仙人、新たな装備に悩むが………
「フゥッ、ようやっと終わったぜ」
シゲルイがやや疲れた表情でマサト達の元にやってきた。
「シゲルイさんお疲れ様です」
将人が空の木の杯をシゲルイに渡し、果実酒を注ぐ。シゲルイは首に巻いた布で汗を拭きつつ果実酒をあおる。飲んだアロに少し不満顔になる。
「………まあ、まずくはないんだが俺には少し甘すぎる、エールはないのか?」
「それは、、あの人が独り占めしました」
将人はエールのラッパ飲みのしているウェルを指差す。足元には嘉新便がいくつも転がっている。将人とシゲルイの視線に気づきシュタッっと手を上げる。
「先にいただいてるっすよ」
かなり飲んでいるのに酔っぱらった感じがしない。鉄の肝臓の持ち主である。
「俺はよぉ、将人の鎖かたびらの修繕してたんだよ。ああいう細かい作業はスゲェ疲れるんだわ。そんな作業が終わった後のエールが最高にうまいんだよなあ………」
「その話のオチは何っすか?」
「残しておけよこのヤロウ!!」
シゲルイがウェルに詰め寄り睨みつける。襟首を掴みガクガク揺らす。
「ああ、顔が近いっす、暑苦しいっす、汗臭いっす。それから自分ヤロウじゃないっす。オトメっすよ」
「嘘をつけ、絶対オトメじゃねえだろう!! ヤロウだろう!!」
さり気にセクハラ発言をするシゲルイ。ニアピンだった。
「まあまあ、シゲルイさん」
将人とファテマがシゲルイを引きはがす。
「ふう、アリガトウっす、お二人さん。シゲルイさんも落ち着いて欲しいっす。これからエール、瓶で何本か買ってくるっすからそれで勘弁してほしいっす!」
「よし、行ってこい!」
「ウっす!」
ウェルが身体強化の魔法を使って跳躍し、屋根を伝って移動する。
「お使いに魔法使うなよ。魔力の無駄使いだろうに」
呆れ顔で上空をしばらく見つめる将人たち。
「まあ、ウェルが帰ってくるまで果実酒で我慢するか」
シゲルイがその場に座り、果実酒をちびちび飲む。
「ところでマサト、装備の方はどうすんだ。鎖かたびらは修繕できたが、クロース・アーマーは廃棄した方がいいぞ。あれじゃもう役に立たん」
「そうですか……これからも使ってやりたかったんですが……」
「よく持ったよな。あれってほとんど防御力ねえだろ。それを今までよく使えたもんだ。お前の防御の技術がそれなりのもんだから持ったんだろうな」
将人の体の素のスペックはそれ程ではない。この世界で言うならば下から数えた方が早いかもしれない。それでも強敵と戦う事が出来るのは一重に『形意拳』の技量ゆえだ。
「で、どうするよ。また、クロース・アーマーを購入するか。それとも新たにソフト・レザー・アーマーとか購入するか?」
将人は腕を組んで悩む。この世界では強敵が多すぎる。『形意拳』の技量を持ってしても防ぎきれなくなってきてるのではなかろうか。新たな装備を考える時期に来ているのではと考える。
「ソフト・レザー・アーマーってどんな物何ですか?」
「それはな―――」
シゲルイが説明してくれた。ソフト・レザー・アーマーは革の鎧だが革と革の間に綿などを詰めてキルティングしたもので体の動きをそれ程制限をしないものの防御力はそれほど高いものではないらしい。
「……着比べてみないと何とも言えませんね?」
「酒が来るまで時間もあるし少し見てみるか?」
「お願いします」
将人とシゲルイは裏口からではなく店脇の狭い路地を通ってアカマ武器屋の入り口から店内に入った。
「イラッシャ……何だ、シゲルイか? 客じゃねえのかよ」
「そういうな、兄ちゃん。客を連れてきたんだからよ」
「客って?」
シゲルイ兄が将人を指差し、将人は二度頷く。
「あんな凄い戦いしてれば装備もワヤになるわな。お前、あんな津波に突っ込むような真似がよく出来たな、普通逃げないか?」
シゲルイ兄も将人と『暗黒』の戦いを見たいたようだ。
「どこにどう行こうか逃げ道がありませんでしたから、そうなると立ち向かうよりないでしょう」
「普通降参するもんだが……俺の方がおかしいのか?」
「そんな事ねえよ、兄ちゃん。マルテナ様に言われたとはいえ無茶しすぎだ………まあ、いいか。そういう訳だから兄ちゃん、新しい装備が必要なんだよ」
「そういう事ならまぎれもない客だな……アカマ武器屋にようこそ!!」
白々しく言うシゲルイ兄に苦笑する将人。
「それなんだがな兄ちゃん、クロース・アーマーとソフト・レザー・アーマーを出してもらえないか?」
「マサトの戦い方を見てたがよ、そんな防御力低い装備で大丈夫なのか。スケイル・アーマーとか、胸当とかの方がいいんじゃないか?」
「マサトの場合、防御力より動きやすさ重視なんだよ」
「わかった。ちょっと待ってろ」
シゲルイ兄は店内に置いてあるソフト・レザー・アーマーとクロース・アーマーを何点かだし、カウンターの上に置く。
「ほれ、ちょっと装備してみろ」
将人は頷き、ソフト・レザー・アーマーを装備し腕や首を回してみる。ごわごわした感触がありあまり着心地は良くなかった。装備した状態で『五行拳』を一通りやってみたが違和感があった。ギリギリの戦いになった時その違和感は致命傷になりえる。
「イマイチか?」
「イマイチですね。クロース・アーマーでお願いします」
「毎度ありなんだが、もう少し高い物買ってくれよ。売りがいってもんがねえな」
「すみません。でも、これからが激戦になりますしあと二、三着は買う事になりそうですから、売り上げに貢献できますよ」
「そういう事ならいい。これからもアカマ武器屋をヨロシク!」
商人の顔になっているシゲルイ兄に将人は苦笑した。