仙人、ウェル語る2、ゼロ鉄シリーズ合体
「俺のお陰って言われても、一体何の事だ?」
「本当に気づいていないんすか? あと五秒以内に答えないと………」
「ちょっと待って!! 今、考えるから!?」
将人は額を押さえながらウェルを見る。また将人をからかおうと考えている事が目に見えてわかる。早く答えないと………
「五、四、三―――」
「何かヒントは?」
「ナシっす。二、一」
「あ、分かった! ゼロ鉄製の武器だ!!」
「分かったっすか、ザンネン」
ウェルは心底残念そうだった。
「それにしてもゼロ鉄製の武器って凄いっすね。『岩の角』に大剣と長剣が接触した瞬間、魔力とは別種の力を放出して岩の肌を引っぺがしてくれたっす。あとはそこに魔法を撃ち込めばダメージを与えられるっすけどそうは問屋が卸さなかったっす。岩の肌を引っぺがした先から再生するんすよ」
「そんな能力があるんならゼロ鉄シリーズがあっても役に立たなかったんじゃ?」
マサトの疑問にウェルはチチッと舌を鳴らす。
「膠着状態となりこっちが先に参りそうだったけど援軍が来たっす。マサトさんは覚えがないっすか?」
「また俺!?」
自分が援軍をよこしただと? 将人が腕を組んで考える。ウェルたちが戦っている最中、こっちもモンスターに村が占拠されていた。援軍を送る暇なんて………そういえば送った。
「アイちゃんか!?」
マサリア達を呼び戻すようアイアスをウルバー鉱山に向かわせた事を思い出した。
「マサトさんの盾、アイちゃんって言うんすか? 可愛いっすね」
「アイちゃん、性格的には女の子の様な気がするからなあ。それより続きを」
「分かったっす。戦いの場にアイちゃんが突入し、攻撃したっす。他のゼロ鉄製のとは威力がケタ違いの攻撃で『岩の角』がバランスを崩したっすその隙に他のセロ鉄製の武具と防具が集まったと思ったら………合体したっすよ!!」
「合体!?」
将人と村人たちが思わず素っ頓狂な声を上げる。
(合体って何だよ!? 超AI搭載のロボットじゃないんだぞ!? でも、自立起動している所を見ると超AI搭載しているようなもんか? 左右合体ってか!?)
将人が混乱していけない事を考えてしまう。
「マサトさん、大丈夫っすかあ?」
マサトの目の前でウェルが手を振る。そうする事で将人は意識を取り戻す。
「スンマセン………しかし合体ってどんな風に合体したんです?」
将人の問いにウェルが興奮気味に答える。
「パウラさんの大剣が前に、その後ろにアベルトさんの長剣が連結、大剣の切っ先にアイちゃんが、その上にマサリアさん、エミリアさん、ファテマさんのバックラーが連結したっす。そして強力な力場に覆われて三つ又の矛の様になって『岩の角』に向かっていったっす!! 『岩の角』は両手を前に突き出して防御したっすが防御出来たのは一瞬、『岩の角』の両手を破壊して胸部を貫いたっす!! 後は胸の風穴にマサリアさん達の魔法をたっぷり叩き込んでとどめを刺したっす」
「再生はしなかったの?」
「再生できるのは岩の皮膚だけで肉体の方は再生できなかったみたいっす」
将人がフウッと息を吐いて蜂蜜酒を飲む。
(アイちゃん、ゼロ鉄シリーズは俺の想像を超えた進化をしてるな。君らはどこに行こうとしているんだ?)
「ちょっと気になる事があるんだが………」
村人の一人が手を上げた。
「話の中に出で来るゼロ鉄ってのは何だ。鉄って事はここの鉱山でも採れるのか? よかったら教えてくれないか?」
「隠す事でもないんで答えますが採取する事は出来ると思います。ゼロ鉄って俺が命名したもので、魔力ゼロの鉄、クズ鉄の事ですから」
その答えに今日一番のどよめきが起こる。
「ゼロ鉄ってクズ鉄の事かだったのか? 真っ先に捨てられるものをどうやったら自分で動く事が出来るようになるんだ? 特殊な製法があるのか!? 魔法で出来る事なのか!?」
村人が将人に詰め寄り一斉に尋ねられる。一斉に尋ねてくる為、よく聞き取れないがまとめると前述の事を聞かれていた。
「魔法ではない特殊な製法です。その方法は秘密にさせて下さい、お願いします」
この村を救ってくれた将人にそう言われると強く出る事が出来なかった。
「じゃあ、あとこれだけは教えてくれ? バックラーに盾、大剣に長剣、あれ全部クズ鉄で作ったって事だがあれはマサトが製造したのか?」
「あれはある鍛冶職人さんに頼んで作ってもらいました」
その言葉に村人達がまたどよめく。村人達がどうしてそんな反応をするのか分からず将人はきょとんとした顔をする。それにマスターが答えてくれた。
魔力が籠った鉄は、魔力を流す事で柔らかくなり様々な形に変えることが可能だが、クズ鉄はそれが出来ない。故に使える物にするのがかなり難しいらしい。それをあえてする鍛冶職人がいる事が信じられないらしい。
将人はシゲルイの豪快な笑い声を思い出して何となく納得した。職人気質のシゲルイは難しい事ほど燃えるタイプだと思ったのだ。元の世界でなら間違いなくオタクになるタイプだった。
ウルバー鉱山での冒険譚が離し終わり、宴もたけなわとなりお開きとなった。将人はまたパウラにお姫様抱っこで部屋に連行される。
マサリア達が部屋に戻るがウェルは逆方向、酒場の出入り口に向かっていた。
「ウェルさん、どこに行くんですか?」
「酔い冷ましに夜風に当たってくるっす。それともマサトさんが冷ましてくれるっすか?」
ウェルがシナを作って言うが将人には構う気力がなかった。
「もうそういうのはいいです」
「イケずっすねえ。男だったらもっと盛って欲しいっす」
「俺、草食系ですから」
「草食系? まあ、いいっす。マサトさんはゆっくり休んで下さいっす」
ウェルは手を振って酒場を出て行った。
「さて、これから部屋に戻るんだけど………パウラちゃん、この抱っこ止めてくれない。自分で歩くから」
「ダメ!!」
パウラに満面の笑顔で断られる。逃げようともがくと変な所を触ってしまう恐れがある為、されるがままとなり涙がちょちょぎれる将人であった。