仙人、神剣の事情を聞く、傷跡退場
「圧倒的でしたね、お姉さん」
スカーを圧倒的な力で倒したアルマを指差しながら将人。
「そうじゃろ、そうじゃろ」
マルテナが嬉しそうに言う。
「マルテナ様を倒して、俺も手こずったスカーをああも簡単に倒してしまうとは?」
「マサトもやっぱりそう思うのか………」
先程とは違い、マルテナの声が沈んでいる。マルテナの急な感情の変化を不思議に思いながらも話を変える。
「お姉さんの非常識な魔力量は訓練とかで発揮出来るようになったんですか?」
「ああ、それは違う。ワシも姉も父さまから剣術、母さまから魔術を教わったが同じ事は出来なんだ。姉さまの魔力量は母さまの血が色濃く出た結果じゃ」
「お母さんの血?」
マルテナが一度頷き、話を続ける。
「母さまは………差別用語になってしまうかもしれんが、亜人なのじゃ。しかも竜人と呼ばれる希少種族なのじゃ。といっても母さまの竜人としての血は薄れていて普通の人より魔力が幾らか強いくらいだったが、姉さまは違った。宮廷魔術師が言うには先祖返りというものを起こしたらしく、竜人の血が色濃く出てしまい、その結果が自分の体を浮かび上がらせるほどの魔力量じゃ」
「生まれた時から、戦いのサラブレッドという事ですか?」
こういう物言いをよく聞くのだろう。マルテナが悲しそうな顔をする。だが、将人の次のセリフにマルテナは驚く。
「大変でしたね」
「マサト、お主、何故そう思う!?」
マルテナが驚いた表情で将人を見る。
「だって、あんな非常識な魔力を最初から操る事が出来たとは思えません。あの力故に死ぬような目にあった事も一度や二度じゃないと思ったんですが違いますか?」
凡人の将人も『仙道』の修行を始めた時、弱い『氣』の操作を誤って高熱を出して何日も寝込む事があったのだ。アルマ程の強力な魔力を小さい頃から出せたとしたら、生死に係わるだろう事はすぐに分かる。
「その通りなのじゃ。姉さまは幼い頃はあの魔力を制御出来ず、死にかけたことが何度もあるのじゃ。だが、生きたいと願った姉さまは必死に魔力の制御を学び、今では空が飛べるようになるまでになったのじゃ。それが分かるとは、お主の洞察力は凄いのう!」
マルテナは将人に感嘆の声を上げる。
「まあ、俺も『氣』の制御に苦しんだ時期がありますから。強い力=幸せではない事はよく分かります」
「そこまで姉さまの事を分かってくれるとは………マサトよ、お主、姉さまの恋人になる気はないか?」
いきなりとんでもない事を言われ、将人は呆然とする。
「マルテナ、アナタは何を言ってますか!」
いつの間にか近くに来ていたアルマは、マルテナの頭を叩く。
「ウウ……姉さま痛いのじゃ」
マルテナは涙目になり、両手で頭を押さえる。
「馬鹿な事を言ってるからです。何でいきなり見ず知らずの冒険者を私の……その……恋人にしないといけないのですか!?」
アルマは恋人の部分をどもりながらマルテナを怒鳴る。
「姉さまの恋人になる人は姉さまの苦しみを理解して、共に寄り添ってくれる強者がいいと思うのじゃ。将人は姉さまの苦しみを理解してるし、ワシと戦って勝利するほどの実力者じゃ。強さも申し分ない。見ず知らずの冒険者というのなら、今、自己紹介をすれば見ず知らずではなくなる。マサト、姉さまに自己紹介せい!」
呆然としていた将人はマルテナに急に言われ、慌てながら自己紹介を始める。
「初めまして、俺はクサカ………」
アルマは将人の言葉を遮る。
「ああ、もういいです。あなたもマルテナに丸め込まれないで下さい。ともかく、マルテナは私が連れて行きます。護衛に失敗した以上、王都に行く理由は無くなります。そもそも私たちは王族です。あなた達と会える機会はもうないでしょう」
話は終わりというようにアルマはマルテナをお姫様抱っこをする。
「ちょっと待ってくれ、姉さま。ワシは彼らに別の依頼をしたい」
「別の依頼?」
「まあ、簡単な依頼じゃ。マサト、ワシらが乗ってきた馬車、あれを王都まで運んでくれぬか? あれは親友から譲ってもらったのじゃ。それを無くしたでは親友の友情を裏切る事になる、それは辛いのじゃ」
「分かりました、マルテナ様。一命を賭しましてもお届けいたします」
芝居掛かった将人の言い方にマルテナが笑う。
「大げさじゃ………だが頼むぞ。依頼料はきっちり払うでな、楽しみにしとれ」
「マルテナ、アナタは彼をどうしても王都に呼び込みたいようですね」
「そりゃそうじゃ。姉さまの恋人候補、手放すはずなかろう」
マルテナはアルマを揶揄するようにニヤニヤと笑う。それにマルテナは青筋を立てる。
「余計なお世話です………そんな事を言うおバカには罰を与えねばいけませんね!」
アルマは魔力を全身から放出し体を浮かせる。十メートル程垂直に一気に上昇した。あまりの早さにマルテナは度肝を抜かれる。
「姉さま、もう少しゆっくり!」
「聞こえませんねえ」
アルマはマルテナにすごくいい笑顔を向けたかと思ったらかなりのスピードを出して飛んで行った。マルテナの悲鳴が遠ざかっていった。
「大人げないな、『神剣』様は」
空を見上げながらぽつりと将人は呟く。
「まったくだ」
マサトが声の方向に向くと倒れていたはずのスカーが起き上がっていた。
「アンタ、中々にしぶといな?」
「これ位出来ないと傭兵家業は出来んよ」
将人はすかさず『三体式』の構えを取る。
「……どうする、二回戦いくか?」
「いや、今日はいい。もうお腹いっぱいだ。『聖剣』にマサト、そして『神剣』………これだけの強敵と連続で戦えるとは、俺ほどの幸せ者もそうはいないだろう」
スカーは完敗したにも拘らず満足そうな顔をする。それを見て将人は呆れる。
「アンタ、戦闘狂だな。俺だったら何の罰ゲームだと思うけどな」
「この楽しさが分からないとは………まだまだ若いな」
スカーが肩をすくめる。
「そりゃそうだ、俺まだ十五だからな」
「十五の少年が俺を倒すか。末恐ろしいな」
「今回は偶然勝てたんだ、油断もあったしな。最初から強敵と見なして対処されてたら勝てなかったよ」
「マサト、過小評価するな。お前は十分強い。その強さに驕らず、さらに修練を積んでおけ!!」
スカーがそう言い放ち、森の中に飛び込む。
「また、戦おう!!」
スカーが消えた方向を見ながらため息をつく。
「俺は普通の冒険者やって、友人探したいだけなんだど、どうしてこうも強敵と当たってしまうんだろうな。誰か教えてくれよ」
マサトの独白にマサリアたちは苦笑するよりなかった。