日々羅華
連ちゃん投稿です。
情報集めろとガルバスタードが指示を出し、エイルガレラとシュリフトは教会と図書館へ、ガルバスタードは魔導士仲間のもとへ、エグザとアウリエラは今まで通りクエストを受け、ライガーは無斗との勝負を延々と繰り返すことになった。
朝食を摂るとすぐに外に出て行くあたり、ライガーがかなり焦っているように見えるのだが、実際は焦っているのではなく、なかなか仕留めきれないことにイライラしているだけで、問題はないなどと無斗はのたまう。
「ごちそうさま」
「ごちそーさん」
無斗とライガーは食事を終えて互いを睨み、外に出て行った。エグザとシュリフトは息を吐いた。それに気付いてお互い顔を見合わせて苦笑する。
「元気だよな、あの二人」
「元気というより、戦うのが楽しいようだが」
アウリエラはエグザとともに依頼を受ける支度をはじめ、ガルバスタードたちも出かける準備を始める。アレイナは受付の準備を始めた。
「まさか無斗がここまで面倒なことを抱えていたとは思わなかったわ」
「まったくね。仙人に成るって名誉なことだと人間は言うらしいけれど、無斗を見てるとそうは思えないわ」
「価値観によるかな。魔導士なら永遠に近い寿命は欲しいだろうし」
アレイナとアウリエラが苦笑する。エグザは皿の片付けをしてから二人に着いて行った。
シュリフトとエイルガレラが足早にギルドを出て行く。シュリフトは図書館へ歩を進める。
それぞれ、やることが振り分けられたのは珍しいことである。やってきてすぐだからこそわかりづらいだけで、ソラトワは基本的にギルドメンバーを単独では行動させない。
図書館へ僕が通うようになってはや一週間。資料をひたすらあさる日々だが、なかなか目的の資料は出てこない。術式の名前がそもそも残っていない。式術の奥義クラスのものだとクロガネが言っていたので、まだ対処のしようはあるらしい。
式術についての資料を探しても、まったくと言っていいほど無い。それでも何とか資料をかき集めていくつかわかったことがある。
まず、式術という魔法の一体形、これがそもそも、書物をほとんど残していないということ。基本的には口伝。一世一代、秘伝書のようなものを、一子相伝、たった一人だけを選んで書を書き写させて伝え、元になった方は焼き払ってしまうのだと。
ただ、これはいわゆる秘伝クラスのもので、奥義クラスはやはり口伝になってしまうらしい。つまり、どう頑張ったところで書は残らない。翻訳されることもない。翻訳する元がないから。図書館で集めきれる情報には限度がある。
あとは、俺ができることと言えば、精霊に直接聞くくらいしかない。
そう思って図書館を出ようとして、手に取っていた本を戻した時。
目に留まった本があった。
タイトルは『古人族日記』。
古人族――先日聞いた言葉だ。そう思ってふと手に取る。
ページをめくる。
何かに導かれるようにそのページが開いた。
古人族――現在は一部の島国と、極東の国にのみ分布する魔族。
魔族とされてはいるが、これは彼らがやたら強い魔法を放つために魔人だと判断された結果のようである。
まず、古人族と呼ばれる彼らの調査のために日々羅華へと渡る。本にまとめるよりも日記の形態の方が分かりやすいと思うのでこのまま友人に託す。
ダイヤモンド・6の日
日々羅華に到着した。日々羅華の民は皆珍しいものが好きらしい。私の船を見るなり集まってきた。通訳として雇ったエンジュに連れられて安めの宿に足を運んだ。
宿は落ち着いた雰囲気だが、店を取り仕切っているのは女性であり、私は驚いた。
また、エンジュの話によると、魔物がとても強力であるらしく、建物が建っている場所は大丈夫だが、あまり建物から離れると魔物の探索範囲に入ってしまうとのこと。護衛が必ず必要らしい。
ダイヤモンド・7の日
魔物が現れた。街からは遠かったが、とりあえず逃げるらしい。エンジュが私の速度に合わせて走ってくれた。周りの人々も気にかけて車を使えと言ってくれた。私は息切れが酷くなり、車をありがたく使わせていただいた。人間の引く車などおぞましいと思っていたが、彼らは奴隷ではなくそれ専門の人力車業者であるという。何故息切れするのかが分からない。魔導士ではあるが、私も戦士の端くれ。身体は鍛えていたはずなのだが。
私たちは丘に逃げたのだが、魔物はそこから見渡せる範囲の畑を荒らしていた。
しかし魔物はあっという間に現れた数名の若者に倒されてしまった。話を聞こうと思ったら、後日城に来いと言われたので日々羅華の城なるものへ向かうことにした。
ダイヤモンド・12の日
移動だけでかなり体力を奪われた。周りのマナを調査したところ、どうやら精霊の直接放つマナが強烈なものであるらしい。呼吸が苦しいのは風のマナが保護するはずの元素である酸素を保護するマナがなく、風のマナが雷のマナを含んでいるためだと判明した。
エンジュは魔導士ではなく、巫女というのだそうである。おそらく信託の巫女に近いものと考えられる。
ダイヤモンド・15の日
城についた。城主に面会を許され、語らうことが出来た。
ここは苗字を持つ者が一般階級で、苗字の無い者は王族だということである。エンジュも苗字を持っているとのこと。
城主はサムライという職業であるらしい。そのためほとんど魔法はわからないとのこと。傍に仕えているというアンキ一族を紹介してもらい、城を後にした。
アンキ一族?
音だけしか分からないのが辛いな。
ダイヤモンド・20の日
アンキ一族の城に着いた。シノビというアサシンの一種の職業らしい。紹介状を書いてもらったものを見せるとすぐに通された。階段と仕掛け扉がやたら多い城だった。また、踏んだらすごい音のする床があった。木造であるが故にできることだ。石造りではどうやってもこの仕掛けは無理だ。侵入者対策らしい。
この日からしばらくこの城に泊めてもらえることになった。
ダイヤモンド・21の日
アンキ一族の名の由来をべらべらとよく喋ってくれる城主。どうやらこの土地の名をアンキというらしい。アンキの土地を守るから、アンキ一族なのだそうである。
魔物が出た。アンキ一族の若者の前に瞬殺されてしまった。
図書の類をエンジュに翻訳してもらった。シノビはどうやら日々羅華の魔法を使えるらしい。ぜひ見せてほしいと願ったら、お前の魔法も見せろ!と言われた。私もすっかり打ち解けてしまったな。一緒に酒を飲んだのが良かったのだろうか。
ダイヤモンド・29の日
日々羅華の魔法を見せてもらえた。シキというらしい。元素は五つ。火、水、土、金、木で、金が金属、木が風や雷に対応しているようだ。火が土を、土が金を、金が水を、水が木を、木が火を生む関係と、水が火に、火が金に、金が木に、木が土に、土が水を凌駕する関係をそれぞれ相生、相剋というそうだ。他にもいくつか法則があるようだが、おおむね敵の属性を見極め、その属性に対して自分の魔力を上乗せして敵を排除するらしい。
相手の威力が高い場合は相生を利用することで打ち返すことが出来るのだとか。私も挑戦してみたが、マナの流れをうまく読み取れなかった。アンタ純粋な新人族だなと言われ、互いの認識が一致していることが判明した。
どうやらシキは式術のことを指しているようだ。これで多少は無斗とクロガネ、ライガーの扱う式術の類の原理はおおむね把握できた。
しかし、シノビは忍者のことでいいのだろうか。無斗に聞いてみようかな。
エメラルド・3の日
彼らは邪教の信仰者のようだ。しかし彼らが崇める神の社は清浄な空気に包まれていた。ホッポウゲンブテン、という神の社らしい。本来は精霊だということだが、ニクスのような位置にいるようだ。恵みを与えつつ死も与える。そういった霊格のようである。
とにかくそこは寒かった。水のマナは恵みを与えるはずのモノなのに、氷のマナではないのにあそこまで寒くなるとは。草木一本生えない極寒の地すら再現できそうなマナの量だった。しかし火のマナも多大に周囲にあったために大分緩和されていたようだ。
エメラルド・8の日
精霊魔法が使えないことが分かった。この土地は精霊の力が強いため、人間の呼びかけを無視する精霊が多いらしい。特に水属性の精霊の拒否反応がすさまじい。力を貸せ、ではなく力を貸してください、と祈る術式には応えてくれたので、崇められることに慣れているのだと推測される。
魔物が出た。やはり私は息切れを起こしすぐに動けなくなった。エンジュが抵抗したが殺された。よく見るとクー・シーの一種のようだった。にもかかわらず魔法も効かず刃も通らない。エンジュを食い千切ってそのクー・シーは言った。
「身の程をわきまえろ」
エメラルド・25の日
クー・シーについての情報を集めていたが、どうやらあのクー・シーは弱い部類に入るものだったらしい。エンジュは我が故郷ではあんなに強かったのに――
ムーンストーン・7の日
魔物の出現率が上がってきた。アンキ一族は私をずっと置いてくれることになった。エンジュがいなくなってしまったためだろう。
古人族はどうやら精霊魔法と相性がいいようだ。日々羅華に限った話ではないだろう。邪教と我らの呼ぶ多神教の神々が精霊であり、我らが彼らを零落させたと考えれば、この地での私の拒絶のされ方が理解できるというものだ。
壮絶な二ヶ月間だな、この人。
僕はこの本を最後まで読むことにした。
浮気はいかんですね。
和物のファンタジーが好き過ぎてそっち書いてたら更新止まる系です。
いつかそっちも上げたい←先にこっちを終わらせろと。




