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エグザの答え

エグザがアルヴェムに切りかかって行ったとき、俺が見たのは確かに、“呪い”だった。でも同時に、これならやれるとも思った。

上空を旋回するドラゴン、どうやら一撃の重さを光希が理解して攻撃を控えているらしかった。いい判断だと思うぜ、光希。


逆に深刻だったのはベニマルの方だった。今の今まで攻撃を避けるだけの余裕を見せていたはずのベニマルは、エグザとアルヴェムの話を聞いて止まってしまった。

エグザの話から推測するに、エグザのいたギルドに所属していたことがあるようだし、愛着を持っていたギルドが壊滅したと聞いて茫然自失になったってところじゃないだろうか。


「ベニマルさん!」

俺が駆け寄るとベニマルはゆっくりと顔を上げた。表情なんてなくて、真っ青で、ああアルヴェムの野郎やりやがったな、って思った。

「……アルヴェムが……皆殺した……あの子たちを……」

目が赤く染まっていく。はは、ふざけんじゃねえぞこんなところで暴走なんかされたら止める手立てもない皆死んじまう。


「おい、これやばくねえか」

「やばいに決まってんだろ、暴走する気だ」

「はぁ!? こんな都市一個吹っ飛ぶぞ!?」

どうしろってんだ、ここは俺の地元じゃねえんだぜ!?とはいってもライガーだって似たようなもんだ、ライガーだってそんなことわかっているはずなのだから二人でやっぱり考えるしかないのだ。


「……簡単に止める方法がある」

「却下」

「獣人のくせに!」

「簡単な方法なんざそれしかねーんだよガキでも白虎なら知ってらあ馬鹿にすんじゃねえ!!」

息継ぎもなしに言ってくるあたり本気で止めに来ているらしいライガーに俺は苦笑するしかなかった。


「……しゃーねー、殴るぞ」

「おう」

最初っからそうしてりゃいいんだ、なんて物騒なこと言って、ライガーは拳と足を獣化させた。白虎という割に毛並みは黒いのな。そう言ったらうっせえ馬鹿、と返された。


「ベニマルとか言ったっけか、竜仙のジジイ。てめーが暴れたらてめーが守ろうとしてたやつら全部吹っ飛ぶんだけどいいのか」

ライガーはそう言って構える。俺は一旦後ろに下がった。竜人がいくら白兵戦に弱いとはいえ人間なんかよりずっとパワーはあるのだから、まともに組み合ったりしたら俺の腕が折れる。


ライガーの属性は金。竜人が基本的に持っているのは木だから、金剋木の関係で弱体化させることができる。そこを俺が術でサポートして力のごり押し、うまくいけば意識が飛ぶ前にベニマルが正気に戻る。

「まだ初期段階だからな……全力で潰すぞ」

「えげつねえな」

「チビチビやる馬鹿がどこにいる」

「違いねえ」


手甲をはめる。目を閉じる。深呼吸をして意識を研ぎ澄ます。

両手を合わせる。

「―――暴れ竜へ捧ぐ舞。白虎演武、木を薙ぐ金の刃」

目を開ける。

「我贈る、言の刃」

さあ、一方的な喧嘩と口論を始めようか。


「あんたが暴れたところで苦しむのはエグザだろ。皆死んだんだったらよぉ、生き残りぐらい守らにゃあって思わねーのかよ。今守るのはてめえのプライドじゃねえ、てめえの気持ちじゃねえ、てめえの守ろうとしてきたものだろうが」

「失ったものは取り返せない、わかっている……だが許すことはできない、アルヴェムは殺す!!」


そこで殺すって考えたら負けなんだっての。

ライガーがジャブを叩き込んだ。うん、効いてる。さっきまでライガーの攻撃全部避けられてたしな。さあ、とっとと押し切るぜ。


「木生火、土生金、金乗金、相乗!!」

叫んで手を二回叩く、そしてそこから移動。ベニマルが俺を追おうとすればライガーが阻んで殴り合いになる。

「てめえはてめえが守りたかったものまで自分でぶっ壊す気なわけだ、今まさにそうじゃねえか、俺たち仙人だから死んでねえけど普通死んでるぜ!」


傷つけろ、傷つけろ。

竜人は苦痛を糧にする種族だ。苦痛を感じさせるだけ強くなる。

ベニマル、あんたもそうだろ、まだ傷つくだけの心があるんだろ。

とりあえずさっさと落ち着いて俺たちをエグザの援護に行かせろよ。


ライガーの拳がベニマルの胸にぶち当たった。

「……お?」

「……うう、っ……」

「……届いた、か」

ベニマルの両腕がだらりと下がって、抵抗が止んだ。ベニマルがゆっくりと顔を上げる。


「……私、は……」

「休んでろジジイ」

「光希を安全な所へ連れていってください」

正気に戻ったらしいベニマルに二人でそう声をかけて、ようやく、俺とライガーは、エグザのもとへはせ参じることになった。


「まずはエグザだと殺そうとするアルヴェムだな。あっちの回復経路を遮断しねーと」

「金気で一部切れたぞ」

「よし、ならあのカラクリ先にやっちまうか」

「いや、さっきから見ててやたら単調なんだよな、あれ」


ライガーに言われて俺も少しカラクリの動きを追った。

というか、動いて……ない?

そこで一つの仮定が生まれた。もしかして、あのカラクリはアルヴェムが動かしているのではない?

だが、もしそれが本当だとしたら。


俺とライガーは、互いに顔を見合わせてニッと笑いあった。




「戦闘連ちゃんとか普通ありえねーな」

「悪いな、回復もまともにしてやれなくてよぉ」

「別に、慣れてるっつーか、普通は回復できねーし」

「確かに」


目の前で繰り広げられる無斗とライガーの会話に俺はただ呆然と立ち尽くすのみ。ほとんど無傷の二人は俺を振り返って笑う。

「大丈夫だって」

「カラクリぶっ壊して待ってろ」

力強い声に安心感が湧いてきて、表現としてはそう、まさに、“地面に足がついたよう”だった。


「さて? 鮮やかなまでに圧勝して見せようか」

無斗の声は明るかったが声音は酷く冷酷な冷たさをはらんでいた。ライガーは何も言わない。俺は立ち上がって、二人に言われた通り、カラクリの方を向いた。

そこには、真っ赤な瞳のカラクリがあった。

いや、カラクリに本来瞳はないのだから、明らかに今の状況がおかしいのだが。


つまり、このカラクリに何かあると?

俺は剣を改めて構えた。嫌な予感がするのはなぜだろうか。横目で無斗とライガーの様子を窺うと、二人はそれぞれ片刃の剣と獣化した拳を構えていた。

俺は目の前のカラクリに集中した。この赤い瞳に対しては何か悪意を感じる。


胸の奥がざわつくのを感じた。

こういう時は深呼吸、と、なぜかアルヴェムの声が聞こえた気がした。

すぅ、と息を吸った。

「――――ッ!」

思い切り声を上げて、まとわりつくような気を払う。

カラクリが両手を振り上げた。


時間差で右、左と地面に叩きつけられた刃を避けて懐に入り込む。炎を纏わせた剣で切り上げた。カラクリはその硬度だけでこちらの剣を弾き返し、俺が体勢を立て直すために前へ踏み出すとそれを追ってきた。


振り返りざまに袈裟懸けに切ったがやはり弾かれる。また声が聞こえた。

―――切っ先で削るんだ。

後ろに飛び退きざまに切り上げる。

ガリガリガリ、と何かが削れた。


「“縛陣”!!」

無斗の声がして、カラクリが動きを止めた。どうやら、スタン系の術をこちらにかけてくれたらしい。俺はいつもよりも気持ち半歩引き気味にカラクリを切りつけた。

ぎぃぃぃぃ、耳障りな音とともにバリン、と一枚障壁が割れた。


「うおおおおっ!」

力任せに一撃叩き込むと、また、パリン、と障壁が割れた。

カラクリが振りかざしてきた両手を飛び越えてもう一撃叩き込む、今度は弾かれる。

再び削る体制に入った。




「エグザ上手くはまったな」

「そうだな。つーかアルヴェムってカラクリ士だろ?なんでこんな面倒なことしてるんだ?」

「さあ、なんかあったんじゃねえの」


俺とライガーはアルヴェム本人を縛ってこちらに見えていた呪いの解呪を行った。エグザを見る目がすがるようなものだったのにエグザはそれに対してやたら闘争心燃やしていたな。これは第三者からの干渉があっていると考えるべきか?

ライガーも同じことを考えていたようで、アルヴェムに拳を叩き込んで、ドラゴンがいなくなっていることを確認して、エグザの方を見た。


エグザはカラクリに施された魔障壁が二種類であることに気付いたらしい。単調な動きをするカラクリ、おそらく何かしらパターン化されていると考えるのが妥当だろう。カラクリ士はこんな粗悪品使わない。

これは訓練用のものに過ぎない。または、まだうまくカラクリを使えないような初心者が使うある程度の動きをあらかじめ組んであるもの。


外側から見ているとよく相手の動きが見えることってあるだろう、ちょうどそんな感じだ。

エグザはちょっとパワーに任せて叩き切ろうとするところがあるな。カラクリ相手ならまあいいのかもしれない。


エグザは無事に障壁をすべてはぎ取ってカラクリを叩き切った。

俺とライガーはそれを見て近付いた。

「お疲れさん」

「ああ……」


エグザの表情は複雑そうだった。あんだけ殺す殺す言ってたからな。呪いの元凶を自分で破壊したはずだし全部解けて改めて自分の思考を読み直して、ってところだろう。

「……師匠は」

「呪いを白虎の力で打ち切った形になってるから、今はかなり衰弱してる。そっちの呪いもちゃんと解けきったみたいで安心したぜ」

「……」


エグザはふらついた。俺より背が高い訳だからこっちに倒れてこられても困るんだけどな。ライガーが慌てて支えてくれたためそっちに任せて、俺はアルヴェムを担いでギルドに戻ることにした。けれど、一つ用事を思い出したわけで。


「ライガー、俺クロガネ拾っていきたいんだけど」

「そっちまで俺に担げってのかよ?」

「晩飯は好きなもん作ってやるから」

「……マジだろーな?」

「おう」


チョロいよお前。19だって言ってたけど。獣人にしちゃひねくれてなくて親しみやすいいいやつだけど。

俺はライガーにアルヴェムまで任せて、ベニマルと光希がいるであろう方へ向かった。


街中を見て回る。魔法障壁が街中に張り巡らせてあったのに、全部魔法陣が死んでいる。ためてあった魔力をごっそり奪われたような感じだな。

高い建物の上に光希とベニマルはいた。


「ベニマルさん、光希」

「……闇姫の」

「無斗! 無事だったんだな!」


俺が招いといてなんだけど!と光希はとりあえず状況自体は正しく把握しているようだったので少し小言を言うにとどめた。

ベニマルさんの方はやはり精神的なダメージを引きずっている真っ最中で、瞳に覇気もなければ怒りすらも映ってはおらず、どす黒い闇が垂れこめたような状態。

これは酷いな。


「ベニマルさん、しばらくお休みになってくださいね」

厚意から言った言葉だったが、ベニマルは小さくうなずくにとどめた。光希はじゃあ、と言ってベニマルを抱えてギルドのある方向へ戻って行った。

「光希おめー後で領主館に行けよ!」

「おー」


光希がいなくなって、俺は一旦ギルドに戻ることにした。状況を正確に把握しておきたいが、俺よりもギルマスの音魔法の方がはるかに早く済むってものだ。

俺は近くまでやってきていたクロガネとともにソラトワへの帰路についた。




「エグザ、彼をどうするのかはあなたが決めるべきだ」

クロガネがそう俺に言った。俺はどうすればいいのかわからない。呪いというのは本当に恐ろしいななどと思ったのだ。

今の俺は師匠を殺そうとは思っていない。いったいどれだけの強力な魔法を組めば魔人の血を継ぐ俺に精神支配の魔法をかけられるというのだろうか。


魔法の耐性には自信があったし、はっきり言って今でもまだ呪いに掛かっていた自覚はない。しかし現に、こうして師匠を殺すか殺さないかで迷っているあたり、呪いで殺衝動の部分が強化されていたことがはっきりとわかる。


「……殺さなくていいと、思う」

「本当にそんなに曖昧でいいの?」

エイルガレラ殿がそう語りかけてくる。俺は少しばかり悩んだが、もう一度言い直すことにした。


「師匠を殺しはしない。その代わり、どうしてこんなことをしたのか、洗いざらい吐いてもらう」

「お前、さらっとドSだと思うわけだがどうだ?」

無斗がニヤニヤしながらそう言ってくるので俺はどう反応していいかわからず困惑のまま立ち尽くすことになった。


伏線しかない。そして回収しようとしながらほったらかし。文才の無さに泣きそうです……。


誤字脱字の指摘、感想お待ちしております。

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