執着
自分で書いててよくわからない話が多くなってきた……そろそろ改稿時っすかね(´・ω・`)
目を開ける。
傷は治ってるな。ああ、無斗の部屋にいるからか。
掛けられたタオル、敷かれたシーツ、どちらも白。俺の属性をもって相乗効果で回復力を高める方法。
俺の左手側には無斗が眠っていた。
ん?
左手?
そして俺は全部理解した。
無斗が漆黒の髪である理由。黒い服ばかり着ている理由。何故クロガネといるのか。
ああ、無斗テメエ。
「お前、水だったのかよ」
「無斗、外に出ろ」
「は?」
回復した無斗へのライガーの第一声がこれ。
表じゃないところに含みを感じて、俺とシュリフトとクロガネは外に出た。エイルガレラさんとギルマスも一緒に外に出てきた。今日はギルドはお休みにするらしい。
何が彼らをそこまでさせるのか不思議に思っていたが、答えはすぐに分かった。というか、分からざるを得なかった。
「ライガー、いくら何でもガチで街中でやり合う気かよ?」
「今のテメーにノヴァッチカートまで行く余裕があるとは思えねーがな?」
「ははっ、そーかいそーかい。白虎様には全部お見通しってことか」
何かしら理由があるのだと分かる言葉の応酬に、シュリフトが目を細めた。
「どうかしたのか?」
「……エグザ、ちょっと気になると思わないか?」
「え?」
「――無斗とクエストに出た時、大体彼はサポートに回るよね」
「……ああ、確かに」
無斗はその速度とアサシンとしての気配遮断が異常なほどに上手い。にもかかわらず、サポートばかりに回るとは何事か。よく考えればおかしい要素が揃い過ぎている。
単に彼の実家の忍者という特殊なジョブがそうさせていると考えたとしてもだ。
無斗は、アタッカーのはずだ。
サポーターではない。にもかかわらず、彼は本業を陰陽師だと言っていた。
「……僕の時は、彼は確かにアタッカーとして機能していた」
「……俺の時は、隙を見て敵を拘束していたが」
「本業が忍者だというなら、サポーターともアタッカーともとれる厄介なポジションだけどね――でも、陰陽師にしては動きが暗殺特化だと思う」
シュリフトは大々的に動くことなくシュリフトがソラトワに加入するきっかけとなったあの事件の組織をあそこまでたった1人で追い詰めた実力者。彼が言うなら、刃物を扱う暗殺者というのはああいう動きをする、ということなのだろう。
ライガーと無斗が一瞬睨み合って、次の瞬間には立ち位置が入れ替わっていた。
今の一瞬で踏み込み、殴り合い、構え直しまでいったということだ。
本当なら広い場所でやれというところだが、この2人が森を指定場所のように言っていたことからして、考えられることは一つ。
彼らが最も力を発揮するのが、足場の不安定な、狭い所だということだ。
ライガーが珍しく獣化を解いている。無斗も今回は武器は拳らしい。ブーツさえ履いていなければライガーは足音もさせずに動くだろう。しかしそれは無斗も同じことで、どう動くか、大体わかっているらしい。
「……っ!」
一気に接近戦になった。無斗の拳は振り抜きではなく、単発で威力が低い――代わりに、引きを早くしてダメージを内側に通すやり方。ライガーは逆に、全力で振り抜いてすべてを破壊するやり方。
「ライガー、いつもと戦い方違うな」
「あー、ありゃ無斗が苦手にしてるやり方だろうからな」
「え?」
ギルマスの言葉に俺は驚いた。格闘は少なくともあいつの得意分野だ。しかもあんなに振りが大きいのに。
「獣人は魔法を使えない。理由は知ってるか?」
「……確か、魔力の流れを属性で切るから、ですね」
「そうだ。じゃあ、そんな魔法をぶった切る危なっかしいもん拳に纏わせて殴り掛かったらどうなる?」
「そりゃ、当たった相手が一瞬でズタボロに――ライガーは今それを無斗にやってるんですか」
「そういうことだ」
なるほど、理解した。だから無斗は得意の流しを直接触れることが出来ないというハンデを背負わされたことによって塞がれたのだ。単純なパワー勝負で人間が獣人に敵うはずがなかった。獣人のパワーはそれこそ、ドラゴンの首をねじ切るほどの者もいると聞く。ライガーがそこまで至っていないと考えたとしても、無斗の腕の粉砕は避けられまい。
いや待て。
それ、無斗は戦えないってことにならないか?
「ライガーっ! いくらなんでもそれはっ!」
「黙ってろマホケン!」
「ッ!」
魔法剣士、略してマホケン。俺を指す渾名。この野郎と思う呼び名ではあるが、ライガーが勝手に皆に着けてしまうらしいので放置していたものだ。相手を侮辱した言い方ばかりする気がしていたが、それはあくまでも彼らの価値観によるらしい――それはともかくとして。
無斗はひたすら避けることしかできずにいる。
当たり前だ。
今のライガーは、全身を鋼のマナで覆いつくした、文字通り剣の鎧を着ているような状態なのだから!
俺たちはただ見ていることしかできない――間に入ることすら憚られるものがそこにはあったから。
無斗が、随分と優しい目をしていたのだ。まるで、ちゃんと相手の意図に気付いているというように。
その瞬間から、ライガーが押され始めた。いや、ライガーはさっきから攻撃の仕方もあまり変えずにひたすら繰り返しているだけではある。だが、無斗が確かにライガーの拳を流し始めたのだ。
無斗が目を閉じる。
心眼とでもいうのだろうか。
シュリフト、エイルガレラさん、ギルマスはそれぞれ、唖然とした表情で二人を見ていた。
くそっ、くそっ、くそっ!!
攻撃が当たらなくなった。無斗がこっちの意図に気付いたのはいい。だがこれで形勢逆転だ。柔にして剛。剛にして柔。そんな格闘技。その中でも、無斗が今やっているのは守りの柔のみ。
叔父貴に獣人紋を刻まれたというその事実がこの現象を作り出している。
本当に厄介なことしか持ってねえなこいつはよお!!
無斗と戦うと、叔父貴を思い出す。決して届かぬ絶対強者。親父をして最強の獣人と言わしめた、最も白虎に近い存在。
白虎に近すぎたがゆえに子をなす能力を失っていて、今は日々羅華辺りにいるであろうあの人。
そっくりだ。
無斗は、叔父貴にそっくりな戦い方をする。無斗にとって俺のこの戦い方は苦手分野だろう。でも叔父貴にはおそらく、赤子の手を捻るが如き容易いちんけでちっぽけな技のはず。証拠に、無斗にはあれから傷一つつけることが出来ていない。
少なくとも俺は――無斗がこの獣人紋をもらって来た日の叔父貴を超えなきゃならない。
ああ、ただただムカつく!!
叔父貴の紋がこいつにあることが!!
それをさも当然のように使いこなすこいつが!!
そしてそれが自分の実力でないことを知っていて諦めた目をしているこいつが!!!!
削り取ってやる。
ガキの頃で止まっちまった力なんざ、ぶち壊してやる。
十分強いその力を、さらに高みへ上げること。それがお前にとっては最も楽しいことだろう?
なあ、闇姫無斗。
気が向いたらリメイクします




