仙人、武術大会予選開始
アカマ武器屋での焼き肉パーティーの後、一時的であるがパーティー解散となった。アベルトとパウラ、ウェルが武術大会までにもう少し技術を磨きたいと言ってパーティーを離れたのだ。ファテマはパウラに、マサリアとエミリアは将人について行った。アベルトとウェルは「武術大会で会おう」と一言言って颯爽と去っていった。
将人は武術大会の間、何をしていたのかといえば大した事はしていなかった。いつも通り『形意拳』の『五行拳』、『十二形拳』型の練習、自分が最も最強だと思う相手―――養父にして『形意拳』、『仙道』の師匠日下部誠一郎をイメージし、そのイメージとの散打(組手)、そしてアイアスやマサリアやエミリアのバックラーを用いての陰陽双修法を行い『氣』を練る事くらいしかやらなかった。ここで無理な修行をして怪我や疲れを残すような事をすればマルテナとの約束を守れないと考えての事だった。将人にはあらゆる魔法が効きにくいのだ、無茶な修行をして怪我をしても治す事が出来ないのだから。こうなると魔法が効きにくいというのは厄介な体質といえた。
各々が修行をこなし、日々が過ぎていきとうとう武術大会開催となった。武術大会に出場する者は王城前の広場に集められた。そこで数週間ぶりにアベルト、パウラ、ウェルと再会した。アベルトとパウラには前には感じられなかった自信の様なもので満ち溢れていた。必殺の技の様なものを会得しているのかもしれない。ウェルには変わった感じはなかった。会った時から強者といえたのだから、それ以上変わるものではないだろう。
それから開会式となりアルヴァール国王からのあいさつの後、出場者はくじを引かされ、四つのグループに分けられる。将人はAグループ、パウラがBグループ、アベルトがCグループ、ウェルがDグループとばらけたため予選で潰しあうという事はないのでほっとした。
Aグループはホロ付きの馬車に乗せられて移動する。八人が乗れる馬車が五台連なって道を走る。
「王都で予選をやるんじゃないのか?」
将人が独り言を言うと隣に座っている男が話しかけてきた。
「お前は初めて出場するのか?」
そう話しかけてきたのは隣に座っていた厳つい顔をした大男だった。真っ黒な全身鎧を身に纏い、刀身の黒い大剣と漆黒の楕円形の盾を装備していた。
「そうですね」
「ふうん………」
男は将人を一瞥する。クロース・アーマーに妙な手甲、背中には円形の盾、剣は携帯していない。妙ちくりんな相手と見たようだ。
「緊張しているのか? 武器を忘れているようだが。予備の物だがよかったら貸してやろうか?」
男は腰に携えた鞘や柄まで黒い短剣を外し、将人に渡そうとする。
「いやいや、俺は徒手空拳で戦うんで、ですから武器は携帯してないんです」
「そうなのか。だが、まったく武器を何も持たないというのは………それに装備も体も貧弱すぎる。それで出場するとは………もし、ヤバいと思ったらすぐに降参しておけ。無理して大怪我では割に合わん」
大男はかなり無礼な事を無遠慮に言うが一応心配してくれてるようだ。
「そこら辺は無茶しないようにします。ところでこの馬車はどこに向かってるんですか?」
「これから予選会場になる所だ」
「これから予選会場になる?」
「そうか、お前は初めての出場だったのだな………だったら驚く事になるだろうな?」
頭に?マークを浮かべる将人を見て、大男は愉快そうに笑った。いかつい顔なのに妙な愛嬌があった。
馬車が向かったのは王都郊外にある平原だった。将人が馬車を降りるとそこには数十名の上等なローブを身に纏い、宝石が付いた杖をもった魔法使いが集まっていた。
「あの人たちは?」
「王国の魔法師団だ。彼らがこれから予選会場を作る」
「会場を作る!?」
「まあ、見ておけ、壮観だぞ」
十数名の魔法使いは一列に並び平原に向かって呪文を唱える。杖に付いた宝石が輝き始め、ひと際強くなった時、地面を杖で叩いた。その途端地面が強く揺れた。
(この世界に来て初めての地震だ!! 震度幾つだよこの揺れ!!)
立っておられず地面に膝間つく将人。揺れる大地に激しく恐怖する将人は更に心胆寒からしめる光景を目にする。大地が隆起したのだ。隆起は一つではない、幾千もの隆起は激しく波立ち、人がそのまま住めそうな一つの街を形成した。
「予選会場ってこの街って事!?」
将人の驚いた表情があまりに面白いのか大男は大爆笑だった。他の出場者もそれにつられた大笑いした。
(クッソー、笑った事、絶対後悔させてやる)
腐っている将人と大笑いしている出場者たちに魔法使いのリーダーらしき男が声をかける。
「皆さんにはこれから、この人工の街で最後の一人になるまで戦ってもらいます。ルールとしましてはまず人殺しは禁止、これが発覚した場合は即失格となります。皆様の武器には刃引きの魔法をかけますし、殺傷力の高い魔法は禁止とします。まったく戦わず最後の一人になるというのも反則となっています。町には使い魔を放ち、使い魔が見ている光景はこちらや王都に中継されているのでそういった不正は出来ません。
敗者に攻撃した場合も失格になるので注意して下さい。敗者となった者は使い魔が体に印をつけていくのでそれを見たら攻撃をしない様お願いします。ここまでで何か質問はありますか?」
魔法使いのリーダーが出場者を見渡し、誰も手を上げないのを確認する。
「では、こちらに集まって下さい。皆さんの武器に刃引きの魔法をかけます。それが済んだら街に入って下さい。一時間後に予演開始となります」
出場者が魔法使いたちの前に並ぶ。将人は武器を携帯していない為、列には並ばず町に入ろうとしていた。
「もう行くのか?」
声をかけてきたのは大男だった。武器に刃引きの魔法をかけ終えた様だった。
「俺は武器を持っていないので刃引きの魔法は意味がないですから」
「そうか、この街に入ってしまえばお互い敵同士だ。出会ったら手加減はせんぞ」
「その時は俺も遠慮しませんから」
将人の言葉に大男が一瞬キョトンとし、大声で笑った。
「ああ、そうだな。出会ったその時は遠慮なく叩き伏せるとしよう」
将人と大男は街へ入り分かれ道で別れる。
次々と出場者は町の中に入っていく。堂々と道に立ち挑戦者を待つ者、数人で徒党を組む者、建物に隠れ戦いをやり過ごし、適当なところで線状に立とうと考える者、色々な戦略が立てられる中、時間は過ぎていきあっという間に一時間がたった。
「これから予選を開始します!!」
街中に配置された使い魔から一斉に声が上がり、予選開始となった。