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眠り姫の夢が終わる時  作者: するめいか英明
姫野と……
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第49話

 36回目の12月23日。


 改めて、井沢は日村に電話で状況を伝えた。23日が36回目であること。35回目の23日は終わらせることが出来、初めての24日で姫野の体力の限界を悟って井沢自ら薬を飲んだこと。徹夜によって24時間以上の巻き戻りが実際に可能であったこと。そして35回目の23日の測定データには優位な情報があったこと。


 これを踏まえて、日村達は36回目の23日のデータをリアルタイムで詳細に分析するようにした。


 24日に分析した35回目の23日のデータでは、姫野の起床時刻と34回目までの姫野の死亡推定時刻に特徴的な波形が生じており、その分析と他のデータとの相関や過去の分析結果との照合が行われた。巻き戻りによりそのデータは失われたが、36回目の23日も起床時刻は同じであるため、早速集中的な分析が行われた。


 時素自体観測の難しい対象であり即座にデータ化することはできないが、巻き戻り前よりは効率的に分析できることが予想された。


『いいかい井沢くん。36回目の23日を無事切り抜け、そのまま徹夜で24日に臨む。

あの子の体調を見守りつつ必要あらばまた薬を。ああ、ああ、そうだ。今回は私と森尾くんも。全ては打ち合わせた通りに』


 日村と森尾にも協力してもらい、巻き戻りが阻止できなさそうであれば3人共記憶を保持できるように姫野の前で薬を飲む。これは事前に井沢達3人の中で取り決められていたことだった。


「はい、任せて下さい。3人で、世界を、姫野を救いましょう」


 電話越しにそう宣言する井沢を見て、姫野は少し恥ずかしくなって周囲を見回したが、誰も気に掛けている様子はなかった。


 ふと、恥ずかしさに遅れて嬉しさが込み上げてきて、姫野はクスッと笑いながら、井沢の背中を眺めていた。


『電話変わったわ、森尾よ』


 井沢が確認を込めて日村と話していると、今度は森尾の声が聞こえてきた。


「森尾さん。今回は僕が不甲斐……」


 日村と共に巻き戻りを繰り返させることになってしまうことを申し訳なく思い、井沢が謝ろうとするとその声を遮り、


『これは私が決めたこと。あなたは自分の仕事をする。以上。――プッ! ツー、ツー』


 とだけ言って一方的に電話を切ってしまった。




 待合室の椅子に腰掛けて足をぶらつかせている姫野の方へ振り返ると、井沢は姫野とバッタリ目が合った。姫野が何となく慌てて


「あ……あの……!」


 と何か言おうとするも、井沢は笑いながら手を差し伸べて、


「さ、行こう。これからやらなくちゃいけないことがたっぷりある。……そうだな、無限に時間があっても足りないくらい」


 と言った。姫野は少しキョトンとした後、クスッと笑って手を取った。


「バカね」




 日村と森尾は研究室でデータの分析。井沢は姫野の観察と、その「できること」を全て。


 もちろん担当医師に精密検査を依頼した。とはいえ24日の外出許可が出ているのは22日の検診時点で何ら身体的異常が検出されなかったからであり、肉体的にはそれから版日しか経っていない状況での再検診ということになる。


 結局、異常は検出されなかった。姫野の寿命を決めているのは巻き戻りで回復する肉体的負担ではなく、巻き戻りで蓄積される精神的負担によるもの。夢で経験した死の苦痛を何重にも記憶に刻み込まれ、現在の技術では外界から観測することのできない脳の奥底で回路形成が行われ、心労を物理的な痕跡に変えていく。


 誰も体験したことがない死の連鎖による心労。それに起因する時限爆弾のような多臓器不全。そして心停止。医療の限りを尽くしても、それは覆らない「運命」だった。




 井沢と姫野は23日と24日を繰り返し続けた。


 日村と森尾には7回巻き戻りを繰り返したら、心的負担軽減のために一度忘却してもらっている。つまり、薬を飲ませずに巻き戻している。さもないと、姫野と同じ道を歩んでしまうからだ。


 しかし井沢は、姫野と約束した通り、毎回薬を飲んだ。井沢が記憶を残すことで、日村と森尾にこれまでの分析結果を伝えることが出来る。


 本来ならば3人が別々のタイミングで忘却することで、分析結果を伝える役を井沢に固定する必要はなくなる。それでも井沢は頑なに、姫野と共に同じ時間を生きると主張した。井沢が姫野の二の舞いになることが予想されていたが、それでも、井沢は忘却を拒んだ。止むを得ず、3人の取り決めで井沢だけは薬を飲み続けることとなっていた。




 医療は役に立たなかった。




 科学分析は進んでいるようで、次第に収斂を見せていった。




 以下に記憶を引き継ぎ分析結果を伝達し続けても、収集したデータは巻き戻ってしまう。コンピュータを揃えても、2日掛かりで分析できるデータの量には限界があった。




 自ずと、井沢が報告できる分析結果が、固定化されていった。




 そして姫野の寿命は、巻き戻りを重ねるに連れて短くなっているように感じた。




 井沢が忘却してしまっては本末転倒なので、姫野の体調を見て限界より前に薬を飲む。




 そのタイミングが最早、24日の15時頃に迫っていた。




 ――そして迎えた、1029回目の12月24日。

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