仙人VS聖剣、鉄の門、熊が破る
将人は呼気を吐き出すと同時に踏み込み、縦拳を繰り出す。将人の『崩拳』はマルテナの下段から繰り出される幾数もの斬撃に弾かれ、がら空きになった胸元に突きが入る。武器には刃引きの魔法がかかられている為切る事は出来ないが突く事に関しては魔法に関係なく殺傷力がある。マルテナの長剣の切っ先が胸部に飲み込まれていく。そして切っ先が胸部に触れ、後方へ弾き飛ばされる。呼吸困難に陥りながらも受け身をとって立ち上がる。激しく咳き込みながら胸部を触り状態を確認する。痛みはあるものの剣が突き刺さって流血してはいない、骨も折れてはいない様だ。やられたと思ったのにと将人は呆然としてマルテナを見た。マルテナも不思議そうな顔で将人を見ていた。
「何じゃ、その間抜け面は? この武術大会では殺しはご法度じゃぞ」
「つまり手加減をする余裕があったと?」
「まあ……そうじゃな。マサトは強くなったがまだまだじゃ。この戦いでワシに勝てるぐらいになってもらわねば困る。じゃがのう……ワシもそう簡単に負けたくない……凄いジレンマじゃ、マサト、何とかせい!」
マルテナに逆切された。
「何とかしろって……」
将人は非常に困った顔になりながらも『三体式』の構えを取った。マルテナの願いを叶えるの方法は勝つ他ないのである。
「いいぞ、何度も来るがいいぞ、マサト!」
マルテナは嬉々として長剣を下段に構える、『鉄の門』の初期動作だ。将人は下段に構えるマルテナにやりにくさを感じていた。
(さて、どうするべきか? 確か下段って……)
将人は『鉄の門』の攻略方法を考えていた。
日本剣術では下段は攻撃的な上段の構えに対し防御の構えとされている。ついでにいえば日本剣術では、上段、中段、下段、八双、脇構え、この五つの構えは『五行の構え』と呼ばれており、火木土金水の五行が割り当てられており、『形意拳』の『五行拳』と共通していた。
そこまで考えて将人はふと閃いた。剣術でもこの五つの構えは相克の関係にあり、この構えにはこの構えが有利だというジャンケンにも似た法則がある。火属性の上段には水属性の中段が有利といったような法則がある。『五行拳』の技も名前の通り五行が割り振られており、下段に相克する技ならばこの『鉄の門』も敗れるのではと考えたのだ。土属性の下段に対しては木属性の八双が有利、『五行拳』での木属性に当たるのは……『崩拳』だった。
(駄目だ……すでに敗れてる。相克の法則は当てはまらないかもしれないな、考えてみればここ異世界だし……)
「マサト、何を呆けておるか、早くかかってこんか」
マルテナにせかされるが将人から動く事は出来ない。『鉄の門』攻略の糸口が見つかっていないのだから、そこで将人はふと気付く。
(自分から攻撃してこない? つまり『鉄の門』は後の先、カウンター技って事か。こっちから攻撃をしない限り勝ちはないけど負けもない。それだと意味がないんだよな)
睨み合う事一分、膠着状態を将人から破った。突如将人が左腕を振り回し始めたのだ。8の字を横にした文字、無限大の文字をなぞるように振り回した。最初はゆっくり、徐々に旋回するスピードを速めていく。それを見たマルテナが怪訝な表情になる。
「一体なのつもりじゃ?」
「何のつもりでしょうかね……細工は流々、仕上げを御覧じろってね。やってみれば分かりますよ」
将人はニヤリと笑う。
「策があるようだが『鉄の門』は簡単には破れんぞ。マサトよ、来い!!」
将人は左腕で無限大の文字を描きながら前進する。マルテナの間合いに入り、マルテナの長剣が下から跳ね上がる。下から長剣と将人の左掌が激突する。長剣とガントレットが激しくぶつかる。だが、将人の掌はマルテナの長剣に弾かれることはなかった。
「ナニッ!?」
マルテナは驚愕の声を上げながらも弾かれた長剣の軌道を戻し将人を再び襲う。その長剣をまた掌で弾く。マサトとマルテナの攻防が続く。
マルテナの『鉄の門』はカウンター技、下段の構えから連続の斬撃を繰り出し攻撃を弾き、防御が開いた所に一撃を入れる技。弾く事を目的にしている為、威力が低いが斬撃の多さが厄介だった。その斬撃に弾かれない威力が必要となり、そこで考え付いたのが『十二形拳』の一つ『熊形拳』だった。
将人は左腕を高速で振り、遠心力を用いて気血を先端に集める事で手の強度を高める。それにガントレットの強度も合わせる事でマルテナの斬撃の威力を上回る事に成功したのだ。
マルテナが速度を上げてくるが将人の左腕の旋回を崩す事が出来ない。それどころか将人が一歩、また一歩マルテナに近づいていく。熊の力が鉄壁の鉄の門が少しずつ打ち壊されようとしていた。
将人は更に一歩踏み出すと同時に左腕をたたみ、右肘で突く。拳や掌での技法が多い『形意拳』の中で『熊形拳』は唯一体当たりや肘での技法を持たせた技なのである。
迫りくる将人の右肘をマルテナは長剣の柄で防ぎ、その威力に乗って後方に飛び間合いから離れる。
「クソッ、防がれたか!!」
マルテナは将人の右肘の威力に痺れる両手を振りながら将人を見る。その顔に非常に満足げだった。
「そんな方法で『鉄の門』を破てくるとは思わなんだ。だが、ワシの技はこれだけでないぞ。次に見せるこの技も破って見せよ」
マルテナは下段の構えから中段に構えを変えた。
「まだ、技の引き出しがあるのか……」
やっと『鉄の門』を破ったというのにその先がまだあるのかと衝撃を受けずにはいられなかった。