閑話 仙人、国王と雑談に興じる、その中で浮かんだ疑問
「国王は神様と会ってチート能力を授けられたんですか。出ないと味噌だ納豆だって出来ないと思うんですが?」
「転生物の定番だな。だが、俺は神様には会えなかった。気が付けぼ赤ん坊になってたからな」
「つまり何ですか、自分の記憶にある味を頼りに一から味噌やしょう油を作り上げたと?」
将人の驚きの問いにアルヴァールは大仰に頷く。
「こっちの世界の料理って正直まずくてな、向こうの世界の味を覚えてると辛くて辛くて………故郷の味をもう一度食べたいその一念で商人になって食材を仕入れたり、冒険者になって珍しい食材を探したりとしているうちに王族と付き合う様になって気が付いたら一つの国を作るに至った訳だ」
「食の一念岩をも通すってところですか。」
「ウマイッ、ザブトン一枚!」
アルヴァールが景気よく言う。将人とアルヴァールがお互いを見たかと思ったら、どちらからともなく笑いあった。同郷でなければ出来ない突っ込みに懐かしさと愉快さがこみ上げてきたのだ。
「久しぶりに言ったよ、ザブトン一枚なんてな」
「こちらにはない表現ですからね」
ひとしきり笑ったアルヴァールは笑いを収め、真面目な顔になる。
「君の事、マルテナから色々聞いている。『仙道』という魔法とは違う力を使うと………『仙道』というと吸血鬼と戦う事が出来るのかい?」
「真面目な顔をして聞くのがそれですか?」
将人は呆れ顔になる。
「とても重要な話だよ、奇妙な冒険をしてきたんだろう」
「今がまさに奇妙な冒険中何ですが………あの漫画の第一部に出てきた波〇法、出始めた時には『仙道』〇紋法って表記になってましたけど、俺は吸血鬼と戦えませんよ。会った事もありませんし」
「そうなのか、残念だ」
アルヴァールは心底残念そうな顔をする。
「今度は俺が聞きたいのですが、国王は『形意拳』をどこで知ったのですか? 『太極拳』や『八極拳』に比べたら『形意拳』はマイナーだと思うんですが?」
「マイナーでもないと思うが、漫画や映画で十分取り上げられてるし………俺はマンガの方で存在を知ったな。三人いる主人公の一人が『形意拳』の使い手で戦う時『三体式』の構えを取っていた、将人君の構えはそれと同じだったからすぐに分かったよ」
自分の知っていることを他の人が知っているというのは中々嬉しいもので、将人の中から遠慮がなくなり、畳み掛けるように質問する。
「マルテナ様の剣術、あれは国王直伝と言う事ですが、あれはこの世界の剣術なんですか」
アルヴァールは首を横に振る。
「それは違う。あの剣術も向こうの世界原産の剣術だ」
「ウッソだあ! あんな自分の手を切ってしまいそうな剣術ある訳がない!」
将人は不定した。東洋の剣術の一つでも知っていれば刀身を掴んだりする何で馬鹿げた事出来る訳がないと考えてしまうからだった。
「ホントだって、あれは全身鎧で防御を固めた相手と戦うための剣術だ。剣の刀身は握っても切れにくいし、ガントレットを装備すれば手を切るという事はない。鍔をとがらせておけば、即席の槌となって、鎧の防御を貫く事も出来るし、結構考えられた剣術だぞ。マサト君は東洋の剣術を考えてるんだろうが、俺のは西洋剣術だぞ」
「西洋剣術って、筋骨隆々の大男が力任せに剣を振るイメージが強いんですが」
「それは麻酔針を使わないコ〇ンのイメージが強いんだ。でも、あれに出ている俳優もちゃんと剣術の指南を受けてやってるんだ。力任せにやってるようで実際はちゃんと剣術になってるから」
「国王はどうして西洋剣術を知っていたんですか? 東洋剣術の道場とかは割とありますけど西洋剣術というのはどこを探してもないと思いますが………もしかして国王は海外在住の人でしたか?」
アルヴァールは右手をぶんぶんと振った。
「違う。俺は向こうでは生まれも育ちも日本だ。でも、普通に生きてたら西洋剣術の事は確かに分からないな。普通西洋剣術って言ったらフェンシングを考えるだろうし。俺は部活の一環で西洋剣術の事を知ったんだ」
「部活ですか?」
「そう、文科系運動部と呼ばれてたな、『西洋文化研究会』。西洋の文化を調べる部でな、剣術も文化じゃないかという声が上がって色々調べて、木刀片手にああだこうだと型をやったりとしてな。大会とかないというのに何を無意味な事を思ったら全国大会があった………懐かしいな」
アルヴァールが在りし日の自分に思いをはせる。しばらく無言になっている事に気付き、咳払いをしてごまかす。
「ともかく、その時調べた西洋剣術をこっちで実践する事で、二つ名を名乗る事が出来るぐらいの強さを得る事が出来たという訳だ。今度はこっちが質問だが、君はいつの時代から転生してきたんだ。こちらの話についてこれるという事はかなり近い時代の人だと思うのだが」
「俺、まだ死んでいませんよ」
将人の言葉にアルヴァールが眼を見開く。
「マサト君! それどういう事だい!? 君、転生したんじゃないのか!?」
「ええとですな………」
将人はアルヴァールにこの世界に来た事の経緯を説明する。話終えるとアルヴァールが腕を組んで考え込む。気難しげな顔をするアルヴァールに声をかけ辛かった。
「………何か問題がありました?」
「問題ありすぎる!!」
アルヴァールに怒鳴られ、将人は飛び上がる。先程までオタトークをしていた人物と同一人物とは思えない。さすがは一国の国王という所か。
「例えばどのような?」
「問題は二つ、イヤ、三つある」
アルヴァールが右手人差し指を立てる。
「その一、その幼馴染みはどうやって異世界を特定したか!? 俺たちがいた世界の人間ならともかくこっちの世界の人間じゃ想像もしないぞ。俺もこの世界に転生してはじめてその存在を知ったんだし」
続いてアルヴァールは中指を立てる。
「その二、その幼馴染みが何らかの理由で異世界を特定出来たとして、その異世界で何をしていたか!? 観光が目的とかはあり得ない。俺らの世界の何かをこちらに持ち込む事が目的だと考えられる」
あるバールが薬指を立てる。
「その三、幼馴染みと呼ばれるという事は、そいつは少なくとも五年、十年はマサト君の友達の傍にいた事になる。それだけの年月をかけて得た物とは一体何か!? その友達をこちらの世界に引き込む為に一芝居打ったのかもしれん? その友人が必要だったという事か? だが、それだと回りくどいな。一緒に来てくれと言った方が間違いがなかった。その友人が異世界転移魔法を実行するとは限らないし、実行したとしても失敗したかもしれない。実際失敗してマサト君が巻き込まれた訳だしな。その友人が目的ではない」
アルヴァールが再び腕を組んで考え込む。唸りながら頭を振っている。相当考えているようだ。
「………マサト君、俺も君の友人を探すのに協力しよう!」
「本当ですか!?」
渡りに船、棚からぼた餅とはこういう事を言うのだろうかと将人は内心小躍りする。
「その幼馴染みがこちらの世界で何かをされる前に対処したほうがいい。『滅び』の件にも関係しているかもしれない。そう考えればマサト君の友人はこちらで押さえた方がいい」
「そういう理由でしたか………」
渡りに船とか考えた事が恥ずかしくなった。