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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第九章 仙人、武術大会二回戦編
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仙人VS無銘、上位互換、戦う理由

ユージンは両手に持った短剣を脇に垂らし、自然体で立っていた。それに対して将人は『三体式』の構え。どちらも攻撃を捌き反撃に移るのが目的で自分から動こうとしない。膠着状態が続く事一分。派手な戦いに期待していた観客たちが焦れてブーイングする。その声に将人もユージンも困ったような微苦笑を浮かべる。


「ンー、これは参ったでござるな。拙者、自分から攻撃に転じるとというのは苦手なのでござるがそれは観客が納得せんでござろうな……拙者から動く故、躱してみるでござるよ」


ユージンがそう言った途端、一瞬にして将人の間合いに入り込んだ。ユージンは将人の腹部中心を右手の短剣で突く。将人は咄嗟に腰の添えていた右腕を腹部に差し込み短剣の突きを防ぐ。将人は突きの威力に乗って後方に飛びユージンの間合いから離れた。一瞬の攻防だったが、これが見たかったのだと観客が声援を上げる。今までにない声だったが将人には驚く余裕はなかった。


(動きの初期動作がなかった!?)


人は二本の足で移動する生物であり、移動する際には重心を片足に移動する。その際、どうしても体が傾くのである。その傾きが初期動作となり相手の動きを読む材料の一つとなるのだが、ユージンには体の傾きが全くなかった。この世界の人間は魔法という力がある。その為、体の動かし方が乱雑で分かりやすい。体のこなしより破壊力、スピードを重視する為、身体強化の魔法を使ったとしても非常に読みやすいのだ。なのにユージンの動きはそういった体の傾きを隠した、いうなれば将人のいた世界の武術家の動きをしていたのである。


「この世界の人がどうしてこんな動き出来るんだ? 自分で開発したのか?」


将人の問いにユージンは柔和な笑みを浮かべる。答えるつもりはない様だ。

守りに入っては負けてしまう、意を決して将人は攻撃に出る。将人は『三体式』の構えから『崩拳』を繰り出す。将人はユージンの間合いに入り右縦拳で突く。将人の使える技の中で最も得意とする突き。皮鎧の上からでも十分威力は通る。ユージンの皮鎧に拳が触れたと思った瞬間、拳は空を切った。そして左側が不意に暗くなった。将人は無意識に左拳をその影に向かって跳ね上げる。中段付きの『崩拳』がら内から外へ攻撃する『横拳』に攻撃を繋げたのだ。左拳が影に当たるとガツンという物理的な衝撃があり、それと同時に影が吹き飛んだ。吹き飛んだのは将人の拳を二つの短剣をクロスして防いだユージンだった。


「先程とは立場が逆になったでござるな」


ユージンは柔和な笑みを浮かべながら言う。まだ余裕も余力もあるようだ。だが、将人には余裕も余力もなかった。


(いったい何なんだこの人!? 今までも強敵と呼べる人と戦ってきたけどこの人はその中でもピカイチだ。凄くやりにくい)


「さあ、ドンドン行くでござるよ!!」


ユージンはそれ程早いわけではない、しかし余分な動きを排除した動きで将人の間合いに入り、短剣を振り上げた。



力強さがない、早くない、派手さがないそんな戦い、観客が望んだ戦いはもっと派手で力強いそんな戦闘のはずだった。それなのに観客は二人の戦いに魅せられていた。二人の動きは非常に洗練されており戦いというよりはダンスを踊っていると形容できるのだった。そんな戦いを見ていて疑問に思う者がいた。


「……将人は何であんなにやりにくそうなんだろう?」


観客席から試合を見ていたマサリアは疑問を漏らす。

マサリアとエミリアは将人がこの世界かに来た時から将人の戦いを見ている。今まで強敵と呼ばれる者との闘いを見てきているが、それでもあんなに戦いにくそうにしていた事はなかったと思う。


「アベルド、アンタ、あのユージンとかいう人と戦ったんでしょ。何か分からない?」


そう問われアベルドは腕を組み、ユージンと戦った時のことを思い出す。


「……私がユージン殿と戦った時かなり食い下がる事が出来たといった事を覚えてますか。何故食い下がる事が出来たのかというと、あのユージン殿の動きがマサト殿と似ていたからなんです」


「お兄ちゃんと似ている?」


アベルトの言葉にパウラは首を傾げる。


「マサト殿の動きは無駄な部分を排除し、最短で動いているのです。私はマサト殿の戦いをつぶさに見ていました。故にユージン殿のあの動きにある程度体甥で来たのですは……あのままだとマサト殿、マズいかもしれません」


「どうしてよ?」


「ユージン殿はマサト殿よりさらに無駄な動きがありません。言うなればマサト殿の上位互換と言えます。ユージン殿は身体強化の魔法は使っていませんが、それでもマサト殿には身体強化の魔法を使った者より早く見えているのではないでしょうか?」


戦いに目を戻すマサリア。二人の戦いの均衡が崩れ始めていた。


「マサト、防戦一方になってる」



将人はユージンに対して攻撃する事が出来ない。二つの短剣の連撃に避ける事しか出来ない。攻撃する隙を見つける事が出来ない。


(マズイ、このままじゃ負けてしまう)


必死に回避する将人。不意にユージンは攻撃を止め距離を取る。何故攻撃を止めるのかとユージンを見る。ユージンは何か考え込んでいるようだった。


「ダメでござるな、マサト殿」


「どういう事ですか?」


「マサト殿は体も技もきっちり鍛えているでござるな。でも何か空っぽ何でござるよ」


「空っぽ?」


「マサト殿は何のために戦っているでござるか?」


「何のために……」


将人はユージンの問いに答える事が出来なかった。その問いは今日受けたあらゆる攻撃より強烈で鋭い一撃だった。







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