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虎化族とソラトワ

「お前らあんまり関わる気ないっつってたよな。どうする気なの?」


俺がこの疑問を黒竜人の奴らにぶつけたのは至極当然のことだった。彼らもそう思ってたみたいで、笑ってこう答えやがった。


「俺たちがここに干渉したことによって生まれた歪みに関係することにのみ実力行使を行う。それ以外は俺たちは空気だと思ってくれ」

「まあ、相談には乗るから頼ってくれていいよ! 何か渾名考えてくれない? ずっと白竜人とか黒竜人とか図鑑みたいな呼ばれ方嫌なんだけどなあ」


というわけでよく喋る方の黒竜人を“語”、ほぼ喋らない方の黒竜人を“静”、白竜人と種族名を名乗った金髪の一本角の奴を“動”と呼ぶことにした。


「じゃあ、皆もこの渾名で登録しようか」


ガルバスタードさん、ギルマスがそう言って、俺たちにもあだ名がついた。

俺とクロガネはもともと諱の習慣のせいでもう一つの名前があったから、そっちを登録した。


「無斗は“黒”、クロガネは“鉄”。俺が“術”、エイルが“僧”。アレイナは“花”、アウリエラは“弓”だな」


こうして並べられるとたった六人で活動してんのねって感じだよ。語、静、動はギルド員ではないからな。

残念ながら俺には亜人の紋がないからアウリエラと直接すぐに親しくなるのは難しそうだが、ゆっくり慣れていけばいい。アレイナに仲介を頼みつつ仲良くなる努力にいそしんでいこうと思う。


「……あの獣人の子、大丈夫なのか?」


心配そうに俺に目を向けたギルマスに、俺はうなずいた。


「虎化族はそんなヤワじゃないですよ。それに、しっかり眠っているから大丈夫」


仙人になるためにわざわざ海と山を超えてきているはずだから、逆に体力が残っていないときにああなってしまったとも考えられるが、はっきり言ってここまで来ているならもう仙人にはいつ成ったっておかしくない。


認められるとかそういう問題ではないから。成ったら成ったって分かんだよな。


「仙人に成ろうとしていた道中だったって話だが、確実なのか?」

「従者の狐が言ってたんで、確実ですよ。でも虎化族を仙人にするっていうなら、もう結界はあってないようなもんですね」

「やっぱそうだよなあ」


どうしたもんか、とギルマスが考え込んだ。

大陸の人間にはなじみがないんだが、精霊には最上位精霊、上位精霊と下位精霊がいて、最上位精霊の中には日々羅華が四神と呼ぶ精霊がいる。人間の祈りには応えず、自分の系譜に連なる者にのみ直接的な加護を与える存在。

その系譜に連なるのが人間と蟲人以外の魔族と通称されている、竜人、獣人、鳥人、魔人だ。他にも魚人や亜人もいるが、彼らはもう少し下位の精霊の系譜で、精霊の系譜に連なることには変わりなく、人間よりずっと精霊魔法との相性がいい。


エッデガラだけじゃなくこのヴォッテニア十三都市連邦は四神の考え方をもとにした守護方陣に守られている。あてはめられている精霊は人間に扱える最上級精霊である、火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフ、土のノーム。本当は四神は土じゃなくて金だからもともとがたがたなんだが、鋼の精霊とか聞いたことないしな。


とにかく、奴隷として扱ったとしても魔族は人間を守ってくれているわけなのだが、人間が魔族を狩るものだから、とうとう四神の力のバランスが崩壊し始めたらしい。もともと北の守りががたがただったところ、北に支えられていた東が崩れて、北に抑えられていた南がやたら強くなって、北を支えていた西の守りは南に弱体化させられてとうとう崩壊。どうしようもないな。


「エッデガラはまだ守ってもらえると思うが、早めに行動を起こした方がよさそうだな」


ギルマスははあと息を吐いた。語、静、動がしてきた依頼は長期戦になるのがわかっていたからな、と言って俺たちにもその概要を教えてくれた。


「……つまり、エッデガラから魔族の奴隷制をなくす、と」

「そういうことだ。まあ、魔族は人間よりも腕力があるから、魔法も使えない人間からは恐れられてバケモノ扱いを受けているだけだ。魔族がギルドを経営しちゃいけないなんて法律をとっとと変えさせねーと」

「違法ギルドはそれでもいくつもあるのよ。“紅月”とかね」


エイルガレラさんの言葉に俺はクロガネと顔を見合わせた。

光希のいると言っていたギルドだ。違法ギルドだったのか。

でもずいぶん堂々と語っていたが。


「紅月って、なんなんですか? 知り合いがいるんですけど」

「紅月は、ギルドマスターが竜人と人間のハーフでね、行き場のないハーフや魔族をギルド員として保護しているのよ。でも彼は竜人の外見が出ているせいで法律上竜人区分なの。だから違法ギルド。まあ、領主が先先代の時代からいるみたいだから、事実上公認だけれどね。みんな知ってるわ」

「ああ……だからあんな誇らしげに……」


なんかわかった気がした。

他にも話を聞くと、紅月は中規模ギルドらしく、人数は四十人そこら。大体十人で一パーティ、計四パーティで活動しているらしい。


エイルガレラさんが昼飯の準備に奥へ消えて、俺は先日運び込んだ獣人の彼のもとへ向かうことにした。果物類を切って、皿に乗せて、二階に寝ている彼のもとへ向かった。




「……」


目を覚ますと、見たこともねえ場所にいた。覚えている限り記憶を辿ると、最後に見た人間の顔を思い出した。黒い長髪を真鍮細工の髪留めで留めた日々羅華の民。獣紋を持つ珍しいやつだった。闇姫だと言っていたか。


闇姫っつったら忍者の名門だ。今更ながらにあいつの動きの俊敏さに納得した。

ああやべえ、あいつのナイフ砕いたんだった。弁償とかしなきゃなんねえのかな?金ないぞ俺。


つーか、俺体横にして寝せられてるけど、どんくらい寝てたんだろう?体を仰向けにして起き上がる。うわ、怠い。一晩じゃなさそうだな。

同じ階では全く音がしていなかったところに、とんとん、とたった二回だけ足音がして、そこからはずっと足音をさせながら近づいてくる。たぶんあいつだ。


ドアがノックされて、開いた。


「あ、起きてたか」

「わかってたんだろ」

「あ、ばれたか」


黒い髪を揺らしながらそいつは入って来た。確か―――無斗。


「ここか、お前の言ってたギルドって」

「ああ。ここは住み込み用の部屋だけどな」

「……」


俺、ここに参加前提なのか?


「気にすんな俺の部屋だよ」

「……お前どこで寝てたんだ?」

「え? 外」

「……」


馬鹿だ、こいつ馬鹿だ、さすがにそこまでする日々羅華知らない。流石獣紋持ち、つーかこいつの獣紋なんつー場所にあるんだよ急所のすぐ近くじゃねえか。脇腹辺りにあったんだから、それに俺の獣化した手を近づけたってんだから、相当肝のすわったやつだ。


「もう傷は癒えたか?」

「ああ。もう大丈夫そうだ」


金属はあまり効かないからな。銃で撃たれただけでよかった、魔弾だったらえらい目に遭っていたはずだ。それでも風穴は開くし血は流れるもんだ。その手当てをしてもらえたようなので何か返すべきだろうが……。


「果物食えるか?」

「ん? ああ……」


無斗が持ってきたらしいプレートの上にはイチゴとオレンジを輪切りにしたものが乗っている。部屋の内装を見渡すと、あまり物は置かれていないがちゃっかり風水を考えて色のついたものを配置してあった。


正面は北らしい、黒いクローゼットとソファ。いや、これはもしかしてもともと置いてあったのかもな。配置はこいつが変えたのかもしれない。

東側には木製の棚の上に青い花瓶が置いてある。

南はわかりやすい、ベッドの掛布団が赤チェックのデザインのカバーだったから。

西には申し訳程度にイスとテーブル、白クッションが置いてあった。


笑えるくらいちぐはぐだが、ベッドが西側に寄っているというのもあってか、俺としては居心地がよかった。

虎化族ってのは白虎の直系だ。でもそんなことを知っている奴なんて指折り数えられる程度、だがこいつは何か知っていそうだ。


「はい」

「ん」


差し出されたプレートとフォークを受け取り、口に運んだ。


「……うまい」

「そうか? よかった。虎化族に会うのなんて久しぶりだし、好みもわかんなくて結構悩んだんだぜ」


無斗は笑った。木の気が強すぎる気がした。まるで、もともとはバランスよくいっていたものを、途中から捻じ曲げたような。

これは、矯正しないと身を滅ぼすぞ。


果物を食べ終えて、ベッドから降りる。包帯は全部取ってもらって、少し体を動かした。

大丈夫そうだ。つーか俺の鎧の外し方よくわかったな。

上着を押し付けられた。亜人がいるって言ったろ、と言われてしぶしぶそれを着た。亜人、特にエルフは露出が多い服装をしている相手が苦手だ。もともと半裸みたいなかっこしてんだけどな、俺。


階段を降りるとき、もう無斗は足音が消えていた。やっぱり、俺が起きたって気付いて、驚かさねえようにって足音をわざと立てていたんだ。かくいう俺も意識しないと足音が消えているので無斗のことをとやかくは言えない。


ここは二階建てらしい。一階はギルドホールとして使用しているらしく、階段を下りて短い廊下を進み、突き当たりのドアを開けるとホールに出た。ホールなんて言ってもそんなに広いわけではないが、それなりに雰囲気のある場所。


「あら、やっぱり起きてた?」

「元気そうですよ。飯食えそう?」

「……じゃあ、世話になります」

「おいでー」


なあ、目の前に出てきた長髪の女の筋肉量パねえんだけど。細いけどその皮膚の中身は筋肉でいっぱいだろ。この人モンクだな。魔力はそこまで多くなさそうだ。


「それにしても、獣人って回復も早いのね」

「あ、はぁ」


一緒の食卓に引っ張って行かれて、俺名前名乗ってもないのに、座らされて、一緒に食卓を囲む形になった。俺の分まで用意してくれてんのな。


つーかこれ俺餌付けされてるって考えた方がいいのか?皿にとってもらった肉がとってもおいしい。薄味万歳。俺も料理ちょっとぐらいならする、それ以外は親父の好みに合わせられちまうから味付けが濃いんだよな、なんて懐かしい思いで回想してる場合じゃねえけど。


どうするかな。俺と一緒にこちらにやってきたのは古獣化銀狼のルー、獣化狐のギンタ。ギンタは頭は回るが俺とルーを逃がすのに一人で残っちまってたし、捕まってんじゃねえかな。奴隷市とか?ああくそ、人間の思考なんて読めないから、もっと酷いことになっているかもしれない。


食事を終えた俺たちは皿の片付けをしてホールに戻った。そろそろお暇させてもらおうか。確か、ギルドで俺の身分証明書を発行してもらえばいいんだっけか。そんなことを考えていたら、無斗が苦笑しながら話を切り出してきた。


「なあ、あんたさ」

「?」

「狐の従者、奴隷市にいたんだけど」

「……」


覚悟はしてたけどな。アイツそこまで力強いわけじゃないし、でもなあ。

金ないんだよ、買い戻せない。

そんな俺の表情を見てか、無斗は続けた。


「……予約だけはしてるんだよ」

「!」


俺は無斗の方を見た。わざわざそんなことをしてくれたってのかよ、こいつは?


「俺はあいつを買ったりしない。連れ戻したきゃ頑張るしかねーよ」

「……」


思案する。いや、もう答えは出ている。

そもそも、その答え以外をここで出させる気はないんだろう。


「乗った。このギルドに入れてもらおうじゃねーか」


魔力量がこれまた半端ないオッサンが出てきて言った。


「おう、よろしく頼むぜ! 俺はこの“ソラトワ”のギルドマスター、ガルバスタードだ」

「ライガー。白虎仙だ」


ふっと口をついて出てきた言葉に、自分でも驚いた。無斗がニッと笑った。


「ようこそ、だな。改めて、闇姫無斗。忍仙だ」


無斗が付きだしてきた拳にこちらも拳を合せた。仙人に成るって、なんか、結構不思議な感じだ。何も変わらないから。でもただ、虎化と言おうとしたところに滑り込んできた白虎仙という言葉。つまるところ、俺は仙人に成ったらしい。


「またとんでもないのが来たわね」


女モンクが笑う。さっき一緒に飯食ったガキが二人こっちを見ている。


「私はエイルガレラ。この二人は息子のザグリガルとエルディ」


でかい方がザグリガル、ちっちぇえ方がエルディか。


「受付のアレイナです」


人間の女。


「……アウリエラ」


エルフの女がそう言って、俺は角の見当たらない竜人を見た。


「……クロガネだよ。君が砕いたナイフ、俺が打ったんだけど」


げ、あれ竜人が作ってたのかよ。こいつはどっちだ!?喧嘩なら買うぞ!


「どんな感触だったか覚えているかな? 無斗にはもっと強い刃物を持ってほしいんだ」

「めんどくせえ方だった!!」

「必死だったとはいえ竜人の打ったものを砕いたってんならそれくらいの覚悟はしててもらわなくちゃ―――ねえ、ライガーさん」


―――あ。

すげえ、胸が高鳴ってるのがよくわかる。

見つけちまったよ。

アソビアイテ。


「……クロガネっつったっけ。お前の眼、すげえぞ」

「そのセリフそっくりそのままお返しします」


火花が散る。こいつも、仙人だ。青竜仙。いいモン見つけた、いい遊び相手になりそうだ、ここに鳥と亀がいればもっといいのにな。


ここでは遊ぶなよ、とエイルガレラが言った。

ところで今気づいたが、この服無斗のじゃねえよな、無斗はもっと細身で俺の体が入るわけないわけだから、ってことはオッサンのか?

俺の思考が服に跳んだらしいことに気付いたクロガネが言った。


「無斗がわざわざ貴様用にと言って買って来たんだ。大事に使え単細胞」

「おー、ありがたく使わせてもらおうかね陰険根暗よぉ」


基本的に一つ言っとかにゃならんことがある。青竜と白虎は仲が悪い。

売り言葉に買い言葉、ちなみに無斗はこの服を俺のために買って来たんじゃなくて、エルフ女、アウリエラっつってたか、あれが俺の格好に何か言うと踏んでの行動だったってこと分かってるのかと問い質したいところだ。


渾名で登録するんだな。これさっき決まったばっかだけど、なんて言うから驚いた。渾名は日々羅華の言葉でつけるらしい。

俺は“電”になった。電気?それは青竜の区分だろ。


ギルドの名はソラトワ。おもしれえ名前だな、と言ったら、いろんな意味がつけられるからねえ、とエイルガレラが言う。

ちなみに、齢を聞いたら三十三っつった。ギルド全体的に若い、つーかオッサンとエイルガレラの下が俺かよ!!俺は十九、次が十八のアレイナ、十七のアウリエラ、無斗、クロガネ。


ところで、三人、“世界の理”がいるよな、と無斗に尋ねると、ああ、そいつら名前教えてくれなくて、それで呼びづらかったから渾名をつけ始めたのだと返ってきた。

世界の理は自分の世界以外に直接の干渉を避ける傾向を持っているから、大方、何か干渉を起こす代わりにこのギルドを利用したってところなんだろう。


まあ、関わってこない限り気にしないのがいいだろう。

俺の部屋は無斗と同じ部屋にしてもらいました!いやこいつ最高だわ、話分かってくれるしな。

とりあえず、ルーを探そう。無斗もルーは見ていないようだからな。


うまくまとまらない(´・ω・`)

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