仙人、食堂で『魔』と『仙道』について語る
パウラの抱擁からようやく脱出する事が出来た将人はマサリアやエミリア白い目で見られていた。
「ナ、何カナ?」
動揺してる為片言になってしまう将人。
「マサト、フケツだ!!」とマサリア。
エミリアは何も言わないがその分とても冷ややかな雰囲気で答えている、フケツと。
「しょ、しょうがないだろう。俺だって男だもの! DTだよ! 可愛い女の子に抱き着かれて鼻の下伸ばしてもしょうがないだろ」
「開き直ってる、サイテー」
そんな言い合いの後ろで原因となったパウラは頬をにっこり笑っている。可愛い女の子と呼ばれた事が嬉しいらしい。見た目に反してパウラの年齢は12才だった。まだ少女なのだから可愛いと呼ばれるのは確かに嬉しいだろう。
「あんたのせいで言い合いになってるのに笑ってるんじゃない、このお馬鹿!」
パウラの背中をペチッと叩く女冒険者。
「ゴメンね、愚妹が変な事したせいで。この子無邪気すぎてこういう事よくやちゃうのよ。私からも謝るからマサト君の事許してあげて」
「今回はこのお姉さんに免じて許してあげる。今度あんな顔してたら許さないんだからね!!」
「アザッす!!」
五体投地するような生き尾で頭を下げる将人。
「面白いね君たち。喜劇が終わった所でご飯食べに行こうか。私の奢りだからいっぱい食べてね」
「お姉さん、ご馳走になります………えっと、お姉さんのお名前は?」
「私はファテマ・セリエル20才、妹のパウラ共々下級冒険者2級よ。いずれ一緒に冒険する事もあると思うからその時はヨロシクね」
ラシェントの街、西地区は夜になっても闇に沈むことはなかった。辺りからは肉や香草を使った料理の匂いが辺りに充満しており食欲を刺激する。西地区はレストランや屋台、穀物の市場、歓楽街が集まった地区で明かりが消える事がない場所であった。
「ファテマさん、目的のお店はまだなの?」
マサリアはよほどお腹がすいているのだろう。エミリアが手を掴んでいなければどこかの店に飛び込んでいきそうだ。
「もうちょっとだから………ここだよ、ここ」
ファテマが指さした看板にはこちらの文字で『ローベル食堂』と書かれていた。
「ここの食堂は料金が安い割には美味しいしボリュームもあるから依頼を達成した時は必ずこの店に食べに来てお祝いするようにしてるのよ。さあ、行きましょう」
ファティマが食堂のドアを開け中に入る。将人たちも続いて中に入る。中は冒険者風の男たちや家族連れが食事や酒を楽しんでいた。
将人たちは大勢が座れる大テーブルの席に座る。料理の注文はこの食堂に慣れているファテマとパウラに任せ、将人たちは一息つく。
料理を注文し終えたファテマが将人に向き直ると頭を下げきた。いきなりの事でマサリアやエミリア、アベルドを見るがどうすればいいか分からない困ったような表情を浮かべている。将人も同じ顔をしていた。
「マサト君、ありがとう。君のお陰でパウラは助かった。あの場に君がいなかったら私はこの手でこの子を………冒険者になった時からその覚悟はしていたつもりだったけど私には出来なかった」
将人は誰かに詰られる事はあっても感謝される事には慣れてなかった。困った顔で頬を掻く。
「マサト君、パウラはあの時どうしてああなったんだ! 君はどうしてパウラを元に戻す事が出来たんだ!! よかったら教えてもらえる!!!」
「いいですよ、一つ一つ答えていきますよ。まず、最初の質問ですがパウラさんは『魔』に憑りつかれていました。どこで憑りつかれたのかは俺ではよくわかりません。ファテマさん、パウラちゃん何か心当たりはありませんか?」
ファテマ、パウラは考え込み、そういえばとパウラが手を打つ。
「討伐依頼のモンスターの一匹が思ったより手ごわかった。だから、私モンスターの攻撃を受けちゃった。治癒魔法が早かったから戦線復帰出来たしその時は大丈夫だと思っていたけどあの後、目の前が真っ暗になってその後どうなったか覚えてない………」
「多分その時に憑りつかれたんだと思います。そのモンスターもどこで『魔』に憑りつかれたのやら。ギルドに報告して依頼人に聞いてみた方がいいかもしれません」
「明日ギルドに追加報告するよ。ところでその『魔』っていったい何なの?」
その問いに将人は腕を組んで考えこむ。
「『魔』の定義って結構難しいんですよね。全ての生きとし生けるものを憎む邪悪なものという考え方で間違いないと思います。俺の友人が言うには『魔』に魔法は効きにくいらしいです。『魔』と魔法は同じ属性、『魔』も魔法も色で表すと同じ黒色で黒を黒で消す事が出来ないという事らしいです」
「という事は君は黒を打ち消す色の魔法を使う事が出来るという事なのかな?」
「正解です。それが俺が使う魔法………なのかな? 『仙道』というのが俺が使う魔法です。『仙道』を説明する前にこれ見て下さい」
将人は懐から冒険者認知所を取り出してファテマに見せる。将人の能力値を見て驚愕した。
「魔力値が零!? マサト君、これってどういう事?」
パウラもそれを見て驚きの表情を浮かべている。
「『仙道』というのは『氣』と呼ばれる特殊な力を扱います。これは魔力とは逆の力ではないかと考えています。『氣』が魔力を打ち消してしまうから零になってると考えてます」
「そういう事ね。だから相反する存在である『魔』を追い払う事が出来たって事なのね。じゃああの白い球はなんなの。あれが『氣』というものなの?」
「人体を鍋、『氣』は食材、呼吸と意識は火に見立て体の中でコトコト煮込んで生成したのがパウラさんに使った『小薬』です。この『小薬』は万病に効くもので『魔』にも効果があると考えました」
「その『仙道』っていうのは私たちにも出来るのかな」
「基本的な事ならすぐに教える事が出来るんだけととりあえず今はメシを食べましょうか」
ようやく注文していた食事がテーブルに並べられた。料理の匂いが鼻孔をくすぐり食欲を刺激する。
「そうだね。じゃあ食べようか」