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美少女登場時によくある風景

 奥の扉からその少女が現れた時、ベルンハルトはその美しさに目を奪われた。

 緩やかなウェーブの掛かった光り輝く銀髪に切れ長な瞳、小柄で凹凸は無いが真白で艶のある肌をした体躯。

 清楚で可憐な美貌と妖艶な雰囲気を併せ持ったその少女をベルンハルトとロイドはただ無言のまま見つめていた。


「綺麗だ……」


 ロイドが小さく呟く。


「綺麗だね」

 

 ベルンハルトもロイドに同意する。


「そうか?」


 グインは彼女の容姿をお気に召さないのか態度が普段と全く変わらない。


 その少女はゆっくりとこちらに向かって歩いて来ると、マリアンヌの横で立ち止まる。


「お呼びですか? マリアンヌ様」


 容姿だけでなく声まで綺麗な子だな……。ベルンハルトは思わず聞き惚れてしまう。

 とその時、少女の視線が三人の方を向く。


「……誰です? あの童貞臭い連中は?」


「……どうやら僕は少し疲れているようだ。何だか幻聴が……」


「奇遇だね。僕もだ」


「二人とも何言ってんだ。彼奴が言ったんじゃねぇか」


 そんなバカな……。二人は未だに信じる事が出来ず呆然とする。

 そんな二人の混乱を意に介したふうも無く、マリアンヌと少女は会話を続ける。


「冒険者学校の……。はい、それが私に何の関係が? はぁ? 冗談じゃありません。あんな如何にも毎日右手の上下運動を欠かした事が無い様な連中と旅なんかしたら帰る頃には妊娠させられてますわ」


 見た目とあまりにも違う言動にベルンハルトとロイドは口を開けたままポカンと固まってしまう。ふと周囲を見るとゲーリッヒ達が頭を抱えている姿が見えた。

 そんな中、正気を取り戻したロイドが少女に食って掛かる。


「き、き、君! 女性がそんな下品な言葉を使うもんじゃない!」


「何偉そうに指図してるのよ。童貞その一」


「誰が童貞その一だ!」


「はぁ? 何? 自分は童貞じゃないって言いたい訳? ならあんたはやりちんその一って呼んであげるわ」


「そんな風に呼ぶな! 僕の名前はロイドだ!」


 興奮するロイドをベルンハルトとグインが押さえる。普段どちらかと言うと冷静なロイドがここまで熱くなっているのは、恐らく裏切られたショックがそれだけ大きかったのだろう。


「あらあら。皆さん早速仲良くなられて。若いって良いですわね」


 何をどう見たら仲良く見えるのか? 時折マリアンヌの思考がベルンハルトには理解出来ない。


「いくらマリアンヌ様のご命令でも、これはお断りします」


「あら? どうして?」


「如何しても何も、そもそも何故私が行かなければならないのですか?」


「これは貴方にとっても良いお話だと思ったのだけど?」


「何処がですか!」


「だって、貴方言ってたじゃない。最近シリーズがマンネリだって」


「それが……?」


「仲の良い若く初々しい男の子三人組。共に旅をすれば、きっとそこでの経験を貴方の作品に活かす事が出来ると思ったのだけど?」


 それを聞いた少女は突如無言になり、三人を凝視する。その目付きは、先ほどまでの蔑むような視線とは違い、何と言うか獲物を狙う狩人の様な目だった。


「そうね……。確かに二人に拘る必要はないわね。今度は三人……。良いかも。でも残念なのはこいつ等どう見ても全員受けなのよね……。でもその辺りは脳内で……。ええ、確かに作品の糧になる可能性はあるかも……」


 先ほどから聞こえてくる不穏な単語をベルンハルトは聞こえない振りをする。きっとそれは知らない方が幸せになれると本能が教えてくれるのだ。

 だが、残念な事に本能が働かなかった者が居た。


「なあ。さっきから作品とか言ってるけど何の事なんだ?」


 グインが不思議そうな顔で問う。


「うふふっ。アルテラ教の教えを広める手段の一つとして教本を作成しているのですが、彼女にはその教本を書いて貰っているのですよ」


「へー。すげぇな。どんな本なんだ?」


「あら? 興味があるの? なら特別に出来たばかりの新刊を見せてあげるわ」


 少女はそう言って鞄から一冊の本を取り出すとグインに手渡す。


「グインやめろ! それは見ない方が良い」


「そうだ、グイン。きっとその本は俺達には理解出来ない」


 二人が制止の言葉を口にするが、残念ながらグインの耳には届かなかった。

 

「…………」


 グインは無言で本を読む。


「……これエロ本じゃないのか?」


「そうね。私達アルテラ教は愛を広めるべく活動しているの。その本はその為に一つの愛の形を描いているから、見様によってはそう見えてしまうかも知れないわね」


「へぇー。でも二人とも胸が全然無いじゃねぇか……。女の魅力は胸の大きさだろ? これじゃあ全然魅力が感じられねぇよ。胸が無い奴は女じゃねぇ……」


 成程。グインにとって大きな胸を持つ人以外は女じゃないのか……。だからこの少女を見てもなんら魅力を感じなかったんだな。

 ベルンハルトはグインを師匠と母には絶対に会わせない様にしようと心に誓う。お仕置き部屋に連れて行かれるのは父だけで十分だろう。

 しかし、この少女を前によくそこまで言えるなとベルンハルトはグインの無神経さにある意味感心する。


「胸が無いのは当たり前よ。だって男だもの」


 グインの発言になんら怒った風も無く、少女はグインの言葉を否定する。


「え? でもこいつら……。でも確かに二人ともついてる……。え? え? 男同士? なんで? ……?」


「もういい。もうやめるんだ、グイン。それ以上考えるとお前の心が持たないぞ!」


 理解が追い付かず思考停止して倒れそうなグインをロイドが素早く支える。そしてそのまま少し離れた席に連れて行くとそこに座らせて落ち着かせようとする。


「如何だった? 私の書いた愛棒シーズン十六は?」


「もうやめろ! これ以上グインを追い詰めるな! こいつの精神はもう限界なんだ!」


 放心状態のグインとワザとかどうか解らないが追い込みをかける少女、そしてグインを守るように二人の間に入るロイドをベルンハルトは少し離れた所から眺めていると、マリアンヌがそっと傍に来てその耳元に顔を寄せてくる。


「どうですかベル君。彼女は? なかなか可愛らしい子でしょ? 歳も近いですしお似合いだと思うのですが?」


 親しげに話しだすマリアンヌにベルンハルトは慌てて周囲を見渡すが、いつの間にかゲーリッヒ達教会の人間は居なくなっていた。恐らくマリアンヌが席を外すよう命じたのだろう。


「可愛い事は認めますが、あれは腐ってます」


 ベルンハルトは少し離れた場所の三人を眺めながらバッサリと言い切る。


「あらあら。でも腐りかけが一番美味しいと良く言いますわよね?」


「あれは、”かけ”じゃないです。完全に手遅れです」


「うふふふっ。それは残念ですわ」


 マリアンヌは朗らかに笑う。


「ではそう言った感情は抜きで構いませんので、あの子の事をお願いします」


 そういうマリアンヌの声や表情からいつの間にか今までのふわふわした感じが無くなっている。


「何を考えているですか?」


「うふふっ、別に何もありませんわ」


 マリアンヌの態度から追及しても無駄と悟る。


「まあ三日だけの話ですし、僕は構いませんが二人の意見を聞いてみないと結論は出せませんよ」


「はい。勿論皆さんとご相談して下さい」


 未だ何やら話し合っている三人に意見を聞く為に近づいて行くと、グインが頭を抱えて何事かを考え込んでいた。


「一体何をしてるんだい?」


「なあベル。いつも最後はアイボウのアイボウがアイボウを無茶苦茶にしてしまうってどういう意味なんだ? 俺こいつが何を言っているのか全然わからないんだ」


「もういい。考えるなグイン! お前もこれ以上グインに変な事を吹き込むな!」


「うふふふっ。良いわ、貴方。とても真白で。私真白な物を見ると、凄く汚したくなるの」 


 三人の様子を見て一抹の不安を感じながら、ベルンハルトは如何するかを問う。

 すると、ロイドは反射的に反対と言おうとしたが、すぐに三日だけの話という事を思い出し、少し悩んだ後渋々ながら賛成し、グインは二人に任せると思考を放棄した。

 二人の意思を確認したベルンハルトは少女に如何するかを問う。


「……そうね、三日だけの話だし、作品の為の取材と割り切って貴方達に付き合ってあげるわ」


 一体何を取材されるのか不安だが、深く考えるとグインのように精神に多大なダメージを負う気がしたのでベルンハルトはスルーする事にする。


「有難う。所でまだ君の名前を聞いていないんだけど」


「言われてみれば、忘れていたわね。私の名前はラウラ・マルジーニよ。短い付き合いだけど、宜しくしてあげるわ」




「本当に宜しかったのですか?」


 四人が去っていく後ろ姿を笑顔で見送っていたマリアンヌにゲーリッヒが問いかけてくる。


「ゲーリッヒさんはご不満?」


「不満ではなく不安です。ラウラは確かに優秀な治癒魔法の使い手ですし、戦闘も問題無く熟すでしょう。ですが、あの子に仲間と言う物が理解出来るかどうか……」


「理解して貰わなければ困ってしまいますわ。人と協力していく事が出来なければ、私の後を任せる事が出来ないのですから」


「それはそうですが、少年達には荷が重いのではないかと」


「たった三日なんですから大丈夫ですわ。それに……」


「それに何です?」


「いいえ、何でも有りません」


 それに、あの子はあの二人の血を受け継ぐ方なのですから……。僅かな時間でも、あの子と共に旅をする事で、きっとラウラは大きく成長するとマリアンヌはそう信じていた。

 

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