仙人VS滅神剣、新たな覚醒
アルマは円卓の中央の空間に浮かび、莫大な魔力を放出し続ける。重力を倍加させる大地の魔法が人や物にとてつもない荷重を加え、大地に押し付ける。足元の円卓が荷重に耐えきれず崩れ落ちる。そんな凄まじい重力の中、将人のみが立っていた。将人は視線を動かしてマルテナ達の安否を確認する。動く事は出来ないが生きているようだ。それを確認し将人は足を引きずりながら歩き始める。背中に装備したアイアスと『氣』を循環、増幅させる事で重力増加の魔法を中和し、かかる荷重を幾らか減らし動く事を可能にしていた。
(そう言えば、円卓にはアルマの異常を確認しようとしたアルヴァール国王とマルテナ様が乗っていたな。二人は無事か?)
二人が円卓の破片で怪我をしていないか不安だが、今はアルマから『滅び』の石を排除するのが先だ。将人は足を引きずりながら一歩また一歩と歩を進める。アルマに近づく度に体が重くなる。『氣』を強化し、魔法を打ち消してもすぐに魔力が補填され、魔法が発動してしまう。
(グウッ、重すぎる!! アルマ様にまで近づく事が出来ない。このままじゃ………)
将人の心が諦観に支配され、膝を着こうとしたその時だった。
「姉さま………」
円卓の木片の中からマルテナの声が聞こえた。木片の陰になっている為、姿は見えないが声が掠れている。怪我をしたのかもしれない。
「姉さま………『滅び』…何かに…負ける…でない…『神剣』は…最強…じゃろ…負け…るな」
「マサト…君」
今度はアルヴァールの声が聞こえてきた。アルヴァールはマルテナの近くにいた。彼も木片の中にいるのだろう。
「この中を動けるとは大したものだ。私たちは身体強化の魔法をかけて何とか身を守っているが、マルテナが負傷している。早く治療しなければマルテナが………アルマ、魔法を解いてくれ! このままではマルテナが!!」
アルヴァールの叫びにアルマは無反応だった。
「………マサト君、君にお願いがある………アルマを……殺してくれ………」
アルヴァールの言葉は苦渋に満ちていた。父親としては娘を殺してくれなど言いたくない台詞だろう。だが、王は民を守らなければならない、状況によってはこういう決断をせざる負えない時もあるのあろう。辛い選択だった。
だが、それが将人の萎えかけた心に活を入れた。
(娘を殺す何て、そんな辛そうな声で言わないでくれ、本当は助けたいだろうに………こういう時こそあの言葉だ! 悲劇を喜劇に変える!)
将人は体にかかる荷重を歯を食いしばって耐え、アルマまであと一歩と言う所まで近づく。その時、アルマの額にある『滅び』の石が将人を視認し、重力増加の魔法の他にもう一つの魔法を発動した。会議室の中にある瓦礫―――木片や椅子、書類を収めた棚の破片、シャンデリアの破片等―――だけがフワリと浮いたかと思ったら将人目掛けて放出されたのだ。将人は素早く動く事が出来ず、瓦礫をもろに食らってしまう。大きな瓦礫で吹っ飛ばされ、細かい破片で肌を傷つけられ血がしたたり落ちる。重力が倍加した状態で地面に強く叩きつけられ、意識が飛びそうになる。『氣』が弱まった途端、強大な力に体を押し付けられ動けなくなる。内臓が押し出されそうな圧力に耐えながら、将人は『丹田』に『氣』を集中し、重力の束縛から逃れようとするがそれより早く『滅神剣』が動く。仰向けに倒れている将人の一メートル程上空に瓦礫を集める。その状態で、瓦礫を集めている魔法を解除したら、とてつもない重量になった瓦礫が将人に降り注ぐ事となる。そうなれば良くて重傷、下手すれば………将人は逃げようと『氣』を集中するが間に合わない。魔法が解除され瓦礫が降り注ぐ。
(もう………ダメか!)
将人は強く目を閉じる。その時だった。轟音と共に何かが会議室の中に突入した。それは数にして五体、将人を中心に囲み、『氣』を放出した。複数の『氣』が瓦礫を弾き飛ばし、将人を押さえつける重力の魔法を打ち消され、体を起こす事が出来た。
「一体何が………」
将人は自分の周囲にある物を見て驚愕する。
「お前たちも動けるようになったんか!?」
将人の周りにあったのは、ゼロ鉄製の武具、防具、すなわちマサリア、エミリア、ファテマのバックラー、アベルトの長剣、パウラの大剣だった。それらの武具、防具がアイアスと同じように宙に浮き、自立移動し、『氣』を放出し、将人を守ったのだった。複数で『氣』を発しながら移動した為、重力魔法の影響を受けずここまで移動する事が出来たようだ。
「お前たちが協力してくれたら何とかなるかもしれん!! 主を守りたいだろうが今は協力してくれ!!」
ゼロ鉄製の物は喋る事が出来ないが、こちらの言葉を了承したような気がした。