仙人、依頼に失敗する、『神剣』VS『傷跡』戦闘開始
「では、私が王都まで連れて行きます。冒険者の皆さん、ご苦労様でした」
アルマが事も無げに言ったのに対し慌てたのは意外にもマルテナあった。
「ちょっと待ってほしいのじゃ、姉さま。ワシは彼らが護衛として雇っておるのです。それでは彼らが依頼達成出来なくなってしまう」
「そう言われても彼らはすでに失敗している。その結果が今の状況です。マルテナに怪我までさせて………そんな人たちを擁護するつもりはありません。依頼達成出来なかった事もいい勉強です。今回は冒険者の皆さんには諦めてもらいます。さあ、マルテナ行きますよ」
アルマは将人たちを見渡し、辛辣に言い、両腕を前に差し出す。マルテナを引き渡せと言っていた。
「お兄ちゃん………」
パウラが将人の方を見る。どうするべきか迷っているようである。
「エッ、俺!?」
見ると全員が将人を注目していた。今回の事件の功労者は、将人なのである。それ故に将人の決定に皆は従うつもりなのである。
(俺、まだ十五のガキなんですよ。そういう決定を俺にさせないで下さいよ………)
将人は溜め息一つついて考える。護衛の依頼を受けた以上、依頼人に戦わせるなんてあってはならない。ましてや怪我をさせて、誘拐までされたのだからこちらの信用は地に落ちている。今回は諦めて、冒険者ギルドに違約金を払って再起を図った方がいいのかもしれないと考える。
「パウラちゃん」
将人が頷く。パウラが将人の意図を読んでアルマのもとに向かう。
「ちょっと待たぬか、マサト! もう少し考えんか!?」
「すみません、マルテナ様。今回はアルマ様が言ってることが正しいです。依頼を達成出来ず、すみませんでした」
将人に頭を下げられ、マルテナは押し黙る。
「ムウ…そこまで言われてはしょうがないのう。マサトよ、それでも王都までは来いよ」
「分かってますよ。王都でまた会いましょう」
マルテナももう抵抗しないかった。パウラはアルマにマルテナを渡した。
「ようやく姉のもとに戻ってきましたね、マルテナ。父さまも首を長くして待ってますよ。早く帰りましょう」
ようやく自分の手の中にマルテナが戻ってきた事に喜ぶアルマ。人の目がなければ思いっきり抱き締めているのではないだろうか。
「父さまも姉さまも過保護じゃ!」
「そんな事はありません!」
「いいや、ある! 大体、姉さまは………」
姉妹ケンカ、いや、仲良くじゃれ合ってる姿は非常に微笑ましいものだった。アルマは将人たちの生暖かい視線に気が付いて顔を赤くする。
「ああ、もう聞きません! 行きますよ!」
アルマはマルテナをお姫様抱っこをしたまま、意識を集中し、呪文を唱える。するとアルマの前身が白く輝き、空中にフワリと浮きあがり、ゆっくりと上昇する。
「凄い…本当に空中に浮いてる。流石は異世界、非常識が常識だな」
将人が呆然とながら呟くとマサリアが突っ込む。
「私達からしても非常識よ、あれは…」
「そうなんだ?」
「人を浮かせるだけでも膨大な魔力が必要なのに、王都からこの砦まで飛んでくるなんて何の冗談よって話ね。私が同じ事をやれば十回は死んでるわよ」
「非常識、故に『神剣』か?」
「まったくだ!」
将人に独り言にアベルト以外の男に突っ込まれた。その声の主は森の中から飛び出し、黒い大剣より黒い弧を放出して攻撃した。それに対し、アルマは足元に魔力を集中し、魔力の障壁を形成した。黒い弧と魔力障壁がぶつかり合い、紫電をまき散らす。黒い弧が魔力を打ち消す。打ち消した先からまた魔力障壁を形成する。それを繰り返した末に黒い弧が魔力に打ち消された。
「この大剣から放った弧を打ち消したか。とんでもない魔力だな」
将人たちは黒い大剣を持った相手を見て、指をさして叫んだ。
「「「「「「スカー!!!!!!」」」」」」
「よう、マサト。久しぶり!」
「久しぶりってアンタ、「いい勝負だった、またやろう」なんて捨て台詞を吐いておいてまた戻ってくるとか厚顔無恥にも程があるだろ、ハッズカしい!」
「ウルサイ、黙れ! 目的が来てる以上恥も外見も捨てるっつうの! それより、『神剣』降りてこい! こなければ攻撃を続けるぞ、人を抱えた状態で防御し続けるのは辛かろう」
「スカーよ、それを俺たちがやらせると思うか?」と将人。
「この距離なら全員とまでは言わないが、二、三人は殺せるぞ、やってみるか?」
スカーから殺気が吹き出す。その殺気に将人たちの体が動かなくなる。
(前の戦いではスカーは戦いを楽しんでいた。こっちの手の内を見たくて手加減していた所がある。その手加減が無くなれば、俺たちじゃ………それでも二人を逃がさないと)
将人金縛りを解くために『丹田』に『氣』を集中し、呼気と共に『氣』を放出する。その途端、金縛りが解ける。『三体式』の構えを取り、攻撃をしようとするがその時。
「お待ちなさい!!」
上空のアルマがスカーに向かって叫んだ。
「アナタと戦います。だから彼らに手を出してはなりません!」
アルマは将人のもとに着地するとマルテナを将人に渡す。
「今一度、マルテナをあなたに預けます。今度こそマルテナを守りなさい」
「姉さま………」
「待ってなさい、マルテナ。スカーとやらを倒したら一緒に帰りましょう」
アルマは笑顔でマルテナの頭を撫でる。
「そこは全く心配しとらん。ワシの仇を打って来てくれ」
「仇を打てと言う事はあの者がマルテナを………スカーとやら、ただで済むとは思わない事だ」
アルマが腰の長剣を抜き、切っ先をスカーに向ける。それと同時に、全身から魔力を放出する。それを見てスカーが歓喜の笑みを浮かべる。
「いいな、いいな。この叩きつけるような凄まじい魔力。本気を出した『神剣』と戦える。さあ、やろう! やろうか!!」
スカーが黒い大剣の切っ先をアルマに『神剣』に向けた。