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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第七章 仙人武術大会前日譚
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仙人、不調をきたす、だが、この不調は………

日下部将人―――この男、意外と小心者で神経質である。ウェルに色々色仕掛けをされ、気が動転し戦うというよりもウェルから逃げる為にコブリンウォーリアに向かっていき、素人当然の戦いをしてしまった。あの時、将人は冒険者ではなかった。この事が頭から離れず、アイアス他ゼロ鉄製の武器、防具とで行う『陰陽双修法』がうまくいかなかった。アイアス、ゼロ鉄製の武具、防具のみで行うように命じ、将人は酒場兼宿屋を出て、一人夜の村を歩いていた。

月明かりが光源となり足元もよく見える為、歩きやすかった。周囲の家を見るとすでに明かりが消えており、シンと静まり返っている。考えるには都合がいい状態と言えた。


「いい加減、悩むべきじゃないんだけどな………」


将人はスタスタと歩きなが一人呟く。明日は再びウルバー鉱山に入るのである。いつまでも気に病んで、戦闘に支障が出ては意味がない。ファテマが将人を責めたのは自分のミスを自覚させ、次に同じ失敗をさせない為だというのにこのままだと、前以上の失敗をしてしまいそうだ。

はあ、とため息をついて歩いていると開けた場所に出た。村の広場に出たようだ。今のままだと目が覚めて眠れない、こういう時にやるのは一つだった。

将人は『三体式』の構えを取る。そこから基本となる『五行拳』を行う。『劈拳』、『鑚拳』、『崩拳』、『炮拳』、『横拳』一通り行う。『五行拳』が終わったら『十二形拳』に続く訳だが、怪訝な顔をしてもう一度『五行拳』を行う。将人は自分の拳を見てポツリと呟いた。


「………変だ?」


「何がヘン何すか?」


月明かりで出来た影から声が聞こえた。影からするりと出てきたのはウェルであった。ウェルは影に隠れていたとはいえこちらに気配を感じさせず、視認する事も出来なかった。彼女が暗殺者の類であったら命がなかったであろう。将人は内心冷や汗を掻きながらも平然とした風にウェルに話す。


「ウェルさん、どうしてここに?」


「マサトさんに色々やった事を謝ろうと部屋に行こうとしたらマサト君が部屋から出ていくのが見えて後をつけたっす」


ウェルがニコリと笑う。ウェルの服装は昼間の様な煽情的なものではない私服であったが、胸の辺りが大きく盛り上がっており、やはり視線がいってしまう。視線をウェルの胸から顔の方に逸らす。見つめ合う事にあり顔が熱くなってくるがそれを誤魔化す為、文句を言う。


「気配を消して後をつけるって趣味が悪いですよ」


「すまないっすね、つい癖で?」


「癖って、ウェルさん何者!?」


「上級冒険者っすよ、自分は。それより何がヘン何すか?」


将人はウーンと唸りながらもう一度『五行拳』を行い、ウェルに見せる。一通り終わったウェルを見ると拍手された。


「スゴいっすよ、マサトさん! 見た感じは地味っすけど、技の一つ一つが洗練されていて力が収束されているっす。あんな拳を食らったら誰も立っていられないっすよ!」


ウェルは興奮気味に話すが将人の表情は今一つだった。


「ウェルさんにはそう見えますか? でも俺としてはこう………いい感じがしないんですよ」


「どういう事っすか?」


「こう、拳を繰り出すと………」


将人は中段突き『崩拳』を行う。


「拳の先に妙な圧力を感じてイマイチすっきりしないんですよ」


「今まではそういう感じあったんっすか?」


「今、初めてこんな感じになりました」


ウェルは腕を組んで考える。胸を寄せて持ち上げるような感じになり将人の視線が胸に向いてしまうが、真面目に考えているウェルに悪いと思い顔を逸らす。


「どうしたんすかマサトさん」


ウェルが怪訝そうな顔をして将人を見る。


「いいえ、何でもありません」


「そっすか………それより体を動かす時にも圧力を感じて動きにくいとかはあるっすか?」


将人は一通り『五行拳』を行ってみる。


「いや、それは大丈夫ですね」


「だったら、明日、鉱山に入る時にみんなに話しておいた方がいいと思うっす。場合によっては明日鉱山いに入るのは中止した方がいいかもしれないっす」


「いいや、それは絶対しません! この不調は依頼をこなす事で晴らして見せます!」


「マサトさん、あまり無理はしないでくださいっす」


ウェルが心配げに将人に言う。

今までが嘘みたいに調子が良かった、この世界に来て初めての困難ではなかろうか将人は思った。



次の日、将人は自分の不調をマサリア達に話す。


「そっかあ、無理そうなら今日鉱山に入るのは中止にしてもいいんだよ」


ファテマが将人を心配げに見て言う。


「昨日ウェルさんにも言ったけどこの不調はこの依頼をこなす事で晴らして見せます」


「………それなら、マサト君には後衛に回ってもらって、今日は鉱山の周辺の調査に徹しよう」


「それじゃ………」


「マサト君はこのパーティーの要だからね、調子が悪いとなればこれくらいは考えるさ」


「………スミマセン」


将人はマサリア達に頭を下げる。


「いいんだよ、マサトにはいつも助けられてるんだから。たまには恩返ししないとね。みんなもそう思うよね」


マサリアが言うと皆が一様に頷く。


「マサト殿は頑張り過ぎです。たまには気を抜かないと壊れてしまいます」


「そうだよ、お兄ちゃん。私たちに甘えてくれてもいいんだよ、というか私が甘えたいんだよ」


「それだとマサト君休めないでしょ」


ファテマがパウラにチョップした。


「お姉ちゃん、昨日と言ってることが違う!?」


「昨日は昨日、今日は今日よ」


言い合いになっているファテマとパウラを微苦笑で見ていた将人の横にウェルが来る。ウェルは左乳房を守る特注の胸鎧にガントレットと言う出で立ちだ。腰には全長80センチほどの片手剣を装備していた。昨日よりは煽情的ではないにしろ大きく盛り上がる胸をより強調する装備に目が吸い付けられる。


「いいパーティーっすね。みんなマサトさんを気にかけてるっす」


将人の視線に気づかずウェルが言う。


「俺にはもったいないパーティーですよ。だからこそ早く何とかしないと………」


将人の声が沈んていた。焦りを表すように将人は手を強く握りしめる。それを見てウェルが将人の頭をこつんと叩く。


「焦っちゃダメっすよ。マサトさんの抜けた穴は自分が埋めるっすよ」


ウェルは自分を慰めるように笑顔を見せる。


「ウェルさん………」


将人はウェルを見つめる。ウェルも将人を見つめるのだがしばらく無言になる。周囲から音が無くなり、おかしいと思い周りを見るとマサリアたちが将人とウェルを睨んでいた。


「マサト………」


マサリアが非常に怖い顔で将人を睨む。


「マサト様………」


エミリアは将人をただただ無表情に見つめる。感情の籠っていない視線が、粗利強い怒りのように感じる。


「マサト殿………」


アベルドが血走った目で将人を見つめていた。情念の籠った視線が非常に怖い。


「お兄ちゃん!!」


パウラはこっちが悪かった、ゴメンなさいと謝りたくなるような悲しげ表情で将人を見つめている。


「ウェルさん、あなたは懲りずにまた………」


ファテマは凄みのある笑みを浮かべ、ウェルの襟首を掴んだ。


「ちょっと待ってほしいっす! 今回はそんな目的はないっすよ! ファテマさん、お願いだから信じてほしいっす! その笑顔コワいっす………」


将人はマサリア達を説得しながらみんなの為にもこの不調を早く改善しようと心に誓った。









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