撃を捌ききれなくなり顔面に数発、腹部にも数発パンチが入ってしまう。腹部へのパンチはクロースアーマーのお陰でダメージは幾らか防げたが、顔面はそうはいかなかった。口の中が切れ血の味がした後痛みが襲ってくる。左の瞼がはれ上がり視界が悪くなってくる。ここでハイゼンが後方に下がる。
「マサト様、あなたの打撃は強力ですが当たらなければ意味がありません。あなたでは私を捕える事は出来ません。諦めて牢に入ってはもらえませんか?」
「お断りします!!」
「では、お覚悟を」
ハイゼンは間合いを詰め、左拳で距離を測り右拳を放つ。拳が内側に捩り込まれるように放たれたそのパンチはボクシングでは『コークスクリュウブロウ』と呼ばれる必殺パンチであった。それに対し将人がとった行動は奇抜なものであった。前足を伸ばしそのまま体を低くした事で『コークスクリュウブロウ』は頭上を通過した。両足でジャンプしながら右拳を突き上げハイゼンの顎に打撃を加える。完全にノーガードの所に一撃が入った為、何が起こったか分からずハイゼンは硬直してしまう。『形意拳』の『十二形拳』の一つ『龍形拳』だった。
これが最後のチャンスと将人は攻撃を続ける。着地すると同時に右掌をハイゼンの右肩に打ち下ろす『劈拳』を放つ。頭が下がった所を狙って左拳を下から上に打ち上げる『鑚拳』を打ち、上半身が持ち上がりそこへ中段突き『崩拳』を腹部に打つ。今度はハイゼンは吹き飛ばずその場に崩れ落ちる。それを見て将人は安堵の息を吐きのその場にへたり込む。
「危なかったあ………この世界でボクサーと戦うとは思わなかった。異世界でもボクサーは厄介だよホントに」
倒れているハイゼンの腰をまさぐりの辺りをまさぐり鍵束を取りあげ牢屋の鍵を開けファテマ達を救出した。




