仙人、酒場にてウェル語り始める
パウラにお姫様抱っこをされたまま一階に降りてきた将人。一階の酒場は今日の分の村の復興作業を終えた村人たちで賑わっていた。村人たちがマサトを見て一瞬間が開き、大爆笑だった。爆笑の合間に口笛が鳴り響く。村人達の声に照れ臭そうに笑うパウラ。だが、将人は笑う事が出来ず、両手で顔を覆った。顔がら火が出そうなくらい赤くなっていた。
(これってミスキャストだろ!? パウラちゃんと俺が逆だったら絵になるんだ。やり直しを要求する!!出来ないんならいっそ殺してくれ!)
そんな事を考えていると不意にパウラが将人を下ろした。背中と尻にごつごつとした固い感触。両手を顔から離し、目を開く。将人が付いた席は大人数が座る事の出来る円形の大テーブルでファテマたちがすでに席についていた。大量の料理がすでにテーブルに所せましと置かれており、湯気を上げている。
「やあ、マサト君。そっちはそっちで大変だったみたいだね、お疲れ様」
ファテマが将人の状態を見て気づかわし気に言う。
「俺はまあ、情けないんですがいつもの事ですから………それより………」
将人はファテマの隣に座っているウェルに目を向ける。
「ウェルさんは何で縛られてるんですか?」
ウェルは椅子に両手足を縛られ身動きが出来なかった。
「マサトさ~ん、助けて欲しいっす、ヘルプ・ミィ~っす」
ウェルが情けない声を上げる。
「さっきマサトさんを起こしに行こうとしたら縛られたっす。皆さんひどいっすよ」
「そうは言われてもねえ」
ファテマが右手で頬を押さえほほ笑む。
「あんな痴女みたいな恰好で行かれたら止めるわ、普通!!」
怒ったような口調で言うマサリア。アベルトとパウラが頷く。
「どんな格好で来るつもりだったんですか?」
将人は興味を惹かれ、ウェルに聞く。ウェルが男を誘うような蠱惑的な笑みを浮かべる。
「縄を解いてくれたら見せられるっすよ。見たいっすか?」
将人はゴクリとツバを飲み込む、頷こうとする瞬間、四人分の殺気がぶつけられ、息を飲んだ。マサリア、エミリア、アベルト、パウラが凄い目で睨んでいた。
「ぜ、全然見たくないっすよ。興味もないっすよ」
あらぬ方向に目を泳がせ誤魔化す将人、ウェルの口調が移っていた。
「ウェルさん、このパーティーにいる間は恋愛禁止。もし、またマサト君に色目を使うようならこのパーティーから追い出しますんでそのつもりで」
ファテマは静かにほほ笑むが、いいえと言わせない妙な迫力があった。
「分かったっす」
ウェルは恐れおののき頷く。
「自分を恐れさせるとは………ファテマさん、恐ろしい子っす」
(偶然か? ウェルさん、アンタ何故そのネタ知ってるの?)
「じゃあ、ウェルさん、縄を解きますからマサト君に変な事しないで下さいね。もしやったら………分かってますね」
ファテマがニッコリと笑って念を押す。
「パウラちゃん、お姉さん怖いっすね」
ウェルが引きつりながらパウラに同意を求めるとパウラは何度も頷く。
「あの笑顔の時のお姉ちゃんは怖いよ。逆らっちゃダメ」
「パウラ、アンタは何をいってるのかなあ………」
ファテマが笑顔でパウラに近づいてくる。ヒィッと悲鳴を上げ、逃げようとする。将人はパンと手を叩く。
「ハイハイ、じゃれ合いはここで終わりにしましょう。俺、もうお腹がペコちゃんなんで早く飯食いたいです」
将人はお腹を擦りながら言う。
「じゃれ合ってる訳じゃないんだけど………まあ、いいか。少し冷めちゃったけど食べようか」
全員で手を合わせ、早速料理を食べ始めた。全員が健啖家で大量にあった料理があっという間な胃の中に納まっていく。
「ところでウェルさん、リアもパウラちゃんも昼間はどうしてあんな格好をしてたの?」
「あれは激戦の証っす」
「激戦の証?」
「よかったら聞かせるっすよ」
「その話、俺にも聞かせて欲しいな」
マサトの後ろからマスターが顔を出す。手には木製のジョッキを七個、器用に持っていた。中にはご自慢の蜂蜜酒がなみなみと注がれており、かなりの重量となっているのに物ともしていなかった。マスターは将人たちの前に木製のジョッキを置く。
「こういう村だと話題に飢えてるんだよ。聞かせてくれるなら、蜂蜜酒飲み放題にするぞ、どうだ?」
「乗ったっす!!………マサトさん、皆さんもいいっすよね?」
「俺も聞きたいんお願いします」
「ヨシッ、商談成立! オイ、お前ら!! これからウルバー鉱山での戦いを当事者が語ってくれるぞ! 興味がある奴はこっちに来い!!」
マスターの声に酒を飲んでいた村人がグラス片手に将人たちの周りに集まった。
「ではでは、自分が代表して我々冒険者VS『岩の角』、世紀の大決戦を語るっす!!」