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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第九章 仙人、武術大会二回戦編
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仙人VS無銘 戦う理由、得た答え

その言葉は槍となって将人の胸を貫いた。


―――戦う理由。


その言葉に思考の全てを奪われ、戦いの最中に戦いを忘れてしまった。だからユージンに間合いを詰められても気が付く事が出来なかった。ユージンは将人の腹部を短剣で横に薙いだ。刃引きの魔法がされている為、クロース・アーマーはその下の肉体が切られる事はなかったが、強力な衝撃は意識を奪うのには十分だった。将人は前のめりに倒れた。これにユージンは驚く。


「何で避けなかったでござるよ!?」


それに将人は答える事が出来なかった。

この大会でのルールでは倒れた者がテンカウント以内に立ち上がらなければ負けとされている。しかし、この大会の舞台にいたのはマサトとユージンのみで審判はいない、だとすると誰がカウントを取るのであろうか。それは観客であった。


「ワ~~ン!!」


観客から一斉にカウントが数えられる。観客が試合に参加できる唯一の機会がこのカウントを数える事だった。


「ツゥ~~ッ!!」


倒れている将人の耳には観客の声は届いていなかった。将人の意識は暗闇に埋没した。そのまま思考を放棄してもよかったのにまだ己に戦う意味を問うていた。


―――何故、俺は戦うのか?


元の世界に戻る為?

元の世界に戻る手為の手段として戦っているが、元に戻る別の方法があればこうやって戦ってはいないのではないだろうか。他の手段があるのなら戦う事はやめられる。これは戦う理由にならない。


マルテナに優勝してくれと頼まれた?

優勝してくれと頼まれはしたがこれは絶対ではない。マルテナには優勝は出来ないかもしれないと言ってるし、マルテナもそれを承知している。これも戦う理由にならない。


絶対的な強さを得る為か?

これもなんか違う。自分にはそんな闘争心はない。自分や身近な人が守れればそれで十分だと思っている。これも戦う理由にならない。


自分が戦う理由とは何だ?

意識のみの存在であるというのに将人は頭を抱えウンウン唸っていた。その時真っ暗な空間に何かが浮かび上がってきた。それはとても懐かしい光景だった。ただの将人が日下部将人になった日、日下部誠一郎に引き取られた日。前の両親にネグレクトされ、死ぬ事を希望と願う日々から抜ける事が出来た日だった。


(懐かしいな……)


しみじみと見ているとまた違う映像が浮かび上がった。それは誠一郎がとっておきを教えてやると言ってくれた日。『形意拳』と『仙道』の伝授が始まった日。


(教わる事で誠一郎さんや結衣姉さんと親密になれた、家族になれた)


『形意拳』や『仙道』を学んだ事により自信が持て、色々な人と繋がりが持てるようになった。鏡翠明と出会いオカルト的な事件に関わり、協力し解決する事が出来た。戦う事により色々な人と仲良く、そして関係を持てるようになった。


(そっか、これだ、これが戦う理由なんだ!!)


その考えに至った時、将人の目の前が明るくなった。



将人はボンヤリとした頭で目の前の壁を見ていた。


(前にもあったなこういうの………)


そんな事を考えていた時将人の耳にカウントが入ってくる。


「エイ~~ト!! ナイ~~ン!!」


将人は自分がユージンと戦っていた事、そのユージンに一撃を貰い倒れた事を思い出した。


(すると、このカウントは………テンになったら負ける!?)


将人は即座に立ち上がった。腹部に痛みがあるが我慢できる痛みだった。


「おお、起き上がったでござるか」


将人がいる位置から一メートル離れた位置に立つユージン。


「スマンでござるな。拙者精神攻撃するつもりはなかったでござるよ」


すまなそうな顔で言うユージン。


「いいんですよ。ユージンさんの言葉のお陰で自分が戦う理由を見直すきっかけになりました。気を失ってる間も考えて考えて答えを得る事が出来ました」


「気を失ってる間って……随分と器用な事をするでござるな…してその答えとは」


「はい、俺は誰かと繋がる為に戦い続けます」


その答えにユージン頭が付いてこれず一瞬ポカンとする。


「……それは敵と戦うとしてもでござるか?」


「たとえ敵と戦うとしてもそれを通じて何かを伝えあえる、繋がる事が出来ると俺は思います」


胸を張って言う将人をマジマジと見るユージン。そしてユージンは面白そうに笑う。


「この問いに正解はないでござるよ。正解は己が知っていればいい。マサト殿がそういう答えを出したのならそれを芯に生きればいいでござるよ」


「はい」


将人は頷き『三体式』の構えを取る。それだけでも今までとは違う事が分かる。ゆらりと雄々しい大木の佇まいにも似た構え。


「フム、変わったでござるな」


ユージン感心しつつも短剣を持った両手を脇に垂らす自然体の構えを取る。


「行きますよ」


将人は宣言し、中段付き『崩拳』を放つ。矢が放たれたかのような速さで一メートルの距離を縮め、拳で突いた。ユージンは両手の短剣をクロスし剣の腹で受ける。このまま受けては剣が持たないと判断したユージンは後方に飛んで衝撃を逃す。


「凄まじいでござるな。反撃に転じる事が出来なかったでござる。答え一つ得ただけでこんなに化けるとは………」


「敵に塩を送った事後悔してください」


「敵に塩? 何でござるか、その言葉は?」


「俺のいた世界の…いや国の故事です。苦境にある敵を助ける事、敵の窮地につけこむのではなく、窮状から救うという意味です」


「言いえて妙でござる。まさに拙者がやった事でござるな。だが、それと勝負は別でござる、塩を振っておいしく食べさせてもらうでござるよ」


「俺は猛毒ですよ。塩くらいじゃ解毒は出来ませんから」


「それは重畳。ではやり合うでござるよ」


初戦は将人の負けであった。だが、次のこの戦いでは果たしてどうなるか、運命の二回戦が始まった。

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