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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第七章 仙人武術大会前日譚
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仙人、種族別の強さを考える、賭けの対象にされる

武術大会に出場するにあたって必要なのは出場選手としてエントリーする事だ。これをやって出場資格を得なければ上位も下位もない。絵に描いた餅というやつである。出場を決めた将人、アベルト、パウラの三人は出場受付を行っている広場へとやってきた。

そこにはテーブルが三つ並んでおり、それぞれに受付の職員が二人ついていた。そこに戦士風、魔術師風の男女、種族もまちまちで人やエルフと言った亜人種、人に動物の耳や尻尾が付いた獣人などが列をなしている。並んでいる全ての者が出場者のようだ。将人たちもその列に並ぶ。


「ここに並んでいる人全員が出場者か。エルフや獣人って何か特殊な戦闘方法でもあるのかね?」


人は生物のカテゴリーで見るならば、恐らく下から数えた方が早いぐらい弱い。そこを知恵や知識で工夫する事で弱い部分を補ってくる応用力が人の強さといえる。人同士の戦いを想定した『形意拳』ならまず負ける事はないだろう。だが人以外の者、エルフや獣人となれば脆い所が出るかもしれない。そんな僅かな不安から出た言葉だった。


「エルフには精霊魔法と呼ばれる私たちが使う魔法とは別系統の魔法を使ってきますね」


アベルドが将人の独り言に答える。


「私たちの使う魔法は魔力を原料にして引き起こす現象なのに対し、エルフは自然現象を司る精霊に直接訴えかける事で魔法を行使していると聞きます。エルフの長い耳は精霊と繋がる為の器官と言われていますが、怪我により耳がかけたエルフでも問題なく精霊魔法が使えた事から関係ないとされています」


「長々とした呪文や魔力の消費がないのなら無敵じゃないのか。エルフって?」


魔力を消費せず、それでいて魔法を連発できるのだとすれば、こちらは火力不足、近距離戦しか出来ないこちらに勝てる要素はない。対策を考えなければならない。


「それは大丈夫だと思います。精霊と言うのは意志を持っているらしく、力を貸したいと思えるような相手でなければ強い威力は出せないらしいですから」


「エルフって近接戦闘はどうなんだ? 武器とかは使ってくるのか?」


「遠距離なら弓矢、近距離なら細剣を使ってきますね。弓矢は外れても精霊魔法で軌道修正してきますし、細剣の腕もかなりのものだと聞いています」


「遠近両方で戦う事が出来るか、厄介だな………続いて獣人はどういう戦闘スタイルなんだ? アベルド先生ヨロシク」


「私がマサト殿の先生………ヌッフッフ」


アベルドが不気味な笑いを浮かべる。鼻息が荒くなるのを見て将人は引く。それに気づかずアベルトが説明を続ける。


「獣人はその身体能力に物を言わせた戦闘方法でしょうね。月の満ち欠けによりその能力を向上させ、変身する事が出来るようですが、今回の武術大会は日が出ている時間がほとんどですから、その特性は使えないと思われます。それほど厄介な相手ではないと………」


アベルドは簡単に言うが将人はとてつもなく不安になる。動物というのは基本的にスペックが高い。こと戦闘となれば人間がかなう筈がないのだ。それをひっくり返す事が出来たのは、武器や罠、戦術などを用いた人の知恵で出し抜いてきたからなのだ。人と動物両方の性質を合わせ持つ獣人はこれもまた厄介な種族である。こちらもまた対策を考えなければならない。


(スゲー、厄介だ。この中で上位に残る事が出来るのだろうか………)


不安で胃がキリキリと痛くなってきたその時だった。将人の後ろに並んでいたパウラが悲鳴を上げた。


「何をするんだ、このヘンタイ!!」


パウラが振り向きざま牛理に並んでいた男を拳を打ち込む。だが、後ろの男は何でもない様にパウラの拳を右手で受け止めた。


「何、このネエチャン。エロい体で誘ってるから乗ってやったのにこれはねえんじゃないの?」


世紀末にヒャッハーしているようなガラの悪い筋骨隆々の大男がゲヒた笑みを浮かべている。その男の後ろ二人の男も同じようにゲヒた笑みを浮かべている。仲間のようである。


「パウラちゃん、こいつらに何された?」


「お兄ちゃん………お兄ちゃん、こいつらにお尻触られた!!」


「お尻触ったって………アンタらそれなりに大人でしょ。子供のお尻触って興奮するって人としてどうよ?」


「子供ってそんなわけないだろう。どう見たって………エロい女だろ」


「でも、彼女、まだ十二だぞ」


「ハッ!?」


尻を触った男他数名がパウラを凝視する。体の色々な所をジロジロ見られ、パウラが恥ずかしそうに胸を隠す。胸を寄せ上げるようなその動作に男たちが唾を飲む。


「絶対に嘘だろ! その女どう見ても十二じゃないだろ!」


「パウラちゃん歳幾つ?」


「十二才」


将人の問いにパウラが答える。その答えに男たちがギャフンとする。


「十二歳の女の子のお尻を撫で回して興奮するって変態って言われてもしょうがないな。ヘンタイ、ヘンタイ!」


将人はわざとらしく大声で叫ぶ。列に並んでいる者たちが男たちを白い目で睨む。身が縮みそうになるこの状況を回避するべく、将人に怒鳴りつける。


「言いがかりつけてるんじゃねえよ、このチビ! お前、こっちこい、言いがかりをつけた落とし前をつけてもらわねえとこっちの気が済まねえ! きやがれ!!」


男が将人の胸ぐらを掴み引っ張る。


「マサト殿!」


「お兄ちゃん!」


アベルドとパウラが将人を助けようと動くが、将人がそれを制する。


「俺は大丈夫、それより列から離れないで。すぐに戻るから」


「戻れると思ってんのか。大体、手前みたいなヒョロヒョロのチビが武術大会に出るなんて舐めてるとしか思えねえ。そこも含めてタップリ教育してやるぜ」


「それ多分無理。アンタら弱いから」


男たちがヒートアップする。将人は広場の奥の路地裏に連れ込まれる。


「ここなら、誰も来ねえ。謝るなら今のうちだぞ。まあ、謝っても許さねえけどな」


男たちが嘲笑する。将人を見くびっているようである。男の仲間二人が将人の後ろに回る。逃げ道をつぶしてきた。


「覚悟しろよ、くそチビ」


男が腰の長剣を抜き、身体強化の魔法をかける。それに対し、将人は『三体式』の構えをとる。男が長剣を振り上げたと同時に将人が動く。左足で踏み込み男の間合いに入る。右足を左足に揃えるように踏み込むと同時に右縦拳で突く。『崩拳』だった。

男は将人のスピードに驚きはしたが、身体強化で肉体の防御力が強化されている為、将人の拳は無視して長剣を振り下ろすが振り切る事が出来なかった。巨大な杭が打ち込まれたような衝撃に体がくの字に折れた後、後方に吹っ飛ばされたからだ。座り込んで屈伸したような状態でピクリとも動かなくなった男を見て、その仲間たちは唖然とした。この小柄な少年のどこに身体強化の魔法をかけた男を一撃で倒す力があるのかと驚かずにはいられなかったからだ。

将人は後ろに振り向き『三体式』の構えをとりながら二人の男に睨む付ける。


「アンタらも殺る?」


二人の男が視線を合わせ将人の脇を通り過ぎ、気を失っている男を肩に担ぎ、スタコラサッサと逃げていく。


「覚えてろ! このままで済むと思うなよ!」


「暗い夜道には気をつけろ、コンチクショウ!」


「そんな捨てゼリフ、ホントに聞けるとは思わなかった………」


将人は逃げていく男たちの陳腐さに唖然としていた。



それから数分後、将人はアベルトとパウラの元に戻ってきた。


「お帰り、お兄ちゃん」


「マサト殿、ご苦労様です!」


「ご苦労様って?」


「こういう事です」


アベルトが麻袋を広げる。列に並んでいた者たちが残念そうな表情や、聞こえるように舌打ちをしながらお金を入れていく。


「何で、みんな金貨を入れていくんだ?」


「マサト殿とあの男たちどっちが戻ってくるか賭けをしていたんですよ。私とパウラ殿は当然マサト殿にかけていたのですが他の者はあの男たちに賭けてたんで、私たちが大儲け出来ました」


アベルトがホクホク顔で金貨で膨らんだ麻袋を叩く。


「………人をかけの対象にするなよ」


将人は悲しげな声で呟いた。



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