ガルバスタードととある蟲人
気ままに書いていたら支離滅裂になりかけていた文体。
気が向いたら改稿します
「あったあああああ!!」
ガルバスタードは年甲斐もなく大声を上げて喜んだ。ひょろりとしたローブに身を包んだ青年が息を吐いた。
「目的のものは見つかったようだね、ガルバスタード」
「ああ、ありがとなグレイ! これであの子の負担が減らせるよ」
青年――グレイはそれを聞いて眉をひそめた。
「……ガルバスタード、それは本来逆のはずだ。封印を解けば封印すべきものによって潰される」
「ああ、ちょいと特殊でな。封印してた物はもうないんだ」
「……?」
グレイは改めてガルバスタードがわざわざ自分の私邸を訪ねてまで欲した術式の資料を覗き込む。確かに術式は強大で強力な術式と一目でわかるが、封印していた者がそれだけ強大だったということではないのか。それが忽然と消えるなどまずありえないだろう、と。
「……おー、見事に戦いだけで解けるんだなこれ」
「だがそれぞれを担当した者たちの魔力量を越えねばならないぞ」
「魔力だけなら俺がくれてやればいいのさ。属性特化がいるわけだからな」
「む……」
グレイは押し黙った。
「……グレイ」
「?」
「この場所はちょっとまずいかもしれない。南に引っ越して来い」
「……?」
グレイは突然かけられたその声に戸惑いを隠せない。
北方七都市が一つ、カヴリード。グレイの研究室はそこにある。
「どういうことだ」
「北は危ないって言ってるのさ。いつになるかは知らんが、魔族がようやく重い腰を上げたようだからな」
「……ガルバスタード……お前……!」
グレイはガルバスタードの言葉に眉根を潜めた。
「おっとグレイ、仮にも勇者パーティだったくせに魔族側に肩入れするのか、とか言うんじゃねえぞ」
「……そっくりそのまま言ってやろう」
「だーもう。お前はわかってねえな」
ガルバスタードは資料のメモを取りながらグレイに告げた。
「白勇者じゃ聖魔王は倒せねえんだよ。黒勇者は聖魔王側についてる。敵うわけなかったのさ、最初からな」
「……君が宮廷を抜けたのもあの後すぐだったな」
「あれはもうすぐ一人目が生まれるって時だったからな」
メモを終えてガルバスタードは片付けを始める。グレイはそれを手伝いつつも問う。
「君が拠点を移せと言ってくるからには、ここは戦場になるのだろうな。だが、魔王自らが出てくることなどあり得るのか?」
「さあなあ。俺は単に同僚のよしみで忠告に来ただけだ」
「……」
グレイはガルバスタードの背負うものを考える。記憶に間違いがなければせいぜいエイルガレラと息子二人、戦場で拾っていった人間の娘とエルフの娘の六人だけで活動しているはずである。
「……ギルドメンバーが増えて、その中に魔人がいるわけか」
「さーてねえ?」
うかつに情報を話してくれるタイプではない。グレイはちらりと部屋の隅を見た。トカゲが這っている。
「……まさか私まで監視対象にするとは……元老院は何を考えているんだ……」
「とりあえずめぼしい魔人との関係を洗い出しとく気なんじゃねえか?」
「疑われると信用したくなくなってしまう」
「はっは、それなら最初っから俺をすんなりここに入れちゃいかんって」
ガルバスタードは出発準備を整えた。
「んじゃ、世話になった。武運を祈ってるぜ」
「そっちこそ、下手にギルドメンバーを死なせるんじゃないぞ」
ガルバスタードは去り際にトカゲを雷魔法で叩き潰していった。
「くそっ、ガルバスタードめ……! とうとうこちらに反逆の意思を見せおったな!」
「しかしどうする、ガルバスタードは我が国の誇る最高位の魔導士……そう簡単にはやられてはくれまい」
「なに、簡単な話だ――ガルバスタードとエイルガレラが出ざるを得ないものをぶつけてやればいいだけのこと。その間にまともに戦えないエルフを捕らえればいいだけだ」
あーあっ。元老院とか言うから何かあるかなって思ったけど特に何もないわね。それといろいろムカつくからここで殺してしまおうかしら?
いえダメね、殺したら恥晒しにしてやることが出来ないわ。
元老院と言いながら警備は手薄だし蟲人を虫けら同様に考えてくれてるおかげですんなり忍び込めたけど不愉快だわ。盗みは柄じゃないからやりたくないんだけどなあ。
ていうかあのバカはどこ行ったのかしら。
まあ、気にしても仕方ないわね。
「しかしソラトワは最近メンバーが増えているらしいぞ」
「愚かにも獣人に魔人のハーフ、竜人、古人族まで。まともな加入者はそれでも17歳の若造だ」
「ふん、全員殺してしまえばいい」
「白勇者を向かわせよう」
ソラトワってギルドの名前なのね。
どうせだからそこに行こうかしら。
行くアテないんだし。
白勇者って確か魔族に対してかなり強い奴だったはず。ふーん、白勇者より先に私が行ったら情報料ぐらいは貰えるかしら?
元老院集会場をひっそりと抜け出す。あのバカは正面の教会の屋根に腰かけていた。
「フィールー、行くわよ」
「おー、もう行くのー?」
「情報料ぐらいくれそうなとこが見つかったからね」
「どこ行くの?」
「ソラトワ」
南は食べ物がおいしいねえ、と素直な感想をここまでさんざんぶちまけているこの馬鹿に運んでもらおうかしら。私は飛行するタイプじゃないんだし。
「フィールー、ちょっとそこでご飯にしましょ。食べ終わったら一気に飛んでもらうわよ」
「えー」
「私が長時間飛べないの知ってるでしょ?」
「……ぶー」
ちょっと急いだ方がいい気がするのよねえ。
ま、どうしようもないけど。




