仙人、『仙道』の行法、『氣』の感覚を教える
「さっきの『小薬』生成の説明って何か料理を作ってるような説明だったね」
出されて料理を食べ終え人心地ついていた将人にファテマが言った。
「そういう説明の方が分かりやすいですからね。ついでに『仙道』の行法について説明しておきましょうか」
善意にが興味津々という感じになり目を輝かせる。将人はコホンと一息つく。
「『仙道』は不老不死の『仙人』になる行法で、その行法は大まかに言って三種類あります。『天丹法』、『地丹法』、『人丹法』となります。『地丹法』は特殊な薬草や薬品を鍋にくべて火をかけて不老不死の薬『金丹』を作る行法を言います。それに対して『天丹法』はこの行法を肉体で行います。薬草や薬品を『氣』、鍋を人体、火を呼吸と置き換えればわかりやすいと思いますよ」
「薬草、薬品を食材、調味料にかえればそのまま調理になりますね」とエミリア。実際調理を担っていただけに理解が早かった。
この説明に吹き出す人物がいた。マサリアとパウラだった。
「ナベに将人の手足が生えるって変なゴーレムだわ。しかも火にかけられるってギャクにしかならないわ」
「お兄ちゃん、これからはナベ兄ちゃんって呼ぶよ」
そう言われ全員がイメージしてしまい吹き出してしまう。マサトだけが憮然とする。
「モウヤメヨッカ………」
「ゴメンよ、マサト君、最後の『人丹法』はどんな行法なの」
目の端に浮かぶ涙をぬぐいながらファテマに聞かれ将人は言い淀む。
「女の子が多い中で言うべきなのか………ウーン」
「もしかして何か変な事言おうとしてる。まずはお姉さんに言ってみて」
「マサト様、私にも教えて下さい」
将人のもとにやってくるエミリアとファテマ。『人丹法』の内容を耳打ちする。聞いているうちにファテマは顔を真っ赤にする。エミリアは表情を変えていないが頬が赤くなっている。
「マサト君、それ説明したら駄目!! マサリアちゃんやパウラには早すぎる!!」
「マサト様、アウトです。そんな事を誰かにやるようでしたら………モギますよ」
そのセリフに思わず股間を押さえる将人。
「ハイッ!! この話は生涯封印します!!」と必死な将人。
訳が分からないという顔をしているマサリアとパウラ。
「はい、次の話、次の話」と促すファテマ。
ちなみに『人丹法』は房中術とも呼ばれている。房中は部屋の中という意味があり、訳すなら部屋の中で行う術という意味になる。しかも男女で行うで術なのだ。部屋の中で男女がナニを行うのかは想像にお任せする。
閑話休題―――
「最後に『氣』を感じてみましょうか」
「『氣』を感じるってそんな事が出来るの、お兄ちゃん?」
首をかしげ聞くパウラ。
「万物に『氣』は宿ってるから分からないという事は………ない?」
ここまで言って将人はふと疑問に思う。こちらの世界の人は『魔力』という超自然的な力を理解し、使用する事が出来ている。『氣』の力も『魔力』と同様の力の筈である。なのに『氣』を全く知らないという事があるのだろうか? 誰かが故意に隠しているのではと考えてしまう。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
パウラに揺さぶられハッとする。思考に没頭していたらしい。自分の考えが正しいのなら『氣』について教えるのは非常にマズイのではと考えるがここでやめるのも不自然だしどうするかと悩んだ末、教える事にした。
「ああ、ゴメン、ちょっとボウッとしてた………この方法は簡単だから。まずは胸の前で手を合わせて―――」
将人は胸の前で手を合わせる。いわゆる合掌である。
「次に合わせた手が少し熱くなるまでこすりつける。そして両手を離す。その時掌の間に感じる独特の感じか『氣』だよ」
皆が頷き将人の動作をまねる。ピリッとしびれる感覚、掌から熱が放射されている感覚、軽い圧力感。人によって感じ方が違うが間違いなく『氣』を感じていた。
「この感覚を掌から全身に広げて操る事が出来るようにするのが『天丹法』の行法なんだけど今日はここまでにしよう。流石に少し疲れた」
「じゃあ今日はここまでにしようか。中々興味深かったよ、マサト君。また色々教えてね」
「それはこっちのセリフですよ、ファテマさん。今日はご馳走様でした」
そこでお開きとなりファテマたちと別れる。
「じゃこっちも戻ろうか、リア、エミさん」
二人を促す将人にマサリアが「後でマサトの部屋に行っていい?」ととんでもない事を言い出した。エミリアがマサリアから見えない位置で何かを握りつぶす動作をする。マサリアに何かしたら………という無言の圧力だった。将人はそれを見て小さな悲鳴を上げた。