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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第八章 仙人、武術大会開始
147/190

仙人、武器の暴風対一枚の木の葉、予選通過には………

殺意が込められたありとあらゆる武器が将人を襲う。

大地を揺るがすほどの威力を籠めて振り襲される戦槌、岩を穿つ水滴が如く連続の突きを放つ双剣、烈火の如く気合が込められた剛剣の一撃、風のように緩やかに動き死角から放たれる短剣の一撃―――

出場者の武器には刃引きの魔法がかけられており殺傷力はないはずだが、一撃当たればそんなことは関係ない。人を絶命させるだけの威力が乗っていた。

まさに人が作り出したあらゆる武器の暴風。何もかも薙ぎ払い切り裂かんとする暴風の中を木の葉にも等しい将人はユラリユラリと歩いていく。悠然と歩いているようでも精神力、気力共にがりがりと削られていた。


(こんな中歩く何て我ながら正気の沙汰じゃない!! 俺どうしてこんなことしてるんだろう………アチッ、頬が切れた。少し読みが甘かった!? しっかりしろ、俺!!)


将人の頬に剣が掠り血が流れる。今はそれを拭う事は許されない。それだけでも隙になる。そうなればこの暴風に身を切り裂かれ生きて出る事は出来ない。将人は今にも気を失いそうになる意識を奮い立たせ、結界の中を歩く。

この世界の戦士、あるいは冒険者と呼ばれる人種は身体強化の魔法が使える。これは前線で危険なモンスターと戦う上では必須の魔法である。それが使えない将人はスペック的には最弱で冒険者としては絶望的である。だが、戦いはスペックで行うものではなく知恵や知識、技術や経験があれば力の差など簡単にひっくり返す事が出来る。将人は相手の一挙手一投足から次の動きを読み、暴風の隙間を見つけ『形意拳』の直線的な動きで最速でそこに体を滑り込ませる事で攻撃を避けていた。



将人が複数の相手からの攻撃を避けられるのにはそんな絡繰があるとは考えられず、バカな事を考えるものが現れた。目の前にいるのは実体なのだろうかと? 幻影の魔法の類ではないかと考え、一人の男が呪文を唱え将人に向かって放つ。将人はその魔法を避ける事が出来ず、もろに食らってしまう。その行為により全員の動きが止まる。


「今の魔法は魔法解除の魔法だ!! 幻影か何かの魔法を使ってるようだがそんなインチキいつまでも続かんぞ!! 挑発した報いを受けろ!!」


魔法を放った男が疾走し、将人の間合いに入り長剣を振り下ろす。将人は『三体式』の構えを取る。剣が振り下ろされる前に左足を左斜めに進め、相手の右側に逃れる。すれ違い様に右掌で軽く相手の肩を押す。攻撃力はなく相手が体勢を崩すだけだった。


「幻覚じゃなく実体だよ。幻覚なんて使わなくてもアンタらの未熟な剣術じゃ誰とも戦えんよ」


将人はさらに挑発するがその度に罪悪感を覚え、顔を歪める。また、全員から殺気が立ち上り、また全員の攻撃が始まろうとした時だった。


「ちょっと待った!!」


そう声を上げたのは将人に解除魔法を仕掛けた男だった。


「一体どういう事だ!?」


何の事か分からず将人は首を傾げる。


「お前が使っていたのは幻覚の魔法ではないとしよう。実際に避けているとしてもそれは身体強化の魔法の恩恵のはずだ。身体強化の魔法は確実に解けたはずなのにどうして俺の攻撃を避けられた!?」


「ああ、そういう事か………それはいたって単純、俺、身体強化の魔法使ってないから。それどころか魔法自体使えないし」


将人はあっけらかんと言う。その答えにこの場にいる全員は度肝を抜かれた。


「じゃあなにか!? お前は全く強化されてない素の能力でここにいる全員の攻撃を回避してのけたというのか!?」


「そうなります」


「嘘だろ、正気の沙汰じゃねえ………」


全員が困惑する。それも当然だろう。魔法が使えないものが存在するなど誰が想像するだろう。そんな人間にかすり傷しか付けられない自分らは一体何なんだろう。気落ちするのが分かり、将人は慌てる。何か気力を奮い立たせる事を言おうとするがうまく言葉に出来なかった。


「お前の目的は何だ? 気が狂ったとしか思えない行動をとるお前の目的は何だ?」


男の顔には恐怖があった。目の前の男と同じ事が自分にできるだろうか、自分には絶対出来ない。それが出来る相手には恐怖しか感じられなかった。


「目的か………守秘義務があるから詳しい事は言えないんだけど………遥かに高い頂きにいる人を降ろしてあげて欲しいと頼まれた事かな」


詳しい事は言っていないつもりだが、丸わかりだった。


「お前、『神剣』に勝つつもりか!?」


「何で分かります!?」


「秘密にしてるつもりかよ」


周りから失笑が漏れる。将人は顔を赤くする。


「狂気の行動をとったかと思ったら、普通の少年の様な顔をする。アンバランスなやつだ」


男から呆れた様に言われ将人はさらに顔を赤くする。


「ともかくです、皆さんにはもう一度協力してもらいたいんです」


「協力ってお前まさか!?」


「もう一度皆さんで俺を襲って下さい」


将人はとんでもない事を言った。要するに全員で殺しに来いと言ったのだ。


「やっぱり狂ってる。事情は分かったが手加減はせんぞ。寧ろ引きついてもいい。ここにいる全員は優勝が目的だからな」


「そういう訳にはいきません。これは俺が受けた依頼ですから」


将人の気合の入った顔を見て男が溜め息を付いたかと思ったら声を張り上げた。


「みんなも聞いたか! こいつは自分の依頼達成の為、俺たちを踏み台にしようとしている! ふざけるにも程がある! 俺たち全員でこいつ倒して違約金払わせてやろうぜ! 全員気合入れろ!!」


全員が「応!!」と答え気合を入れる。皆の体から殺気ではなく純粋な闘気が沸き上がる。一人一人の闘気が束ねられ強大な力となり天を登る。その光景に将人は圧倒されていた。


(とんでもないな!? 言葉だけでこれだけ人を奮い立たせられるんだから………こういう人が英雄、勇者と呼ばれる存在になるんだろうな)


将人は尊敬の念を抱きながらも『三体式』の構えを取った。

あらゆる武器の暴風対一枚の木の葉の戦いが始まった。


それから十数分後、大広場は死屍累々だった。その中を将人だけが悠然と立っていた。

死屍累々といっても実際に怪我人、死人が出た訳ではない。十数分の戦いの間、将人はあらゆる攻撃を避けて避けて避けまくった。その結果、攻撃した側は必要以上に体力を消耗し、疲労困憊で立ち上がる事が出来なくなってしまったのだ。


「ありがとうございました」


将人は皆を扇動した男に頭を下げた。


「息一つ…乱して…ないとは…こうなると…むしろ…清々しい………こうなったら…絶対…優勝…しろ…そして…ここにいる…全員に…一杯…奢れ…いいな」


男は息も絶え絶えに言うと力無げに笑って見せた。


「優勝した暁には絶対に!! さて………これで予選通過になるのか?」


「いいや、まだだ!!」


将人の背後から声が上がった。将人が後ろを振り返るとそこにいたのは………  






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