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護衛任務

こいつら……なかなか話できない


依頼が思いつかないんだよう( ;∀;)

「無斗」

「ん?」


シュリフトとリリウムさんとフィールーさんと俺で依頼を受けた。依頼内容は単純な護衛任務だった。まあ、平原をお隣の都市まで馬車三つ護衛するだけだから、何とかなるんじゃね。

そんなこと思っていたら、集合地点へ行くまでの間にシュリフトに声を掛けられた。


「本でちょっと見たんだが――アンキ一族って? フィールーさんも言っていたけれど」

「?」


あー、あれか。

そういやフィールーさんって随分とあれだな、下着みたいなかっこしてるよなあ。まあいいか。


「アンキってのは闇姫のことだ。日々羅華の陰陽姫伝説に由来する地名でな、そこのうちのアンキって呼ばれた方の姫の土地を守る神子一族。それが闇姫」


シュリフトのことだから、さっき言っていた本のことなんだろう。


「……じゃあ、無斗はアンキ一族なんだな」

「ああ。珍しいな、ウチの旧姓が露呈するなんて」

「隠してるのか?」

「いや、昔と今で字の読み方が変わっただけだ」


アンキって音にはいろんな意味を掛けてあった。

暗器、暗鬼、闇姫。

ここから俺たちの一族は暗殺者集団になったわけだ。


集合場所に辿り着き、説明を受けて早速出発した。ちょいと差別的発言の目立つ野郎だったが、許容範囲内だ。

リリウムさんは気にしてないみたいだし、そもそもフィールーさんについては話を聞いていたかどうかも怪しい。


馬車に一緒に乗せられているわけだが、結構モンスターが多いな。

視認できるだけでもかなりの数がいる。

俺たちはエッデガラから北西のノルンスフォーアに向かうが、多少ノヴァッチカートの森が張り出しているから、そこを迂回しなくてはならない。


森の近くは特にモンスターが少ないから、できれば森に沿って移動したいところだがな。

でも、馬も怯える。

森の主はフォレストドラゴンまたは森龍だからな。

俺とクロガネで看取ったあの森龍の近くの兵士の死体のことを考えると、森の傍もあまり安全とは言えないが。


「フィールーさん」

「何?」

「北から来たんだよな?」

「そうだよ?」

「森は不慣れか……」


北にはあまり森と呼べる森がない。


「どうかしたの?」

「ああ……すっかり忘れてたんだけど、ノヴァッチカートの森でまだ新しい闇魔法で腐敗した死体を見たことがあってな。よく考えてみりゃあ闇の攻撃魔法だ。森に何かいると思っていいだろう」

「いつの話?」

「ここ三ヶ月以内だ」


リリウムさんも尋ねてくる。

答えると少し考え込んだ。


「闇魔法で腐敗を使うとしたら、人間よね。鎧も腐敗を?」

「いや、結構綺麗だったと思う」

「人間ね。鎧まで逝ってたら闇堕ちモンスターでも出たかって思うけど。それで?」

「その後森龍が死んだ」

「……フィールー、アンタ森の近くに行ったら馬車から付かず離れず森の方を警戒してなさい」

「はーい」


フィールーさんは俺たちが持ってきた軽食をすでに食べている……その食い意地どうにかならねえかな。

意味が分からなかったらしいシュリフトが首を傾げている。


「森龍が何か関係あるのか?」

「森の魔力のバランスを保っているのが森龍だ。バランスが崩れて森龍は一気に死期が早まったと考えるべきなのさ」

「ところでその森龍、素材を残したかしら?」

「ああ」

「確定ね。森龍狩りだわ」


リリウムさんから不穏な言葉が飛び出した。


「森龍狩り?」

「森龍は地竜に近い存在。つまり、防御力がバカにならないってことよ。火に弱い点を考えれば、防具の素材にするために狩られるのも頷けるでしょう?」


リリウムさん曰く、昔住んでいた森でも似たようなことがあって、そこをさっさと逃げ出して来たそうである。


「人間って馬鹿よねえ。相手が女ってだけで正体をろくに確かめようともせずに手を出そうとするんだから。まあ、騙しやすくて助かったけどね」


リリウムさんはとても綺麗な人なのに、残念な限りだ。自称詐欺師なので信頼はしても信用はしちゃいかん気がする。

森龍を狩るのにはいくつかの工程があるのだそうで、それをこなせば森龍は身体をマナに分解できずに物理的に物として残すことになる。

俺とクロガネは丁度そこに居合わせた、ということだったようだ。


「ん」

「来たわね」


リリウムさんがさっそく見つけたようだった。こっちは気配だけ察知しただけなんだがな。俺とシュリフトが構える。


「どうする」

「無斗はまだ本調子じゃないだろう。サポートを頼めるかい」

「了解」


こっちとしても嬉しいことだ。飛び疲れたのか、フィールーさんが戻ってきた。

ああ、魔物の群れを確認した。くそ、視力が格段に落ちてるな。


「シュリフト、ヒーリングに専念する」

「視力が?」

「ああ、白虎が抜けた分嗅覚と視覚が弱くなってるみたいだ」

「分かった。貫牙で仕留める」


貫牙のエネルギー調整訓練だとか言ってオーバーキルしまくっているシュリフトに俺とライガーは何も言わないよ、うん。






「どうしたの」


馬車に戻ってきたフィールーは無斗君を見ていた。


「……変な人間だなあって」

「……まあ、そこは、人間を新人族も古人族も含めるならの話だろうけれど」


フィールーが無斗君を気にするのは料理が美味いからかしら。なんか違う気がするなあ。

ああ、そういえばフィールーは式術を知ってたわね。


「式術関係かしら?」

「……うん」

「……浮かない顔ね」

「……無斗の料理食べれなくなるのは困る……実家の味と似てる」

「ちょっと、いきなりホームシック?」


こちらが言葉を交わしているうちにシュリフト君がオーバーキルっぷりを発揮していた。無斗君は苦笑しながら札を使いながらいろいろやってるみたいだった。


「シュリフト――」

「ごめん、ちょっと熱くなった」

「貫牙は狙撃銃じゃねーんだぞ。あんま遠くを狙ってやるな」


狙撃は朱雀のエイハだ、と無斗君は言う。

エイハというのは、鋭羽。鳥人族の宝具、狙撃銃型。知ってるものなのね。

私は情報を手に入れたから知っているだけだけれど。


「ねえ」


おや、と思った時にはもうフィールーが無斗君たちに話しかけていた。しかも、無意識だろうけれどナイフを無斗君に向けている。


「無斗!」

「シュリフト、ほっとけ。話にちゃんと答えればナイフはしまってくれるさ」


確信をもって言葉を紡ぐ無斗君。目が随分と据わっているわね。と、無斗君の左手――袖をまくっていたのだけれど、その範囲に赤い紋が浮かんだ。


「……鳥人紋」

「どうも」

「……鋭羽がどこにあるかわかる?」

「具体的には知らない。50年前の戦争で人間に敗れた部族から人間側に渡った、それだけは知ってる」


無斗君、うかつに宝具の名前を出すのはいただけないわ。注意力が散漫になってるのかしら。闇姫の子ならそんなことには通常ならないから。

それとも釣り?

フィールーが本当に朱雀の直系かを見極めるために?

鳥人紋があるような子がそんなことするとは思えないけれど。


鳥人紋は要するに朱雀直系の誰かが気に入って意思疎通を図りやすくするために刻む紋。つまり、刻まれた者は少なくとも鳥人を嵌めるようなマネはしない。


「……使えない」

「悪いな」

「……別にいい。知ってる方が不自然。なんで知ってた」

「言わん。言うくらいなら腹を切るぜ俺は」


日々羅華お得意の切腹ってやつね。

逆に、これを言ったということは、言うなと口止めされているということになる。


「誰になら言っていいの」

「朱雀直系。これを上書きできる血統」


無斗君は自分の鳥人紋を示してそう言った。フィールーは小さく笑った。


「なら聞かせてもらう」

「仕事が終わってからにしてくれ。古人族は紋に対してそこまで耐性が高い訳じゃねえんだ。俺が倒れてお前らどうせ道に迷うだけだろ」

「……飛べばいい」

「……捕まりそうになって人間殺すなよ?」

「……めんどくさい」


言いくるめられたし。馬鹿ねえ、フィールーは。

まあ、知ってたけど。


シュリフト君がちょっとばかりフィールーに警戒を強めちゃったけど、大丈夫かしら。彼自己紹介の時に違う国の騎士学校に行ってたって言ってたからなあ。それを聞いた無斗君たちは目を丸くしていた。知らなかったというよりは、どうして言ったんだ、って顔だったから、もともとフィールーと私を警戒していた可能性はあるわね。


心外だわ。まあ、フィールーといたら私も疑われるか。

仕方ないな。


「フィールー、下手なことするとその髪ザクザクにするからね」

「えー……」


髪の毛を結構大事にしているので、フィールーにこの脅しは有効。

まあ、もともとすごく長かったのを、私の逆鱗に触れてぱっつんショートにされたんだけれどね。

私だってカマキリの端くれですもの。嘗めないでちょうだいな。


そのうちモンハンじみてくるかもしれないですこれ。

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