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護衛任務2

ノヴァッチカートの森に沿って馬車を走らせ、その間にやってきたモンスターたちをシュリフトたちが吹き飛ばす。

そこに慈悲はない。

ついでに言うと、ほとんど仕事をしていないのが無斗だということが、特に今回無斗が弱っていることを示している。


皆のサポートはやっているが、それだけである。

水源がやられているのもダメージの長引きに一役買っていることを理解できているのはライガーとクロガネくらいである。

大陸に来た時点で彼は本来受けられるはずの精霊の加護をほとんど受けることができないでいるのだ。そもそも、玄武が人間を直接加護することはないので、前例のない存在であるというのが一番大きいのだが。


「無斗、大丈夫か?」

「まー、な」


無斗のサポートが無くても平気なメンツで今回来たのには理由がある。

そもそもこれ自体はシュリフトの提案だった。

ライガーは回復がいるため、無斗に近付けば彼自身が回復不能なまでにダメージを受けるだろう。クロガネは下手に今の無斗に近付くと朱雀の強化、加えて無斗自身の水気を自分の木気に変えてしまうのだ。どちらも近くにいてはいけない。


シュリフトは一刻も早く無斗にかけられた封印術を解いてやりたかった。もう聖属性はいらない。今度はシュリフトまで役立たずになったのだ。

せいぜい回復魔法をかけて、無斗の苦痛を和らげることしかできない。

水を強化してやれる者がいないとお話にならないのだが。

ライガーはよ帰って来い、というのはシュリフトだけでなく、エグザも思っていることである。


「無斗、無茶はするなよ」

「あんま気にしすぎんなって」

「……力になれないのが、本当に悔しいってことだよ」

「やれることは人それぞれってことだ。ゼノンが来なかったらお前がやる羽目になっていたんだからな」


無斗はシュリフトに苦笑を向けた。気負いすぎだろ、と内心苦言を呈するのだ。けれどそれすらも、自分というこの短い付き合いの中で育んだ交友関係の中にいるたった一人を守りたいという純粋な思いからくるもの。どちらも考えていることは同じ。


「ああ、やっと見えてきたわ」

「!」


リリウムの言葉に全員が前方を見た。

依頼主も声に喜色を滲ませて言った。


「あんたらのおかげで止まることなく最短距離を進めたぜ! あんたらすげえな!」


予定よりもかなり短時間でここまで来たらしい。そのことを依頼主の声から窺い知ったシュリフトは、無斗と顔を見合わせて笑い合った。

種族的に下に見下されることはこれからもあるだろうが、気にしなければいいのである。


「あ、また来たよ」

「無斗、あんた弓引けるんじゃないの? やってみなさいよ」

「なんでばれてんだよ」

「闇姫の秘蔵っ子が弓引けないとかありえないんだからね。一番下の男の子が破魔矢の名手だってのは、こっちでも何かと噂になってるのよ」

「へー」


本当に驚いている状態なのは、無斗が実際にこの事実を知らなかったためと考える方が自然である。シュリフトは苦笑する。

なんだ、こいつ弓も引けたのか、このオールマイティーさには嫉妬してしまうじゃないかと思うのだ。


騎士は銃は使わない。邪道とすら言われる始末である。しかしシュリフトは復讐のためにその身を堕とした、と言っても過言ではない。彼のあり方は学友たちからすれば邪道、闇堕ち、いくらでも言い方はあるが、決して騎士の姿ではない。

まあ、そんなのシュリフト自身が一番よく分かっているから彼は学校を辞めてしまったのだが。


無斗はその軽装の中から小さな巻物を取り出し、何か描かれた巻物を取り出す。それを広げて手を置く。


(いづる)


式術というか、なんというか。それらの系統の一つに過ぎないのだが、定期的によくわからない言葉が飛び出すのである。

この世界には漢字なんて存在しないしそもそも彼らは英語圏と同じくただの表音文字を使用する文化圏の人類である。無斗の表音・表意混交になっている面倒な文法体系を持つ言語ではないのだ。


巻物から出てきたのは和弓である。

シュリフトとリリウムはすぐに自分たちの知っている弓と違うと悟った。彼らの知る弓はフィールーの持っているシンメトリーの弓である。

しかし無斗の取り出した弓は若干下の方から撃ち出すらしいことが伺えた。


「すごーい、これ使えるんだ?」

「日々羅華の弓はこれしかねーよ」


若干冷気が漂い、無斗が矢を番える体勢に入った。その手に氷の矢が生成されて番えられた。馬車は揺れているのに、無斗は全く気にしていないらしかった。

そして、放たれた矢は的確にモンスターの群れのボスの頭を撃ち抜いた。


「これだけの揺れをものともせずに……」

「日々羅華の戦士、サムライだっけ? 彼らは確か、馬の上で弓を引くらしいわね。馬に乗って引くんだから、これくらいどうってことないんじゃないの?」


リリウムはそう言っているが、それでもやはり目を見張るものがあったらしい。無斗は小さく笑った。


「親父はもっと上手かったらしいけどな」


こいつの親父はきっと化け物だ、と思ったのはシュリフトだけではあるまい。






無事に依頼をこなした四人は元来たルートで帰ることになったのだが、その間にギルドの方にやってきたお客様たちが仲間になるなんて、思ってもいなかったりしたのだった。


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