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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第九章 仙人、武術大会二回戦編
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仙人、ウェルを救出、直線対円

将人は上着を脱ぎ、ウェルに渡す。


「ウェルさん、せめてそれ着て下さい。目の毒です」


「……ありがとうっす」


ウェルはモソモソと上着に手を通す。ウェルは胸元が凄い為、服が引き上げられ、下の部分が全く隠れていない。無理に引っ張って下を隠そうとすると胸の谷間や、服を押し上げる小さなポッチが強調され、逆にイヤらしくなっていた。将人は思わずガン見してしまい、その視線に気づいたウェルがニヤリと笑った。


「オヤオヤ、マサトさん。どこを見てるっすかぁ? そんな熱い視線で見られるとヤケドしちゃうっすよぉ」


腕を組んで胸を寄せ上げ、体をくねらせるウェル。それが妙に艶めかしく、将人の下腹部に血液が集まりそうになるが………


「アナタたちは……何をやっているのですか……」


地底の底から響いてくるような低い声と体の芯から凍えるような強力な殺気を叩きつけられ………縮こまってしまった。

声の主イズミの方を見ると、かなり苛立っているのが分かる。


「ナニをって……野暮っすねえ」


ウェルが火に油を注ぎ、ものの見事に発火した。


「アナタは黙りなさい!! 今すぐ殺しますよ!!」


「イヤー、怖いっすぅ」


ウェルはわざとらしい悲鳴を上げて将人の背後に避難する。


(さっきまで殺伐としていたはずなのに何だろうこの微妙な空間……)


将人は呆れ顔だ。


「クサカベ……マサトさんでしたね。そいつを渡してもらいましょうか。その人は人類すべての敵、唾棄すべき存在です。今すぐ殺さなければ後悔する事になりますよ」


「それってちょっとひどくない?」


「アナタは気づいていないのですか? その人は『滅び』の眷属です。アナタが『氣』の使い手であるならば一度は眷属と戦ったことがあるのではありませんか?」


背後のウェルを見ると先程までの余裕顔ではなくどこか苦しげな悲し気な表情になる。それを見てイズミの話が事実である事が分かった。


「わかったようですね……では」


イズミは将人の脇を通り過ぎ、背後にいるウェルに右手を伸ばす。その右手を将人が掴む。イズミが将人を睨む。


「……何のつもりですか?」


「何のつもりって……わかるでしょう」


「こいつは今のうちに殺しておかなければならない!! 生きるものすべての敵!! 生かしておいていい事など何もない!! それがどうして分からないのですか!?」


沈みの苛立ちが頂点に達し、憤怒の表情で将人を見る。その表情に将人はやや引きつつもイズミにはっきりと言った。


「ウェルさんを殺させはしない!!」


「たらし込まれましたか? 愚かな……」


「俺は平成の世から来た人間です。敵、味方、ゼロかイチかで単純に物事を考える事は出来ない! 俺は彼女を仲間と認めた、仲間である以上は助ける!」


将人の宣言にイズミは呆れた様に溜め息を付く。


「……あなたの意見などもう聞きません。退きなさい!!」


息を全て吐き、吸い込むと同時に右足を捩じり、腰を右に捩じり、右腕を外側に振る。思いもよらない力の発生に将人は踏ん張る事が出来ず、吹っ飛ばされるが何とか着地する。イズミとは一メートルほどの距離を取らされてしまう。

『八卦掌』はともかく静かな中国武術である。他の中国武術は足の踏み込み、そしてその反動の力を用いて打撃力に変える。柔の武術である『太極拳』でも踏み込む動作がある。だが、『八卦掌』の動作には踏み込むような動作がない。ならばどうやって力を発揮させるのか? それは捩じり、つまり螺旋の力を用いるのである。捩るというのは難しい動作ではなく、一歩も動かない状態でも力を発生させる事が可能である。


「アナタを守る者はこれでいなくなりました。死になさい!」


イズミが両掌で地面に座り込んでいるウェルの胸部を突く。両掌が胸部に直撃し、『秘力』が浸透すれば絶命は必至、ウェルは目を閉じる。胸部を襲うであろう衝撃はいつまでも来ず、恐る恐る目を開く。そこには見覚えのある背中があった。


「……マサトさん」


吹っ飛ばされた将人は『三体式』の構えから踏み込み、イズミの横合いから『崩拳』を打ち込み、両掌の軌道を逸らす。さらに『横拳』、右拳を跳ね上げ、イズミの顔面を狙うが拳が届く前にイズミは後退し、入れ替わるようにウェルの前に立ったのである。


「ウェルさん、立てますか?」


将人が背中越しに尋ねるとウェルが泣き笑いでぺたりと座り込む。


「腰が抜けたっす」


将人はずっこける。


「何をやってるんですか……分かりました。今はウェルさんを守る盾になりますから、その場を動かないで下さい」


将人は『三体式』の構えを取る。そんな将人の姿を見てウェルはウットリした顔になる。


「……自分、お姫様みたいっす」


「殺されそうなのに余裕あるっすね」


将人は呆れながら言う。ウェルの口調がうつってしまったようである。

イズミは将人の『崩拳』を受けた個所を触って状態を確認。内出血はしているが骨に異常がないことを確認し、『避正斜撃』の構えを取った。


「いいでしょう。『滅び』を救おうとする愚かな『氣』の使い手、クサカベ・マサト……あなたを敵とみなし、眷属と共に滅ぼします!」


「出来るものならやってみろ!!」


将人もイズミを敵とみなす。将人とイズミの視線が絡み合い火花が散った。そして二人は同時に動いた。


―――『形意拳』と『八卦掌』、奇しくも直線と円の対決だった。





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