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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第八章 仙人、武術大会開始
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仙人VS暗黒、攻防完璧な相手に取った戦術は………

将人は『三体式』の構え、マティアスは楕円形の長い盾で体の左半分を隠し右手で大剣を中段に構える。将人は対峙して改めてやりにくいと思った。盾を持った相手との戦闘経験がほとんどない為、攻めあぐねていた。マティアスほどの相手にむやみに突っ込めば迎撃されるのは目に見えている。


「いつまでも睨めっこをしていてもしょうがないぞ」


マティアスの挑発に将人は乗らなかった。今は自分から動かず防御に徹し活路を見出すつもりだ。


「このままじゃ埒が明かん。こっちからいくぞ!」


将人とマティアスの距離は約二メートル。その距離を一瞬で潰し、将人の間合いに入る。将人は全く動く事が出来なかった。

この世界の戦士や冒険者は重い武器や防具を装備していても身体強化の魔法で重さが全く関係ない動きをする事が出来る。そのせいか動きが大雑把で大体の動きが読めてしまう。先の戦いであらゆる攻撃を避けられたのはこの読みがあった為だ。だが、マティアスの動きには身体強化の魔法を使った者特有の無駄な動きが全くなった。だからたやすく間合いに入られてしまった。

マティアスはすでに大剣を振り上げている。このまま振り下ろされればそれで試合は終わってしまう。将人には耐久力がほとんどない。攻撃を食らえば一発で終わってしまう。

恥も外見もない、将人は左前方に向かって獣のように飛びのく。地面を転がりながら間合いから離れ、再び対峙する。


「ほう、この攻撃を避けるか? ほとんどの出場者はこれだけで終わっていたのだがな」


「一体どんな歩法を使ったんだ? 動く気配が全くなかった、一瞬で間合いに入られた………」


将人は『三体式』の構えを取り、呼吸を整え、動揺を抑えながら考える。人が一歩歩くだけでも他の個所も連動して動く。色々な個所が連動すれば大きな動きとなり、行動はすぐに読まれてしまう。武術の世界では『先に開展を求め後に緊湊に至る』という言葉がある。最初は突きや蹴りの威力の上昇に努め、後に小さな動作で同じ威力が引き出せるようにするという意味であり、将人もある程度なら動作を省略して威力を発揮する事が出来る。マティアスは将人とは比べ物にならない精度で動きを消し滑る込むように動いて見せたのだ。将人の世界でも出来る物が少ないであろう歩法をマティアスは自分で編み出したのだとすればすとてつもない実力の持ち主だった。

離れていては危険すぎる、防御に徹するなど言っていられない。将人は自ら一歩前に踏み出す。狙うはマティアスの盾だった。鉄壁の防御故に盾側には意識が向いていない。接近すれば盾で防御するはずである。そこに最大の威力の攻撃を叩きこめば盾を手放させる事が出来るかもしれなかった。将人はマティアスに肉薄し、盾に向かって両掌を突く出す。『十二形拳』の一つ『虎形拳』だった。

『虎形拳』を繰り出す中、将人の頭に閃くものがあった。


―――技も力も鍛え、装備も整えた。


装備を整えたとはどういう事だろうか? 新たに盾を新調したのだろうか? それだけで『神剣』に勝つといえるのだろうか。そんなはずはない、だとすればこの盾は………。盾には表情はない、それなのに盾がニヤリと笑ったような気がした。

次の瞬間、ドンという衝撃と共に将人は後方へ数メートルほど吹っ飛ばされ、受け身も取れず地面に叩きつけられる。



「何が起こったの!?」


光球に映し出された映像を見てマサリアが驚きの声を上げた。将人が両掌でマティアスの盾を突こうとしたら逆に将人が吹っ飛ばされたのだ。何が起こったのか分からず困惑していた。


「そうか、そういう事か!!」


マサリアの後ろで予選を見ていた初老の男性が声を上げた。


「どういう事よ、オジサン!?」


「前の大会じゃ『暗黒』は盾なんて装備してなかった!! あれが『神剣』と戦うための新装備なんだ!!」


マティアスが今回の大会に備えて用意した必中の武器、それが楕円形の魔法の盾だった。この魔法の盾は任意で魔力の衝撃波を放出する事が出来る、攻撃、防御両方の特性を備える優れて一品だった。



うつ伏せに倒れている将人にマティアスは近づき、大剣で突く。剣が当たる直前に将人は地面を突っ張って後方へ逃れ、立ち上がり更に二、三歩後方へ下がる。


「……どういう事だ?」


マティアスは納得いかないというように将人を睨む。


「どういう事とは?」


「人を殺すような魔法は禁止されている。衝撃波の威力を抑えているとはいえ、お前は動く事が出来ないはずだ。なのに何故、お前は動ける?」


「俺にも魔法の盾があるんだよ」


将人はニヤリと笑う。種明かしはこうだった。マティアスの魔法の盾が発動した瞬間、アイアスが自立起動し『氣』を放出し将人の前面に集中、衝撃波を相殺したのだ。ただ、完全に相殺する事が出来ず、将人は吹っ飛ばされたのだ。それだけで済んだとはいえそれなりのダメージは残っており、頭がくらくらしていた。ダメージを悟らせないように、将人は『三体式』の構えを取る。

再び将人とマティアスは対峙するのだが、このままではジリ貧である。攻撃、防御はともに完璧、正体の分からない必中の歩法も備えている。それに対しこちらは攻防の引き出しが少ない。この少ない引き出しでどう戦うべきか、将人は思案する。そしてある一つの方法を思い出し、それをパクる事にした。

将人は『三体式』の構えを解いた。それを見てマティアスが怪訝な顔をする。


「何のつもりだ? 降参するというのならそれでもいいが………」


将人はチッチッチと舌を鳴らし人差し指を左右に振る。


「俺のお郷の物語に奇妙な冒険をする主人公がいるんだが、その主人公が強敵と戦う時、ある戦術を取るんだ。それが……これだ!」


将人はマティアスに背を向けると全力疾走した。マティアスは将人の行動が理解できず唖然としてしまい、行動が遅れる。


「逃げるつもりか!?」


逃げるというのは戦う者にとっても唾棄する行動だ。マティアスは怒りの声を上げる。それに対し将人は後ろを振り向かず手を振る。


「ア~バヨ~トッツァ~ン!!」


有名な怪盗の三代目の様な事を言って大広場から逃走した。








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