仙人、ゼロ鉄製武器の試し切り、アカマ兄弟の商売戦略
アカマ武器屋の裏手は空き地となっている。そこで購入した武器の試し切りが出来るようになっていた。大体は木片を組み立てて作った木の人形や売れ残った鎧などを試し切りに使うのだが今回は違っていた。
「………肉!?」
将人が唖然として呟いた。そこにあるのは皮と内臓のみ取り除かれた赤身の肉。全重量は約百キロはあるのではなかろうか。それが木の太い幹にフックで括り付けられていた。
「これは一体?」
将人がシゲルイとその兄を見るとイタズラが税こうしたという笑みを浮かべていた。
(目を細めると立体で飛び出してきそうだな)
そんなどうでもいいことを考えていると、シゲルイの兄が説明してくれた。
「いつもは木の人形や空っぽの鎧、ちなみに前者が試し切り一号、後者が二号な。これらで試し切りをするんだがこれだと切った感触がイマイチでな。実際に肉を切ってみた方がより切れ味を試せると思って購入したんだ」
「かなり高かったんじゃないんですか?」
「金出したのこいつだから俺の懐は痛まんよ。それに今日の夕飯にもなるしな。今日は夕飯は豪華だ」
シゲルイの兄は弟を指差し笑う。まだ肉の切り分け、料理もしていないのに口元から涎が垂れてきそうだ。
「兄ちゃん、涎拭け、みっともない! この肉お前たちの分にもあるから試し切りが終わったらご馳走するぞ」
「いいんですか?」
「アルヴァール国王に剣を献上した褒美でもらった金で買ったもんだ。将人がいなければゼロ鉄使って武器造ろうなんて考えなかろうし、将人のお陰でもあるんだよな、今の状況。そう思ったらこれくらいはな……あ、言っとくけど将人たちの武器については金とるぞ」
「それは当然でしょう。今は依頼料入ってある程度は支払えます。お幾らになりますか?」
「まあ、これくらいだな」
シゲルイが金額を提示する。将人たちはその安さに驚く。金銭感覚がおかしいのではと心配になってくる。
「シゲルイさん、もう少しとった方がいいんじゃないですか? 今だったらもう少し払えますし……」
「そうだぞシゲルイ。お前、そんな安売りしたら利益にならんぞ」
「ゼロ鉄ってほとんどタダだからな。取るとしても製作費ぐらいだ。そんな物に高額な値段をつけてたら詐欺だろ。そういう事はしたくないんだよ。それに俺には考えがあるんだよ。今は儲けにならんけどいずれはなる予定なんだよ」
「どういうこった?」
シゲルイの兄が興味を持ちシゲルイに詰め寄る。
「将人たちには実際に使ってもらって色々と宣伝してもらう。そうなれば興味を持つ奴が出てくるだろ。そうしたら将人たちには俺の名前を出してもらう。そうなれば俺の利益になるだろ。ゼロ鉄製の武器は見た目もいいから貴族連中が食いつくだろう。その時はたっぷり吹っ掛けるさ。な、儲けになるだろ」
「それはそうだが、気が長い話だな」
「それぐらい長い目で見るのも商売だろ、兄ちゃん」
シゲルイの兄がまだ考えているようだがそれは無視する。
「ほれ、ともかく試し切り。アベルトの兄ちゃん、まずはお前からやってみろ」
アベルトがゼロ鉄製のバスターとソードを抜き、上段に構える。
「その肉は革と内臓を抜いただけで骨は残ってるからな。振り切る力が弱いと骨が立ちきれないし、剣が骨に沿って変な方向にいくから注意しろ」
シゲルイの注意にアベルトは頷く。身体強化の魔法を体にかけ、一足で肉との間合いを詰め、振り下ろす。バスタードソードの刃が肉に食い込みするりと潜り込む。肉と骨を切断し、半ばまで刀身が入り込みそこで止まってしまう。だが、この結果にアベルトは驚いていた。
「普通の剣に比べたら少し重いような気がしますがその分骨までしっかり切れてる。それにこの剣自体の切れ味も凄い!!」
アベルトが驚きつつも肉から剣を抜くと抵抗なくするりと抜けた。
「これは………いい物ですね。シゲルイさん有難うございます」
「おおよ、でもこれで完成じゃねえからな。不具合があったらどんどん言ってくれ。そういう所を改良していくのも楽しみの一つだからよ」
未完成品といいながらも満足げに頷くシゲルイ。
「アベルト君、どいて、どいて。次、行くよう!!」
その言葉にアベルトは脇にどいた。パウラはツゥ・ハンドソードを両手で持ち上段に構える。身体強化の魔法をかけているとはいえ、百八十センチのある物を構えても揺るぎもしていない。
「行っくよう!!」
パウラは強く踏み込み、地面が爆ぜる。爆発的な突進力で間合いを詰め振り下ろす。ツゥ・ハンドソードの重量、振り下ろす力、剣の切れ味、それらの力が合わさり分厚い肉は骨ごと一刀両断切り裂かれ地面を抉ったのだった。
振り下ろした体勢で動きを止めたパウラを心配そうに見る将人。声をかけるとパウラはうっとりした表情をしていた。
「お兄ちゃん、これ凄い! 何の抵抗もなくスッパリ切れる! 気持ちいい!!」
パウラは興奮し、周りをピョンピョン飛ぶ。それを見ながらシゲルイは呆然とする。
「……俺、とんでもない物作っちまったな」
「まったくだ」
シゲルイの何がシゲルイの肩をポンと叩く。
「俺の店にもゼロ鉄製の武器何点か卸してくれないか?」
「兄ちゃんとはいえ安売りはしねえぞ」
「言い値で買い取る。これだけの物ならどれだけ吹っ掛けられても価値はある」
「兄ちゃん………」
シゲルイとその兄はしばらく見つめ合うとどちらからともなく握手を交わした。