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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第七章 仙人武術大会前日譚
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仙人、『崩拳』失敗、悲嘆に暮れる

再び、ウルバー鉱山を目指して将人たちは出発した。鉱には向かう道中モンスターと遭遇。モンスターはオーク、数にして六体。イノシシと豚を掛け合させた様な顔をしており、人のように両手両足があり、二本足で歩行している。このオークもコブリンソルジャーのように胸鎧、短剣や大斧、ツルハシを装備していた。こちらを確認すると当然のように襲い掛かってきた。

ウェルとアベルト、パウラが前衛として前に出る。ファテマとエミリアが中衛、威力の低い魔法で牽制をマサリアが後衛でとどめとなる強力な魔法を発動させる。調子の悪い将人はマサリアの護衛となる。

オークたちが雄叫びを上げ、突進してくる。ファテマとエミリアが呪文を唱え、魔法の鎖を生成し、オークに放ち、三体を大地に拘束する。前衛のウェルたちは鎖の魔法を逃れた三体のオークと戦う事になる。戦闘前に身体強化の魔法をかけているアベルトとパウラはオークの攻撃を自分の武器で受け止め、鍔迫り合いの状態になる。


「オーク相手に力で対抗しようとしちゃダメっすよ」


ウェルがノンビリした口調でアベルトとパウラの間に立つ。ウェルと対峙していたオークは血を流して倒れている。急所を刺され、既に絶命していた。

後方でウェルの戦いを見ていた将人は、ウェルの手並みに舌を巻いた。オークが振り下ろした大剣をウェルは独特の歩法で右横に躱し、すれ違い様片手剣で首筋を撫でた。オークの首筋に一筋の線が入ったかと思ったら大量の血を吹き出し、そのまま倒れ動かなくなった。その鮮やかな手並みは流石上級冒険者と感心するがゾッともする。多分だがウェルも武術大会に出場するはずだ。なら間違いなく強敵だった。


「二人はそのまま、オークを食い止めて欲しいっす。その間に足止めされてるオークを殺すっす」


ウェルが鎖の魔法で足止めされているオーク三体に向かって走る。向かってくるウェルに威嚇をするが何の意味もなさない、ウェルはオークの間合いに入り、一体のオーク頭部を片手剣で一刺し、もう一匹のオークの首を一刺し、いずれも急所を刺され絶命する。残り一匹のオークに攻撃をしようとするが、オークが攻撃を避けた。オークを拘束している鎖を力で引きちぎったのだ。オークは立ち上がりウェルを攻撃するのかと思ったらウェルの横を走り抜ける。オークは逃走を選択したのだ。ウェルを横を通り過ぎ、アベルトとパウラの間を通り過ぎる。突進してくるオークにファテマとエミリアはぎょっとして左右に飛びのく。魔法を行う為、精神統一状態にあるマサリアは無防備、将人がマサリアの前に立つ。『三体式』の構えを取りそこから『崩拳』を放つ。だが、その一撃は何かがおかしかった。まるで歯車がかみ合っていないようなそんな不具合が感じられた。その不具合は次の瞬間結果として現れた。

将人の放った『崩拳』はオークの体に弾かれ、さらに体当たりを食らい吹っ飛ばされたのだ。将人の後ろにいたマサリアはエミリアが横から飛びついて将人が吹っ飛ばされる軌道から逸れてくれたので無事だったが、将人は地面に叩きつけられ気を失った。



将人が気が付くと拠点としている宿屋の部屋だった。ベットに寝かされており、見知った天井を見上げていた。


「夢オチか!?」


上半身を起こした途端、背中に感じる激痛に呻いた後、夢じゃない事が分かった。ベットから降り、軽く体操をしてみる。打ち身以外は特に異常はないようだった。ベットに戻り胡坐をかく。右手を握り、拳を作りながらオークとの戦闘を思い出していた。


「………情けねえ」


右拳を額に当てポツリと呟いた。将人にとって『形意拳』は養父である誠一郎、義姉の結衣から授けられたものだ。自分の肉体、精神を支える支柱であり、家族との絆と言っても過言でもない。『形意拳』が出来なくなるという事は自分を支える支柱が無くなり、絆が消失するという事になる。


「どうしたらいいんだろう………父さん、結衣姉さん………助けてくれ」


将人は毛布に包まると声を押し殺して泣いた。この世界に来て初めての挫折だった。



どれくらい泣いたのだろうか。時間は分からないが、それでも腹は減るものだ。将人はふらつきながら部屋を出る。二階が旅人や商人、冒険者が泊まれる部屋、一階は酒場となっている。まだ日が高い時間では酒場は営業しておらず、ガランとしている。


「おお、兄ちゃん、起きてきたか?」


酒場の奥のカウンターから声をかけてきたのはこの酒場のマスターである。赤毛のツンツン髪。落ち窪んた眼に鷲鼻、顎には無精ひげを生やしている。身長は将人より少し高いといった感じだ。年の頃は四十代前半といった所だろうか。

夜の営業に向けて料理の下拵えをしているようだった。


「兄ちゃんが起きてきたら何か食べさせてくれって言われる。これから作るから席についててくれ………と言う前に」


マスターが将人に向かって何かを投げる。それを将人は受け止める。それは一枚のタオルだった。これで何をとマスターを見ると笑われた。


「ベソかいてたろ。裏で顔洗ってこい、ヒドい顔になってるぞ」


頬と目の縁に涙の跡が残っているし、鼻水がカピカピになってるし、目の充血がひどかった。人前に出る顔をしていなかった。将人は逃げるように酒場の裏に回り、水瓶に溜めてある水を桶に入れ、何度も顔を洗った。



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