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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第八章 仙人、武術大会開始
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仙人、『神剣』に借りを返される、ある事実が判明

アカマ武器屋のドアが開き、二人の人物が入ってきた。フード付きのマントを目深に被っており顔を見る事が出来ない。どこからどう見ても怪しい、何か訳アリの人物であることが見て取れた。将人とシゲルイ、シゲルイ兄が思わず、凝視してしまう。


「………イラッシャイ」


訝し気ながらもシゲルイ兄はどんな相手にでも会話のきっかけを与える魔法の言葉で声をかける。


「そんな怪しむ事なかろうて。どんな相手でも笑顔で対応じゃろうが。接客態度がなっとらんわ!」


フードの人物の一人がそんな風に話しかけてきた。少女の声で老人のような喋り方をするこの人物に将人は覚えがあった。


「もしかして……マルテナ様ですか?」


「当たりじゃがすぐに当てて欲しかったぞ」


目深に被っていたフードを降ろし、マルテナが顔を見せた。そんなに長い期間あっていなかった訳ではないのに将人にはとても懐かしく感じられた。思わずマルテナの手を取ってしまう。


「い、いきなり何をするのじゃ!」


マルテナは避難するように言うが語気に力がなく、アワアワする。そんな二人の様を尻目にシゲルイ兄はシゲルイに問いかける。


「なあ、シゲルイよ。俺の店は密会に最適な場所なのか? こんな小汚い所に王族の方がどうして来るんだ?」


「俺は将人の人柄だろう。将人がいなければ俺にも王族の方との接点なんてなかったからな」


冷静に答えるシゲルイ。


「いい加減手を離してはくれんか?」


耳まで赤く染めるマルテナ。それに気付いて慌てて手を離す将人。


「ス、スミマセン! なんか懐かしくて思わず! そ、それで今日は何用でこちらに?」


「そう、それじゃ!! 今日は予選突破を祝いに来たのじゃ」


「ありがとうございます」


「カタいのう。もう少し砕けた話し方は出来んのか? ワシとお主の仲ではないか?」


「イヤイヤ、どんな仲ですか?」


「今のワシの体をムリヤリ触ったじゃろう。そんな事が出来るくらいの仲じゃろ」


マルテナは意地悪な笑みを浮かべる。


「ムリヤリ触ったって手を握っただけでしょう。そんな大げさに言われても!?」


「そこまで嫌がらんでもいいじゃろう。ワシ、少し寂しいぞ」


「別に嫌がっていた訳ではなくて、その、偶然とはいえ美少女の手を握る事が出来たのは役得で結構嬉しかったし……」


言わなくていい事まで喋りそうになった将人を遮るようにマルテナの後ろに立っていたフードを目深に被った人物が咳払いをする。


「いつまで私を無視して戯れてるのですか? 無駄話はやめて用事を早く済ませましょう」


フードの人物の声に少し怒気が混じっていた。それにマルテナが顔色を変える。


「うう、スマンなのじゃ、姉さま。マサトはからかうと面白くてついの……」


「全くあなたという人は………」


フードの人物がマルテナを呆れた口調で戒めながらフードを外した。その人物を見たシゲルイ兄は顎が外れるのではないかというくらい大口を開ける。


「兄ちゃん、情けない顔するなよ」


「シゲルイは驚かないのか!? 『聖剣』と『神剣』だぞ! この国の剣士、戦士の頂点! その二強が何で俺の店に揃ってんだよ! 俺、今日死ぬのか!?」


「何でだよ!? 落ち着けって、兄ちゃん………」


過呼吸気味のシゲルイ兄を落ち着かせようとシゲルイは背中を軽く叩く。即興漫才をやっている二人は置いといて将人はアルマに問う。


「そうですよ。何故にここにアルマ様が!?」


「私は嫌だと言ったのですがマルテナが………」


「そうじゃ、姉さまよ! 受けた恩は返すのが筋じゃろう! そのまま踏み倒すなんて情けない真似はさせんぞ! そうじゃろ、マサト?」


「それはそうだと思うんですが……俺、アルマ様に何かしましたっけ?」


将人は思い当たる事がなく首を傾げる。それを聞いてマルテナは呆れた感じでため息をつく。


「マサトにとっては当たり前で大した事じゃないんじゃろうなあ……姉さまが『滅び』に憑かれた時、お主が祓ってくれたじゃろう」


将人はポンと手を打つ。


「この恩をどうにか返せんかとずっと考えておったんじゃが、その機会がやっと来たんで今日ここ来たんじゃよ。ホレ、姉さま」


マルテナがアルマを引っ張って将人の前に引き出す。アルマは将人を見て本当に嫌そうな顔をする。マルテナよりも美少女であるアルマに本気で嫌な顔をされると地味に落ち込む。どうして嫌われているのだろうと真剣に考えてしまう。


「本当に嫌なんですが、借りを返さないというのも気が引けます。ですからこれで借りを返す事にしましょう」


アルマが将人の顔の前に右手を向け、呪文を唱える。その途端右手から激しい魔力光が迸る。運河の様な膨大な魔力量で治癒魔法が行われる。将人の『氣』の防御を突破して魔力が体に届いた。膨大な魔力が将人の体を駆け巡り、体中の傷を無理矢理治癒していく。


「これが治癒魔法か…凄いけどこれは…ウウ…」


無理矢理直される感じが痛みに近く、立っていられなくなり膝をつく。


「……驚きましたね。私の治癒魔法は一回で十数人の治療を可能にします。なのにあなた一人を治療するのに二回かけ直さなければなりませんでした………あなたと戦えたら楽しいでしょうね」


そう言ったアルマの顔は王女のものではなく一介の剣士の顔だった。


「姉さまも物騒じゃな。今は戦いに来たんじゃないんじゃぞ」


「分かっています……これで借りは返しました。さあ、マルテナ行きましょう」


これで用が済んだとでも言うようにマルテナを引っ張り出口に向かう。


「ちょっ姉さま。もう少しいてもいいじゃろう」


「いけません、早く戻らないと父さまのお仕置きを受けますよ! いいのですか!? 私もあれは嫌なんですから早く戻りますよ!!」


「それもそうじゃの、マサトよ、また会おう!」


アルマとマルテナは足早にアカマ武器屋を出て行った。


「嵐が過ぎ去ったな……」


シゲルイ兄は呆然として呟いた。


「兄ちゃん、これはチャンスだ! 王女の二人に顔を覚えてもらえば儲けに繋がるぞ」


「それもそうだな」


悪代官度越後屋のように笑い合う二人を尻目に将人は考え込んでいた。

アルマの魔法は将人の『氣』の防御を突破した。これは将人が優位に立てる物が無くなった事を意味していた。決勝まで勝ち残りアルマと戦う時には何か手を考えなければならない。なんとも気が重くなる事実だが、決勝になって分かるよりはまだましだと将人は前向きに考える事にした。





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