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とあるギルドの話

目の前が真っ赤に染まる。

なあどうしてこんなこと、

問いかけようとしたけれど喉が切れていてうまく音にならなかった。


ハーディ、エンリ、アリア、ナタージャ、セレト、バーン、ライオット。

皆が血の海に沈んでいた。

白いマントを羽織った長いブロンドの男が俺を見下ろしていた。


「まだ生きているのか、流石はハーフといったところだな」


こいつは俺の知っている彼じゃない


「殺すのも惜しいな。ああ、そうだ」


男はその手で空に魔法陣を描く。


「俺を憎み続けるといい。そしてバケモノに成り下がるがいい」


紫色の魔法陣、それが闇属性の危険なものだということはすぐに理解したし逃げ出したかった、でも体は動かなかった。

手足の腱を切り捨てられた時点で一番最初に血だまりに沈んでいたのは俺自身だったからどうしようもない笑えない。


魔法陣の文字を読み取ってそれが呪いの一種だと理解したときにはもう遅い。解呪魔法がまだない呪いだった。体が熱くなってどうしようもなくなった。体内で暴れまわる熱と魔人の再生能力で負傷した部位が急激に治り始めるのと、その痛みは激痛なんて言葉で表せるほと簡単なものじゃなかった。


「っあああああああああっ!!」


絶叫した俺が意識を失う前に見たのは、下卑た笑みを浮かべたかつての仲間の顔だった。




「またギルド潰されたんですか」

「そう」


ギルドマスターの招集が緊急で掛けられて、ギルマスが持って帰ってきた情報がそれだった。ここ二週間ほどでギルドが複数潰されている。


「少数精鋭型のギルドが狙われているらしい。小規模ギルドは特に気を付けるように、だと」


ソラトワは小規模ギルドで、狙われる可能性がないとは言い切れない。


「ただ、ちょっと厄介なのが絡んでいる」

「え?」

「魔族の奴隷を開放して回っているらしい」

「……」


俺はライガーと顔を見合わせた。


厄介なこと極まりない。人間は数がいるから魔族に勝てるだけで、魔族側の数が揃ってしまえば力でなぶり殺しにされるアリンコみたいなもんだ。


「主犯格は」

「わからん。だが、最初にやられたギルドが、内部崩壊したって話だ。周りとのいざこざがなかったうえに、二人いなくなっているらしい」


指名手配にあっているのは二人。アルヴェムという男は魔術師らしい。そして、どうやら闇属性魔法を扱うとのこと。


「闇ってなんかあるのか?」

「ああそうか、日々羅華はなじみがないね。闇属性ってのは、要は相手の精神面に揺さぶりをかける魔法全般を指す。補助魔法としちゃ最高だが、扱う人間にも悪影響が出るのは否めないな」


エイルガレラさんが答えてくれた。怪しいな。

もう一人はエグザという男、こちらは剣士だが魔人と人間のハーフだということだ。

こちらは火属性と闇属性の攻撃魔法を使っていたとのこと。


「魔術師が怪しい」

「そうだな」

「うん」

「そうね」

「じゃあこいつを追っかけてみるか」


一切疑う人間がいないという状況。

いいことだと思うがな?普通はここで『魔人と人間のハーフの剣士のほうが怪しい』って言うやつが出てくるものなんだと。


「とりあえず、なんでそう考えたのか聞かせてもらえるかしら」


珍しくアウリエラが口を開いた。エルフは意外と魔人と仲が良かったりする。そのせいなのかもしれない。

最初に口を開いたのはクロガネだった。


「魔人とのハーフだからって理由じゃ疑う必要はないさ」


やっぱそうだよな。アウリエラが俺を見る。次は俺に言えってのか。


「……そうだな。攻撃魔法を使う剣士ってところ。一定の補助魔法が使えりゃあ自然と魔法剣士にクラスチェンジする。つーことは、このエグザってやつは補助魔法はほとんど使えないと考えられる。闇が相手の精神面に干渉するってんなら、わざわざギルドが潰れるようなことする必要はねえと思うがな。ギルマス、別に建物馬破壊されてるとかじゃないんでしょう?」

「ああ」


ギルマスはうなずいた。闇属性だけしか持ってないなら、破壊まではいかないだろうし―――でも、やっぱおかしいか?なんでみんな死ぬんだ?

俺の疑問に気付いたらしいギルマスが答えてくれた。


「生存者は今のところゼロだ。上層部も元老院も、エグザってやつの方を疑っている。剣士だから殺しも得意だろ、ってな」


偏見もいいところだ。するとライガーが言った。


「普通は、疑われやすい闇属性の奴がそんなことするわけねえって思うんだよ。人間は深く考える。情報が少ねえ」

「?」

「死んだ奴らの傷の切り口は? 職業は? 種族は? ここには状況証拠が何にもねえ!」


言われてみればそうだ。


「少し情報を整理しようかしら」


エイルガレラさんが言った。


この小規模ギルドへの襲撃事件は二週間ほど前から起きている。最初に潰れた、この二人が所属していたギルドの名は“星闇月下”。エッデガラの南西にある都市国家アガルザネイオにあった。最初の一週間はアガルザネイオのギルドを潰しまくっていたが、今週に入ってからエッデガラのギルドを潰し始めた。

星闇月下からいなくなったのは二人。アルヴェムは闇属性の魔術師。エグザは火と闇の攻撃魔法を使う剣士。エグザの方は魔人と人間のハーフだ。

殺された人数は百七十人ぐらい。職業には特に括りや狙いはないようで、魔術師、剣士、戦士、盗賊、アサシン、ガンナー、ランサー、獣使い、召喚士、僧侶、さまざまだった。


「……傷の切り口、か。確かに、持ち物次第だが……ずっと同じものを持っているだろうか?」

「それはわからないな……」


いろいろと思案する。ライガーは苦虫を噛み潰したような表情をした。


「どうかしたのか?」

「……もし、もしもだ。魔人と人間のハーフだから魔族の血が流れているからっていう人間の前提みたいなこと考えてみるとしてだ」

「ん」

「……逆に、魔族の血が流れてるが抵抗できない魔法にかけられて精神支配とか受けててマジでこのエグザってやつが皆殺してたらどうする」

「!」


考えつかなかった。

魔人っつったら魔法に抵抗力が高くて、魔法なんてほとんどレジストするような種族だ。ハーフだってそのレジスト能力は人間の比じゃない。そういう前提が頭に入っている。


「でも、なんでそう思う?」


アウリエラが問う。ライガーは答える。


「忘れるものか!! 俺が仙にならなきゃならなくなった原因の魔法だ!! 爺が掛けられて、家長だぜ、皆より断然強かったんだ、伯父上も伯母上もみんなやられた。そりゃあ獣人は魔法にゃかかりやすい、でもな、これでも白虎の一族だ。呪いの類だ、クソムカつくことにまだ解呪方が見つかってねえ」


ライガーは忌々しげに顔をしかめた。うわ、なんかきっついこと思い出させたみたいだ。


「解呪方がまだ見つかってない、か。いいことを聞いた」


ギルマスが目を輝かせた。


「?」

「もしもエグザが精神支配を受けているとしたら、解呪すれば助けられる可能性があるってことだ」


その真剣な表情を見て、ああ、この人本当に魔術師なんだなあと思った。


「エグザの方を探してあげてほしい」


「―――!」


聞き慣れない声に振り返った。長い青紫の髪の、“静”だった。


「……歪みのせいなのか?」

「……」


ゆっくりとうなずく静。


「……この呪いは、本来この世界では、出来上がるものじゃない……」


「わかった」


間髪入れずに答えたのはライガーだった。


「……」

「今の俺なら呪いは効かねえ。やるしかねえ」


ライガーは俺を見た。

数回組んで依頼をこなしてみたけれど、クロガネと行くより断然彼と行くほうが俺は戦闘に気を向けていられるし、どちらも隠密行動ができるってのもあってか危険を回避するのが楽だ。戦闘が前提なら行くのは彼とだろう。


「……クロガネ、最悪の場合ってのもある。気を付けて」

「そっくりそのまま返すよ。……無斗にケガさせてみろ、八つ裂きにしてやるからな、単細胞」

「んなことになってたらてめーも瀕死に決まってらぁ、角折」


また火花が散る。角折、クロガネの角が折られていることからライガーがクロガネにつけた渾名だ。


「これ、使って」


“語”と“動”が俺とライガーに渡した布を、俺たちは互いの腕に結んだ。ライガーはとりあえずコートを脱ぐ。破りたくないって、律義なやつだよな。


「それは無茶ぶりしても構わない、というか無茶をさせるのが分かってるから渡してるんだけど。それがあれば死なないけど、なるべく気を付けて。腕から外されたら終わりだからね」

「闇属性をぶった切るのは光とそれを反射する物質です。ってなわけで、これ貸したげる。僕のお気に入りなんだから、返してよね!」


俺は動からその双剣を押し付けられた。使わなきゃいいだろ、と言って笑ってやると、そうだといいね、というかそうなるように願っているよ、とその笑みを崩さぬまま言った。表情の読めないやつは苦手だが、俺も似たようなもんなんだろうな。


俺とライガーはエグザを探すために外に出た。

ギルマスが言うには、この依頼はすべてのギルドが参加しているそうだ。他のギルドにいろいろされる前にエグザを保護できるなら保護する、と。

しかも異世界人であるあの三人が動いたのだから間違いなくエグザは白だ。アルヴェムとやらが黒、そっちをぶっ潰さねえと。




なんてことだろう!俺まで指名手配されているところを見ると、あいつは上手く逃げおおせているうえにナイフの腕前を披露しているらしい。そもそも彼の職業が魔術師と言っている時点で誤りだ。彼はカラクリ士なのだから。


カラクリ士とは、人形を操って戦う獣使いのような職業の一つで、彼はオリジナルの人形を作っている。一度見せてもらったことがあるが、大振りなナイフを両手に見立てた攻撃特化の人形だ。


というかこれ、俺疑われてないか?忌々しいこの呪いさえなければ、堂々と街中を歩けるというのに、弁明すらできないじゃないか。

今はカラクリの手入れに必要な道具を闇ルートで手に入れていく彼を追っている。八番街から入って、向かっているのは三番街だと考えられる。


そこ以外に、彼が行く場所なんて見つからないからだ。


「いたぞ!」


しまった、見つかった。魔力探知を掛けられてしまうとどうしようもないのだ。体中の血が熱くなる、逆流するようだ。

くそ、魔術師がいる!

やめろ、来るんじゃないっ!!

でもそんな言葉は、忠告は、音にならない。


「っ……」


冷汗が流れる。気分は最悪だ、目の前に切り捨てるのによさそうな程度の肉厚の人間がいる、切り殺してみよう?ギルドマスターがくれたこの剣で。


ふざけるな!!

そんなことギルドマスターは、養父さんは望んでいない!!


必死で思考を振り払う。動けなくなっている間に、人間のパーティが俺に接近してきて、剣を振り上げた。

しまった、死ぬ気はない、そんなことを考えた瞬間、抑え込んでいたはずの殺衝動が噴出して、剣を抜いていた。


「っ!」


ガキィン、と高い金属の音。炎は出さずに済んだが、相手の剣を熱で切り始めている。俺は大きく後ろに飛びのいて、壁に当たる。上に上がるしかない。見つかりやすくはあるが、逃げやすくもあるし、相手も攻撃を避けやすくなるだろう。


着込んでいるマントを翻し、俺は屋根の上まで一気に駆け上った。


「上に行ったぞ!」

「気をつけろ、そいつ魔剣持ってやがる!」


魔剣じゃない、火竜の牙を鍛えた刀身というだけだ、そんな言い方をするな。


辺りを見渡すと、なるほど、沢山のパーティが俺を潰しに来ている。どうにかして切り抜けなくては、彼のもとへ行かなくては、彼を殺さなければ、これ以上の被害が出る前に。


「邪魔を、するなあぁぁっ!!」


大きく一閃横薙ぎに空を切り、炎を走らせて威嚇する。魔術師が傍に来なければ殺衝動は酷くはならない。大丈夫だ、何とかなる、俺は飛行魔法こそ持たないが、移動速度には自信があるし、一処にとどまっている方が危険だ。


炎に怯んでくれた一団の上を一瞬で、脚力を全力で使用して飛び越えた。

「あっ!」

「っのやろ……!」

貴様らの相手をしている暇なんてないんだ、どいてくれ。

殺しなんて、したくないんだから。


そう思っても、向こうは次々と仕掛けてくる。

飛び道具系はすべて炎で焼き払う。おそらくこちらの魔力切れを狙っているのだろうが、そんなこと起きるはずがない。この炎はこの剣が持つ力なのだから、俺は一切魔力を消費していない、まだぴんぴんしているんだ。


と、足を着いた屋根にトラップが仕掛けてあって、俺は重力操作魔法に捕まってしまった。屋根を壊す覚悟はないらしい、腕のみを重たくする魔法、つまりこちらの攻撃手段を封じるものだ。


くそっ、早く彼の来訪を知らせなければ、逃がさねばならない人がいるというのに、邪魔ばかりする!飛び道具が飛んできても今度は俺は避けることもできずに背中から抉られた。


「ぐっ……!」


俺の鎧はヤワじゃない、だが継ぎ目に当てられると滅法弱い、それが鎧というものだ。


「よっしゃああ!」

「一気に仕留めるぞ!」


男たちの声がして、やばいな、なんて思った時だった。


「間に合った、か?」

「なんとかなんだろ、威嚇できるか?」

「任せろ、小一時間は止めてやるよ」


そんな声が聞こえて、音もなく俺の左右に二人の人影が現れた。一人は黒い長髪の人間。もう一人は薄い金髪、軽装の鎧―――獣人だ。


「あ、なた、たちは……?」

「んー? 味方、なんて言っても信じなくていいぜ。……間違いねえ、呪いがかかってる」

「決まりだな」


一瞬見ただけで俺が呪いに掛かっていると分かったのか?

心の中で問う。次の瞬間、バキリと音がして、獣人が獣化した。

白い、虎。


白虎、だと?


「――――ッ!!」


まるで音として耳が受け付けない大声量、のように感じたが実際は、魔力を込めただけの咆哮に過ぎない。これが白虎?なんという強大な力か!

俺も動けなくなってしまって、しかし黒髪の人間はニッと笑って俺の前に立った。


「エグザ殿とお見受けする。その身柄を保護したい。ついてきてくれるか?」


俺はうなずきたかった、うなずけたかどうかはわからない。

だが彼はうなずき返してきて、トン、と俺の胸を押した。

彼の手には、紋章―――魔人の紋があった。


「感謝する」

「例は後だ。よかったよ、ギルマスがそれの解除方を見つけた後で。さ、とっととそれ解いて弁明タイムと行こうじゃねーか」


帰り道中無斗、ライガーと名乗った彼らとの出会いが、俺の運命の転機となることを、まだこの時の俺は知らない。

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