仙人VS暗黒、盾を捨てる、本来の実力
狭い場所においてはマティアスの大剣のような大型の武器は向いていない。大型の武器は重さを利用し上からあるいは斜め上から振り下ろす事で威力を発揮する。だが将人が陣取った場所では斜め上から振り下ろす事が出来ない。上から振り下ろすにもうまく距離を取らなければ途中で壁にぶつかり振り切る事が出来ない。ならば残るのは刺突しかない。だが、大剣は鈍重で早さが全くなく、体をひねれば簡単に避けられる。盾で押しつぶそうなら、それを狙って将人は拳で突いてくる。盾越しに響いてくる衝撃にマティアスは驚愕する。盾を持つ手を通じて体に響く衝撃は巨大なハンマーを振るわれたが如くだ。それが二撃、三撃と続き、マティアスは逃れるように後ろに下がる。
前大会において、『神剣』をあと一歩まで追いつめた強者を後ろに引かせたのが武器を所持しない―――とは言っても防具は装備しているのだが―――少年であるのだから驚くよりないだろう。
マティアスは驚きから動きを止め将人を見る。
「普通に戦うのでは勝てない。そこで逃げるふりをして自分が有利になる場所を探して相手を追い詰める。実に理にかなっている。見事というよりない。街中での戦いに慣れてるようだな、マサト」
いきなりの称賛に将人は面食らう。
「お褒めいただき恐悦至極と言ったところだが………降参する? それならありがたいんだけど……」
「まさかっ!」
マティアスは盾を手放した。地面に落とした盾か甲高い音を上げる。マティアスは大きく息を吐き、将人を見据える。その眼が巨大な津波が来る前の静けさのように感じられ、身震いする。
「……俺は腑抜けていたらしい。ガキみたいに新しいおもちゃを手に入れはしゃいでいた。マサトの力も見抜けなかった。あのような神業を見せた相手を格下と見誤っていた。『神剣』以外にも強者がこうやっているというのに何を思い上がっていたのやら………思い上がりを戒めてくれた将人には感謝する。この感謝はこの剣で返すとしよう……勝負だ、マサト!!」
マティアスは大剣の切っ先を将人に向ける。切っ先から得る不可視の圧力が将人を射抜く。その圧力に押され将人は『三体式』の構えを取る。
「感謝というなら降参してくれた方がいいんだけど……」
聞く耳持たずと言った感じでマティアスは大剣を頭上に掲げる。黒い刀身にそれよりさらに暗い闇の魔力が集まっていく。
「行くぞっ!!」
マティアスは大剣を振り下ろした。
王城広場―――
マティアスが剣を摺り下ろすと同時に光球に映し出されていた映像が映らなくなった。見ていたものが騒めき立つ。
「どうして急に映らなくなったの!?」
マサリアが不安げにエミリアに話しかける。
「現場にいる使い魔に何かあったのではないでしょうか?」
「そうかもしれんの」
解説役となった初老の男性か答えた。
「あの盾は今回初めて使用したものだ。あの戦い方は『暗黒』の本来の戦い方じゃない。盾を捨てた事により、本来の戦い方に戻った。『暗黒』が本来の戦い方をするんなら映像が来なくなった事は理解出来る」
「それは一体どういう………」
「リアお嬢様、映像が復活しました」
映し出された映像を見てマサリアは呆然としてポツリと呟いた。
「……街が半壊してる」
大剣が振り下ろされると同時に闇の魔力刃が放出される。将人はそれを受け止めず体をずらして回避する。通過した魔力刃は後方の壁を豆腐のようにやすやすと切り裂いた。壁を切り裂きさらに街中にまで魔力刃が届く。さらに数回大剣を振るい、闇の魔力刃を放出する。それ何とか避ける将人。後ろの壁が倒壊し、何トンもあると思われる岩石が将人に振る掛かる。走って逃げる将人の前にマティアスが立ちはだかり、横一文字に切りかかる。急な事で止まる事もの跳躍して避ける事も出来ない、マティアスは勝利を確信した。迫りくる大剣に対して将人は咄嗟にある行動をとった。将人は両膝を付き上半身を後方に倒したのだ。走る勢いが残っている為、大剣の下を通り抜けさらに前進した。将人は立ち上がり、マティアスの後方に回り込めたが、追撃はせず、逃走した。
「また逃げるか、マサト。だが、お前に有利な場所などもうないぞ! 俺がこうするからだ!!」
マティアスが立ち止まると四方八方に魔力刃を放出し、周囲の建物を破壊したのだった。そうする事で将人が有利になると思われる場所を全て破壊したのだ。将人はもうもうと湧き上がる砂煙に激しく咳き込み、思わず立ち止まりマティアスを睨む。
「何て無茶するんだ! 器物破損だぞ! もっと建物を大事にしろ!」
「ここは人工の街だぞ。破壊しようんが何しようが構わんだろ」
その言葉に的とは言葉を詰まらせる。確かにここは魔法で造られた人工の街だ、破壊も何も自由だ。
ちなみにこの魔力刃のせいで地上にいる使い魔は全滅し一端映像が途切れる。その為、再召喚した使い魔は空を飛行出来る物だ。
「チクショウ、魔法何て大っ嫌いだ!!」
悔し紛れにそんな事を言いながら将人はまた走り出した。それを追うマティアス。将人たちは再び大広場に戻ってきた。そこで足を止める。
「どうした、もう逃げないのか?」
「もう逃げるのにも飽きた。最初の場所で最後のけりをつけようか」
「ほう、それはいい………最後に言っておく。お前は得難き難敵だった。もっと戦っていたかったが、この後『神剣』との闘いが控えている。俺はお前を糧にさらに強くなり『神剣』を倒す。何度も言うようだが……勝負だ、マサト!!」
「俺を食って食あたり起こすなよ、このヤロウ!! 勝負だ、『暗黒』のマティアス!!」
将人は『三体式』、マティアスは大剣を上段に構えた。否応なしに二人の周りの空気が軋みを上げていた。