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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第六章 仙人、王都へ向かう
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仙人、謁見の間で国王と会う、『形意拳』を知っていた

マルテナの馬車を無事、王城に送り届けた将人たちは謁見の間に通される。馬車を受け渡し、依頼料を受け取ってそれで終わりと考えていた将人たちは正装などしているはずがなく、冷や汗がただ漏れであった。謁見の間の入り口から王座まで伸びる赤い絨毯、その左右を等間隔に騎士が並んで立ち、その中を将人たちは歩く。周りの騎士たちのいぶかしむ視線が将人たちを集中砲火する。


(こんな中歩かされるのはきつ過ぎる。戦ってる方がまだ楽だ………)


将人の左右を歩くファテマとアベルトも同様に顔色が悪い。アベルトはある貴族の次男のため、機会があれば王城に来て謁見する機会もあるのだろうが、それが今とは思わなかったはずだ。思いもよらない展開に右手と右足が同時に出ている。ファテマは緊張しながらも足取りはしっかりしている。


(こういう状況になると女性の方が意外と肝が据わるのかもな………)


王座まであと数メートルの所でファテマとアベルトが傅く。将人もそれに倣って傅く。後ろでマサリア、エミリア、パウラも同様に傅いていた。


「面を上げよ」


その声を聞いて将人たちは顔を上げる。王座は三つあり左右にアルマとマルテナが座っている。アルマもマルテナも王女らしく、白を基調としたエレガントなドレスを着ていた。マルテナは将人たちに笑顔を向け軽く手を振っていた。それをアルマが睨んでたしなめていた。そんな光景を見て少し和んだが、真ん中の王座る男の視線に再び気を引き締められる。年の頃は四十代後半、かなりの美丈夫だった。ところどころに皺が目立ち始めているものの若々しい。真っ赤な髪を後ろに流している。


「遠路、はるばるご苦労だった。予がアルヴァールだ」


アルヴァール・ケヴィン・エアリアス。元冒険者にして商人、思いもよらない知識と知恵、剣術を持って数々の逸話を残すほどの冒険をこなし、冒険で築いた人脈と財宝でもって一代で国を興すまでに至った奇跡の王。それが目の前の男だった。


「さて、そう緊張しないでもう少しリラックスしてもらいたい。何の考えも持たず、強者に突っ掛かっていき、傷を負い、誘拐されたおバカ娘を助けてくれたお礼をしたいのだから」


おどけるように言うアルヴァール。


「おバカ娘はひどくないか、父さま?」


マルテナがふてくされる。アルマがすかさず擁護する。


「そうですよ、父さま。この者たちは護衛の依頼を受けていたのに、その依頼を達成する事が出来ませんでした。そんな者たちに礼を言う必要などありません!」


「それでも彼らはその失敗を挽回し、マルテナを無事救出した。それは評価されるべきだと私は考えている。その点を考慮してマルテナの馬車の件とは別に特別報酬を与えたいと思っている」


「ありがとうございます」


ファテマが応じて頭を下げる。この中で交渉などの経験が豊富なファテマが応じるのが一番失礼がない。将人が応じれば何かしらの失敗をするのは間違いない。それによっては良くて国外追放、悪くて斬首などがあり得るだろう。


「所で………マルテナから面白い話を聞いたのだが………マサトと言ったか。少し聞いてもよいか?」


「え、俺………じゃなくて拙者、じゃなくて、ワタシ、アタクシ!?!?」


国王と話すなどたった十五年の人生である訳がなく、気が動転した将人はアタフタする。それを見てマルテナがケタケタと笑う。


「落ち着け、マサトよ。父さまは話がしたいだけじゃよ。取って食おうなんて事はせんから安心せい」


「その通りだ。私が聞きたいのは、マルテナと模擬戦をやって勝利したという事だ」


将人が傅いた状態から土下座する。


「ス、スミマセン! この国の王女様に対して無礼な真似を!」


「それを咎めたい訳ではない。面を上げてくれ」


「はい!」


将人は体を起こし、再び傅く。


「マルテナには予が直々に教えている。まだまだ未熟者なれどマルテナが敗北するというのは、そうそうある事ではない」


「今回は負けっぱなしだたのじゃがな」


マルテナが自嘲的に言う。


「黙っておれ………そこでだが、マサトの体術を見せてもらいたいのだが構わないか?」


「そういう事でしたらご覧に入れます」


マルテナ達が左右に並ぶ騎士たちの所まで離れ、赤い絨毯の上に将人一人が立ち、『三体式』の構えを取る。


「俺の体得した体術は槍術の理をもって考案されたと言われています。基本の技五つと十二の動物の動きから考案された十二の技、合わせて十七の技からなります。まずは………」


将人は『三体式』の構えからまずは『劈拳』を見せる。続いて『鑚拳』、『崩拳』、『炮拳』、『横拳』と続く。その動きに派手さはなく非常にシンプルだったが、踏み込む時の力強さ、拳が空を切る音には皆息を飲む。当然アルヴァール国王も驚きの表情だ。そしてアルヴァール国王はぽつりと呟く。


「その体術、もしかして………『形意拳』か?」


将人はアルヴァール国王の言葉に衝撃を受け、動きを止めてしまう。この世界で『形意拳』は知られていない。それを知るのは、将人のいた世界の人間以外ありえない。何故知っているのか問おうとしたが―――


「マサトの技、非常に見事であった。客人として迎える故、ゆるりと滞在されよ」


アルヴァール国王がそう言うと席を立つ。それにアルマが続く。マルテナはこちらを見て何か言いたそうだったが、何も言わず退席した。退席した三人を目で追いながら将人は考えていた。


(………アルヴァール国王は何故『形意拳』を知っていた。俺の他にも異世界に来た人間がいてそいつが『形意拳』を使っていた、それを見たというのだろうか。それとも………仮定の話をしても意味はないか。しばらく滞在出来るのならアルヴァール国王と話をする機会があるかもしれないし、それに期待しよう)


将人はフウッ息を吐き、額の汗を拭った。




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