仙人VS神剣、見えない攻撃、破る、最終決戦直前
将人は外へ飛び出そうとする『氣』を意志の力で体内に押し留める。内に抑え込もうとする力と外へ飛び出そうとする力が反発し合い、肉体の強度がより強固なものに変化していく。それはまさに鋼が如くだ。
「さあ、来い!!」
将人の言葉と当時にアルマの姿が消えた。そして見えない攻撃が叩きつけられた。その衝撃は鋼の強度となった体にひびを入れるには十分な威力があった。一発貰うごとにダメージが蓄積していく。目で追う事が出来ない相手に対して同じ土俵に立って勝てるはずがない。違う持ち味で勝負するのが定石と防御を固めて相手の隙を誘う作戦を考えたのだがまずかったかもしれない。あと数発も食らえば幾ら体の強度を高めても崩されてしまう。
不意に攻撃が収まる。数発の衝撃波により砂塵が巻き上がり、視界が遮断されただろう。風の魔法で砂塵を散らされる前に動くべきだと将人は『氣』を体外に解放し肉体の強度を元に戻して行動する。視界が遮られてもアルマの位置は読める。抑えようとしない強力なアルマの魔力が将人には感じる事が出来だ。アルマの間合いに入るとさすがに姿が見える。アルマはまだ気がついていない。
(これなら入る!!)
すかさず右縦拳、『崩拳』を入れる。入った感触があった。更に攻撃を打ちこもうとした時、背筋の寒気が走った。将人は自分の勘を信じて右斜め方向へ全力で飛んだ。ゴシャッという嫌な音が後方から聞こえ振り返る。そこにはアルマに長剣を振り下ろしたアルマの姿があった。アルマが二人いるという状況に驚く将人。将人の驚きに気付かすアルマは話し始める。
「ここ前勝ち残っただけはある。実力差があってもなかなか粘る。それだけよい戦いをしてきた証拠ですね」
アルマから上から目線で言われても悔しいと思う事はなかった。実際、肉体的スペック、魔力量ともに差がありすぎるのである。『氣』や『仙道』という特殊能力があっても差を縮める材料になっていない。自分の焦りを見せない様無表情で『三体式』の構えを取り将人はアルマに尋ねる。
「……一体何をやったんですか? 確かに俺の『崩拳』が入った筈なのに、どうして何事もなかった様に後方に回って切りつける事が出来たんですか!?」
「ものすごく単純な話ですよ。土の魔法で私に似せたゴーレムを作り出し、ほんの少し魔力を付与、私は魔力を消して隠れてました。私の複製ゴーレムを私と思って攻撃をしてしてやったりと思っている相手の後ろに回り込むのは簡単でしたよ。種を明かせば簡単な事です。少し魔力が強ければ誰でも出来る事ですから。さあ、次行きますよ」
アルマが近所に散歩に行くような気軽さで言うと姿が消えた。
「ヤバい!!」
衝撃が将人を襲った。その衝撃に耐える事が出来ず吹っ飛ばされ、何度も地面をバウンドしうつ伏せに倒れる。体の痛みで意識を失わずに済むがこのまま倒れていては的になる。将人は痛む体をむち打ち立ち上がる。一ヵ所に留まる事はせずともかく動く、ともかく走る、そして考える。この衝撃波は『氣』の防御壁を通り抜けてくる。アルマの魔力では『氣』で完全に防ぐ事は出来ないまでも威力を軽減する事は出来る筈だが、それも出来ていないように思える。
「一体何の魔法何だこれ!?」
考える暇も与えず衝撃波が飛んでくる。ジグザクに動いているのが功を奏しているのか衝撃波の直撃を避けられている。狙いを定めて放つのは難しいのかもしれないが、勘で動いているのではいずれ当たってしまう。
「ドウスル!? ドウスル!?」
走っているうち灯具上円周の壁にぶち当たる。ヤバいと横にそれた直後、ドーンという轟音と共にアルマが現れた。一瞬目が合い、アルマが慌てるように姿を消した。
(何だ今の!?)
将人は壁から離れ再び走りながらさっきの現象を考えていた。
(さっきは何で姿を現した……障害物があったからか? 姿が見えなくなるのは闘技場の中央部分じゃないか?……もう一度試してみるか)
将人は軸ザクに動き回りながらそれとなく闘技場の壁に走り、横にそれる。その直後、何かがぶつかったような轟音と共にアルマが出現した。
(やっぱりそうか、でもどうして壁があると現れるんだ……もしかしてこの衝撃波って結構単純な事やって出しているんじゃないのか? 単純な事とは言え十分凄いよなこれって。さっきこの衝撃波に耐えていたな俺。生身でこれやったのって俺が史上初じゃないのか? 俺も異世界に染まってきたのかも)
将人は呆れつつも再び壁に走る。そして振り返り横へ全力で移動。再び轟音、そして現れたアルマに将人は全力で体当たりをする。バランスを崩し転倒したアルマの上に馬乗りする。
「そんなバカな!? 何故私が取り押さえられている!?」
アルマは自分が地に組み伏せられてるこの状況が信じられないといった様子だ。
「それは俺のいた世界、いや国の知識のお陰ですよ」
将人の言葉にアルマは怪訝な顔をするが構わず言葉を続ける。
「結論から言うとアルマ様は音より早く動いていたんですよね」
その言葉ににアルマはぎょっとする。
「そうです。魔力の防御壁を形成、身体強化の魔法で音を超えるくらい早く動くと衝撃が出る事に気付きました。この衝撃破には魔力が関与しない為、気付かれにくく防御されることがありません。でも、あなたがどうしてそれに気付く事が出来たのです。音を越えて動く事が出来る者などこの世界では私しか出来ません」
「それに気付いた事に関しては黙秘権を行使します」
「まあいいでしょう。それより上から退いてくれませんか?」
「負けを認めたら離れますよ」
「この程度では負けを認める訳にはいきませんよ」
「退いた方が痛い目を見ずに済むと思うのですが……」
アルマが魔力を放出する。暴風の様な魔力の放出に耐える事が出来ず、将人は吹っ飛ばされる。有利な状況が一瞬にしてひっくり返されてしまった。アルマは魔力を収めゆっくりと立ち上がった。
「能力的にはこっちが上だというのにどうしても粘られてしまう。アナタは中々の曲者ですね。このままではこちらが丸裸にされてしまう。早々に決着をつけるとしましょうか」
そう言うとアルマが長剣の切っ先を両手で握り柄頭を将人の方に向ける。
「それって『雷撃』!?」
「いいえ、違います」
アルマが上段に構える。その途端烈火の様な気迫がアルマの全身から放たれる。将人の全身に冷や汗が流れこの場から逃走したいという衝動に駆られるが歯を食いしばり耐える。
「あなたが感じていることは正しい、負けを認めなければ大怪我では済まなくなりますよ」
「何もせずに負けを認めるなて出来ません。そちらこそ負けを認めないと二つ名を名乗れなくなりますよ」
将人はすかすかさず挑発するが、アルマはそれに怒る所か笑って見せた。
「そういえば最初にそう言ってましたね。いいでしょう、私の二つ名降ろせるものなら降ろしてみなさい!!」
将人は呼吸を整え『三体式』の構えを取った。『氣』を循環させ力を練る。怖いという気持ちはあるが逃げたいという衝動は消えていた。
(勝っても負けてもこれで最後、思い切ってやってやる!)
将人は気合を込めてアルマを見据えた。