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第2話

ゆっくりお付き合いいただけると嬉しい限りです。

無斗とクロガネが受けた依頼は獣人族の少年の依頼だった。エイルガレラは笑った。


「何も考えずにとってるってわけじゃなさそうだね」

「そうなのか?」

「人が来ない、なおかつ鉱脈が案外近いところにあるところを選んでいるよ。鉱物が多少金になるってのは知ってるのかもね。小遣い稼ぎでもなんでも考えてるってことは確かさ」


エイルガレラはもう一つ考えているなあ、と思う。


日々羅華は人間の国としては珍しく精霊や魔族と人間が呼ぶ存在全般を受け入れた国である。すでに王朝が建って3000年の歴史を誇る。それを素晴らしいことと本人たちは全く気付いていなくて嫌味に聞こえるというのが、周りの帝国の長たちの意見でもあり、長らく皇帝を名乗ってきた日々羅華の長はその島国という特殊な地形もあいまって特に侵略を受けることなく生きてきた。


この特異な環境の下では、すべての種族が共存を果たしている。しかし彼らは特に宗教にいろいろとこだわるものもあまりいなかったり、いても周りには寛容であったりして、大陸では当たり前の昇陽教という太陽信仰の宗教がうまく広まることができない土壌だったらしい。そのため、魔族は倒すべきである、存在など認めはしないという教義を持つ昇陽教は影響力が弱い。


日々羅華はそもそも独自の太陽信仰を持っている。そこに他からの押し付けられた宗教など受け入れられるはずがなく、むしろ取り込まれて終わったようである。


「日々羅華ってすげえよなあ」

「そもそも八百万とか言って大量の神様がいる国だよ、それほぼすべて人間以外の奴らだよねえ。迫害する土壌がそもそも無い」


ガルバスタードはエイルガレラと顔を見合わせて笑った。


「ね、アウリエラ、あの子たちとはちょっとづつ仲良くなっていきましょう?」

「……は、い」


エルフの少女はうなずいた。アウリエラは弓の名手である。しかし人間に会うとトラウマからか動けなくなってしまうためクエストには出ないのだった。


「あの子たちに慣れることができたら、アウリエラもギルド嬢としてお仕事できるわよ」

「はい……!」


アウリエラの表情が明るくなった。ずっと何もせずにただ飯ぐらいの状態になっていたのが、プライドの高いエルフである彼女にとっては耐えがたいことだったのだろう。


「あの子たち、きっとちゃんとアウリエラのこと待っててくれるから、ね?」


アウリエラにもう一度声をかけて、エイルガレラは奥へと向かう。自分の子供二人の面倒も見なくてはならないのである。ギルドマスターの仕事があるガルバスタードの邪魔をすることはできない。いや、邪魔してほしいと願っているのは知っているがそれはだめだ、上から叱られたくなどない。


今回は特に依頼を受ける気はないらしい異世界の竜人三人組をちらりと見やったアウリエラは小さく笑った。それを見て、竜人たちも笑った。


「大丈夫」

「困ったら言ってね、手伝えたら手伝うから」

「……時間は、いくらでも、ある」


この時、最後の発言にふっとアウリエラは首をかしげたのだが、特に気にしていないようであったため、言葉通りに受け取ったのだった。




「見当たらねー」


結構楽勝だと思った俺が悪かったな。そう思いつつ、無斗は森の中を散策していた。無斗には空気中のマナが色を放つ光として見ることができているのだが、摘んできてほしいという依頼の内容は、“クラクス草”という薬草の一種だった。クラクス草は土と水、草のマナの濃度が濃い場所にしか生えない。獣人はおそらく森を歩くタイプではなかったのだろう、そうでなければギルドに頼んできたりはしない。


獣人は基本的には動物の特徴を備えているためこう呼ばれるが、いくつか固有の特徴があり、それによって獣化、古獣化、半獣、古牙の4種に分けられる。獣化、古獣化は基本の形が人間であり、変身(獣化という)して戦うためこの名があり、虎ならば虎化族といった風になる。半獣は体の半分ほどが人間、半分ほどが動物であるものを言い、有名どころではラミアーなどの半蛇族やケンタウロスなどの半馬族などとなる。古牙は古い文献にみられる人間の特徴が部分的にし入っていないものを言い、マンティコアやスフィンクスなどの魔獣に近い姿をしている者らを指す。


「クロガネ、見つかったか?」

「うん」

「あれー?」


クロガネはうなずいて返した。そこでふと気づいた。慌てて振り返り、無斗を探した。


「無斗、ちょっと待って! そっちは!」


依頼の品が見つかるまでは自分たちのものを取ることはしない、それが日々羅華の民であるが、クロガネは別にそんな規律のようなものに縛られているわけではないため、適当に使用法を知っている薬草を少しずつ摘んでいた。そうして少し無斗と離れたのが失敗だった。


辺りに霧が立ち込めてきた。さっきまで晴れていたくせに今更意地が悪いではないかと小さくぼやいたクロガネは、振り返る。


「何の用、森龍のおじいさん」

「おや、つながれていたわけではなさそうじゃな」

「わかっててやったくせに」


クロガネの振り返った先には、深緑の鱗に覆われたドラゴンがいた。


かなりの巨体であるため、相当老齢であることがわかる。ドラゴンや人狼といった一部の種族は年齢を積むほど経験を積むため強くなる。クロガネなど一捻りだろう、この森龍ならば。そんなことを考えつつ、クロガネは森龍を見上げる。


「早く無斗を追わなくちゃいけないんだ。俺は飛べないから」

「わかっておるよ、大丈夫じゃ。……それより、少し手伝ってほしいことがあってのう」


森龍はほれ、と少し離れたところを顎でしゃくった。クロガネはそちらを見る。


「あ……!」


そこには、木に突き刺された死体があった。甲冑に身を包んでいるところを見ると、戦士のようなのだが……。この習性は少しまずいかもしれない、とクロガネは思った。


「これ、人間なんですか」

「ああ、人間じゃ。しかし、一昨日はまだ生身だったわい。たった二日で火を使わずに白骨化するかのう?」


森に漂う闇のマナに気付いて、クロガネは一旦落ち着くために深呼吸をした。無斗は大丈夫だとは思うが、早くそばに行きたい。


「闇魔法の痕跡がある。……おじいさん、目が悪いの?」

「おう、目はとうにまともに見えとらんくてな」


森龍の目をよく見ると白く濁っていた。もしかするともうこの森龍は長くないのかもしれない。クロガネはその鱗が砕けて下に落ちていることに気付いた。


「……おじいさん」

「ふぉっふぉっふぉ」


森龍は笑う。もしかすると、看取られたかったのだろうか?そんな疑問が浮かび、クロガネは目を伏せた。


「あれはお前が紋を刻んどったようだな。使い物になるかはわからんが、あとは任せよう」

「……はい。お疲れさまでした」


森龍が目を閉じた。人間に利用されるなんて御免だが、他の竜が認めた者ならばまあ、許可をやらんこともない。そんな森龍の声が聞こえた気がしたクロガネだった。

すぐ後ろにまで無斗が戻ってきたことには気づいていた。森龍が連れ戻してくれたのだろう。


「……立派な森龍だな」

「うん」

「……お疲れさまでした」


無斗は森龍に手を合わせる。これだけの巨体を誇る森龍だ、おそらくこの森の主と呼ばれる地位にいたのではなかろうかと容易に想像ができた。この森龍の大きさなど、とても図れるものではない。森龍の胴は長く伸びているため、どれくらいかと言われても正確にはわからないのである。

後に黒竜人の少年たちが測ったところによれば、4600メートルほどだったという。


「いただいて行きます」


森龍の言葉をクロガネに伝えられた無斗は忍者刀を鞘から抜いた。礼をして、手を合わせ、解体を始めた。速く解体してやらなくては、他の人間が来ることだってある。クロガネは周りにいた精霊たちに声をかけて無斗を手伝ってもらった。


砕けた鱗も回収し、彼の竜の肉は少しだけいただいて、他は森に返すこととなった。近くまで血の臭いを追ってきたらしい狼たちから逃げるように無斗とクロガネは森の奥を目指した。


「依頼分は採れたのか?」

「うん。後は少し鉱物を見ていこう」


隠密行動を得意とする無斗は足音を立てずに森の中を走る。クロガネは竜人であるためほとんど襲われることはない。


「……あまり、ないね」

「そうだな……でも、摘んだ跡はある。どこの馬鹿だ、根こそぎ採ってんのは」


無斗が悪態をついた。薬草を山の恵みとして受け取っている日々羅華の民は、森を大切にする。そこに群生する植物を根こそぎ採るなどということは考えられなかった。


鉱脈のところに人間が1人いた。そのため無斗はそこをあきらめて他の場所を探そうとした。その人間が声をかけてきたものだから驚かざるを得なかった。


「おーい!」

「……」

「シカトしないでくれませんかー!?」

「……」

「竜人といる黒髪美少年!」

「……」

「マジ!? 反応なし!?」


脱色したような明るい茶髪の青年だった。一見して、チャラいな、と素直な感想を持ったクロガネは、それでもその青年に対して特に嫌悪感を抱かなかったことに驚いた。


「無斗、この人……」

「……あ、竜紋……」


無斗は小さくつぶやいた。青年の顔から首、おそらく服の中まで続いているであろう刺青のような紋様が目に入ったのである。


「……あ、アンタも竜紋持ってるの」

「……そうだけど。で、何の用だよ」


無斗は近付いてきた青年に問う。


「いや、鉱脈が枯れてるっつーか。なんか知ってるかなと」

「鉱脈もやられてるのか?」

「ああ。もう一か所のほう行ってみようと思ってんだけど、来る?忍者だろアンタ」

「お前日々羅華?」

「ああ、そっちもだろ」

「まあな」


無斗と青年はしばらく見つめあい、ニッと笑った。


「闇姫無斗だ」

「光希。わりぃ、苗字はないんだ」

「珍しいな。竜の恩恵に感謝?」

「そんなとこ」


クロガネに光希は礼をした。


「3番街の戦闘ギルド“紅月”所属の光希っす」


光希が案内したところでは竜水晶がたくさん美しい結晶に成長していた。竜水晶は竜の持つ特有のマナを包含した水晶のことを指し、魔晶石と呼ばれる石の一種である。宝石よりも高値で取引されることもある。


「こんなとこが」

「秘密にしてなくてもここに来れるのなんてあんまいないけどな」


切り立った崖の高い位置にあるのである。ここに来るのは飛竜ぐらいだろうか。


魔鉱石と呼ばれる鉱物も豊富にあったため少し欲張らせてもらい、無斗とクロガネは荷造りを終えた。


「そっちはどうするの?」

「んー、もう帰るぜ。そっちもか?」

「うん」


無斗は自分が笑っている自覚があった。自分以外の誰かに話しかけに行くということが、たとえ竜紋のせいだったとしても、やはり嬉しいのである。光希も何となくそういう感覚はあるらしく、しっかりクロガネに対して受け答えをしてくれていた。


「あー、ソラトワに入ったんだ! 街に来たばっかだったのか。んじゃ、送るぜ、ソラトワのあるあそこは2番街なんだ。でも3番街のすぐ横だ」

「そうなんだ……無斗、いいよね?」

「クロガネがいいと思ったらいいんだぞ?」

「光希、お願いします」

「おっけー」


光希は笑い、崖の下に向かって叫んだ。


「2人乗せるけどいいかー!?」

「かまわん」


声が返ってきたため驚いてクロガネと無斗は崖の下を見た。そこには、紫色の鱗が美しい、強靭な四肢を持ったドラゴンがいた。


「狂牙竜?」

「ああ。街の外で会ったからちょっと乗っけてもらったんだ」


光希は荷物をもって下へと降りて行った。見た目に反して相当強靭な四肢の持ち主であることが伺えたが、無斗はもっと根本的な部分に気が付いた。


「お前、竜仙か」

「ん、そうだよー」


狂牙竜の傍に降り立つと、改めてこの狂牙竜が巨体の持ち主であることを思い知らされた。無斗はすげえ、と小さく感嘆の声を上げた。


「乗るがいい。俺も欲しいもんは手に入った」

「じゃ、いこっか」


ひょい、と身を翻して狂牙竜に乗った光希は2人の荷物を引き上げ、2人が乗ったのを確かめて出発した。

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