仙人、モンスター襲来、生き残ったら飲もう
飯を腹いっぱい食べ、蜂蜜種を飲み、人心地着いた将人は、いつの間にか眠ってしまっていた。夢心地のいい気分は轟音によって終わりを告げた。
「な、なんだ!?」
マサトが跳ね起きて周囲を見渡す。夜の帳が下り、辺りは暗くなっているのに窓から不自然に光が入り込んでいる。何が光源になっているのかと窓に近づき、それを見てポツリと呟く。
「………家が燃えている」
この酒場兼宿屋の近所の家が燃えていたのだ。その周りでは村人と何かが戦っていた。何かは子供くらいの身長で鎧や剣を持ち、村人を襲っていた。将人はその襲撃者に見覚えがあった。
「あれはコブリンソルジャーか? 何で村に入り込んでいるんだ!?」
一対一で戦っていたが別のコブリンが村人の後ろに回り込み飛びついた。それに驚いた村人が隙を見せてしまう。コブリンソルジャーが村人に剣を突き立てた。それを見た将人はベットの傍に置いてあったゼロ鉄製の鎖かたびら着込み、その上にクロース・アーマーを装備する。背にはアイアスを背負い、両手にゼロ鉄製のガントレットを装備して部屋を出る。駆け足で一階に降りるとマスターがモップ片手にコブリン二体と戦っていた。元鉱夫であった為、力はあるようだが片足が義足の為動きが悪い。素早いコブリンの動きに翻弄され、バランスを崩し倒れてしまう。コブリンが馬乗りになり手に持っていた短剣を振り上げる。将人は走る。その際、近くに転がっていた椅子を掴み、コブリンに向かってフルスイングする。マスターに馬乗りになっていたコブリンがもろに食らい、壁際まで吹き飛び、そのまま動かなくなる。コブリン一体倒した際、椅子が壊れてしまう。椅子の破片を手放し、『三体式』の構えを取り、そのまま『崩拳』を打ち込む。今まで無意識に出来ていた動作が何故か出来ない。おかしいと思いながら打ち出した拳に威力は籠っていなかった。コブリンの顔面に拳が入るが少しふらついただけだった。鼻血さえも流れていない。
(クッ、無様だ………)
屈辱に顔を歪める将人。コブリンは叫びながら将人に襲い掛かろうとするが、後ろに忍び寄ったマスターが両手で首を掴み締め上げる。コブリンはマスターの腕を引っかくが、その程度では拘束は緩まない。ゴキッ!! と言う嫌な音と同時にコブリンの体から力が抜け動かなくなった。
「マサト、大丈夫か!?」
マスターはコブリンの死体を投げ捨て、マサトに駆け寄る
「それって俺のセリフですよ。それより、どうしてモンスターが村に入り込んでるんです?」
「分からん。今までもモンスターが入り込んだ事はあるが、それでも二、三体だ。今回みたいに大群が侵入するなんて初めての事だ」
「今回に限ってか………そういえばマサリア達はまだ戻ってきていませんか?」
「そういえば、あの姉ちゃんたちまだ戻ってきてないな。まさか………」
マスターは不安げな顔をする。
「変なフラグは立てないで下さい」
「フラグって何の事だ?」
「こっちの話です。それより今回みたいにモンスターが村に入った場合、避難とかはどうなってるんですか?」
「今までこんな酷い状況になった事がない。村人だけで追い払う事が可能だったからな。だからこういう状況になった時どうするか何て考えてない筈だ」
「マジですか?」
能天気すぎだろうと将人は呆れる。ここの村人はほとんどが鉱夫である。腕っぷしは強いだろうし、おそらくだが身体強化の魔法が使える者もいるだろう。だからモンスターが何体こようと楽勝だと考えてしまうのだろう。その驕りが今の状況を生み出したと言っていいだろう。
「マスター、俺が出て行ったら椅子やテーブルでバリケードを作ってここに籠城して下さい」
「マサト、お前はどうするんだ?」
「鉱山に行ったマサリアたちが心配です。そっちに向かいます。もし………生きていれば今の状況を伝えてこっちに来てもらう事が出来ます。そうすればモンスターを倒さないまでも追い払う事が出来ると思います」
「そうか、分かった」
「あっ、そういえば奥さんは!?」
あのちっこい奥さんがいない事に気付く。あの奥さんはどう考えても戦闘が出来るとは思えない。もし外にいるのなら見つけ出してここに連れてくるべきだろう。
「嫁ちゃんは地下室にいるから心配するな。それよりマサトこそ気をつけろよ。お前今、戦う事が出来ないだろ?」
「打撃に関しては全くダメになっていますが、それなら別の方法で戦うまでです」
「別の方法?」
「説明してる暇はありません! 俺が出たらバリケードを作って籠城して下さい!」
「分かった、でも、本当に気をつけろ。危なくなったら逃げろよ」
「ハイッ!」
将人は酒場の出入り口に向かう。マスターが将人に声をかける。
「マサト、生きて戻って来いよ! その時は蜂蜜酒を吐くほど飲ませてやるからな」
「それって褒美というより拷問だと思うんですが?」
「うち自慢の蜂蜜酒で昇天するなら本望だろ?」
マスターが意地悪い笑みを浮かべて言うが将人は笑う事が出来なかった。
「一杯奢ってもらえればそれでいいですから………じゃあ行きます!」
気合を入れてマサトが酒場を出る。マスターは入り口が閉まるのを確認してから鍵をかける。それからテーブルを出入り口の方へ動かし始めた。