あと少しだけ
あなたのことが好きでした
出会えたその瞬間に、頭に電撃が走りました。
「この人だ」
ただ、目が合っただけなのに、私には確信できました。
私は、この人を好きになると。
初めてでした。
恋をしたのは。
これまでだって、それなりに恋をしてきたと思っていました。
だけど、今までのものは「恋」なんていえるものではないと
あなたと目が合った瞬間に気づかされました。
あなたは、何か感じてくれたかな。
何も感じなくてもいい、私が必ず私の存在に気づかせてあげるから。
特別かわいくもなく、何か誇れるものを持っているわけでもない私が
なぜか、その時だけは自信に満ち溢れていました。
絶対に振り向かせてやる。
そこから、私の恋が始まりました。
優しくて、面白くて、明るくて、いつも友達に囲まれていて
あなたの周りには、きらきらとした笑顔があふれていました。
それがうらやましくて、私もその一員になりたくて。
だけど、あなたのテリトリーに気安く入ってはいけないような気がして。
あれほどあった自信は、どこへいったのかな。
あなたを見るたび、私なんか関わらない方がいいんじゃないか。
そんなことが頭をよぎりました。
だけど、天使かと思うほどに優しさを持ったあなたは
私ともたくさん話してくれました。
他の子と変わらないだけの笑顔を向けてくれました。
だけど、その優しさが少しつらかったの。
なんでだろう。
話せて嬉しいはずなのに、心にずきり。
ああ、そうか、私はまた高望みをしているんだ。
他の子と違う笑顔を向けてほしいと。
私だけに見せる特別な笑顔が欲しいと。
そんな高望みをした私がばかでした。
あなたにはすでに、特別な笑顔を向けている特別な人がいました。
ずっと、ずっと、二人で過ごしてきた人が。
そんなことも知らず、あなたへの想いを募らせてきた私は
あなたが大切にする人がいるとわかっているのに
どうしても、諦めることができませんでした。
だから、勝手に、好きなままでいました。
少しずつ、想いを隠しながら。
あなたに気づいてほしいけど、気づいてほしくないの。
だって、私の気持ちを知ってしまったら
あなたはきっと、離れてゆく。
そんなことになるくらいなら、普通にそこらへんにいる女子と変わらない
「ただの友達」
になろうと決心しました。
だけど、そんなことを理解するのが遅すぎて
決心するのが遅すぎて
あなたへの想いが、あなたにばれてしまいました。
ああ、終わるんだな。
私は、もうどうしようもなくて、ただただ気づかれていることを気づいていないようにしました。
「好きだ。」
ありえないと思った。
気が狂いそうだった。
あなたはその言葉を渡す人を間違っている。
だけど
「私の方が好き」
思わず、こぼれてしまった。
自分の両手を濡らしながら、私は心の奥底に閉まったはずの言葉を吐き出していた。
あなたは、今まで過ごしてきた人じゃなくて
私を選んだ。
もう、洪水のごとく喉から想いがあふれだした。
「あなたと会った瞬間から」
「目が合ったその時から」
ずっとずっと好きです。
言葉になりきれなかった想いは、水となって出て行った
私の体はからからに乾燥した
だけど、心は今までに感じたことのないくらい
潤っていた。
自分が幸せをつかむために、誰かを傷つける
恋ってそういうものだと思う。
みんなが幸せなんて絶対にありえない。
私は、私の幸せのために
あなたが大切にしてきた人を傷つけた。
だけど、そんなこと考えてもいなかった。
どうだってよかった。
だって、幸せなんだから。
毎日が夢のような日々だった。
ああ、一生このままがいいと思った。
一生続く幸せだと思っていた。
始まったものには、終わりもつきものだということを忘れていた。
それはすごく突然で
私の容量の悪い頭では到底理解のできないことで
何が起こっているのか
本当にわからなかった。
「もう終わりにしよう」
何を終わりにするというのだろう。
何か終わりにしなければならないものがあるのだろうか。
「なぜ?」
何もわかっていないのに
全てをわかっているふりをして、私は口を動かしていた。
「ごめん」
あ、私謝られてる。
あなたが何か悪いことをしたのね。
なのになぜ
私の心がこんなにも悲鳴をあげているの?
どうして?
私が悪くないと言ったあなたが、新しい道へ向かって
何もしていない私は、取り残された。
あなたは、私と歩んできた道を戻って
あなたが昔大切にしていた人のもとへ帰って行った。
私には、その道へ足を踏み入れることはできなくて
ただ、ただ立ちすくんでいた。
そうしてる間に、あなたはすごく幸せそうな顔をして
私を追い抜いて行った。
大切な人とともに。
知ってたよ
奪って得たものは、いつかは奪われる
私は、たまたま手に入ったように
周りと変わらないとでもいうように
あなたと共に過ごしてきた。
だけど、あなたは「盗品」だった。
いつかは返品しなければいけない。
でも、ずっとずっと一緒にいれば
いつか、本当に私の大切な人になってくれると思ってた。
私だけのものだと思っていた。
馬鹿な私。
あなたのことなんて、すぐに忘れてやる
もっともっと良い人を見つけて
今度こそ、幸せをつかむんだ。
そうやって、見栄を張っていた。
見栄で作られた箱の中で私は
ただ一人、泣いていた。
どんなに時間がたっても、
思い出すのはあなたのことなの。
他の人と付き合ってしまえば、あなたとの思い出なんて
すぐに消えると思ってた。
だけど、誰と一緒にいても、何度違う人と歩いても
この道は、あなたと歩いた道だ。
そう思ってしまう。
あなたは今でも、大切な人と笑いあってて
幸せにしてる。
私はきっと、あなたに気づかせてあげる役だったんだ。
その人が、あなたにとって本当に大切な人なんだよって。
あー、お人好し。
他人の手助けをしておいて
自分は、一歩も進めないなんて。
だけどね、もう安心して。
私、やっと歩き出しました。
あなたを超える人にはまだ出会ってないけど
一人でも少しずつ歩いていく強さが身に付きました。
でもやっぱり、たまには振り返っちゃうの
もしかしたら、私のことを思い出してくれているかもしれない
なんて、調子のいいこと考えちゃうの
大丈夫、もうあなたに関わらないから
あなたから幸せを奪おうなんてしないから
私は私の幸せを探すのに精一杯だもの
あなたとの思い出を消すことに精いっぱいだもの
思い出ってこんなにも消えないものなんだね
完全に消えなくてもいい
だけど、少し薄くしたいの
最近薄くなってきたかなって思ってたんだけど
あの場所へ近づくと
やっぱり鮮明によみがえってきます。
あなたと歩いた道
きっと、私を大切に思って
私と幸せになってくれる人を見つけたら
あの道を二人で並んで歩いて
あなたとの思い出を塗り替えようと思う
もう二度と、あの幸せを取り戻したいと思わないために。
それまで、きっとあと少しだから
全然予定なんて決まってないけど
きっと、もう少しだから
だから、もう少しだけ、私の中にとどまっていてください。
あの幸せの時を、もう少しだけ
思い出として、持っていさせてください。
もうすぐ、ぽいって捨ててやるんだから。
あと、少しだけ。