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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第八章 仙人、武術大会開始
156/190

仙人、パウラVSイズミ、この人物がもしや……

口に含んだ果実酒を思いっ切り噴いた。その際、気管にも入り思いっ切りむせた。噴いた果実酒が正面にいたアベルトとパウラに飛び悲鳴が上がった。


「うう、汚れちゃたよ………」


「マサト殿の物とは言えこれは………」


「二人ともマサトさんに思いっきりかけられたっすねぇ、自分にもかけて欲しいっすよ」


「そういう事なら」


将人は果実酒を口に含み、ウェルの方を向く。ウェルは危険を感じ一歩後ろに下がる。その分将人は前に出る。そこでウェルはいいことを思いついたという表情を見せた。


「マサトさん、食べ物、飲み物は粗末にしたらダメっすよ……そんな事をするなら…自分の口の中に出して欲しいっす」


ウェルは自ら前に出て将人の前に唇を突き出す。何というか顔がニヤけていた。からかう気マンマンのようである。思わず将人は口の中の果実酒を飲み干してしまい、またむせた。


「何で飲み込んでしまうんっすか? 自分の中に思いっきり出してほしかったすよ」


「下ネタ禁止!!」


将人の突っ込みにウェルが意地の悪い笑みを浮かべている。


「全く、この娘さんは……パウラちゃん、話の腰を折ってスマン。よかったら話を続けてくれないか?」


パウラは涙目で私服にかけられた果実酒を拭きとっていた。


「ムゥ~……お兄ちゃんも吹くのを手伝ってよ! そうしたら話すから」


パウラに乾いた布を渡され、将人は固まってしまった。


(拭くのを手伝えって………その意味わかってるの!? 体に触れと言ってるんだよ、パウラちゃん)


「早く拭いてよお兄ちゃん」


ホレッと言うように胸を張るパウラ。


(確かに胸元も汚れているがそこを拭けと言うのか!?)


助けを求めるように周りに視線を向ける将人。マサリアには睨まれた。エミリアは無表情。ファテマは生暖かく見つめている。アベルトは悔しそうに涙を流す。ウェルは口元を押さえ体を震わせている。口元を押さえて居なかったら大爆笑していたのだろう。

味方がいないと分かった将人はすかさず土下座。


「パウラちゃん、ゴメン! それはカンベンしてつかぁさい!」


動揺し、言葉使いが少し変になる将人。


「………もうしょうがないなあ、お兄ちゃんは。その代わり後で何かしてもらうからね」


「ありがとうございます!!」


主導権をパウラにとられてしまう将人。


「ついでと言っては何ですが、そのイズミ氏との戦闘の話を続けてもらっていいでしょうか?」


「しょうがないなあ、お兄ちゃんは………」


パウラは意気揚々にイズミとの戦闘、後半の部分を離し始めた。



「イックヨー!!」


パウラの気合を入れた掛け声と同時に足元に魔力を集中、放出し、推進力に変え突進した。イズミまでの距離は約三メートル。魔力を推進力に変えた事で一瞬でトップスピードとなりそのスピードは時速百キロに達していた。三メートルの距離など一瞬で埋まってしまう。身体強化と鎧の防御力の強化、魔力放出により引き出された推進力、それらの力がパウラの組み合わせた拳に収束される。パウラは勝利を確信したがそれは脆くも霧散した。

イズミの姿が霧が如く消え、拳は空を切り、イズミの背後の壁に激突したのだった。破壊された壁の下敷きになるパウラ。『八卦掌』独特の構えのまま、パウラが埋まった瓦礫を見るイズミ。流石に心配そうな表情だった。


「アー、ビックリしたぁ」


崩れた瓦礫の中から何事もなかったように出てくるパウラを見てイズミはほっとしたような表情を見せる。


「呆れた頑丈さですね、アナタは。あんな速度でぶつかったのに全く無傷ですか?」


「イズミお姉ちゃんこそスゴいね、当たったと思ったのにどうやって避けたの?」


「イズミお姉ちゃんって………」


イズミは照れたように顔を赤らめる。


「そういう風に揺さぶってくるとは意外に卑怯ですね」


「揺さぶりって?」


パウラは首を傾げるが全身鎧姿ではイマイチ可愛くなかった。


「ともかくもう一回行くよ!」


身体強化と鎧の防御力強化の魔法の効力は未だ持続している。もう一度両拳を合わせ、足元に魔力を集中、放出し突進した。イズミとの間合いを一瞬で詰め、今度は何が起こっているを見る事が出来た。

イズミがやっていたことは至極簡単だった。パウラの突進技の起こりを察知、当たる瞬間に回転扉が如く回転しパウラの拳をやり過ごしていたのだ。言葉にすれば至極簡単な事なのだが、実際に行動するとなれば正気の沙汰ではない。現実の世界でも時速百キロの物体を避けるど出来る物ではない。ここにも狂気に満ちた人物がいた。

また、壁に激突し瓦礫に埋もれるもすぐに出てくるパウラ。


「ビックリしたよ、イズミお姉ちゃん。こんなまっとうな方法で躱されるなんて思わなかったよ! スゴイスゴイ!!」


興奮しきりに叫ぶパウラ。


「アナタの攻撃は効かない事はこれで証明されました。諦めて降参しなさい」


「まだまだだよ、今度はこうするから」


パウラは再び突進する。それをイズミが避ける。パウラは魔力を正面に放出、急制動をかけ方向を転換し再度イズミに突進する。幾度も行われる突進をイズミはものの見事に躱す。幾数もの隕石を紙一重で躱しているようなものだった。これは偶然にも将人が別の予選会場で行ったのと同じものだった。

先にバテたのはパウラだった。この突進技は魔力を馬鹿食いする為、長時間連続で出来る物ではなかった。それ故の必殺技だったのだがこうも避けられると必殺技とは言えない。


「アレ…おか…しいな…体に…力が…入ら…ない」


息も絶え絶え、背中に担いでいたゼロ鉄製の大剣を杖に立つパウラ。


「もっと魔力の運用を考えた攻撃をしなければ当然そうなります。その突進技が破られた時点で別の方法で攻撃するべきでしたね……どうします、降参しますか?」


パウラは杖にしていた大剣を正眼に構えた。魔力を極端に消費し、身体強化の魔法も解けていた。鎧の重さが体に直にかかる。疲労もピークに達し体も重いし大剣も重く感じる。それでも正眼の構えを崩さなかった。


「まだ負けてないよ、イズミお姉ちゃん」


「そこまで頑張らなくてもいいでしょうに………いいでしょう。アナタのその意志の力に敬意を表し一撃で倒してあげましょう」


「そうはいかないよ………」


パウラは剣を振り上げ走る。身体強化の切れた状態での走りは非常に鈍重で遅いものだった。だが、決死の思いでかかってくる者をイズミはそれを笑わなかった。パウラはイズミの間合いに入り大剣を振り下ろす。イズミは『八卦掌』独特の歩法でパウラの左側面に逃れ両掌でパウラの腹部を突いた。鎧を貫通する不思議な威力にパウラの意識は刈り取られた。鎧を貫通してくるこの威力がある人物の物と似ていた。だから思わず言葉に出ていた。


「お…にい…ちゃんの…技と…に…て…」


ここでパウラの視界は暗転する。だが、まだ聴覚が生きていた。最後に拾えたのはこんな言葉だった。


「ま…か…かれ……てい……か、すい…いが」


ここでパウラの意識は完全に途切れた。そしてパウラの予選敗退が決定した。



「………という訳で私の負けが決まったんだよ、お兄ちゃん」


残念そうに言うパウラの言葉が将人の耳には入っていなかった。イズミが言ったという最後の言葉が将人の頭の中で引っかかていた。


(イズミという人は最後に何て言った。『すい…い』とこれはもしかしてスイメイと言おうとしていたんじゃないのか!?)


鏡翠明―――異世界に帰った幼馴染みを探す為、異世界転移の魔術を行った友人、将人がこの世界に来るきっかけとなった男である。ついでに言えば彼も武術を嗜んでおり、その武術は『八卦掌』だった。偶然ではないかもしれない、このイズミという人物が友人の幼なじみなのかもしれない。幼馴染みという関係から彼女に『八卦掌』を教えたのではないかと考えられる。

この世界に来て初めて友人の居場所の手がかりをゲット出来るかもしれないと思うと感慨深いものがあった。










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