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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第九章 仙人、武術大会二回戦編
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仙人VS聖剣、『形意拳』VS『無形』

マルテナは中段の構えのままこちらに近づいてくる。距離が縮まり長剣が力を発揮する距離に入った。将人は『三体式』の構えを取り警戒するがすぐに怪訝な顔になる。


(さらに一歩前に出た!?)


長剣の最大の攻撃力が引出せる距離を自分から殺してきた。それどころか将人にとっては有効射程距離となる。


(マルテナ様、ミスったな!!)


絶好のチャンスと将人は『崩拳』を繰り出した。スピード、タイミング共に合わさった一撃がマルテナの長剣を持っている両手に吸い込まれる。マルテナは将人の拳の内側に両手をずらし入れ外側に弾く。将人の攻撃が届く距離では剣の攻撃はないと将人は考え更に『崩拳』を繰り出す。だが、攻撃に集中した為、マルテナの口角がつり上がったのに気が付かなかった。将人の右肩に固い鈍器のようなもので叩きつけられた様な衝撃を受け膝を突く。動揺しつつも今の距離は危険だと、膝の力を使って後方に飛んだ。


「チッ、逃げたか」


「舌打ち行儀悪い。王女様なんですから」


将人は右肩の痛みを誤魔化す為に愚痴を叩きながら、どうして長剣で近距離の攻撃が出来たのか考える。それはマルテナを見て一発で解決した。

マルテナは長剣の刀身を握っていた。白銀のガントレットを装備している為、刃を握っても手が切れる事はない。短く持つ事で長剣の長い間合いから短い間合いに変化し、近距離での攻防が可能になる。ラシェントの街の冒険者ギルドで模擬戦をやった時この戦い方を見ていたというのにそれに気が付けなかった、将人は自分の間抜け加減に腹が立った。


「分かっていても引っかかるんじゃよ。無意識に長剣の間合いで攻防を考えてしまうから近距離は逆に安心と考えてしまう、そこを突いた見事な技じゃろう。それだけではなく近距離から中距離、長距離と間合いを切り替える事が出来る。決まった距離がない、名付けて『無形』じゃ。この技も破って見せよ」


マルテナが動く。距離を縮め将人の間合いに入り長剣を振り下ろす。将人はその一撃を後方に下がって回避する。だが、マルテナは更に一歩踏み込む。再び刀身を握り、短剣のようにして突いてきた。将人は咄嗟に長剣の切っ先を左手で掴む。将人もガントレットを装備している為出来た防御だ。今の距離は将人が攻撃できる距離、すかさず拳を繰り出すがその動きが途中で止まった、いや、止められた。

マルテナが長剣の切っ先を掴んでいる将人の手を掴み、柄を真上に持ち上げたのだ。てこの原理で手首の関節が極められ、背中を反ったような状態になる。そんな状態で出される拳に力はなくマルテナの鎧に弾かれる。マルテナが手を離すとバランスを崩し、尻もちをついていしまう。死に体となった所に長剣が振り下ろされる。将人は思いっきり地面を蹴ってマルテナの間合いから逃れる。その逃げには『形意拳』の術理のない、何とも情けない逃げだった。

ゼーゼーと荒い息を吐きながら将人は考える。


(一体何をされた? 合気道の武器を使ったバージョン、合気剣術みたいなことをやられた? 向こうの世界の西洋剣術をベースにした独自の剣術を使ってるって話だったけど組手術みたいなものも組み入れてるのか?)


マルテナの使う剣術の創始者はアルヴァール国王である。アルヴァール国王の前世はバリバリの日本人である。西洋剣術の他に合気道をやっていたとしてもおかしくはない。

座りながら考え込んでいる将人をマルテナが怪訝な顔で呼びかける。


「オーイ、マサトよ。何を座り込んでおる。幾らワシでも戦う意志のない者に剣は向けられん。取り合えず立たんか?」


「ああ、スミマセン」


将人はすっと立ち上がり『三体式』の構えを取った。それを見てマルテナはほっとした顔をする。


「まだ戦う意志はある様じゃの、降参されたらどうしようかと思ったわ」


「まだまだ諦めませんよっていうかもう少し手加減してくれませんか?」


「ダメじゃ」


「デスヨネ」


将人は息を吐き、『三体式』の構えを取る。『氣』を循環させながら『無形』の攻略方法を考える。


(『無形』は長、中、近距離全てに対応。それに対しこちらは近距離でしか対応できない。しかも打撃がメイン、組手技はほぼなし、『五行拳』の応用で組手術の真似事の様な事が出来るが向こうはそれを練りに練っているように思える。同じ土俵じゃ不利か……力には技で攪乱、技には力でごり押し、ここはごり押しするか)


将人は覚悟を決める。自然と目に力が入る。それを察知したマルテナが剣を中段に構える。


「覚悟を決めた様じゃな。いいぞ、来いマサト!!」


「行きますよ」


将人は『三体式』の構えからしゃがむように体を低くし、力を溜める。通常なら足の力を用いて上方へ跳躍しながら拳を打ち上げるのだが前方へと跳躍したのだ。思いもよらない動きをされた為、マルテナの反応が遅れる。マルテナの間合いに入った将人は右縦拳で突く。マルテナは咄嗟に長剣を水平に立て、長剣の腹で拳を受ける。


「まだまだ!!」


将人は攻撃を続ける。『劈拳』、『鑚拳』、『崩拳』、『炮拳』、『横拳』―――『五行拳』の攻撃をマルテナは長剣を剣というよりは棒のように使い捌く。

将人の『崩拳』を避け、長剣を上から差し込むように剣を付き入れ巻き込むようにして腕の関節を決めようとする。だが、将人の腕が鋼のように固くなり動かなくなった。


「何じゃと!?」


驚くマルテナ。将人は長剣の刀身を脇に挟み、長剣を奪おうとする。それをさせじと引っ張り合いになる。力ではかなわないと判断したマルテナは剣を手放し距離を取る。長剣を奪い取った将人は長剣を持ち、困った様に頬を掻くと長剣をマルテナに向かって投げた。弧を描いてマルテナの足元に刺さる。


「武器を返していいのか」


「俺は剣なんて使えないし、これ、試合なんだから武器の破壊なんて出来ない。弁償しろなんて言われたら厄介だし」


「ヘンなところで小心者だのう?」


緊迫した空気が幾分か和らいだ。


「まあ、良いか。中段の技『無形』を見せる事が出来た。後は上段の技『雷撃』なのじゃがこれは前に見せておるよな」


「ええ、覚えていますよ」


「じゃからこれより更に上位の技を見せよう。上、中、下段の技を会得した時、その上の技を使う事が出来るようになる……その名も『雷鳴剣』!! マサトよ、これを受ければお主は血反吐を吐いて倒れる事になるじゃろう。それでもお主の万が一、億が一の可能性、この技を超え、このワシを超える可能性に賭ける。マサトよ、この技を受けてくれ!!」


「それって俺の負けほぼ確定じゃないですか!? もう少し手加減して下さいよ」


将人の声に怒りが籠る。マルテナはこっちが気の毒になるくらいに顔色を変え下を俯く。将人は深い溜め息を付き『三体式』の構えを取る。


「分かりましたよ! やります、やりますよ! そのかわりこっちも一切の手加減をしません。本気でいきますんで覚悟してください!!」


マルテナが顔を上げる。


「おおよ、それでよい。マサトよ、ワシの技を越えてくれ!!」


マルテナが長剣の刀身を両手で握り上段に構える。


「あ、もしこっちが技を受けきれず、重傷を負った時はアルマ様に治療していただける様口添えお願いします」


マルテナがずっこけた。


「マサト、おぬしなあ……」


マルテナが心底残念そうな顔をする。それでも状況は進展する。

仙人と聖剣の最後の戦いが始まろうとしていた。








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