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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第七章 仙人武術大会前日譚
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仙人、マスターに相談する、ヒントを得る

何度も顔を洗い少しはまともな顔になる。目の充血は未だに収まっていないが………

将人が酒場に戻ってきた。


「タオル、有難うございます」


カウンターの奥で料理を作っているマスターに声をかける。マスターは頷いてタオルを受け取り、将人の顔をジロジロ見る。


「目が少し腫れてるな、だったら………」


マスターは料理用に溜めておいた水でタオルを濡らし、短く呪文を唱える。その途端、タオルから蒸気が噴き出る。


「ホレ、これを目に当ててろ」


蒸しタオルを将人に手渡した。


「何から何までスミマセン」


「いいよ、もう少しで料理が出来るから座って待ってろ」


マスターはそう言ってカウンターの奥に入る。将人はカウンター側の席に座り、蒸しタオルを目にあてる。視覚の情報が遮断されると、入ってくのは聴覚と嗅覚のみとなる。将人は音に集中する。材料を切る音、焼く音、移動する音、何というか淀みがない。それらの音が合わさって一つの音楽を奏でてる様でもある。楽し気な雰囲気も感じられる。マスターはこの仕事が好きなのだろう。切る音、焼く音が止み、固いモノがカチャカチャとぶつかる音、足音が聞こえてくる。アイ音がこちらに近づいてきた。蒸しタオルをずらし、目を開けると、トレイに乗った料理が目の前にあった。


「待たせたな、熱いうちに食ってくれ」


マスターが陽気に笑っていた。マスターは一見すると人相が悪い。だが、人は見かけによらない字で行く人のようでいい人だった。


「いただきます」


将人は手を合わせ、ナイフとフォークを手に取って料理を食べ始める。一口食べると空腹になっている腹を殴られたような衝撃を受ける。そしてもう一口、一口と口の運ぶ。がつがつと食べているのを隣でマスターが見ていた。行儀の悪さに恥ずかしくなる。


「何と言うかスミマセン」


「それだけうまそうに食ってくれれば作った甲斐がある。いいから食べてしまえ」


今度はがっつかず、ゆっくり食べる。料理を食べ終え人心地つく。それを見てマスターが満足そうに笑う。


「何か落ち込む事があったようだが、キレイに食べれるんなら大丈夫だな」


マスターに言われ、将人はまた落ち込んだ。すっかり忘れていた。


「オイオイ、どうした?」


「いや、何でもありません。それよりみんなはどうしてますか?」


「ああ、あのお嬢さんたちならウルバー鉱山に向かったぞ」


「そうですか………」


置いて行かれた事に将人は落ち込んだ。


(そうだよな、戦力にならない奴を連れて行ってもしょうがないもんな………俺、どうしてしまったんだろう)


ネガティブな思考に陥ってる将人の背中をマスターが叩く。


「勘違いするんじゃないそ、マサト。あのお嬢さんたちはマサトが一人で考えたいだろうと気を使ったんだ。置いて行ったのとは違うぞ」


そう言われても将人の気は晴れなかった。


「マスターは………今まで出来てた事が出来なくなっらどうしますか?」


「何だそりゃ………てそれがマサトの悩みか? 今まで出来てた事が出来なるなるか、それは辛いな」


マスターが腕を組んで考え始める。


「そういう時は気を紛らわせるかな。うまいメシを食う、酒を飲む、それから嫁ちゃんに相談するかな」


「嫁ちゃんって?」


「嫁ちゃん、俺の妻」


「結婚してるんで!?」


将人は本気で驚いた。人は第一印象がものをいう。第一印象が最悪だとそれを覆すのはすごく難しい。マスターは第一印象がいいとは思えない、普通の女性ならまず引くだろう。


「どういう意味の驚きだよ。人相悪くてもホレてくれる女はいるんだよ。それはともかく、マサトの悩みよく分かるんだよな」


「それはどういう意味ですか?」


「………不幸自慢になるようで嫌なんだがな」


マスターはそう言って右のズボンの裾をまくった。そこにマスターの足はなかった。その代わりにあったのは木で作られた義足だった。それを見て将人はマスターが出来なくなった事を理解する。同情の視線に気が付いたマスターは気にするなとでもいうように将人の肩を叩いた。


「俺は元々鉱夫だったが、鉱山の中での落石事故で右足を失った。そんな状態で鉱夫を続けられる訳がない。今まで鉱夫一筋だったから他の仕事が出来る訳でなし、落ち込んだし荒れもした。暴れても気の毒そうな同情の視線が辛くてもう死のうとさえ思ったよ。そんな俺を同情の視線ではない同等の者として叱ってくれたのがここの酒場の一人娘、後の俺の嫁ちゃんだ。嫁ちゃんに説得されてここの酒場で働く事になった。初めての事が多かったし、歩行が困難だった事もあって色々大変だったがそんな生活も数年もやってれば慣れたもんでな、今ではこの酒場を引き継いでマスターになった」


「そうでしたか………俺の悩み何かまだ軽い方ででしたね。なんというかスミマセン」


マスターは本当に足を失っている。それに対して将人は手も足もある。どんな事でもやろうと思えばどうとでも出来る。なのに将人は『形意拳』が出来なくなったという事だけでこの世の終わりのように悩んでいる事が恥ずかしくなった。


「いいから気にするな。それより酒でも飲んでみるか? 嫌な事を忘れさせてくれる妙薬だぞ」


マスターが茶目っ気たっぷりに笑う。普通なら未成年といって断るのだが飲んでみようと思った。マスターが言った通り気を紛らわしてみようと思ったのだ。


「一杯もらえますか?」


「分かった」


マスターがカウンターの奥に入り、木製のジョッキに蜂蜜酒を入れ、カウンター越しに出してくれた。


「ありがとうございます」


「いいから飲んでみろ。この酒場自慢の蜂蜜酒だ」


将人は木のジョッキの中の黄金色の液体を見る。匂いを嗅ぐと微かにアルコール臭がする。飲んでみると蜂蜜で作ったという割には甘さが控えめで飲みやすかった。


「あ、飲みやすくて旨い」


「そうだろ、そうだろ。これは先代のマスターから製法を引き継いだものだからな、間違いなく旨いぞ。蜂蜜酒だけだと悪酔いするな。つまみも持ってくるか」


「それは流石に悪いですよ」


「いいから、いいから。俺も飲みたいしな」


「俺を口実にするつもりですか?」


「いいじゃないか、一杯だけ、な」


マスターは将人の答えを聞かず、手早く木のジョッキに蜂蜜酒を入れ、カウンター越しに出す。


「ホレ、マサトも木のジョッキを出せ」


将人は言われた通りに木のジョッキを前に出し、マスターが持っている木のジョッキにカツンと当てる。


「カンパーイ!!」


マサトとマスターは蜂蜜酒を飲み干す。


「いい飲みっぷりじゃないか、もう一杯どうだ?」


「イヤ、もういいです。ご馳走様でした」


「そうか、なら俺はもう一杯」


(夜に酒場開くんだよな………)


呆れ顔で蜂蜜種を飲もうとしているマスターを見ている将人。その時、酒場の入り口の木の扉がバンと開かれる。


「何、お酒飲んでるの!! 夜から仕事でしょ!!」


扉から入ってきたのは華奢で背の小さな少女だった。幼い顔だち、マスターと同じ赤毛の長い髪をツインテールにしていた。見た感じの年は十歳前後といったところか。マスターの飲酒を咎め、怒っているようだが全然怖くなかった。むしろ可愛い。


「この娘は………マスターの娘さんですか?」


将人はマスターに聞くとバツが悪そうな顔をする。怪訝な顔でマスターの顔を見る将人の背中に軽い衝撃が走る。いつの間にか将人の背後に来た少女が、マサトの背中を何度も叩いていたのだ。全然威力がなくポカポカという擬音が聞こえてきそうだ。


「ワタシ、ムズメじゃないモン!! 子供じゃないモン!!」


「えっと、マスターこの娘は?」


「だから、俺の嫁ちゃん」


「嫁ちゃんて………奥さん!?」


将人は少女を見る。将人の世界の児童に照らし合わせれば小学校高学年ぐらいだ、中学生とは思えない。これは………


「マスター、アウト!! アンタ、こんな幼女に手を出すなんてサイテーだな! いい人だと思っていたのに!!」


「マサト、それは誤解と言うものだ。嫁ちゃん、これでも結構なトシだぞ」


マスターに耳打ちされ嫁ちゃんの年齢を聞かされ、唖然とした。


「………マスターの嫁さんの両親はエルフか何かですか?」


「イヤ、どちらも人間だ」


将人は力無げに笑った後、素早く土下座した。


「スイマセンデシタァァァ」


いきなり土下座され、嫁ちゃんは呆気にとられた。これでマスターが飲酒していた事はなあなあとなってしまった。



将人はマスターに礼を言い部屋に戻った。部屋の中で一人将人は考えていた。


(マスターに言われた通りだな。木は紛れた、少し楽になった。次は誰かに相談してみるか。でもdれに相談すればいいんだろうか? 自分と同じ世界から来たアルヴァール国王が相談しやすいな。でもあの人は国王だし、そんなホイホイ会ってくれるだろうか………)


考えているうちに眠気に誘われ、そのまま眠ってしまった。これで話が終わればいいのだが、そうはいかなかった。事態は刻々と進んでいる事に将人は気づかなかった。





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